1 / 59
第1話 『怪盗イタッチ』
しおりを挟む
参上! 怪盗イタッチ
第1話
『怪盗イタッチ』
サイレンの音が鳴る。月明かりがビルから差し、美術館の屋根を照らす。そんな屋根の上に赤いマントが靡いた。
「いたぞ! 怪盗イタッチだ!!」
警官の声と共に照明が一斉に屋根を照らした。そこには赤いマントを羽織り、二足歩行するイタチの姿。
イタチはニヤリと微笑み、美術館を囲う野次馬と警官に告げた。
「予告通り、ライトニングサファイアを頂きに来た」
これは動物達の暮らす世界での物語。
かつての記録では人類が文明を築いていた。しかし、歴史のある瞬間から、人類の歴史は動物の記録へとすり替わった。
人類は数を減らし、それに比例するように動物人間が増加した。
そうして今は動物達が世界の中心にいる。
「怪盗イタッチだ!! イタッチが現れたぞ!!」
「あれが世界一の怪盗、イタッチか、すげー!!」
野次馬の動物達が美術館の屋根を見上げる。野次馬達がスマホで撮影をしているが、イタッチはお構い無しに屋根から飛び降りた。
三階建ての美術館。屋根から地上に飛び降りるが、無事に着地してみせる。
動物の脚力とバランス力、そして鍛えた身体でそんな高さから着地しても怪我はない。
着地したイタッチが正面を見ると、警官のフクロウを先頭に警官達がぞろりと並ぶ。
「イタッチ。今日こそ逮捕してやるぞ」
「フクロウ警部か。毎回しつこいな」
「お前を捕まえれば、俺もお前を追いかけ続けなくて済むようになる」
フクロウ警部は手錠を取り出して、ジリジリと距離を詰める。
「確かに捕まれば楽かもな。だが、俺には目標がある、そのためには捕まるわけにはいかないんだ」
イタッチはマントの裏に仕込んでいた、折り紙ケースから赤い折り紙を取り出した。片面は赤く、片面は白。そしてその折り紙を堂々と掲げる。
「抵抗させてもらうぜ。折り紙マジック!!」
イタッチは折り紙を折る。空中であるが、器用に折り紙を折り曲げて、形を作っていく。そして完成したのは、
「折り紙の剣。完成だ!!」
折り紙の剣が完成した。剣は完成すると、折り紙であったはずなのに、サイズが大きくなる。そして80センチほどの長さに変化した。
イタッチは剣を握りしめると、フクロウ警部の持つ手錠に剣を振る。鉄で出来ているはずの手錠は、剣によってあっさりと切られてしまった。
「なっ!?」
イタッチの持つ折り紙。それは特殊な折り紙である。作ったものの特徴を折り紙に付与することができ、どんなものにも形を変えられる。
剣を作れば剣となり、銃を作れば銃となる。
手錠が切断され、フクロウ警部はオロオロと後ろへ後退する。
「さっきまでの威勢はどうした? 来ないなら侵入させてもらうぜ」
イタッチは剣で警官達を牽制しながら、後ろに大きく飛び上がる。そして背後にある美術館の二階の窓を割りながら、内部へと侵入した。
「ほぉ、ここが月島美術館か。結構広いな」
イタッチは照明が消えて、暗い美術館の中を歩いていく。部屋の形は覚えている、しかし、お宝のある部屋までたどり着くために、警官の動きを確認する必要があった。
