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第三章 復讐編

第133話 あんた誰?

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「護衛をするために来たのだが?」

「助けてくれるの?」

 メリッサのあまりにも必死すぎる態度にクロは疑問を抱く。

「理由を聞かせてくれ」

「信じられないかもしれないけど……私は転生者なの」

「それで?」(またこのパターンかよ! どんだけ転生者がいるんだよこの世界は)

「それでって……少しは驚きなさいよ!」

「良いからさっさと続きを話せ、転生者」

 もっとも嫌いなパターンの転生タイプにクロはイライラしていた。

 自分が物語の主人公ではなく、主人公をいじめる悪役令嬢となってしまったと気付き、断罪される未来がわかってしまう。
 そうならないために、善人になり行動していくと主要キャラと恋愛関係になっていくというクソどうでも良い展開。

 そんな妄想世界に巻き込まれるのはごめんだ。

「キレてるよね?」

「キレてるよ」

 クロは亜空間から剣を取り出し、メリッサに突き付ける。

「ちょっ、ちょっと待ってよ! 普通そこは『キレちゃいないよ、俺をキレさせたら大したもんだよ』じゃないの!? てか、今のなに! どこから剣を取り出したのよ!?」

(どこのプロレスラーだよ! キレてるに決まってんだろクソ女!)

「ディメンションルーム! 亜空間だ」

「……さ、さすがはラスボスCROWね」

(そんな技もってたっけ?)

「何か言ったか?」

「な、何でもないわよ」

「余計なやり取りは嫌いなんだ、さっさと話せ」

「意外とせっかちなのね」

「お前、殺されたいのか?」

発売日未定
(悪役令嬢に転生してしまった私は、滅亡フラグを回避する為に護衛を募ったら、ゲームのラスボスがやって来てしまい、現在殺されそうになってます)

「何で護衛を募っているのに、その護衛から殺されなきゃいけないのよ!」

「殺されるだけの理由があるからだろ」

「理不尽! 私は生きたいの!」

 話が全く進まない状況がクロのイライラを加速させる。

(もうこいつ殺してしまうか? いやダメだ! 殺してしまうと、折角のミルドに近づくチャンスが潰れてしまう)

【(主ぃ~? この女食べる~?)】

(まだ食うな)

「だから、理由を聞かせろと言っているだろ」

「そ、そうね……唐突だけど私は一週間後に殺されるの」

「誰に?」

「お父様に放たれた刺客に」

「へぇ……」(俺の事かな?)

「信じてないわね? 良いわじゃあ、あなたの事を当ててあげる」

「ほう」

 クロは剣を亜空間からもう一本の剣を取り出す。

(俺をお前の妄想に巻き込むな! 仮に、仮にだが、俺の秘密をこいつが握っていたら……殺す! このクソッたれな世界から消してやる!)

「ちょっと! 何で剣をもう一つ出してんのよ! いや、それもCROWらしいわね」

「CROW?」

「あなたCROWでしょ?」

「クロだが?」(誰だよ! あながち間違いではないけどイントネーションが違う。こいつのはクロウ↗︎、俺はクロウ↘︎ 小さな違いだが大きな違いだ。英語表記っぽいな)

「あ~そういうのは良いから! そうね……あなた隣国の王子、小さな頃から剣の才能を発揮し天才と呼ばれている」

「この国にある山奥の村出身だ」

「生まれた時から強力な力を手に入れていたあなたは、世界を壊したくなる」

「壊滅的に貧弱で、強力な力を欲して無茶な修行をしていた。世界を壊したら努力が無駄になるだろう! 馬鹿なのか?」

「お父様がその力を利用し国家転覆を目論み、あなたと協力関係を結ぶ」

「絶対に協力関係になる事はないな」

「その目論みに気付いた王家は、勇者を向かわせ捕縛を試みるも、激しい抵抗を受け、最後は私諸共殺す事になってしまう」

「勇者はもう死んでるけどな、最後はまあ概ね賛成だが」

「……お父様の情報からあなたが関与している事が露見し、勇者と直接対決が行われる」

「だから勇者はもう居ないって」

「初めて全力を出して闘えるあなたは激闘の末、勇者に敗れてしまう」

「…………」

「ふっ」

メリッサは、なぜか勝ち誇った笑いをクロに向ける。

「あなたを闇から救いだした勇者とは友情が芽生え、改心する」

「胸糞な展開だな」

「そうよねCROW! いいえ、ルースファニア王国第一王子キース!」

「誰だよ!」

「……えっと、あなたどちら様ですか?」

 山奥の村出身、死ぬ思い(何度か死んでたはず)をしながらも努力して強くなったが、村は壊滅し、その後は義賊に育てられたが義賊も壊滅し、隣国へ渡る事になりスラム街を支配した。
 勇者とは直接対決し、心理的な動揺を誘い倒す事に成功。改心どころか更に悪の道を突き進む。そして、ミルド伯爵は殺すリスト一位にランクイン。その屋敷に合法的に潜入←今ここ

「アースハイド帝国から、お前が出した依頼をギルドが受領し、ギルド長から指名依頼され、わざわざメランコリ国までやって来たAランク冒険者だ」

「またまた~」

「どう解釈するか、それはお前次第だがそれはお前のくだらない妄想だという事実は変わらん」

「で、でも!」

「何でもかんでもこじつけてんじゃねえ! 知識があるのは転生した身体の記憶、お前がいた世界と混ざり合う事で変な事になっているだけだ」

 この転生者は壊れている。

 乙女ゲームの世界などない。

「とりあえず護衛はしてやる、一週間後だろ?」

「い、一週間後よ……」

「一週間後に何かが起きるなら、その場に居てやる」

「本当に?」

「本当だ」

 悪役令嬢物語、それは記憶の混濁による妄想世界。
 ヴィトが二人居ると言ったのは、この記憶の混濁による弊害だろうとクロは結論付けた。

「じゃあ採用! 私を護ってね王子様」

(一週間もあればミルドと直接会う事が出来るだろう、この頭がおかしくなった妄想癖のお嬢様諸共……殺してやる)

「もう防音結界を解除して良いわ」

(ヴィト解除だ)

【(あ~い)】

 部屋に張られていた防音結界を解除するとメリッサはヒツジを呼び戻す。

 パンッ! パンッ! ガチャ

「お嬢様、お呼びでございますか」

「ヒツジ、Aランク冒険者のクロさんを雇う事にしました」

「誠にございますか?」

「何か問題でもあるのかしら?」

「いえ、ではお部屋に案内を?」

「クロさん、今すぐ契約で良いかしら? 私としては、今からでも護衛をして貰いたいのだけれど」

 決行の日は一週間後、そんなに慌てて契約する必要はない。

(記憶が壊れた令嬢とは必要以上に関わりたくはないのだが、事前に屋敷内の事情を知りたくもある)

 ミルドが有している戦力、屋敷に施しているであろうギミック、行動パターンの把握、交友関係等、調べあげたい情報は多彩だ。

「宿の店主に、しばらく戻らないと手紙を渡してくれ、今から護衛依頼を引き受けよう」

「わかったわ。ヒツジ、クロさんの泊まっている宿に連絡を」

「承りました」

「よろしくね、クロさん」

「ああ」

 ミルド暗殺までのカウントダウンが始まる。

 自分が殺されるという未来は、記憶の混濁による弊害だとメリッサは分かっていなかった。

 そして、一週間後に迫る滅亡フラグを回避する方法はない。
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