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第三章 復讐編

第136話 三秒ルールは絶対

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「あと二日か」

【(主ぃ~? 見てる人いなくなった~)】

 昨日襲撃のあった時間に期待を込めて徘徊という名の警備をしているが、襲撃の気配を感じないどころか、監視の視線すらない。

(いないな、あ~そうだ! あそこに行こう)

 クロは警戒しつつ、屋敷の裏手で見つけた絶妙に隠された地下へと続く階段のところへ向かった。

(怪しさ満載で冒険の匂いがするんだよな~)

 地下への階段は巧妙に隠されており、建物の壁際手入れのされた植木が階段を覆うように配置され、昼間でも光が当たらないようになっていた。

(入るか……)

 クロは気配を消すと、周囲に人の気配がない事を確認し素早く潜入する。

(暗いな)

 中は光がなく、真っ暗だった。

「光れヴィト剣!」

 腰からヴィト剣を取り出し高く掲げてみたが何も起きなかった。

【主ぃ~? 何してるの?】

「いや、光るかなって」

【ちょっとまってて】

 ヴィトは剣から元のフェンリルの姿に戻ると仄かに発光する。

「お前、最近なんでありだな?」

【あはははっ! ヴィトすごい?】

「あ~すごいすごい」

 そんなクロの適当な対応でも、ヴィト的には満足だったらしく、上機嫌で先頭を歩く。

【主ぃ~なんか臭い】

「汚物と血の匂いが混じった変な匂いだな」

 錆びた鉄の匂いと、清掃が行き届いてない公衆トイレの匂いが奥から漂い、ここが普通の場所ではない事を予感させる。

「ここからは警戒しながら行くぞ」

【うんっ!】

 クロとヴィトは慎重に歩みを進め、階段を降りきると、そこは鉄格子がならぶ空間だった。

「牢屋? わざわざこんな手の込んだところに?」

【主ぃ~誰が居る~】

 クロに緊張が走る。素早く剣を取り出すと警戒するようにジリジリと剣を構えながら進む。

「あれか?」

 人の気配は敵ではなく、鉄格子の中にあった。

「よく見えないな……生きてるのか?」

【生きてる~】

 クロは鉄格子の中を凝視すると、鎖に繋がれた人の姿が確認できた。

「……誰か、そこに……いるの?」

「女?」

「ねえ……助け……て」

 鉄格子の中から微かにだが、助けを乞う声が聞こえる。

「私……の名前……は、ラスティア……お願い助け……て」

 衰弱しているのだろう、今にも消え入りそうなで、か細い声だが必死さは伝わる。

「壊す事はできる、だが音がなあ~」

「お、お願い……」

「無理矢理にでも開くか! ふんっ! ぐぬぬぬぬぬぬっ!」

 クロは魔闘術で身体強化し、鉄格子を腕力を使い左右に捻じ曲げると徐々に鉄格子は開き、人ひとりが入れるほどの隙間ができる。

「お邪魔しま~す」

 中へと入り声のする方へ向かうと、クロの目の前に現れたのは鎖に繋がれたエルフの女だった。

(これは……)

「あなた……は……誰? お……願い、ここ……から出し……て」

(目は抉られら、脚の腱は切られてるな……。拷問の後もひどいな)

【主ぃ~?】

(これで良く生きてるな……ケンタ印の最高級ポーションを使えば全快するが、助けてやる義理はない)

「お……願い、もう……殺し……て」

 エルフのラスティアは死を望んでいた。

「一つだけ聞く、お前をその状態にしたのはミルドか?」

「わた……しは、勇者……に庇護……されて、この屋敷……に連れて」

「勇者だと?」

「ミルド……伯爵……に、弄ば……れ……」

「勇者……エルフ……」

「飽き……た……末に、楽し……むよう……に拷問……を」

「何か記憶が……」

「次々……に、奴隷……がやって……きては……みん……な死んで……」

「あ~お前、あの時救い損ねたエルフか?」

「アッアッ! ハァァァァァ!」

 ラスティアは抉られ無くなった目から血の涙を流す。

「そうかそうか、あの時の! あらら~悲惨な運命を辿ったんだな」

「あの時……のっ! ウゥゥゥぅ」

(う~んどうしよう? このまま殺すのも流石に後味が悪いな)

「とりあえず、お前を庇護した憎き勇者は俺が殺した。そして二日後ミルドを殺す予定だ」

「本……当に?」

「その上で聞くが、生きたいか?」

「こ……の身体……でどうやって……」

 ラスティアにとっては、このまま生きながらえたとしても、絶望的な未来しか待っていない。目が抉られ、脚は自由に動かない。もはや誰かに看護をしてもらわなければ明日にも死んでしまう。

(この人はそれでも生きろと言うの? この先ただ生きるだけの屍に何を望むの?)

「今すぐ生きたいと言え、ならば奇跡をお前にくれてやる」

(奇跡? この人は何を言ってるの? それとも……)

「はい! 三秒経ちました~! 時間切れ!!」

「……?」

「はあ……俺なりの慈悲だったんだがな~お前は全快して生きるチャンスを逃した、残念だよ」

「ちょっ……とま……」

スパッ! シュゥゥゥ!

 クロは容赦なく首を斬り落とすと、ラスティアは音もなく崩れ落ち、息を引き取った。

「これも慈悲だ、もう苦しむ事なく眠れ」

 クロは何も感じない。

 何が何でも生きるという気概があれば、貴重な最高級ポーションを使ってやろうと思った。
 だが、ラスティアからはそれを感じなかった。

 三秒ルール、ただそれだけの事。

「お前の恨みはついでに晴らしてやるから……俺の犬の贄になれ」

【食べて良いの?】

「食えるならな」

 バリバリボリっ! ゴキっ!

【ぶぅ~】

「さあ地上に戻るぞ」

【あ~い】

 地上に戻ると、ヴィトは再び剣の姿に戻る。

「あれ? お前また黒い部分が増えたな?」

【あはははっ! わかんなーい】

「格好良いじゃねえかよ……」

 禍々しい紋様はクロの厨二心を大いに刺激したようだ。
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