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第5話 『怪盗vs新人警官』

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参上! 怪盗イタッチ



第5話
『怪盗vs新人警官』




 皆、危険だと言って同じ仕事をさせてくれなかった。お前は親の力でここにいる、お前は優遇されている。そう言われ続けて来た。
 そして誰にも頼られず、信頼されなかった。
 でも──



「……異常無しっす!」



 コン刑事はお宝の展示されている部屋の壁に寄っ掛かり、無線でフクロウ警部に連絡を取る。



「なら、そのまま待機だ」



「了解っす!」



 イタッチの予告の内容は21時にお宝を頂きに来るというもの。
 コン刑事は腕を組んで、部屋の中央にあるネメシスの盾を見守る。決してお宝には近づくことはせず、遠くからお宝の様子を見る。



 これはフクロウ警部からの指示だ。イタッチとはいえ、何も知らずにお宝を盗りに行けば、装置に引っかかる可能性がある。
 しかし、装置の側にコン刑事が待機していると、イタッチが来た時に戦闘になり、装置を踏んでしまうかもしれない。



 コン刑事は腕時計を確認する。針は21時にもうすぐなる。



「そろそろすね……」



 コン刑事が待機していると、廊下に繋がる扉が開いた。現れたのは黒崖寺である、息を荒げて、目を丸くしている。



「黒崖寺さんっすよね、どうしたんすか?」



 コン刑事が首を傾げて尋ねると、黒崖寺は汗を流しながら、



「大変だ。そこにあるお宝は偽物だ!! すでにイタッチが施設の外に脱出して、警部さんと対決してる!!」



「マジっすか!?」



 コン刑事は確認のため、無線でフクロウ警部に呼びかける。



「警部! 警部!! ……おっさん!! 聞いてるっすか!?」



 しかし、フクロウ警部からの返答がない。



「無線が使えない……イタッチの仲間の仕業すかね…………」



 イタッチの仲間にはアンという技術者がいた。遠くからイタッチを支援して、停電を起こしたり、電波の妨害をすると聞いたことがあった。



「コン刑事、早く外に!! フクロウ警部を助けに行かないと!!」



「そうっすね」



 コン刑事は壁から離れて、黒崖寺の方へと向かう。そして彼の正面に立った。



「なんで止まってるんですか!」



「そうっすね~、それは……」



 コン刑事はホルスターから拳銃を取り出す。そして黒崖寺に銃口を向けた。



「アンタがイタッチだからっすよ!!」



「──ッ!?」



 銃口を向けられ、黒崖寺は怯えて後ろへとふらりと下がる。そんな黒崖寺の様子を見ても、コン刑事は銃口を下げることはしなかった。



「何言ってるんですか!! コン刑事、私は黒崖寺ですよ!! イタッチではないです!!」



「まだ正体を明かさないっすか。なら、教えてあげるっすよ、なぜ、分かったのかを……」



 コン刑事はニヤリと笑うと、銃口を向けたまま、黒崖寺に伝える。



「警部はアタシを信頼するって言ってくれたっす。そしてその美術館にいるのは、私だけなんすよ!!」



「…………」



 黒崖寺は汗を流す。胸ポケットからハンカチを取り出して、その汗を拭くと、



「やれやれ……。そんな方法でバレちゃうなんてな」



 黒崖寺は首元に手を当てる。そして表面にある皮を剥がした、剥がれた皮は紙へと変わる。そして内側に本当の顔が現れた。



「イタッチ!!」



 折り紙の変装を解除して、現れたのはイタチ。変装が解けると同時に衣装も変化して、赤いマントを羽織った怪盗衣装になる。
 イタッチはマントを靡かせて、頬を上げる。



「初めまして、コン刑事」



「初めましてっすね。でも、イタッチ、今日がアンタの最後っすよ」



 コン刑事は銃口をイタッチに向けたまま、ゆっくりと近づく。そして懐から手錠を取り出す。
 このまま大人しくしてくれれば、捕まえられる。



「……おっと、手が滑った」



 イタッチがマントの内側から何かを通す。それは地面に落ちるところりと転がる。丸く、手のひらサイズの物体。
 折り紙で作られたそれは……。



「催涙弾!?」



 折り紙で作られた催涙弾から催涙ガスが噴出される。コン刑事は咄嗟に腕で顔を隠す。そして距離を取るが、すぐさま部屋中にガスが蔓延する。



「これじゃあ……」



 コン刑事は涙で視界が見えなくなりながらも、イタッチを探そうとする。だが、すでにイタッチは移動しており、見つけることができない。
 しかし、コン刑事はあることを思い出す。



