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第四章 魔族大陸編
第152話 ただいま!
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クロとヴィトは山奥の村からアースハイドまで問題なく帰ってきた。
久しぶりの拠点ではあったが、幹部達が全て集まってしまい、近況報告会が催された。
ヴィトは疲れたと言って早々に部屋へと戻り爆睡している。
「変わりはないようだな」
「大きな問題はなかったが、違う意味でちょっとあったのう……まあ、それは後ほどゆっくりと話した方がよかろう」
「ありありだバカヤロウ! なあデルタ!?」
デルタはバツの悪そうな顔をし、否定も肯定もしなかった。
「何かあったのか?」
「いや~ちょっとヘマをやらかしましてね、死にかけたというか……何というか」
クロの顔がピクリと動く。
「死にかけた? お前が?」
「いやいやいや! そんな大袈裟な事じゃなくて!」
「何言ってんだ! ボロボロだったじゃねえかよ! 大体だな! 爺ぃが邪魔しなけりゃ俺がちゃんとケジメをつけれたんだ!」
「何を言うか、ジリ貧だったろうに」
「ぐぬぬぬぬ!!」
「一体何があったんだ」
クロは呆れた顔で問いただす。
「それも含めてゆっくりと説明しようかと思っておったんじゃがのう……」
珍しくボン爺の歯切れが悪い。そんな雰囲気を察してクロは話題を変える。
「ボン爺がそこまで言うんだ、詳細は後で聞こう」
「全ての責任は、若の留守を預かった儂にある。罰は後で受けよう」
「いや俺はそういう事を言いたいじゃねえ……あぁぁ! 爺ぃは悪くねえよ! 悪いのはデルタと俺だ!」
「えぇぇ……」
デルタは「え? マジで?」と言わんばかりの表情をする。
「全員無事なんだからもう良いだろう」
クロの一声で全員が安堵する。
「ドルトランド、奴隷商の方はどうだ?」
「えぇ、私の方は特に大きな問題もなく順調ですよ」
奴隷商はゲイルの件以来、モルモットの扱いにも細心の注意を払い、一見さんはお断りをしているらしい。
「ゴンズ、カジノは順調か?」
「は、はい、相変わらずVIPルームは盛況です。一般用には他国からも一攫千金を夢見て、色々な者がやって来ているようですが、その殆どが全てを失い、借金を重ね奴隷落ちか闘技場送りになってます」
低確率だが大金を掴む者もチラホラ出てきているが、それはカジノ側で調整しているからであり、運ではない。
大金を掴んでもそれを元手にさらに夢を見て身を滅ぼす者もいれば、カジノ周辺で豪遊し、お金を落としてくれる者、その大金で自分の店を構える者と千差万別だ。
バラバラ亭のマキノの旦那の行方も気になるところだが、肝心の名前を聞きそびれてしまったので探しようがない。
「なによりだ。そういえばエリーナはまだ冒険者ギルドで働いているのか?」
「若よ、姫のお迎えはご自身で行くべきじゃ」
「頭はまっすぐここに帰ってきたんだろ? そりゃないぜ」
「ボス……それはないっすわ~」
「誰よりもボスの帰りを待ち焦がれていたエリーナさんが可哀想ですね」
「クロ様、さすがにそれは……」
全員がクロを白い目で見る。
「うるせえよ」
「カッカッカ! そういうところはまだまだ年相応なんだな! 俺らの事は良いから早く迎えに行ってやれよ」
ガロウの言葉に全員が頷く。
「……てめぇら、覚えてろよ」
ゴンズ以外の全員が爆笑する中、クロはエリーナを迎えに行くことになった。
~~~~~~~
「リナちゃ~ん! 僕ここが痛いでちゅ!」
「ヒール」
「リナさん、良かったらこの後お茶でも……」
「ヒール」
「ぼぼぼくの下の……」
「ヒール」
クロが冒険者ギルドへ入ると、カオスな現場を目の当たりにする。
怪我人とは思えない連中がお金を払いヒールをかけてもらっている。その殆どがエリーナ目当てなのは一目瞭然なのだが、エリーナはそれを無表情で淡々と処理していた。
「なんだこれは……」
「帰ってきてたのか」
呆気に取られているとフェルミナが声をかけてきた。
「これはどういう状況なんですか?」
「あぁ……すまない、これでも少なくなった方なのだよ」
「これでも?」
「料金も規定の倍にしたのだがな」
「バカが残ったわけですね」
「そういう事だ」
