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第3話 『勝負!! ミラネス公爵』

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参上! 怪盗イタッチ



第3話
『勝負!! ミラネス公爵』



 イタッチとダッチは並走して、船内の廊下を走る。すでに夜中の2時を過ぎているというのに、パーティが続いているところもあり、会場から音楽と人の話し声が聞こえてくる。
 二人は人と出会わないように、人がいるところを避けながら進んでいく。そうして辿り着いたのは船の最深部にある金庫室。



 40メートルの正方形巨大な金庫であり、ロケットが直撃しても傷すらつかない。扉は正面の一つだけであり、ミラネス公爵の許可なしでは開くことはない。



 この金庫室の存在は船内にいる招待客に事前に知らされていた。まるでこの金庫室が展示物のように──。
 そしてこの金庫の中にブロッサムは保管されている。



 金庫室にたどり着いたイタッチ達だが、扉の前に立つと眉間にしわを寄せた。



「なんで扉が開いてるんだ……」



 ダッチは開いた扉を見上げる。



 ミラネス公爵が開けなければ開くはずのない扉。それが開いている。
 二人が扉の前で止まっていると、船内アナウンスに使われるスピーカーから音楽が鳴り始めた。
 軽快な音楽と共に男の声が船内に響く。



「よぉこそ。イタッチ君……。私の舞台に来てくれたこと、感謝するよ」



「……ミラネスか」



 スピーカーから流れる声はミラネス公爵のもの。どこかの放送室から音声を流しているのだろう。そして監視カメラで二人の動きも監視しているということ。



「扉が開いてるのはどういうことだ?」



 イタッチは何もない天井を見上げながら尋ねる。



「その金庫は船を守るためのただの檻さ。この中に私の用意したものがある」



「お宝をプレゼントするために開けておいてくれたわけじゃないんだな」



「中にいるものに勝利できたのならば、ブロッサムは君にプレゼントするよ……。さぁ、入りたまえ!!」



 イタッチはやれやれと頭を掻きながら、金庫へと進んでいく。そんなイタッチを隣にいたダッチが止めた。



「おい待て、イタッチ!! これは罠だぞ! 入る必要は……」



「罠だからって逃げられるかよ。俺は予告したお宝は絶対に盗む。……そうだ、ダッチ」



 イタッチの方を振り向く。



「今回は俺一人でやる。これは俺とミラネスの勝負だからな、お前はアンを連れて船から脱出しろ」



「お前一人で!? 無茶だぞ」



「大丈夫だ」



 イタッチがニヤリと笑い、その表情を見たダッチは舌打ちをする。そして、



「分かったよ。絶対負けるんじゃねぇぞ」



「ああ、アンは任せた!」



 アンは部屋でパソコンを使っている。本来の予定なら、アンにパソコンを使い、アシストをしてもらう予定だった。
 アンは世界一のハッカーから技術を教わっており、その技術を使いアシストをしてくれる。いつもならば、アジトから指示を出してもらうが、今回は船のシステムに入り込むために船に侵入する必要があった。
 危険な場所ではあるが、部屋には折り紙で作ったトラップがある。お宝を手に入れるまではそこで待機してもらう予定だったが、計画が変わった。



 ダッチはイタッチに背を向けて、アンのいる部屋へと走り出す。ダッチにアンを任せて、イタッチは金庫の中へと侵入した。



「広いな……」



 金庫の中は部屋一つ分の大きさの空間がある。そして金庫の中央には先客がいた。



「ロボットか?」



 そこには自動車程度の大きさの人型のロボットがあった。そのロボットの頭頂部には透明なケースに入れられたブロッサムが見える。



「こいつが俺のために用意してくれたものか」



「そうだとも、君のために3億をかけて作った戦闘ロボットだ。そのロボットに勝つことができたのなら、お宝はプレゼントしよう」



「そうか、ならさっさといただくぜ!!」



 イタッチはマントから折り紙を取り出した。そして折り紙で剣を作り出す。ロボットが起動する前にロボットに接近すると、ロボットの上半身を剣で斬りつけた。
 だが、イタッチの剣はロボットの装甲に弾かれる。



「硬い!?」



 スピーカーからミラネス公爵の笑い声が聞こえてくる。



「ふふふ、そう簡単にはこのロボットは壊せないよ。ロボットの装甲は金庫と同等だ」



 剣が弾かれると同時に、ロボットは起動する。目が赤く光、ロボットは右手を前に突き出した。
 ロボットの右手は筒状になっており、何かが発射できるようだ。



「君の折り紙について調べた。そしてその弱点もね」



「まさか!?」



 ロボットの右手から水が放出される。水は勢いよく放出されて、イタッチに降り掛かろうとするが、イタッチは飛び上がってどうにか水を避けた。



「折ったものの特徴を得ることができる不思議な折り紙。剣を作れば剣になり、盾を作れば盾になる。しかし、唯一の弱点がある、それは水だ!!」



「バレてたのか……」



「私の情報網は凄いだろ」



 ロボットは右手を動かし、ホースの向きを変える。ジャンプして避けたイタッチを水が追いかける。
 イタッチは折り紙でロケットを作り、ロケットにしがみついて空中を飛び回る。そうしてどうにか水を避け続ける。
 だが、ここは金庫の中であり、長時間避け続けるのは不可能だ。



「床も濡れてきたな……。早めに勝負を決めないとキツイな」



 空中を飛び回って避け続けていたイタッチだが、マントから折り紙を取り出すと、今度は爆弾を作った。
 その爆弾を空からロボットに向けて落とす。



「爆弾程度でロボットを壊せると?」



「普通の爆弾なら無理だろうな。だが、これならどうかな」



 爆弾がロボットに触れて爆発すると、爆発した部分が凍っている。



「凍ってる!?」



「こういう爆弾も作り出せるのさ!」



 イタッチは爆弾を追加して、次々とロボットに投げ落とす。ロボットの動きは鈍くなっていき、最終的には凍りついてしまった。



「そんな、ロボットが負けた……」



 イタッチは凍りついたロボットに飛び移ると、頭部にあるケースを破る。そしてブロッサムを取り出した。



「お宝は頂くぜ」



 マントの中から折り紙で作ったケースを取り出す。その中にブロッサムを入れて、ケースを閉じるとケースは手のひらサイズの大きさに縮んだ。



「さてと、後は脱出だな」



 お宝を盗んだイタッチは金庫を出る。そしてダッチ達と合流するために船の甲板を目指す。
 すでにダッチとアンは合流して脱出のためにボートを用意している。そのことはアンからの無線で聞いていた。



「アン。これからそっちに向かう。準備を頼む!」



「了解です!」



 無線からアンが返事する声が聞こえてくる。



 イタッチが甲板につくと、ダッチとアンが待っていた。しかし、甲板には警備兵とミラネス公爵の姿がある。



「イタッチ、まさか私の用意したロボットが負けるとはね。しかし、このまま逃げられては乗客に申し訳ない」



 ミラネス公爵は兵士たちに指示を出して、イタッチに銃口を向けさせる。



「乗客に……ね。まぁそれが目的だろうしな」



「これはショーなんだよ。君達のような犯罪者をどうしようと許される」



「俺とロボットの戦闘を船内で配信してたんだな。本当は俺がやられる予定だったが!俺がお宝を手に入れて、大赤字ってことか」



「まだショーは終わらない。さぁ撃て!!」



 兵士が一斉に発砲する。しかし、イタッチは折り紙で盾を作ると、盾で弾丸を防いだ。
 そして盾でガードしながらダッチ達と合流を果たす。



「準備はできてるか?」



 イタッチがアンに聞くと、アンはコクリと頷いた。ダッチがアンを抱え、イタッチとダッチは弾丸を避けながら、船から飛び降りる。



「なに!? 海へ身を投げた!?」



 ミラネス公爵は甲板から海を見下ろす。すると、船の横にボートが浮いていた。そしてそこにイタッチ達が乗っている。



「お宝は頂いていくぜ! じゃあな、ミラネス!」



「待て!! それを返せ!!」



 ミラネス公爵はボートに向けて攻撃を命令するが、ボートは全ての攻撃を避けて、姿を消してしまった。






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