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第9話 『雪の王国』

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参上! 怪盗イタッチ



第9話
『雪の王国』




 喫茶店の二階にある部屋。そこに布団を敷いて、ダッチを休ませていた。



「イタッチさん、ダッチさん大丈夫でしょうか?」



 寝ているダッチの横にちょこんと座り、アンが心配そうに尋ねる。



「風邪気味だったところに、あんな戦闘だ。体調が悪化するわな。まぁ、安静にしてれば、問題ない」



 イタッチはやれやれとちゃぶ台に置いたお茶を飲む。



「私です。私が悪かったのよ、私を守るためにダッチさんは……」



「そう言うなよ、ネージュ。ダッチはお前を守りたくて守ったんだ。後悔なんてしてないさ」



「……しかし…………いえ、そうね。私、ダッチさんの看病やります!」



 戻ってからずっと下を見ていたネージュだったが、立ち上がりダッチの頭に乗せているタオルを取り替える。
 しかし、ネージュが動き出すとアンも負けないとダッチの看病をし始めた。



「アンちゃん。ここは私がやるから休憩してて良いよ」



「いえ、私がやります。私が無線でダッチさんに敵がいることを伝えていれば、襲われることもなかったんです。私がダッチさんを看病します」



「でも、私のせいですし~、ここは」



「いえいえ、私が~」



 看病をしていたはずが、誰が看病をするかでアンとネージュが喧嘩を始める。そんな様子を聞きながら、イタッチはお茶を啜った。



「あんまり騒ぐなよ……」



 ダッチの看病は二人に任せ、イタッチは今回の件について考える。



 ネージュがお宝であり、それを狙うアイスキングの存在。一旦はネージュを確保したが、アイスキングがこのまま引き下がるとも思えない。
 またしても襲われる可能性があると警戒するべきだろう。



「ここ最近の雪もアイスキングの仕業と考えるべきか?」



 イタッチは考えながら独り言を呟く。




 アイスキングの配下はスノーマンとポーラだ。まだまだいると考えて良いが、今のところはその二人だ。
 警察から盗んだ情報だが、スノーマンは美術館に突っ込んできた襲撃者だったらしい。元は五人の人間だったが、雪に姿を変えてスノーマンに変身したらしい。
 ポーラも氷柱を操り、雪になって逃げていった。それらのことから考えてアイスキングは雪や氷と関係性が深そうだ。



 最近の雪もアイスキングの仕業だとしたら、かなりの力を持っていると考えて良いだろう。



 イタッチは手元に持った折り紙を見つめる。



「神器と同等か。またはそれ以上の可能性があるな」



 雪を降らせるだけの力。それほどの力を持ったアイスキング。もしかしたらとイタッチは考える。



「まさか、神……なのか」



 思考を巡らせるイタッチ。そんな中、つけっぱなしになっていたテレビにニュース速報が流れる。
 雪の中、アナウンサーがマイクを握る。



「た、大変です。こちらをご覧ください!! 渋谷駅だった場所に氷の城が立っております!!」



 テレビの映像には渋谷駅を覆うように出来上がった氷の城が映し出されていた。城の周囲は吹雪が吹いており、簡単には近づけそうにない。
 そんなテレビの様子にネージュが気づく。



「こ、これは……」



「アイスキングの仕業か?」



 イタッチが尋ねると、ネージュは頷いた。



「はい。こんなことができるのはアイスキングだけです」



「そうか……」



 っと、テレビを見ていると、テレビの中が騒がしくなる。アナウンサーに新しい台本が渡されて、それをアナウンサーが読み上げた。



「新しく入った情報です。突如現れた氷の城に対して、政府は……戦闘機を要請!? 直ちに城を撤去しなければ、攻撃を仕掛けるとのことです!!」



 アナウンサーが空を見上げると、空を戦闘機が走り去る。そして戦闘機から城に対してメッセージが伝えられた。



「直ちに城を撤去しろ。しなければ、攻撃をする」



 しかし、城には動きはない。無言は拒否だと判断し、戦闘機は戦闘準備に入った。



「戦闘機が攻撃を仕掛けるようです!!」



 戦闘機は城に向かって攻撃をするため近づく。しかし、射程距離まであと少しというところで、



「我が城に攻撃を仕掛けるとは良い度胸だな」



 城の屋上に人影が現れる。映像でははっきりとは見えないが、長い耳を持っているように見えるそれは、戦闘機の方に腕を向けた。



「消え去れ!!」



 人影が腕を向けると、風吹が戦闘機を襲う。エンジンが凍りつき、操縦の効かなくなった戦闘機は墜落してしまった。
 戦闘機を落とすと、人影はテレビの方へと身体を向ける。そして