しばらくその状況を眺めていたが、途切れる事もなく次々とバカが釣れていた。
「もうしばらくあの状態は続くだろう、上で依頼結果の報告を聞こう」
フェルミナに促されギルド長室へと入り腰をかける。
「ある程度はツウィンから聞いているよ、大変だったようだな」
「えぇ、ウーツのギルド長にランクの降格をお願いしたんですけど却下されましたよ」
「当たり前だ! ギルド側の落ち度で冒険者を危険な目に合わせたんだ、無事帰ってきてくれて良かったよ」
そこまで知っているのなら、わざわざここまで来なくても良いのでないかと言おうと思ったが、心の底から安堵しているフェルミナの顔を見て言葉を飲み込んだ。
「これはギルドからの慰労金だ受け取ってくれ」
中身は確認しなかったがそれなりの重さはあった。
「それと、Sランクへの昇格……」
「お断りします」
「即答しないでくれ」
「昇格の理由がないですよ? 依頼は失敗してますし、実力的にも遠く及ばないですよ」
「私はツウィンからの手紙でしか聞いていないが、その状況化で生き残る実力と運は、Sランク冒険者になるに値するよ」
関係者の殆どが死亡、衛兵に至っては全滅。そんな地獄のような戦場で生き残り、平然としている精神力はSランクに相応しいとギルドは判断しているらしい。ギルドとしても高ランク、それもSランク冒険者を抱えているという箔をつけたいという思惑もある。
クロは当事者であり、元凶なのだから平然としているのは当たり前だが、それを知らない人間から見れば、そう捉えてしまうのはしょうがない事だった。
「早々に戦線を離脱してますからね、死んだと思われたんでしょう。気絶してたので詳細も知りませんし、私自身は何もしてないどころか依頼人は死んでますから」
「だが、いずれはSランクへの昇格を受けてもらうからな!」
「はあ……」(そろそろ冒険者稼業も潮時か)
ダダダダダっ! バタンっ!
「クロさ、くん! 帰ってきてたんですね!」
「あぁ、ただいまリナ」
「おかえりなさい! さあ、帰りましょう!」
エリーナは強引にクロの腕を掴み連れ去ろうとする。
「まてまてまてまて! リナ! まだ冒険者の治療がっ……」
「あら、フェルミナさん。契約はクロくんが戻るまでの間ですよね?」
「そうだが、だからと言って途中で……」
「契約は契約です! では、さようなら」
「まてまて、今は話の最中だもう少し待ってくれ!」
「クロくん、お話がまだ何か?」
「い、いや……伝えるべき事はもうない……かな?」
クロはエリーナの迫力におされタジタジになる。
「だそうですよ?」
エリーナはフェルミナをジロリと睨む。
「ほ、ほら? 君の報酬をまだ渡してないじゃないか」
「あ~それは、スラム街の教会にでも寄付して下さい」
「なっ!?」
エリーナはそう言うと、クロの背中を押し部屋の外へと追いやり振り向くとフェルミナに向けあっかんべーをしドアと閉める。
「キィィィィィ!!」
ギルド長室にフェルミナの金切り声が響き渡る。
一階に降りると、エリーナと腕を組み歩くクロを見る男性冒険者の視線が鋭く刺さる。
「ちっ! あいつ死んだんじゃなかったのかよ」
「帰ってこなくていいのに……」
「誰? あいつ誰なの? 俺のリナちゃんが……」
「バカっ! あいつAランク冒険者なんだぞ? 大体お前なんか相手にされるわけないだろ」
「えぇぇ……」
罵詈雑言がクロに浴びせられる。
「俺は嫌われてんなあ」
「うふふ、家畜が喚いたところで何も問題ありませんよ」
クロの居ない間に何があったのか、エリーナの性格がさらに歪んでいた。
この後、テンションの上がったエリーナを落ち着かせるため、デートをする事になった。
かなりの出費があったが、満足しているエリーナを見て何も言わなかった。
~~~~~~
「若、色々と大変だったようじゃのう」
「お前らのせいでもあるんだからな?」
「ほっほっほっ! たまにはサービスしておかないと女は怖いからのう」
「面倒くさいな~」
「良い経験をなさったようでなにより」
「皮肉はいい、それで話ってなんだ?」
ボン爺が改めてクロと二人きりでの対話を求めてきた。
「ふむ、話せば長くなるので、まず確認をさせていただきたい」
「何だ?」
「若、……ロベルという名に心当たりは?」
クロの顔から笑みがなくなり、真剣な顔になる。
「ロベル……どこでその名を聞いた?」
