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第三章 復讐編

第130話 地獄の沙汰も金次第

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「冒険者か?」

 メランコリ国首都ウーツに到着したクロは、ヴィトを剣に変化させ門番に冒険者カードを提示した。

「Aランク冒険者!? 若いのに大したもんだなぁ! ようこそウーツへ!!」

 門をくぐると、アースハイドとはまた違った魅力ある街並みだった。

「冒険者ギルドには明日行くか」

【主ぃ~お腹すいたぁ】

「宿屋まで我慢だ」

 クロは宿屋を探し歩き回ると、七歳くらいの少女が話しかけてきた。

「ねえ、お兄ちゃん冒険者?」

「あん? 安くて飯の美味い宿なら良いぞ?」

「え? まだ何も言ってないけど……お兄ちゃん何者!?」

 初めての街を歩き、宿屋を探すと少女が自分の親がやっている宿屋へ誘導する、そんなの常識だ。

「それで? 飯は美味いのか?」

「美味しいよ!」

「連れて行け」

「うんっ!」

 クロは少女の後をついて行く。

 少女はどんどん人気のない路地裏へと突き進み、明らかにスラム街であろう馴染みの風景が目に入ってくる。

「ここだよっ!」

「ボロボロじゃねえかよっ!」

 場所はさることながら、見た目は宿屋と言われなければ気付かないほどボロボロの建物だった。

「ゔゔ……」

「はあ~、これで良く宿屋なんて言えたもんだな……」

 少女は半べそをかいてうつむく。

(この国の拠点として行動するにはうってつけの場所か? サービスに関しては期待できんが、融通は効きそうだ)