「我はアイスキング。世界の支配者となるものだ、これより我が城は世界を征服するために政府に宣戦布告する。全世界を氷漬けにしてやる。だが、一人だけ我は助けよう」



 人影は両手を広げて堂々とポーズをとった。



「ネージュ。我が元に戻ってこい。私と共に新世界を生きようではないか!! フハハハ!!!!」



 アイスキングがそう宣言したと同時に、吹雪がアナウンサー達を襲う。アナウンサーは氷漬けになり、カメラも砂嵐となって止まってしまった。



 テレビが止まり、イタッチはネージュの方を見る。



「ネージュ、お前だけは助けるだってよ」



「……そんなの従うわけないじゃないですか」



 ネージュの答えを聞き、イタッチはニヤリと笑った。



「だが、俺は氷漬けになった世界は嫌だぜ。だが、お宝も渡す気はない」



 イタッチは立ち上がると、マントを靡かせる。



「アイスキングに予告状を出すぜ。お前が世界を征服するなら、その前に俺が世界を盗み出してやるぜ!!」








 凍える雪の中。フクロウ警部とネコ刑事は屋台でラーメンを啜っていた。
 フクロウ警部はミミズラーメン。ネコ刑事は魚介ラーメンを美味しそうに食べる。



「フクロウ警部、怪我はもう大丈夫なんですか?」



 ネコ刑事は隣でラーメンを啜っているフクロウ警部に尋ねる。フクロウ警部はクチバシに麺を頬張りながら、



「あんな程度でやられてたまるか。それに奴らのせいでイタッチに逃げられたんだ。今度出てきたら、雪だるまもイタッチもどっちも逮捕してやる」



「そうですね~、逮捕できれば良いですけど……」



 ネコ刑事はうんうんと頷きながら、屋台にぶら下がったラジオを聞く。そこではアイスキングについてのニュースが取り上げられていた。
 ネコ刑事的にはイタッチを捕まえる前に、世界が凍ってしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしている。



「またアイスキングか。何者なんだろうな……。オヤジ、おかわり!」



 フクロウ警部もラジオを聴いていたらしく、アイスキングの内容に触れる。ネコ刑事は箸をテーブルに置くと、



「さぁ、ニュースでは古代から甦った悪魔だの、未来人だのと呼ばれてますが、なんなんでしょうね」



「ズズズゥーーッ!! まぁ、俺はイタッチを捕まえるのが仕事だ。アイスキングがイタッチと接触しない限り、俺達は関わることはないだろうな」



「相手は世界を敵に回してますしね。僕たちが相手にできる敵じゃないっすよ」



 二人がそんな話をしていると、ラジオ局が慌ただしくなる。そして新しいニュースが入ったようで、新たな情報が伝えられる。



「緊急ニュースです。アイスキングに宛てて、イタッチが予告状を出しました。内容は世界を氷漬けにする前に氷の城を頂戴する。ということです」




 ニュースを聞き、フクロウ警部は新しく出来上がったラーメンを飲み物のように飲み干す。そして一瞬で空っぽにした。



「イタッチが出る。イタァァァァァッチ、今度こそ逮捕してやるゥゥゥ!!」



 フクロウ警部はそう叫びながら、どこかへと走っていく。



「ちょ!? お客さん、お代は!?」



「あ、お釣りは要らないんで。ご馳走様でした!!」



 フクロウ警部の分も払い、ネコ刑事はフクロウ警部を追いかけて走り出した。







「アイスキング様。イタッチという者が我々に挑戦状を叩き出しました」




 頭にバケツを被ったシャチが玉座に向かって頭を下げて報告する。玉座には氷の王冠を被ったウサギの姿があった。



「そうか、ならば、こちらも精鋭を用意して迎え撃とうではないか」



 アイスキングは腕を前に突き出す。すると、シャチの前に小さな吹雪が起こり、一箇所だけに雪が積もった。
 そして雪の中から三人の動物が出てくる。



 白熊、狼、ペンギン。彼らは雪の中から登場すると、膝を地面につけて、アイスキングに頭を下げる。



「ポーラ。ロウナ。エンペラー。お前達に侵入者の対処を命ずる」



 アイスキングの命令に、頭を下げる。そして代表として、ロウナと呼ばれた狼が返事をした。



「はい。あなた様のために」



 そして皆、バラバラに玉座の間から出て行った。白熊のポーラは右から、狼のロウナは正面から、ペンギンのエンペラーは左から部屋を出る。それぞれ会話はなく、個々で動くようだ。
 シャチは三人の行動を見て、不安そうにアイスキングに尋ねる。



「アイスキング様、彼らで大丈夫でしょうか?」



「ふふふ、確かに彼らに協調性はない。だが、だからこそ、個々として我は信頼しているのだ。彼らの実力は我が国で最高峰。期待して待っていよう」



 アイスキングは笑みを浮かた。








「ダッチさん、具合はどうですか?」



 喫茶店の二階。そこでイタッチ達は休んでいた。



「ああ、だいぶ楽になった……」



 風邪で寝込んでいたダッチだが、一晩寝たことでかなり回復したらしい。意識を取り戻して、現在は食事をしていた。



「それじゃあ、ダッチさん口を開けてください。ほら、あーんです」



「だからもう自分で食えるって……ぐぷ……」



 アンから食事を出されたダッチは、今だにアンに看病されていた。最初はイヤイヤだったが、アンの根気に負けてやられるがままくわされている。
 ダッチは口をもぐもぐさせながら、イタッチの方に目線を向ける。



「イタッチ。予告状を出したってのは本当か?」



「ああ、昨日のうちに出しといた。今頃はメディアで大々的に取り上げられてる頃だ」



「そうか、俺が寝てる間に……ちょ、ガキ待て…………ぐぶっ!? ………………。んで、いつ決行するんだ?」



 ダッチの質問にイタッチは頭は爪を研ぎながら、



「今日の夜だ」



「今夜か……なら、俺も支度しなくっちゃ……」



「いや、ダッチ。お前は留守番だ」



 イタッチの言葉にダッチは目を丸くする。



「どういうことだ相棒!? なんで俺が留守番なんだよ!!」















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