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第三章 復讐編

第150話 拳聖ってのもいるのかよ

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 リーゼント頭の転生者はポケットに手を入れガンを飛ばすと、クロへと近づき顔を上下に揺らしながら周囲を歩き回る。

「残念だけど皆んな彼に殺されたよ」

「はっ!? 情けない奴らだぜ! おい、てめぇ!」

「何だよ」

「俺と闘え! タイマンだ!」

 リーゼントの先端がクロに当たる。

「くせぇ……」

「あん!?」

「息が臭いんだよ、歯をちゃんと磨いてんのか?」

「てめぇ……上等だよ! 殺してやんよ!」

 リーゼント(仮)はプルプルと震えながら左手でクロの胸ぐらを掴む。

 バキッ!

「ぐぁぁぁぁぁぁ!」

 リーゼント(仮)は左肘が変な方向へと曲り、掴んだ手を離しうずくまる。

「俺はもう帰るんだよ、邪魔するな」

 立ち去ろうとするクロだったが足が動かない。

「!?」

「に、逃さねえぜ!」

 リーゼント(仮)は立ち上がり腕を回す。

「折ったはずだが?」

「気合いだ! そんなもん気合いで何とでもなるんだよ!」

 昨今のチート能力者は気合いで何とかなるらしい。

「あはははっ! 面白い能力だろう? 彼は理を全部気合いで乗り切るんだよ? 無茶苦茶だよね」

 ヘクターは楽しそうに笑う。

「バカみたいな能力だな」

「俺は達也や和、ナオミと違って気合い入ってっからな! さあ、かかってこいよ!」

 立ち去りたいが身体が無意識にリーゼント(仮)へと向いてしまう。

(挑発のスキルか? 折ったはずの腕が治ってるのも意味がわからん)

「おらぁぁぁ! オラオラオラオラ!!」

 技術もクソもないパンチが襲いかかるが、クロはそれを難なく躱す。

「だぁぁ! 避けてんじゃねえよ! 男なら耐えてみせろよ!」

「能力もバカだが、頭もバカみたいだな」

 バカにつける薬はない。

「よぉーし! じゃあこうしよう」

 リーゼント(仮)はポケットから金貨を取り出すと上に弾く、それを空中で掴み手の甲へ置く。

「表か裏か選べ」

「は?」

「だから表か裏か選べって言ってんだよ!」

「そんな事して何の意味があるんだ? そもそもどっちが表でどっちが裏だよ」

 リーゼント(仮)の目的がわからないのもあるが、その行為がスキルの発動に関係する可能性を考えると、素直に選ぶ事は出来ない。

「あれだよ、ほら人が描いてある方が表だよ! 良いから選べよ!」

「何でだよ、嫌に決まってんだろ」

「アァァ! もういい表だ!」

 手の甲にのせられた金貨には人の顔が描いていなかった。

「ちっ、裏かよ! じゃあお前からだな」

「はい?」

 リーゼント(仮)は頬を差し出しペシペシと叩く。

「殴れ」

「お前、何言ってんだ?」

「勘の悪い奴だな、お前が殴るだろ? そんで俺が殴る、それを交互に繰り返してどっちが先に倒れるかの勝負だ! 俺は気合い入ってっからなぁ、覚悟しろよ!」

 コイントスにスキルの発動や深い意味はなかったようだ。

「あっそう?」

 ヒュン!