ボン爺の疑惑が確信に変わった。
久しぶりの拠点ではあったが、幹部達が全て集まってしまい、近況報告会が催された。
ヴィトは疲れたと言って早々に部屋へと戻り爆睡している。
「変わりはないようだな」
「大きな問題はなかったが、違う意味でちょっとあったのう……まあ、それは後ほどゆっくりと話した方がよかろう」
「ありありだバカヤロウ! なあデルタ!?」
デルタはバツの悪そうな顔をし、否定も肯定もしなかった。
「何かあったのか?」
「いや~ちょっとヘマをやらかしましてね、死にかけたというか……何というか」
クロの顔がピクリと動く。
「死にかけた? お前が?」
「いやいやいや! そんな大袈裟な事じゃなくて!」
「何言ってんだ! ボロボロだったじゃねえかよ! 大体だな! 爺ぃが邪魔しなけりゃ俺がちゃんとケジメをつけれたんだ!」
「何を言うか、ジリ貧だったろうに」
「ぐぬぬぬぬ!!」
「一体何があったんだ」
クロは呆れた顔で問いただす。
「それも含めてゆっくりと説明しようかと思っておったんじゃがのう……」
珍しくボン爺の歯切れが悪い。そんな雰囲気を察してクロは話題を変える。
「ボン爺がそこまで言うんだ、詳細は後で聞こう」
「全ての責任は、若の留守を預かった儂にある。罰は後で受けよう」
「いや俺はそういう事を言いたいじゃねえ……あぁぁ! 爺ぃは悪くねえよ! 悪いのはデルタと俺だ!」
「えぇぇ……」
デルタは「え? マジで?」と言わんばかりの表情をする。
「全員無事なんだからもう良いだろう」
クロの一声で全員が安堵する。
「ドルトランド、奴隷商の方はどうだ?」
「えぇ、私の方は特に大きな問題もなく順調ですよ」
奴隷商はゲイルの件以来、モルモットの扱いにも細心の注意を払い、一見さんはお断りをしているらしい。
「ゴンズ、カジノは順調か?」
「は、はい、相変わらずVIPルームは盛況です。一般用には他国からも一攫千金を夢見て、色々な者がやって来ているようですが、その殆どが全てを失い、借金を重ね奴隷落ちか闘技場送りになってます」
低確率だが大金を掴む者もチラホラ出てきているが、それはカジノ側で調整しているからであり、運ではない。
大金を掴んでもそれを元手にさらに夢を見て身を滅ぼす者もいれば、カジノ周辺で豪遊し、お金を落としてくれる者、その大金で自分の店を構える者と千差万別だ。
バラバラ亭のマキノの旦那の行方も気になるところだが、肝心の名前を聞きそびれてしまったので探しようがない。
「なによりだ。そういえばエリーナはまだ冒険者ギルドで働いているのか?」
「若よ、姫のお迎えはご自身で行くべきじゃ」
「頭はまっすぐここに帰ってきたんだろ? そりゃないぜ」
「ボス……それはないっすわ~」
「誰よりもボスの帰りを待ち焦がれていたエリーナさんが可哀想ですね」
「クロ様、さすがにそれは……」
全員がクロを白い目で見る。
「うるせえよ」
「カッカッカ! そういうところはまだまだ年相応なんだな! 俺らの事は良いから早く迎えに行ってやれよ」
ガロウの言葉に全員が頷く。
「……てめぇら、覚えてろよ」
ゴンズ以外の全員が爆笑する中、クロはエリーナを迎えに行くことになった。
~~~~~~~
「リナちゃ~ん! 僕ここが痛いでちゅ!」
「ヒール」
「リナさん、良かったらこの後お茶でも……」
「ヒール」
「ぼぼぼくの下の……」
「ヒール」
クロが冒険者ギルドへ入ると、カオスな現場を目の当たりにする。
怪我人とは思えない連中がお金を払いヒールをかけてもらっている。その殆どがエリーナ目当てなのは一目瞭然なのだが、エリーナはそれを無表情で淡々と処理していた。
「なんだこれは……」
「帰ってきてたのか」
呆気に取られているとフェルミナが声をかけてきた。
「これはどういう状況なんですか?」
「あぁ……すまない、これでも少なくなった方なのだよ」
「これでも?」
「料金も規定の倍にしたのだがな」
「バカが残ったわけですね」
「そういう事だ」
しばらくその状況を眺めていたが、途切れる事もなく次々とバカが釣れていた。
「もうしばらくあの状態は続くだろう、上で依頼結果の報告を聞こう」
フェルミナに促されギルド長室へと入り腰をかける。
「ある程度はツウィンから聞いているよ、大変だったようだな」