イタッチは耳につけている無線に話しかける。
「アン。内部の経路を頼めるか?」
すると、無線から少女の声が聞こえてきた。
「はい! 任せてください!!」
イタッチは無線の少女のナビに従って、室内を進んでいく。右へ曲がり、左に曲がり、上手いこと警官がいる通路を回避していく。
そうして進んでいき、ついにお宝のある展示室へと辿り着いた。
「ここにお宝があるんだな」
イタッチが扉を開けようとした時。
「待て!!」
後ろから叫び声が聞こえる。振り返ると、そこには二足歩行で歩く、警官服のネコがいた。
「ネコ刑事か!!」
ネコ刑事は拳銃をイタッチに向けながら、無線で仲間と連絡を取る。
「フクロウ警部! イタッチを発見しました、展示室の前です!!」
拳銃を突きつけられている状態だが、このまま待っていたら、応援が駆けつけてしまう。
「悪いが先を急がせてもらうぜ!」
イタッチはマントから折り紙を取り出す。そして折り紙で爆弾を作った。
「え!? 爆弾!?」
驚くネコ刑事に爆弾を投げる。ネコ刑事は落下の衝撃で爆発しないように、拳銃を捨てて爆弾を受け止めた。
「あ、あぶねぇ~」
しかし、爆弾は衝撃で爆発するのはもちろん。時間でも爆発する。爆弾の正面にはタイムが刻まれており、残り3秒となっていた。
「爆発するぅぅぅぅっ!?」
ネコ刑事が慌てているのを後ろに、イタッチは展示室の扉を開いた。
後ろでは爆発音が鳴り、ネコ刑事が倒れている。しかし、爆発による被害はなく、爆発音がなっただけで、実際には爆発していない。
音が鳴って相手を驚かせるだけの、偽物の爆弾だ。だが、ネコ刑事は音で驚いて、泡を吹いて気絶していた。
「さてと、あれがライトニングサファイアだな」
展示室の中央にはビリビリと電流の流れる宝石が展示されていた。ガラスのケースを打ち割り、イタッチら宝石を手にした。
「ライトニングサファイア、ゲットだ」
イタッチがお宝をマントにしまうと同時に、展示室に応援が駆けつける。やってきた警官の中には、フクロウ警部の姿もある。
「警部!! ネコ刑事が倒れています!!」
「遅かったか。ネコ刑事を治療しろ」
ネコ刑事を警官達に運ばせて、フクロウ警部はイタッチの前に立ち塞がる。
「さっきは剣にビビってしまったが、今度はそうはいかんぞ」
「流石に今度は脅しじゃ無理そうだな」
「ライトニングサファイアを返してもらうぞ」
フクロウ警部は拳銃を取り出して、イタッチに銃口を向けた。
「本気……。みたいだな」
「俺はいつでも本気だ。さぁ、諦めて捕まれ」
「そうはいくかよ」
イタッチは折り紙を取り出すと、拳銃を作った。
「なら、早撃ち勝負でもしようか」
イタッチはそう言いニヤリと笑う。だが、
「ほぉ、この俺に早撃ちで勝負か……。俺の実力を知ってるのに、良い度胸だな」
フクロウ警部は余裕の表情だ。それもそのはず、フクロウ警部は警視庁の中でもトップクラスに銃の腕に自信があった。
イタッチは背を向ける。フクロウ警部は部下に手出しをさせないように命令し、自身も後ろを向いた。
一歩、二歩、三歩ッ!!
