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第三章 復讐編
第128話 魂の叫び
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「メランコリ国に? ほうほう、それはまた」
「面倒な依頼かもしれんが、タイミング的には有難い」
「こちらの事は儂等でなんとかなるじゃろうて、若は本懐を」
「ああ、必ず成し遂げてくる」
クロは組織をボン爺達に託す事にし、旅の準備に取り掛かる。
【主ぃ~どこ行くの? 僕も行くぅ~】
「残念だが、今回は冒険者クロとして行動するからお前は留守番だ」
【え~!?】
「こんな禍々しいフェンリル連れて行ったら目立つだろ」
【目立たないと良い?】
「ちょっと待てい! 嫌な予感がする」
この流れ、この発言、クロの回避したいイベントの予感をひしひしと感じる。
「駄目だ! それだけはやめろ! 俺はそういった世界の運命から逆行したいんだよ!」
【んんんんんっ! えいっ!】
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
ヴィトの身体が発光し、光が収束すると全裸の子供が姿を現す。
かと思いきや、一本の剣へと姿を変えた。
「人化じゃないのかよ!」
「これは……なんとまた見事な刀身、禍々しさが若によく似合うとる」
【これでいつも一緒】
クロは頭を抱え、ため息を吐く。
「若、諦めなされ」
「取り敢えず、目立たないというのはクリアしたから、こいつの性能次第では……」
クロは剣化したヴィト、通称ヴィト剣を手に取る。
「フニャフニャじゃねえかよ!」
怒りに任せてヴィト剣を投げ捨てる。
【あははははははっ! もう一回!】
「くそっ! ちょっと期待した自分の浅はかさを殺したい……」
「ヴィト殿、その姿で剣として戦う事は?」
【出来ない、動けない、何もない】
通称ヴィト剣は、なまくらより劣る駄剣だった。
「もういい、どうせ出来るんだろ人化! やれよ早く! どうせ運命に贖えないのなら……乗るしかない、このビッグウェーブに!」
【ん? 出来ないよ? 人化】
「出来んのかい!」
【うん、普通に】
「剣にはなれるのに?」
【主ぃ? 多様性を認めないと】
「犬畜生のくせに難しい言葉知ってんじゃねえよ」
「使えぬ剣だとしてもじゃ、本来の姿ならば若の力になるじゃろうて」
クロは諦めてヴィト剣を携え、メランコリ国へと旅立った。
門を抜け、人気のない獣道へと入ったクロはヴィト剣を投げ捨てる。
「元の姿に戻っていいぞ」
【やったぁ!】
「ここまで来たら人とは出会わないだろう。ヴィト! メランコリ国までは修行しながら行くぞ」
【うんっ!】
クロとヴィトは、全力疾走に近いスピードで獣道を駆け抜ける。
~~~~~~~
「お腹すいたなぁ」
スフィアはクロウを救出すべく、アースハイド帝国へと向かっていた。
道中で魔獣を倒して栄養補給をしていたが、ここ数日は魔獣達がスフィアの持つ強大な魔力を察知し、追い立てられるように逃げていた為、スフィアは肉にありつけてなかった。
逃げた魔獣達は、近隣の町へと傾れ込むスタンピートとなっていた事をスフィアは知らない。
「ん? 何か良い匂いがする」
極限状態のスフィアの嗅覚が、森の中で食料の匂いを探知した。
「あっちかな?」
足早に森を駆け抜けると、煙をあげ料理中の冒険者らしき男を発見した。
「それ、私にも頂戴」
「うわっ! え? 女の子?」
「美味しそうな匂い、私も食べたい」
「い、良いけど、あと少しで出来るからそこに座って待っててくれるかい?」
男は驚きながらも了承し、待つように促す。
スフィアは素直に頷き、男の調理する姿を眺める。
「あなた、不思議な服着てるわね?」
「ん? ああ、これかい? そうだねこの世界……この国ではやっぱり目立つかな?」
「そうね、見た事もないわ」
不思議な調理器具を操り、料理が楽しいのか、男は鼻歌混じりに次々と皿に料理を盛り付けていく。
「完成だ!」
「お、美味しそう……」
「そうかい? 良かった! さあ食べよう!」
男が作った料理は、香辛料をふんだんに使った肉料理で、何の肉かはわからないが柔らかくジューシーで美味しかった。
「この白いのは何?」
「これは、俺の国ではポピュラーな主食の白米だよ。食べてみなよ? ぶっ飛ぶぞ!」
「うんっ!」
初めて食べた白米は、ジューシーな肉と相性が良いのかスフィアの箸が進む。
「ハァァァァァ! お腹いっぱい!」
「あはははっ! お粗末様でした」
満足げなスフィアを横目に男は片付けを始める。
「ねえ? あなたこんな危険な森を一人で何をしてるの? 見たところ冒険者でもないし……」
「それは君もだよ! 俺は……そうだなあ~、気ままに世界を回って美味しい物を探すハンターかな?」
「弱そうなのに?」
「失礼な! 身体の強さだけが全てじゃないよ? ふふふっ! 俺にはこれがあるからね」
男が取り出したのは、スフィアが見た事もない鉄製の武器だった。
「何それ?」
「見てなっ! あっ、大きな音がするけどびっくりしないでね?」
バババババババババババンっ!
「!!!?」
「どうだい?」
「爆裂の魔法を放つ魔道具なのね!? すごい威力だわ」
スフィアは初めて見る銃を魔道具と勘違いした。
「これ以外にも身を守る物をたくさん持ってるから」
不思議な術を使う男に興味を覚えたが、スフィアの目的は一刻も早くアースハイド帝国へと行く事なので、出発の準備を始める。
「なんか疲れた顔をしてるね?」
「あなたには関係ない事だわ」
「うん、そうだね。でもそんな張り詰めた顔した女の子を放ってはおけないよ」
「お人好しなのね」
「よく言われるよ」
男は優しく笑うと、何処からか布の建物を出現させ中へ案内する。
「これはテントって言ってね、アウトドアで睡眠を取る時に建てる物なんだ」
「また見た事もない物を……あなた一体何者なの?」
「ただのお人好しさ」
スフィアは促されるようにテントの中へ入ると、数日ぶりに睡眠を取ることが出来た。
テントから出ると、男は焚き火の前で眠っており、スフィアは起こさないようにお礼を言うと、再びアースハイド帝国に向け走り出した。
「ふわぁ~久しぶりに人と会話したなあ」
男はスフィアが安全に寝れるように番をしていた。
「異世界で気ままにスローライフ! サイコー!! さて、朝食でも作るか」
~~~~~~~~
【主ぃ! 何か良い匂い】
「は? どこだよ」
【こっち!】
ヴィトは急旋回し、匂いの元を辿る。
「全然わからねー」
【えー! こんなに良い匂いするのに】
ヴィトを半信半疑で追いかけ、しばらくすると前方に煙が上がっているのが見える。
【あれだ!】
「おいっ! ヴィト待て!」
クロの静止も聞かず、ヴィトは煙が上がる場所へ到達した。
【これだぁ!】
「うわっ! 獣!? いや、もしかしてフェンリル!!」
突然のヴィトの出現に驚く男だったが、異世界でお馴染みのフェンリルと遭遇しテンションが上がる。
「ちっ! 見られた! あの馬鹿犬がっ!」
フェンリルと旅をしている所を見られるわけにはいかないクロは一瞬で判断する。
「や、やあフェンリルさん! これ食べるかい?」
【いいの!?】
(この流れ! これ、これだよ! 気ままなスローライフにはフェンリル! テイムのお時間ですってか!)
スパッ! シュゥゥゥゥゥ!
【主ぃ~これ美味い】
ゴンッ!
【痛いっ!】
「この馬鹿犬が! 人に見られたら駄目だって言ったよなぁ!」
【ごめんなさい……】
「無駄な殺しをしちゃったじゃねえかよ! ってこいつは……」
首を斬り落とした男の服装を見て、クロは思う。
「このハードモードの世界で気ままにスローライフを送ってんじゃねえよ!」
この男にクロの叫びが届く事はなかった。
「面倒な依頼かもしれんが、タイミング的には有難い」
「こちらの事は儂等でなんとかなるじゃろうて、若は本懐を」
「ああ、必ず成し遂げてくる」
クロは組織をボン爺達に託す事にし、旅の準備に取り掛かる。
【主ぃ~どこ行くの? 僕も行くぅ~】
「残念だが、今回は冒険者クロとして行動するからお前は留守番だ」
【え~!?】
「こんな禍々しいフェンリル連れて行ったら目立つだろ」
【目立たないと良い?】
「ちょっと待てい! 嫌な予感がする」
この流れ、この発言、クロの回避したいイベントの予感をひしひしと感じる。
「駄目だ! それだけはやめろ! 俺はそういった世界の運命から逆行したいんだよ!」
【んんんんんっ! えいっ!】
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
ヴィトの身体が発光し、光が収束すると全裸の子供が姿を現す。
かと思いきや、一本の剣へと姿を変えた。
「人化じゃないのかよ!」
「これは……なんとまた見事な刀身、禍々しさが若によく似合うとる」
【これでいつも一緒】
クロは頭を抱え、ため息を吐く。
「若、諦めなされ」
「取り敢えず、目立たないというのはクリアしたから、こいつの性能次第では……」
クロは剣化したヴィト、通称ヴィト剣を手に取る。
「フニャフニャじゃねえかよ!」
怒りに任せてヴィト剣を投げ捨てる。
【あははははははっ! もう一回!】
「くそっ! ちょっと期待した自分の浅はかさを殺したい……」
「ヴィト殿、その姿で剣として戦う事は?」
【出来ない、動けない、何もない】
通称ヴィト剣は、なまくらより劣る駄剣だった。
「もういい、どうせ出来るんだろ人化! やれよ早く! どうせ運命に贖えないのなら……乗るしかない、このビッグウェーブに!」
【ん? 出来ないよ? 人化】
「出来んのかい!」
【うん、普通に】
「剣にはなれるのに?」
【主ぃ? 多様性を認めないと】
「犬畜生のくせに難しい言葉知ってんじゃねえよ」
「使えぬ剣だとしてもじゃ、本来の姿ならば若の力になるじゃろうて」
クロは諦めてヴィト剣を携え、メランコリ国へと旅立った。
門を抜け、人気のない獣道へと入ったクロはヴィト剣を投げ捨てる。
「元の姿に戻っていいぞ」
【やったぁ!】
「ここまで来たら人とは出会わないだろう。ヴィト! メランコリ国までは修行しながら行くぞ」
【うんっ!】
クロとヴィトは、全力疾走に近いスピードで獣道を駆け抜ける。
~~~~~~~
「お腹すいたなぁ」
スフィアはクロウを救出すべく、アースハイド帝国へと向かっていた。
道中で魔獣を倒して栄養補給をしていたが、ここ数日は魔獣達がスフィアの持つ強大な魔力を察知し、追い立てられるように逃げていた為、スフィアは肉にありつけてなかった。
逃げた魔獣達は、近隣の町へと傾れ込むスタンピートとなっていた事をスフィアは知らない。
「ん? 何か良い匂いがする」
極限状態のスフィアの嗅覚が、森の中で食料の匂いを探知した。
「あっちかな?」
足早に森を駆け抜けると、煙をあげ料理中の冒険者らしき男を発見した。
「それ、私にも頂戴」
「うわっ! え? 女の子?」
「美味しそうな匂い、私も食べたい」
「い、良いけど、あと少しで出来るからそこに座って待っててくれるかい?」
男は驚きながらも了承し、待つように促す。
スフィアは素直に頷き、男の調理する姿を眺める。
「あなた、不思議な服着てるわね?」
「ん? ああ、これかい? そうだねこの世界……この国ではやっぱり目立つかな?」
「そうね、見た事もないわ」
不思議な調理器具を操り、料理が楽しいのか、男は鼻歌混じりに次々と皿に料理を盛り付けていく。
「完成だ!」
「お、美味しそう……」
「そうかい? 良かった! さあ食べよう!」
男が作った料理は、香辛料をふんだんに使った肉料理で、何の肉かはわからないが柔らかくジューシーで美味しかった。
「この白いのは何?」
「これは、俺の国ではポピュラーな主食の白米だよ。食べてみなよ? ぶっ飛ぶぞ!」
「うんっ!」
初めて食べた白米は、ジューシーな肉と相性が良いのかスフィアの箸が進む。
「ハァァァァァ! お腹いっぱい!」
「あはははっ! お粗末様でした」
満足げなスフィアを横目に男は片付けを始める。
「ねえ? あなたこんな危険な森を一人で何をしてるの? 見たところ冒険者でもないし……」
「それは君もだよ! 俺は……そうだなあ~、気ままに世界を回って美味しい物を探すハンターかな?」
「弱そうなのに?」
「失礼な! 身体の強さだけが全てじゃないよ? ふふふっ! 俺にはこれがあるからね」
男が取り出したのは、スフィアが見た事もない鉄製の武器だった。
「何それ?」
「見てなっ! あっ、大きな音がするけどびっくりしないでね?」
バババババババババババンっ!
「!!!?」
「どうだい?」
「爆裂の魔法を放つ魔道具なのね!? すごい威力だわ」
スフィアは初めて見る銃を魔道具と勘違いした。
「これ以外にも身を守る物をたくさん持ってるから」
不思議な術を使う男に興味を覚えたが、スフィアの目的は一刻も早くアースハイド帝国へと行く事なので、出発の準備を始める。
「なんか疲れた顔をしてるね?」
「あなたには関係ない事だわ」
「うん、そうだね。でもそんな張り詰めた顔した女の子を放ってはおけないよ」
「お人好しなのね」
「よく言われるよ」
男は優しく笑うと、何処からか布の建物を出現させ中へ案内する。
「これはテントって言ってね、アウトドアで睡眠を取る時に建てる物なんだ」
「また見た事もない物を……あなた一体何者なの?」
「ただのお人好しさ」
スフィアは促されるようにテントの中へ入ると、数日ぶりに睡眠を取ることが出来た。
テントから出ると、男は焚き火の前で眠っており、スフィアは起こさないようにお礼を言うと、再びアースハイド帝国に向け走り出した。
「ふわぁ~久しぶりに人と会話したなあ」
男はスフィアが安全に寝れるように番をしていた。
「異世界で気ままにスローライフ! サイコー!! さて、朝食でも作るか」
~~~~~~~~
【主ぃ! 何か良い匂い】
「は? どこだよ」
【こっち!】
ヴィトは急旋回し、匂いの元を辿る。
「全然わからねー」
【えー! こんなに良い匂いするのに】
ヴィトを半信半疑で追いかけ、しばらくすると前方に煙が上がっているのが見える。
【あれだ!】
「おいっ! ヴィト待て!」
クロの静止も聞かず、ヴィトは煙が上がる場所へ到達した。
【これだぁ!】
「うわっ! 獣!? いや、もしかしてフェンリル!!」
突然のヴィトの出現に驚く男だったが、異世界でお馴染みのフェンリルと遭遇しテンションが上がる。
「ちっ! 見られた! あの馬鹿犬がっ!」
フェンリルと旅をしている所を見られるわけにはいかないクロは一瞬で判断する。
「や、やあフェンリルさん! これ食べるかい?」
【いいの!?】
(この流れ! これ、これだよ! 気ままなスローライフにはフェンリル! テイムのお時間ですってか!)
スパッ! シュゥゥゥゥゥ!
【主ぃ~これ美味い】
ゴンッ!
【痛いっ!】
「この馬鹿犬が! 人に見られたら駄目だって言ったよなぁ!」
【ごめんなさい……】
「無駄な殺しをしちゃったじゃねえかよ! ってこいつは……」
首を斬り落とした男の服装を見て、クロは思う。
「このハードモードの世界で気ままにスローライフを送ってんじゃねえよ!」
この男にクロの叫びが届く事はなかった。
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