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第三章 復讐編

第146話 任侠道

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「よう、リリカ!」

「お兄ちゃん! ヴィトちゃんも!」

「噂で聞いてるよ、無事でなによりさね」

「心配をかけたか? それより腹減ったから何か食わせてくれ」

「任せときな! このマキナさんが一週間分のご馳走を作ってあげるよ」

 マキナの料理を堪能し、一週間ぶりのバラバラ亭で一息ついていると、強面の男が二人入ってくる。

「クロの兄貴! お勤めご苦労様でした!」

「ご苦労様でした!」

 入ってきた二人は、クロがウーツに来た初日に傘下に収めた組織の者だった。
 黒蟻党というクソダサい組織名を名乗っていたので、懺蛇ウーツ支部という名前に変更した。

 支部には本部から呼び出した数人の陰を常駐させ、クロ不在の一週間の間で徹底的に教育を施すよう指示を出していた。

 そして、ボスと呼ばれると色々問題が生じるため、支部の人間には兄貴と呼ばせている。

「例の件はどうなってる?」

「へい! スラム街の他の組織は縄張りを侵さなければ黙認すると言ってます」

「黙認……」

「あ、兄貴?」

「舐められてるなあ」

「い、いや……そういう訳ではないと」

「ウーツの裏組織に顔役みたいな奴は居ないんだっけ?」

「へ、ヘイ!」

 ウーツはアースハイドとは異なり、複数の組織がどんぐりの背比べ状態で均衡を保っているらしく、組織の入れ替わりに関しては寛容だったりする。

「群雄割拠と言えば聞こえは良いが、何とも生産性のない街だな」

「昔ながらの組織もありますし、最近では任侠という言葉が流行ってます」

「任侠?」

「何やら仁義を重んじて、弱気を助け強気をくじくためには命を惜しまないとか」

(古き良き極道でも転生してきたのか?)

「俺らとしてはそんな考え方には反吐が出るんですが、古い人間にはこう……グッときたらしくて……」

「悪人が正義感を持ったところで、本質は変わらんのだがな」

「そうです! その通りです兄貴!」

「それを広めた馬鹿は誰だ?」

 クロとしては極道の異世界人であると予想する。

「ジロウという老人なんですがね? 組織には属しておらず、一匹狼を気取ってまして……」

「強いのか?」

「よく分からんのです。ボロボロになりながらも、最後には立ってるし……やられた相手も報復するわけでもなく、次の日には一緒に飯を食ってたりしてますしね」

(害がない? 珍しいタイプの異世界人だな。任侠か……会わない事にはわからないな)

 異世界人はこの世界に害を及ぼす存在が殆どであり、クロが険悪する理由はチート能力のバーゲンセール、現代日本の知識を使った末に起こる経済格差、のんきなスローライフとか言いながら商業形態の破壊を生む能力で好き勝手に満喫し世界を荒らすからだ。

 正義感を振りかざす勇者は嫌悪の対象だが、任侠の正義感との違いがクロにはわからないが故に会ってみたいと思った。

「ジロウさん?」

「なんだリリカは知ってんのか?」

「ジロウさんならうちに良く来るよ?」

「そうなのか?」

「うん! 見た目はちょっと怖いけど優しいおじいちゃんだよ!?」

「へぇ」(どうやって生計を立ててんだ? よくわからん)

「それと……これは別件ですが、クロの兄貴が探れと言っていた王族関係ですが」

「おっ! 何かわかったか?」

「秘密裏にですが、スラム街にある複数の組織にとあるペンダントを持つ者を探してくれと依頼しているようです」

「ペンダント?」

「うちの組織には話が来なかったので詳しくは……」

(ペンダントってあれの事だよな? 会う必要性は感じていなかったんだが……復讐の旅を完全に終わらせろって事か? まあ故郷の村の件もあるし会いに行くか)