二人は振り向く。そしてフクロウ警部はイタッチの持っている拳銃を弾き飛ばした。
「俺の勝ちだな、イタッチ!! さぁ、逮捕だァァァ!!!!」
フクロウ警部は勝負に勝ち、声を上げる。しかし、次の瞬間、事態が急変した。
美術館の壁紙割れて大きな穴が開く。夜空の下に、ビルの立ち並ぶ景色が見える。
そして壁から二足歩行のウサギが顔を覗かせる。コートを身に纏い、夜だというのにサングラスをしている。
彼が壁に穴を開けた人物だ。彼は刀を鞘にしまい、イタッチにグッと親指を立てた。
「準備はできたぜ。相棒!」
「良いタイミングだ。ダッチ!!」
イタッチがフクロウ警部に早撃ち対決を挑んだのは時間稼ぎ、このウサギの登場を待っていたのだ。
イタッチはダッチと呼ばれたウサギの元へと駆ける。
「逃げるぜ、ダッチ!」
「おう!!」
イタッチとダッチは壊れた壁から外へと脱出する。ジャンプで外に飛び出し、下に停めてあった車に飛び乗った。
赤いオープンカーに乗り込み、イタッチは運転席でアクセルを踏む。
車は猛スピードで発進して、バリケードを破壊して包囲を突破した。
東京都にある、とある住宅街。そこに小さな喫茶店があった。手前から奥まである縦長のカウンター席と丸椅子のみで、カウンターの向かい側には厨房と暇な時に店員が読むのだろう、棚には本が並んでいる。
厨房のさらに奥にある扉を開けると、二階につながる階段と倉庫に繋がる扉のある個室があり、二階は住居、倉庫には厳重な鍵がかけられている。
店の大きさから10人以上の客は同時には入れず、駅から離れた場所にあるためか、常連客を中心に扱う喫茶店だ。
「よ、イタッチ!」
コートにサングラスをかけたダッチウサギが喫茶店に入る。そして店員であるイタチに手を振った。イタチは深くため息を吐き、ウサギに奥の席に座れと目線を送る。
「ここではイタッチと呼ぶなよ……。それでダッチ、なににする?」
ウサギのダッチは一番奥の席に座り、壁に寄りかかりながら、カウンターに置かれたメニューに目を通す。しかし、目を細めて口をムの字にすると、首を傾げた。
「……んぅ~、なんでも良いや、適当で頼む」
「はいはい……」
イタチは厨房でコーヒーを淹れる。イタチがコーヒーを淹れている間、暇なダッチは店内をキョロキョロと見渡した。
「なぁ、イタチ。アンはどうした?」
「ああ、今は上で休憩中だよ」
「そうか……」
「呼ぶか?」
「いや、用事はないよ。どうしてるのか気になっただけだ」
イタチはコーヒーが完成して、ダッチの前に置く。
「ダッチに呼ばれたら、アンは喜びそうだけどな」
「……」
ダッチは返事はせず、コーヒーの手にして一口飲む。
「うん、美味いな」
「自慢の豆を使ったからな。そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
ダッチがもう一口飲もうと、コーヒーを口に近づけると、厨房の奥から階段を駆け降りる音が聞こえてくる。
扉が開き、厨房の奥にある扉が開くと、フード付きのパーカーを着た子猫が現れた。
「すみません、イタチさん。休憩時間取りすぎました?」
「いいや、大丈夫だよ、アン。一人しか客来てないから」
「あ、いらっしゃい……ってダッチさん」
アンと呼ばれた子猫は、ダッチにぺこりとお辞儀をする。それに返すようにダッチは手を挙げて返事をする。
「よぉ、アン」
ダッチの返事にアンはニコリと笑顔になる。そんな二人の様子に、イタチはニコニコと微笑む。
ゆったりとした曲が店内を包む。ダッチがコーヒーを一口啜り、カウンターに置く。カタンと音を鳴らしてコップが置かれると同時に、イタチはダッチに目線を向ける。
「それでダッチ。ただコーヒーを飲みに来ただけじゃないんだろ。どんな仕事だ?」
「ああ、面白そうなお宝の情報が手に入ったんでな」
第1話
『怪盗イタッチ』
サイレンの音が鳴る。月明かりがビルから差し、美術館の屋根を照らす。そんな屋根の上に赤いマントが靡いた。
「いたぞ! 怪盗イタッチだ!!」
警官の声と共に照明が一斉に屋根を照らした。そこには赤いマントを羽織り、二足歩行するイタチの姿。
イタチはニヤリと微笑み、美術館を囲う野次馬と警官に告げた。