 クロの最終目的はミルド伯爵の暗殺である。ウーツの冒険者ギルドからの依頼がどんなものかは不明だが、行動の移しやすさと馴染ある雰囲気に関しては満点だった。

「早く案内しろ」

「え? い、良いの?」

「良いのも何も連れてきたのはお前だろうが」

「お前じゃない……」

「は? 何だよ」

「リリカ! 私はお前じゃないっ!」

 先程まで泣きべそをかいていた少女の名前はリリカというらしいら。

「それは悪かったな、リリカ案内してくれ」

「うんっ! 母ちゃーん! お客さん連れてきたよー!!」

 リリカは宿屋へと走り叫ぶ。

「何言ってんだい! こんなボロ宿にお客なんて……」

「何だ、この宿屋は客を選ぶのか?」

「あれまっ! 本当にお客だよっ! 何でこんなボロ宿に」

「あんたの娘に、安くて飯の美味い宿屋なら連れて行けって言ったらここに連れてこられた」

「そうかい、あんたお人好しなんだねぇ」

「うるせえよ、それで飯は美味いのか?」

「まかせときなっ! 飯はここいらじゃ一等だよ」

「じゃあ一ヶ月で朝食と晩飯を付けてくれ、宿代はこのくらいで良いか?」

 クロは金貨を二十枚ほど渡す。

「なっ!? こんなボロ宿がそんな値段な訳ないだろう! どこのお貴族様だよあんた」

 金貨二十枚はクロがいた元の世界で換算すると二百万円だ。

「馬鹿野郎! 俺はグルメなんだ。どうせ、部屋はボロなんだろ? せめて食事だけは満足できる物を出してくれ。余った分は勝手にしろ」

「あんた……」

「あと、余計な詮索はするなよ? 色々と事情があってこの国に来ているし。それと一応これでもAランクの冒険者だ」

「ふんっ、あたしを誰だと思ってるんだい? スラム街の女帝マキナさんをなめんじゃないよ!」

「知らねえよ」

「あっはっはっはっ! あんた名前は?」

「クロだ」

「そうかい、スラム街唯一の宿屋バラバラ亭へようこそ! クロ坊」

「色々と癖が強いな」

 クロは少し後悔するが、マキナの人当たりが良く、嫌味の無い大雑把な雰囲気は嫌いではなかった。

「リリカ! クロ坊を部屋へ案内しな! あたしは夕飯を作るから」

「うんっ! クロお兄ちゃんこっちだよ!」

 リリカに案内された部屋は、思いのほか綺麗……な訳がなかった。

「想定内のボロさで、むしろ好感が持てるわ」

 こんなボロ宿でどうやって生計を立てているのか不思議でしかないが、寝るだけでならば問題はなさそうだ。

「ご飯はすぐに出来ると思うから、荷物……お兄ちゃん荷物は?」

「言ったろ? 余計な詮索はするなって」

「で、でも……」

 クロは女だろうが子供だろうが容赦はしない性格だ。

 性格なのだが

「お前ガリガリだなっ! これでも食っとけ!」

 クロは亜空間から干した魔獣の肉をリリカに投げ渡す。

「うわっ!? クロお兄ちゃんすごいっ!」

「良いから食っとけバカヤロウ!」

「あ、ありがとう……」

「さっさと行け」

「ご飯! すぐ出来るから早く来てね!?」

 リリカは大量の干し肉を抱えて走り去っていく。

【主ぃ優しい~】

「うるせえよ黙ってろ」

 スラム街の住民には甘い男だった。


 食堂へと足を運ぶと既に食事が用意されており、良い匂いを漂わせていた。

【美味しそうな匂い!】

「馬鹿! ヴィト!」

「剣が喋った! ねえ! 今喋ったよね!?」

「クロ坊! 余計な詮索はしないから、その剣にも食事が必要なのかは教えてくれないかい?」

 クロは少し悩む、ヴィトの存在は秘匿する必要がある。でないと剣に擬態させた意味がない。

「はあ……ヴィト! もう良いぞ」

【いいの!?】

 ヴィトが剣から元の姿に戻る。

「すごぉい! 剣がオオカミさんになった!」

 ここを拠点として使うなら協力を仰いだほうが良い。そう判断したのは、ここがスラムである事も大きい。

「マキナ、リリカ、この秘密は絶対に漏らさないでくれ」

 クロはそういうと白金貨を取り出し渡す。

 パチンッ!

 マキナはクロの頬を引っ叩く。

「バカにするんじゃないよ! お客の秘密は守る、当たり前の事さ! あたしは食事が必要なのか聞いただけだよ」

「そうか、悪かった。食事は二人分頼む」

「わかった、腕によりをかけて用意するよ」

 クロは取り出した白金貨をしまおうと手に取る。

「ん?」

「いらないとは言ってないよ」

「ちゃっかりしてんなババア!」

「地獄の沙汰も金次第って言うからね」

「間違いない」

 マキナは白金貨を懐に入れると、正面に座り食卓を囲む。

「一緒に食うのかよ」

【主ぃ~美味しい~】

「オオカミさんの姿でも喋れるんだ!」

【ヴィトだよ~】

「ヴィトちゃん! 私はリリカ! よろしくね!!」

「あっはっはっはっ! こんなに楽しい食事は久しぶりだねえ!」

 クロの気持ちを置き去りに食事は進んでいく。

「もう勝手にしろ」


 バンッ!

 食事を終え、一息つくと入り口を蹴飛ばしガラの悪い三人組が入ってくる。

「邪魔するぜぇ!」

「邪魔するんだったら帰って~」

「「「あいよ~」」」」

 どこかで観たような光景が繰り広げられる。

「ってなんでだよ! お前らも帰ってんじゃねえ!」

「「すんません!」」

 ガラの悪い三人組は再び入ってくる。

「おいマキナ! いつまでここに居座る気だ! さっさとここを明け渡して出て行け!」

「また、あんたらかい!? 何度も言ってんだろ! ここは亭主が大事にしていた宿屋、誰が出て行くもんか!」

 三人組は地上げ屋のようで、毎晩のように嫌がらせをしてくるらしい。

「人が満腹になって良い気分の時に……」

「何だ兄ちゃん! こんな汚ったねえ宿屋に泊まってんのか? 邪魔だ引っ込んだろ!」

 男は椅子の脚を蹴飛ばし、クロは床へと転ぶ。

「いい加減にしねえと、ガキ攫っちまうぞコラ!」

「リリカには指一本触れさせないよ!」

 マキナは腕を組み、仁王立ちで男達の前に立ち塞がる。

「上等だよマキナ、後悔させて……ぐはっ!」

「「兄貴!」」

 兄貴と呼ばれる男は外へと吹き飛ぶ。

(ヴィト! マキナとリリカを護っとけ)

【(わかった)】

 クロは残った二人の服を掴み、一緒に外へと出る。

「クロ坊!」

「クロお兄ちゃん!」

【そのままそこにいてね、あとは主に任せて】

「ヴィトちゃん……」

 蹴り飛ばされた男は白目を剥いて気絶していた。

「お前らのアジトまで行こうか?」

「何なんだてめぇ!」

「うるせぇ……俺は機嫌が悪いんだよ」

 ザンッ! シューーーー!

「ひ、ひゃあぁぁぁぁ!!」

「ひ、ひえぇぇぇ!」

 兄貴と呼ばれた男の胴体が真っ二つに割れる。

「案内しろ」

「ひゃっ、ひゃい!!」

 この日、メランコリ国首都ウーツにあるスラム街の一つの組織が懺蛇の傘下となった。
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