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第三章 復讐編

第151話 家に帰るか

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 王城での戦闘後、首都ウーツは混乱していた。ミルド伯爵の死亡、ヘクター王子が謎の奇病を発症、七人の召喚者の死亡など次々と事件が起こった事で出国が規制された。

 足止めをくらったクロはウーツのギルド長ツウィンに捕まり、事件の重要参考人として拘束されたが、特にお咎めもなく一日で解放された。

 それから規制が解除されるまでの一ヶ月間は特にする事もなく、スラム街を闊歩しては喧嘩売り、殴り倒すなどを繰り返して暇を潰していたが、一週間ほど経つとクロの歩く道を遮る者はいなくなってしまった。

 完全に暇を持て余したクロは、昼はスラム街の組織を潰しまわり、夜は王城へ侵入してはヘクターを小馬鹿にして帰るという充実した日々を過ごした。

「もう行くのかい?」

「規制も解除されたしな、やる事もやったしアースハイドへ帰るよ」

「スッキリとした顔しちゃって、まあ外を見ればクロ坊が何をしてたかは一目瞭然なんだがね」

 外にはスラム街にある全ての組織の人間が、クロの出国を見送るため列をなしていた。

「なあ、マキナ」

「なんだい?」

「あんたの旦那の墓は何処にあるんだ?」

「なんだって?」

「いや、なんていうか……世話になったし手くらい合わせてやってもと思ってな」

 バラバラ亭はボロだが家庭的で居心地が良かった。クロなりの恩返しではないが、何かしてあげたい気分にさせた。

「勝手にうちの旦那を殺すんじゃないよ!」

「は? いや、だって旦那の残した店守ってるって!?」

「うちの旦那はね、一攫千金を夢見てバカな賭けをしに行ってるだけさ」

「どういうことだ?」

 嫌な予感がする。

「クロ坊もアースハイドから来たなら知ってるだろ? カジノっていう賭博場が流行ってるって」

「あ~まあそうだな、うん知ってる」

「あそこで大金を掴んだ奴がこのスラムにいてね、その話を聞いたうちの旦那は有り金を全てを持ってアースバイトに行っちゃったのさ」

 嫌な予感は的中。

「それはまた……」

「どうせ全て失って借金奴隷にでもなってんだろうよ」

「あはは……はは」

 変な縁を拾ってしまったクロだった。

「もし、うちの旦那に会ったら、すぐに帰ってこい!と伝えておくれ」

 確実に一生抜け出せない奈落へ堕ちているだろうマキナの旦那を、どうやって拾いあげようかと頭を悩ませる事になった。

「なあ? 一緒にアースハイドに行く気はないか? もちろんリリカも一緒に」

「はあ? 行ってその先どうやって生きていけっていうのさ。それにクロ坊、あんたはいつからそんなお人好しになったんだい?」

「俺を誰だと思ってんだよ」

「誰って、若くしてAランク冒険者になって調子に乗ってる坊やだろう」

「あのなあ……」

「詮索はしない、そういう約束だったじゃないか。マキナさんにとってクロ坊は、生意気なAランク冒険者! それ以外の何者でもない」

「後悔するぞクソババア」

「マキナさんを舐めんじゃないよ! さあもう行きな! リリカも外で待ってる」

「はいはい、わかったよ」

 湿っぽくなるのは嫌だった。そう思えるほどに居心地の良い場所になっていた分、変な情が湧いてしまう。

「クロ坊!」

 バラバラ亭の入り口に向かい、出て行こうとした時にマキナがクロを呼び止める。

「ありがとうね」

「ふんっ! 長生きしろよクソババア」

 クロは振り向かずに片手をあげバラバラ亭を出ていくと、リリカが半ベソをかいて待っていた。

「お兄ちゃん! また……また会えるよね!?」

「何言ってんだ、リリカが俺に会いに来るんだよ」

 クロはわしゃわしゃとリリカの頭を撫でる。

「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる! だから待っててね!!」

(くっ! 何だこの純粋な目は!)

 クロは悶えるのを必死に我慢した。

「バカヤロウ、俺は人を見た目で判断するからな?」

「え……?」

「だから、俺のお嫁さんになりたけりゃ……とびきりの美人に成長して会いに来い」

「わかった! 私、絶対に美人になる!!」

 もしかしたら、とんでもない地雷を踏んでいるのではないかと思ったが、その時が来たら考えようと思考を放棄した。
 だが、ここまで言われてしまっては男として格好つけるしかない。

「じゃあ、その時はこれを持って会いに来い」

 クロがリリカに手渡したのは懺蛇のマークが刻み込まれた短剣だった。

「それを大事に持ってろ、御守りにもなる」

「あ、ありがとう!」

 リリカは短剣を受け取ると、両手で大事に抱える。

 二人の微笑ましい別れをスラム街の組織の人間達は真剣な眼差しで見守っていた。

 リリカと別れ、暫く歩くと組織の幹部連中が腰を低くし出迎える。

「バラバラ亭のマキナとリリカは懺蛇が庇護した」

「「「「へいっ!」」」

「たとえ相手が貴族や王族であっても、あの二人に危害を加えた奴は必ず殺せ」

「「「へいっ!」」」

「じゃあ、後はよろしく頼む」

「「「おつとめご苦労さんでした!!」」」

 スラム街を抜けるまでの道は、綺麗に整列された強面の男たちで花道が作られ、クロがスラム街を抜けるまでの間、誰一人として頭を上げることはなかった。

「ヴィト、ちょっと寄り道するぞ」

【何処いくの~?】

「俺が生まれた村だ」

 村の場所は事前に調べておいた。大まかにしか分からなかったが、山奥を走り抜け何とか辿り着く事が出来た。

「ははっ、何も残ってないな。まるで強大な魔法でもぶち込まれたみたいに破壊されてんな」

 廃村となってからは山賊が住み着いていたが、スフィアにより破壊された事をクロは知る由もなかった。

「何もないとは……いや、これはこれで良いのかもしれないな」

 アースハイドで生活の基盤を作り、裏の世界ではあるが成り上がった。

 跡形もなくなった故郷を確認した事で過去の清算を全て終え、気持ちも新たに出発することが出来る。

「ヴィト! 家に帰るか」

【うん!】

 アースハイドに戻ったクロに待ち受けているのは、もっと根深い出生の秘密により紡がれる新たな物語の始まり?かもしれない。
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