「予告通り、ライトニングサファイアを頂きに来た」
これは動物達の暮らす世界での物語。
かつての記録では人類が文明を築いていた。しかし、歴史のある瞬間から、人類の歴史は動物の記録へとすり替わった。
人類は数を減らし、それに比例するように動物人間が増加した。
そうして今は動物達が世界の中心にいる。
「怪盗イタッチだ!! イタッチが現れたぞ!!」
「あれが世界一の怪盗、イタッチか、すげー!!」
野次馬の動物達が美術館の屋根を見上げる。野次馬達がスマホで撮影をしているが、イタッチはお構い無しに屋根から飛び降りた。
三階建ての美術館。屋根から地上に飛び降りるが、無事に着地してみせる。
動物の脚力とバランス力、そして鍛えた身体でそんな高さから着地しても怪我はない。
着地したイタッチが正面を見ると、警官のフクロウを先頭に警官達がぞろりと並ぶ。
「イタッチ。今日こそ逮捕してやるぞ」
「フクロウ警部か。毎回しつこいな」
「お前を捕まえれば、俺もお前を追いかけ続けなくて済むようになる」
フクロウ警部は手錠を取り出して、ジリジリと距離を詰める。
「確かに捕まれば楽かもな。だが、俺には目標がある、そのためには捕まるわけにはいかないんだ」
イタッチはマントの裏に仕込んでいた、折り紙ケースから赤い折り紙を取り出した。片面は赤く、片面は白。そしてその折り紙を堂々と掲げる。
「抵抗させてもらうぜ。折り紙マジック!!」
イタッチは折り紙を折る。空中であるが、器用に折り紙を折り曲げて、形を作っていく。そして完成したのは、
「折り紙の剣。完成だ!!」
折り紙の剣が完成した。剣は完成すると、折り紙であったはずなのに、サイズが大きくなる。そして80センチほどの長さに変化した。
イタッチは剣を握りしめると、フクロウ警部の持つ手錠に剣を振る。鉄で出来ているはずの手錠は、剣によってあっさりと切られてしまった。
「なっ!?」
イタッチの持つ折り紙。それは特殊な折り紙である。作ったものの特徴を折り紙に付与することができ、どんなものにも形を変えられる。
剣を作れば剣となり、銃を作れば銃となる。
手錠が切断され、フクロウ警部はオロオロと後ろへ後退する。
「さっきまでの威勢はどうした? 来ないなら侵入させてもらうぜ」
イタッチは剣で警官達を牽制しながら、後ろに大きく飛び上がる。そして背後にある美術館の二階の窓を割りながら、内部へと侵入した。
「ほぉ、ここが月島美術館か。結構広いな」
イタッチは照明が消えて、暗い美術館の中を歩いていく。部屋の形は覚えている、しかし、お宝のある部屋までたどり着くために、警官の動きを確認する必要があった。
イタッチは耳につけている無線に話しかける。
「アン。内部の経路を頼めるか?」
すると、無線から少女の声が聞こえてきた。
「はい! 任せてください!!」
イタッチは無線の少女のナビに従って、室内を進んでいく。右へ曲がり、左に曲がり、上手いこと警官がいる通路を回避していく。
そうして進んでいき、ついにお宝のある展示室へと辿り着いた。
「ここにお宝があるんだな」
イタッチが扉を開けようとした時。
「待て!!」
後ろから叫び声が聞こえる。振り返ると、そこには二足歩行で歩く、警官服のネコがいた。
「ネコ刑事か!!」
ネコ刑事は拳銃をイタッチに向けながら、無線で仲間と連絡を取る。
「フクロウ警部! イタッチを発見しました、展示室の前です!!」
拳銃を突きつけられている状態だが、このまま待っていたら、応援が駆けつけてしまう。
「悪いが先を急がせてもらうぜ!」
イタッチはマントから折り紙を取り出す。そして折り紙で爆弾を作った。
「え!? 爆弾!?」
驚くネコ刑事に爆弾を投げる。ネコ刑事は落下の衝撃で爆発しないように、拳銃を捨てて爆弾を受け止めた。
「あ、あぶねぇ~」
しかし、爆弾は衝撃で爆発するのはもちろん。時間でも爆発する。爆弾の正面にはタイムが刻まれており、残り3秒となっていた。
「爆発するぅぅぅぅっ!?」
ネコ刑事が慌てているのを後ろに、イタッチは展示室の扉を開いた。
後ろでは爆発音が鳴り、ネコ刑事が倒れている。しかし、爆発による被害はなく、爆発音がなっただけで、実際には爆発していない。