「……確か、ここっすよね……」



 コン刑事は壁に背をつける。それは最初にこの部屋で待機していた場所。
 その場所はフクロウ警部に指示されていた定位置であり、この場所が重要だと説明していた。慌てて追うことはせず、コン刑事はその場所で息を潜める。そうしていると、前方にうっすらと赤い何かが見えた。



「これは……そういうことっすか」



 コン刑事は前方に見えた赤いものに抱きつくように掴まる。すると、それはコン刑事を乗せたまま、前方へと動き出す。
 そして部屋の反対側にある窓を突き破って、美術館から脱出した。



「なっ!? コン刑事!?」



「やっぱりそういうことっすね」



 脱出して煙がなくなり、はっきりとは見えないが前方にいる存在が何かわかる。それはイタッチであり、赤いのはイタッチのマントであった。



「警部はイタッチが脱出するなら、あの窓からって分かってたんすね」



 部屋の構造はこうだ。部屋には外の景色が見える窓があり、その窓の反対側にコン刑事がいた。そしてその中間地点にお宝がある。
 イタッチは落とし穴の存在は知っていた。その突破方法として、折り紙を使った突破方法を使ったのだ。



 まず折り紙で作った針を窓につける。そしてその針に折り紙で作った糸をくくりつける。コン刑事が待機していた壁の方へと移動して、糸の方向に向かって糸を引っ張るように設定した折り紙の機械を移動させた。
 イタッチの身体は窓の方へと引っ張られていき、途中でお宝を回収して窓を突き破って脱出した。



「イタッチ!! 現れたな!!」



 外では隠れていたフクロウ警部が茂みから現れる。そして親指を立てて、コン刑事によくやったと合図する。
 コン刑事もそれに返すように、イタッチの背中にくっつきながらニコリと笑う。



 窓から飛び出したイタッチが着地すると、フクロウ警部が警官を引き連れて駆けつける。



「コン刑事!! そのままイタッチの動きを止めていろ!!」



「了解っす!!」



 イタッチは背中に引っ付いているコン刑事を振り払おうと、背中をフリフリ左右に振るが、なかなか離れない。



「ほら、離れろ!」



「離れないっす!! アタシは任されたんすよ! この任務、絶対に遂行するっす!!」



 離れないコン刑事に時間をかけるのは得策ではないと考え、イタッチはマントの隙間から折り紙を取り出す。折り紙を折って作り出したのは、マジックハンドだ。
 先端には人間の手の形をした部品が取り付けられており、イタッチはマジックハンドを伸ばして背中に向ける。



「な、なんすか……ちょ、くすぐったいっす!?」



 マジックハンドを使い、コン刑事のことをくすぐり始める。



 コン刑事はくすぐられても、イタッチから離れないように頑張るが、最終的には力が抜けてしまい、イタッチの背中から転げ落ちた。
 コン刑事から解放されたイタッチだったが、すでにフクロウ警部達は駆けつけていた。



「大丈夫か!! コン刑事!!」



「は、はい……っす」



 涙を拭きながら転がり落ちたコン刑事は立ち上がる。そしてフクロウ警部の隣に立った。



「すみませんっす、離されちゃったっす」



「いいや、十分仕事をしてくれた、よくやったぞ、コン刑事!」



「…………」



 照れているコン刑事の横に立ったフクロウ警部は、イタッチを睨みつける。



「さぁ、今日こそは逮捕だ」



 イタッチを10人以上の警官が囲み、イタッチの逃げ場を無くしている。フクロウ警部は手錠を取り出すと、ジリジリとイタッチに近づく。



「……もう逃げ場はないぞ」






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