「えぇ、ウーツのギルド長にランクの降格をお願いしたんですけど却下されましたよ」
「当たり前だ! ギルド側の落ち度で冒険者を危険な目に合わせたんだ、無事帰ってきてくれて良かったよ」
そこまで知っているのなら、わざわざここまで来なくても良いのでないかと言おうと思ったが、心の底から安堵しているフェルミナの顔を見て言葉を飲み込んだ。
「これはギルドからの慰労金だ受け取ってくれ」
中身は確認しなかったがそれなりの重さはあった。
「それと、Sランクへの昇格……」
「お断りします」
「即答しないでくれ」
「昇格の理由がないですよ? 依頼は失敗してますし、実力的にも遠く及ばないですよ」
「私はツウィンからの手紙でしか聞いていないが、その状況化で生き残る実力と運は、Sランク冒険者になるに値するよ」
関係者の殆どが死亡、衛兵に至っては全滅。そんな地獄のような戦場で生き残り、平然としている精神力はSランクに相応しいとギルドは判断しているらしい。ギルドとしても高ランク、それもSランク冒険者を抱えているという箔をつけたいという思惑もある。
クロは当事者であり、元凶なのだから平然としているのは当たり前だが、それを知らない人間から見れば、そう捉えてしまうのはしょうがない事だった。
「早々に戦線を離脱してますからね、死んだと思われたんでしょう。気絶してたので詳細も知りませんし、私自身は何もしてないどころか依頼人は死んでますから」
「だが、いずれはSランクへの昇格を受けてもらうからな!」
「はあ……」(そろそろ冒険者稼業も潮時か)
ダダダダダっ! バタンっ!
「クロさ、くん! 帰ってきてたんですね!」
「あぁ、ただいまリナ」
「おかえりなさい! さあ、帰りましょう!」
エリーナは強引にクロの腕を掴み連れ去ろうとする。
「まてまてまてまて! リナ! まだ冒険者の治療がっ……」
「あら、フェルミナさん。契約はクロくんが戻るまでの間ですよね?」
「そうだが、だからと言って途中で……」
「契約は契約です! では、さようなら」
「まてまて、今は話の最中だもう少し待ってくれ!」
「クロくん、お話がまだ何か?」
「い、いや……伝えるべき事はもうない……かな?」
クロはエリーナの迫力におされタジタジになる。
「だそうですよ?」
エリーナはフェルミナをジロリと睨む。
「ほ、ほら? 君の報酬をまだ渡してないじゃないか」
「あ~それは、スラム街の教会にでも寄付して下さい」
「なっ!?」
エリーナはそう言うと、クロの背中を押し部屋の外へと追いやり振り向くとフェルミナに向けあっかんべーをしドアと閉める。
「キィィィィィ!!」
ギルド長室にフェルミナの金切り声が響き渡る。
一階に降りると、エリーナと腕を組み歩くクロを見る男性冒険者の視線が鋭く刺さる。
「ちっ! あいつ死んだんじゃなかったのかよ」
「帰ってこなくていいのに……」
「誰? あいつ誰なの? 俺のリナちゃんが……」
「バカっ! あいつAランク冒険者なんだぞ? 大体お前なんか相手にされるわけないだろ」
「えぇぇ……」
罵詈雑言がクロに浴びせられる。
「俺は嫌われてんなあ」
「うふふ、家畜が喚いたところで何も問題ありませんよ」
クロの居ない間に何があったのか、エリーナの性格がさらに歪んでいた。
この後、テンションの上がったエリーナを落ち着かせるため、デートをする事になった。
かなりの出費があったが、満足しているエリーナを見て何も言わなかった。
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「若、色々と大変だったようじゃのう」
「お前らのせいでもあるんだからな?」
「ほっほっほっ! たまにはサービスしておかないと女は怖いからのう」
「面倒くさいな~」
「良い経験をなさったようでなにより」
「皮肉はいい、それで話ってなんだ?」
ボン爺が改めてクロと二人きりでの対話を求めてきた。
「ふむ、話せば長くなるので、まず確認をさせていただきたい」
「何だ?」
「若、……ロベルという名に心当たりは?」
クロの顔から笑みがなくなり、真剣な顔になる。
「ロベル……どこでその名を聞いた?」
ボン爺の疑惑が確信に変わった。
応援ありがとうございます!
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