「あん?」

 リーゼント(仮)の首が飛び、ヘクターの元へコロコロと転がり、それを拾いあげたヘクターは愛おしそうに眺める。

「彼の能力はすごいんだよ? でも使う人間がバカなのが致命的でね」

「こんなバカがあと三人もいるのかよ」

 なんちゃって勇者召喚は人間性まで加味された召喚は出来ないようだ。

「リーゼントバカと一緒にしないでもらいたいね」

 部屋の隅からメガネを掛けたインテリ風の男が現れる。

「はぁ……あのさ、面倒臭いから全員まとめて出てきてくれない? それ何かルールでもあんの?」

 まるで都合よく出番を待つヒーロー物のような登場に一言物申したい気分だった。

「僕たちはヘクター様から勇者召喚されたけど、残念ながら仲間意識なんて無いからね」

「いや、俺は早く帰りたいんだよ」

「ふっ……良いのかい? 僕が一人だといつから錯覚していた?」

 クロの右脇腹に衝撃が走り壁へと吹き飛ぶ。

「石口! 後だ!」

「なっ!?」

 吹き飛んだクロは壁を足蹴にし、素早くインテリメガネ石口の後ろにまわり込み首を落とそうとするが、間一髪避けられる。

「すまない白崎」

「油断してんじゃねえよ」

 石口は光る銃を創り出し構える。

「銃か……それと」

 白崎が手に持つのは大きくトゲの付いた棍棒だった。

「石口! 俺が突っ込むから援護を頼む!」

「OK! 死ぬなよ白崎!」

 石口の銃からBB弾程度の光の球が飛び出しクロの足元へと着弾すると、粘着質のモノで動きを止める。

「もらった! 脳天粉砕衝!」

 黄色いオーラに包まれた棍棒が、クロの頭めがけ振りおろされる。

「な、何だ……と?」

 振りおろされた棍棒はクロの魔闘術で強化された片手で簡単に掴まれる。

「腹ががら空きだぞ」

 横一線に剣が薙ぎ払われ、白崎の胴体を二分する。

「白崎ぃぃぃ!!!  はうっ……こ、これは……」

 石口の首には透明なブーメランが突き刺さっていた。

「う、嘘だ……ろ……」

「へぇ~珍しい武器だね?」

「格好良いだろ? 作ったんだよこれ」

 クロは石口に刺さったブーメランを回収すると懐へと仕舞う。

「あと一人か……」

「白崎くん! 石口くん! そんな……」

「お前が最後の召喚者か?」

「どうしてこんな酷い事を……許さない!」

 現れたのは小太りでくねくねした男だった。

「気をつけなよ? 彼女は……ナルミは召喚者の中でも最強格だよ」

「彼女? 男だろ」

「見た目ってそんなに重要かい?」

 ヘクターは性自認について寛容らしい。

「人は見た目が百パーセントだ! ぐっ……」

 クロは突然の衝撃で膝をつく。

「許さない! 許さないわよ!」

 拳が金色のオーラに包まれたナルミが鬼の形相で立っていた。

「ナルミは拳聖の称号を持っている強者だよ」

「拳聖……」

「本来なら勇者パーティーの一員になるはずだったんだけどね、ナルミは優しい子だからここに留まってくれたんだ」

(くそっ! 不意をつかれた……)

 魔闘術を使った状態でなければ一撃でやられていたかもしれない程の衝撃だった。

「どうして殺した!」

 ナルミの怒涛の攻撃は神速の域に達しており、隙がない。クロは機を伺うため防御に徹しているが、最初の一撃で肋骨を折られており動きに精彩を欠く。

(チート能力者とガチンコでやるのは悪手だ! だが、このままでは……)

「ナルミが勇者パーティーの一員にならなかったもう一つの理由」

「ハァハァハァハァ……」

「体力がないんだよね~」

 ナルミは激しく息を切らし、大量の汗をかきながら尻餅をつく。

「欠陥品かよ!」

 サクッ! シューー!!

【主ぃ~来たよ~】

「ヴィト? お前どうしてここに?」

 突然現れたヴィトにクロは驚く。

【主に危険が迫ってるって感じたから?】

「そうか、そういや魂で繋がってるんだったな」

 クロが死ぬとヴィトも死んでしまう。そういう契約をしているからこそ魂の繋がりが強く、クロの危険を察知し駆けつける事が出来た。

「これは驚いた……斑模様のフェンリル? ますます面白い子だよ君は」

【主ぃ~こいつ誰? 殺す?】

 ヴィトはナルミの頭をボリボリと咀嚼しながらヘクターへ近づき脚をへし折る。

「ぐっ……やっと死がやって来た」

【こいつ気持ち悪い~】

「さあ! 殺してくれ! この退屈な世界での最高のフィナーレを!」

「行くぞヴィト」

【あ~い】

「ま、待ってくれ! なぜ殺さない?」

「死ねない苦しみを味わって、退屈な人生を歩めよクソ王子! あ~でもそうだな……これは俺なりの慈悲だ受け取れ」

 ヘクターの胸を蹴飛ばし、仰向けに倒すとそのまま踏みつける。

「ぐっ! 何を……」

 踏みつけた脚に力が加えられ、バキバキと骨が折れる音がする。

「ガァァァ! これが死? これが死なのか!?」

「だから殺さねえって、これな? とある異世界人が作った毒薬なんだけどさ、微量なら死なないらしいんだよ」

 ごちゃごちゃ煩いヘクターの顎を粉砕し、毒薬のポーションを一滴垂らす。

「うが! あががが!」

「大丈夫! 大丈夫! 身体がちょっと紫色になるだけだって!」

 苦しそうに踠くヘクターの身体がみるみるうちに紫色になり全身の血管が浮き上がる。

「じゃあな、長生きしろよ~あははは!」

 全ての復讐が完了した。
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