音が鳴って相手を驚かせるだけの、偽物の爆弾だ。だが、ネコ刑事は音で驚いて、泡を吹いて気絶していた。
「さてと、あれがライトニングサファイアだな」
展示室の中央にはビリビリと電流の流れる宝石が展示されていた。ガラスのケースを打ち割り、イタッチら宝石を手にした。
「ライトニングサファイア、ゲットだ」
イタッチがお宝をマントにしまうと同時に、展示室に応援が駆けつける。やってきた警官の中には、フクロウ警部の姿もある。
「警部!! ネコ刑事が倒れています!!」
「遅かったか。ネコ刑事を治療しろ」
ネコ刑事を警官達に運ばせて、フクロウ警部はイタッチの前に立ち塞がる。
「さっきは剣にビビってしまったが、今度はそうはいかんぞ」
「流石に今度は脅しじゃ無理そうだな」
「ライトニングサファイアを返してもらうぞ」
フクロウ警部は拳銃を取り出して、イタッチに銃口を向けた。
「本気……。みたいだな」
「俺はいつでも本気だ。さぁ、諦めて捕まれ」
「そうはいくかよ」
イタッチは折り紙を取り出すと、拳銃を作った。
「なら、早撃ち勝負でもしようか」
イタッチはそう言いニヤリと笑う。だが、
「ほぉ、この俺に早撃ちで勝負か……。俺の実力を知ってるのに、良い度胸だな」
フクロウ警部は余裕の表情だ。それもそのはず、フクロウ警部は警視庁の中でもトップクラスに銃の腕に自信があった。
イタッチは背を向ける。フクロウ警部は部下に手出しをさせないように命令し、自身も後ろを向いた。
一歩、二歩、三歩ッ!!
二人は振り向く。そしてフクロウ警部はイタッチの持っている拳銃を弾き飛ばした。
「俺の勝ちだな、イタッチ!! さぁ、逮捕だァァァ!!!!」
フクロウ警部は勝負に勝ち、声を上げる。しかし、次の瞬間、事態が急変した。
美術館の壁紙割れて大きな穴が開く。夜空の下に、ビルの立ち並ぶ景色が見える。
そして壁から二足歩行のウサギが顔を覗かせる。コートを身に纏い、夜だというのにサングラスをしている。
彼が壁に穴を開けた人物だ。彼は刀を鞘にしまい、イタッチにグッと親指を立てた。
「準備はできたぜ。相棒!」
「良いタイミングだ。ダッチ!!」
イタッチがフクロウ警部に早撃ち対決を挑んだのは時間稼ぎ、このウサギの登場を待っていたのだ。
イタッチはダッチと呼ばれたウサギの元へと駆ける。
「逃げるぜ、ダッチ!」
「おう!!」
イタッチとダッチは壊れた壁から外へと脱出する。ジャンプで外に飛び出し、下に停めてあった車に飛び乗った。
赤いオープンカーに乗り込み、イタッチは運転席でアクセルを踏む。
車は猛スピードで発進して、バリケードを破壊して包囲を突破した。
東京都にある、とある住宅街。そこに小さな喫茶店があった。手前から奥まである縦長のカウンター席と丸椅子のみで、カウンターの向かい側には厨房と暇な時に店員が読むのだろう、棚には本が並んでいる。
厨房のさらに奥にある扉を開けると、二階につながる階段と倉庫に繋がる扉のある個室があり、二階は住居、倉庫には厳重な鍵がかけられている。
店の大きさから10人以上の客は同時には入れず、駅から離れた場所にあるためか、常連客を中心に扱う喫茶店だ。
「よ、イタッチ!」
コートにサングラスをかけたダッチウサギが喫茶店に入る。そして店員であるイタチに手を振った。イタチは深くため息を吐き、ウサギに奥の席に座れと目線を送る。
「ここではイタッチと呼ぶなよ……。それでダッチ、なににする?」
ウサギのダッチは一番奥の席に座り、壁に寄りかかりながら、カウンターに置かれたメニューに目を通す。しかし、目を細めて口をムの字にすると、首を傾げた。
「……んぅ~、なんでも良いや、適当で頼む」
「はいはい……」
イタチは厨房でコーヒーを淹れる。イタチがコーヒーを淹れている間、暇なダッチは店内をキョロキョロと見渡した。
「なぁ、イタチ。アンはどうした?」
「ああ、今は上で休憩中だよ」
「そうか……」
「呼ぶか?」
「いや、用事はないよ。どうしてるのか気になっただけだ」
イタチはコーヒーが完成して、ダッチの前に置く。
「ダッチに呼ばれたら、アンは喜びそうだけどな」
「……」
ダッチは返事はせず、コーヒーの手にして一口飲む。
「うん、美味いな」
