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第三章 復讐編

第129話 新たなる決意を胸に

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「ヴィト! 止まれ」

【主ぃ?】

 クロはメランコリ国内へと入り、寄り道をしていた。
 クロが止まったのは、蒼穹の叡智のアジトがあった場所から少し離れた丘の上だった。

「今日はここで野宿だ」

【僕、獲物捕まえてくる~】

 ヴィトは今夜の食事となる魔獣を狩りに林の中へ入っていく。

「……あった」

 クロの目の前には、五芒星が刻まれた大きな木があり、根元には小さな石が五つ散らばっていた。

「縦に積んでいたんだけどな」

 下にはマリエラが眠っている。五人で一つずつ石を積み、お墓代わりにしていたが、積み重なっていた石は崩れ落ちていた。

「残ったのは俺だけだよ、マリエラ」

 崩れ落ちた石の中で、一番下にあった石だけはしっかりと地面と同化し根を張っているように見えた。

「死んだのは弱いからだ! だから俺は謝らないぞ? でも、ケジメだけは付けてくる」

 クロはマリエラの墓に手を合わせる。

 暫くすると、魔獣を引きずりながらヴィトが戻って来た。夕食を摂っている時にふいにヴィトから……

「主ぃ? 悲しい?」

 とクロは聞かれたが

「何の事だよ」

 と答えた。

 獣魔契約をしている事でクロと心が繋がっているヴィトは、その言葉が強がりだとわかっていた。

【主ぃ~寝る~】

 ヴィトはそう言いながらクロへ寄り添い眠りにつくのだった。



「ヴォ~!!」

「ア~ヴ~!」

 深々とした夜の帳にうめき声が響き渡る。

【主ぃ?】

「分かってる、ヴィトお前は手を出すな」

【良いの~?】

「昔の仲間が挨拶に来た、それだけだ」

【わかった】

 クロは面倒臭そうに立ち上がると、声がする方へと歩いて行った。

「ははっ! 知った顔がいっぱいだな! 元気だったか? いや、もう死んでるから元気って事はないか!」

 目の前にはレイス化した元蒼穹の叡智の仲間達で蠢いていた。

「仲間だった誼だ、俺が引導を渡してやるから成仏しろよ!」

 スカッ!

「うわっ!」

 クロの拳はレイス達をすり抜ける。

「ぐあっ! 痛てぇ!」

 レイスの持つ剣がクロを切り裂く。

「おいおい、俺の攻撃はすり抜けるのにお前らの攻撃は通るのかよっ!」

 クロは何度も攻撃を試みるが、全てすり抜けてしまう。

「くそっ! 聖属性じゃないと無理なのか?」

 クロはレイス達の攻撃を躱しながら考える。

「ん~、あっ! そうだ!」

 クロが取り出したのは勇者が使っていた剣だった。

「勇者が使ってたんだから聖属性くらいあるだろ! ふんっ!」

 勇者の剣を横一閃に振るとレイス達が霧散するとクロはニヤリと笑う。

「さあ、仕切り直しだ! 成仏したい奴からかかってこい!」

 クロは何度も何度も剣を振り、次々にレイスを倒していく。

「ちっ! 何か動きが良い奴が混ざってんな!」

 動きの良いレイスは元幹部の連中だった。

「そんな目で見るなよ、俺の事がそんなにも嫌いだったか?」

 動きが良いとはいえ所詮はレイス。生前の動きに比べ、今は単純な攻撃しか出来いない雑魚に成り下がっていた。

「お前らのそんな姿は見たくねえよ」

 クロは容赦なく斬り伏せていき、最後の一体が霧散した。

「お前らの意思は継がねえ、でも恨みは晴らしてやるから安心して眠れ」

クロは手を合わせるとヴィトの元へと歩みを進める。

 ドォォォォォォォンッ!

「ぐおっ!」

 背中に衝撃破のような斬撃が飛んできてクロは吹き飛ぶ。

「痛ってぇ……何だ今のはっ! ……ははっ! 嘘だろおいっ! お前もかよ!」

 魔闘術で身体強化をしていたおかげか、致命傷は避けられた。
 斬撃が飛んできた方向へと振り向くとそこには

「マクベスト!!」

 有象無象のレイス達とは一線を画した雰囲気を持つマクベストであった。

「目が血走ってんぞお前!」

 オート戦士化した状態で死んだマクベストは、レイスになってもなお暴れているようだ。

 マクベストから怒涛の斬撃が飛んでくる。

「一番面倒な奴が魔物になってやがる!」

 クロは距離を詰めると、袈裟斬りで両断しようとするがマクベストの剣がそれを防ぐ。

「防御してんじゃねえ!」

 何度も斬り結び、剣戟が鳴り響く。

「やっぱり強えなマクベストはよう!」

 クロにとってマクベストは上司であり、師でもでもある。

「レイスになっても強いのに、何で……何で死んだ!」

 徐々にクロの剣速が上がり、マクベストは防戦一方になる。

「弱くなったお前を倒せても何の自慢にもならねえよ!」

 クロの剣がマクベストを貫く。

 マクベストはその剣を掴みクロを見て微笑む。

「マクベスト……」

 消えゆくマクベストの顔は穏やかだった。

「馬鹿野郎が!」

 やりきれない気持ちがクロの心を蝕む。

【主ぃ! 危ない!】

 ザクっ!

「ぐっ!」

 油断していたクロを背後から何者かが剣で刺した。

「くそっ! まだ残って……マリエラ!?」

「坊……坊……」

 クロは刺さった剣を引き抜くと距離を取る。

「マリエラ……ってお前はゾンビかよっ!」

 マリエラは死体を土葬していたからか、ゾンビ化していた。

「坊……坊……」

「お前、記憶が残って……?」

 マリエラは涙を流し、手を伸ばし近づいてくる。

「マリエラ……」

 ゆっくりと歩みを進めるマリエラに、クロは無意識に手を伸ばしていた。

 スパンっ!

 マリエラの顔が吹き飛び、肉片が飛び散る。

「臭っ! マリエラゾンビ臭っ!! そして刺してんじゃねえよ!」

 マリエラゾンビは倒れ、身体はピクピクと痙攣し、やがて動きを止めた。

【主ぃ~、大丈夫ぅ?】

「ああ、平気だ」

 傷はケンタ印のポーションで回復した。

 辺りは瘴気に満ちており、このままでは再びレイス化するかもしれない。

「なあヴィト? お前聖属性魔法的なやつで浄化できる?」

【出来るよ~】

「じゃあ頼むわ」

 ヴィトの身体から浄化の光が放たれ、周囲は綺麗に浄化されるかと思いきや、ヴィトは瘴気を吸収した。

「お前、斑模様が更に禍々しくなったな! 格好良いじゃねえかよ」

【主ぃ~このゾンビどうする?】

「あ~、燃やすか?」

 クロはマリエラゾンビを焚き火まで引きずり、そのまま放り投げる。

「これで完了! 明日は一気に首都まで行くからちゃんと寝ろよ?」

【うん】

 クロとヴィトが眠りにつけたのは朝方近くだった。


「暑い……」

 燦々と照りつける陽の温かさで目が覚める。

「はっ! おいヴィト!」

【な~に? 主ぃ~】

「寝過ごした」

 結果、メランコリ国の首都ウーツに着いたのは夕方過ぎだった。
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