「アースハイドに戻る前にやる事が出来たな。とりあえず、そのジロウって老人の居場所を割り出しておけ。そして、王族関係の情報は常に最新のモノにしておくように」

「兄貴はこれからどうなさるおつもりで?」

「俺か? 俺は……」

 マリエラから意味ありげに渡されたペンダントを、第三王子ヘクターに返す事が復讐の最終章になる予感がしてきたクロのとる行動は……

「ちょっとムカつく事を思い出したから野暮用を済ませてくる」

 厳戒態勢状態である王城へのミッションインポッシブルだった。

「お兄ちゃん! ……またどこかに行くの?」

「朝には帰ってくる」

「絶対だよ?」

 クロは心配そうな顔をするリリカの頭をクシャクシャと撫でる。

「じゃあ行ってくる」

(【主ぃ~また遊び?】)

(お前は残ってていいぞ?)

(【え~! 一緒に行く~】)

(今回は潜入だから暴れないぞ?)

(【じゃあいいや、いってらっしゃ~い】)

 ヴィトはバラバラ亭で留守番するらしい。

「ヴィト! リリカとマキナを頼んだぞ」

「やったぁ! ヴィトちゃん! 一緒に寝よ!」

 クロはバラバラ亭を後にし、王城へと向かう。

「一発くらい殴っても良いよな? なあ? マリエラ、マクベスト」

 気持ちを入れ替え、潜入する為に心を落ち着かせる。

「カチコミにでも出かけそうな雰囲気をしているな、坊主よ」

 可能な限り気配を消して歩いていたはずのクロに声をかけてくる者がいた。
 振り向くと、老人とは思えない覇気を纏った男が立っていた。

「何者だ爺さん……ん? あ~いや、そうか……あんたがジロウか?」

「だったらどうした? 坊主」

 痩せているが引き締まった筋肉、鋭い眼光、そして貫禄。強さはわからないが、有無を言わさない雰囲気は強者のそれだった。

「あんた、何人殺してきた?」

「変な事を聞く坊主だな? 殺した人数がそんなに重要か?」

「こっちの世界じゃねえよ、あっちでだよ」

 この世界での人の命は軽く、転生前の世界とは倫理観そのものが違う。
 ジロウの持つ雰囲気はこっちの世界で培ったものではない。

「坊主! 今何て言った!」

 驚いた表情でクロへ近づき両肩をがっちりとホールドする。

「何をそんなに驚いてんだよ」

「ここはあの世なのか!? 俺は……俺は死んだはずなんだよ! 死んだと思ったのに知らねぇ場所で目が覚めたんだ! 日本人も居ねえ、ここは外国かとも思ったが、色々と腑に落ちねぇんだよ! なあ、教えてくれ! 俺はどうなったんだ!」

(あ~そうか、爺さんじゃ異世界転生なんて概念ないよなあ……。何だよ、ただの可哀想な老人じゃねえかよ!)

「ちょ、ちょっと落ち着けよ!」

「落ち着いてなんて居られるかってんだ! やっと……やっと……」

 ジロウの目から涙が溢れる。

 極道とは言え、右も左もわからない見知らぬ世界へ飛ばされ、一人で生きてきたのだから、ジロウにとってクロは希望でしかない。

「泣くなよ爺さん! 情けねえなあ!」

「バカヤロウ! これは涙じゃねえ! 汗だ!」

 んなわけない。

「とにかくだ! 俺は今からやる事があるからさ、バラバラ亭にでも行ってろ」

「あん? それで坊主が死んだら俺はどうすんだバカヤロウ! どこ行くんだ? よーし! ついて行ってやる」

「爺いのくせに寂しがりかよ!」

「うるせぇ! 俺の勘が行けって言ってんだよ! それは譲れねぇなあ!」

「面倒くさっ! どうなっても知らねえぞ?」

「望むところだバカヤロウ!」

 ひょんな事からジロウを伴い、王城へ向かう羽目になってしまった。
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