「自慢の豆を使ったからな。そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
ダッチがもう一口飲もうと、コーヒーを口に近づけると、厨房の奥から階段を駆け降りる音が聞こえてくる。
扉が開き、厨房の奥にある扉が開くと、フード付きのパーカーを着た子猫が現れた。
「すみません、イタチさん。休憩時間取りすぎました?」
「いいや、大丈夫だよ、アン。一人しか客来てないから」
「あ、いらっしゃい……ってダッチさん」
アンと呼ばれた子猫は、ダッチにぺこりとお辞儀をする。それに返すようにダッチは手を挙げて返事をする。
「よぉ、アン」
ダッチの返事にアンはニコリと笑顔になる。そんな二人の様子に、イタチはニコニコと微笑む。
ゆったりとした曲が店内を包む。ダッチがコーヒーを一口啜り、カウンターに置く。カタンと音を鳴らしてコップが置かれると同時に、イタチはダッチに目線を向ける。
「それでダッチ。ただコーヒーを飲みに来ただけじゃないんだろ。どんな仕事だ?」
「ああ、面白そうなお宝の情報が手に入ったんでな」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐︎登録して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ
三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』
――それは、ちょっと変わった不思議なお店。
おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。
ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。
お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。
そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。
彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎
いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。
猫のバブーシュカ~しましましっぽ彗星の夜に~
catpaw
児童書・童話
猫の女の子バブーシュカは自然豊かなセント・ポピー村にあるタンジェリン夫妻の家で幸せに暮らしていました。しかしある事から、自分は夫妻にもう必要とされてないのだと思い、家出を決意します。家に閉じ込められたバブーシュカは彗星に願いをかけて家から飛び出しましたが、思わぬ世界へと迷い込みます。服を着て後ろ足で立って歩き、まるで人間のように暮らす猫たち。人間は見当たりません。王族・貴族・平民。猫が身分階級を持つ社会に突然放り込まれ、『おまえは何者だ』と問われるバブーシュカ。--バブーシュカの波乱に満ちた物語が始まります。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
案ずるよりもオニが易し
茅の樹
児童書・童話
森で暮らす者たちは、厳しい冬の食べ物もなくなってしまいました。
春はすぐそこですが、まだまだ食べ物は手に入りにくいです。
ところがオニの所には、見たこともないような食べ物がたくさんあるという。
お母さんオコジョがいつも言っている「言う事を聞かないとオニがくるよ」と言う、あの「オニ」の事です。
オコジョの坊やは「オニ退治にいくんだ」と意気揚々に家を出て行きます。
オコジョの坊やは罠に掛かってしまいます。しかし、それを助けてくれたのが「オニ」でした。
オニと触れあい、聞いていたのと違う「オニ」を知ります。
本当の「オニ」に触れて、「オニ」知る事でオコジョの坊やも少しだけ成長したようです。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミでヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる