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第三章 復讐編

第126話 スフィアちゃんの憂鬱 そのニ

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 「ここが蒼穹の叡智の元アジトか~」

 ミルドにメンヘーラ山脈の場所を聞いたスフィアは、迷いながらも何とか蒼穹の叡智がアジトにしていたと言われる場所までやって来ていた。

「瓦礫の山、確かに人が住んでいた形跡はある。あるけど……」

 長らく人の手が入っていない瓦礫の上を歩き回る。

「分かっては居たけど、ここにクーの手掛かりはなさそうね」

 壊滅した蒼穹の叡智の元アジトにクーへと繋がる何かがあればと足を運んではみたが、空振りに終わった。

「幼かったけど、強くなるための器は作った……簡単に死ぬとは思えないのよね。でも、勇者が相手だったら難しいのかな」

 日が落ちかけ、夕暮れの空がメランコリックな気分にさせる。

 唯一とも言える友達に会いたい

 どれだけ強くなったのかを知りたい

 退屈な毎日より刺激的な毎日を過ごしたい

 ただ会いたい

「クー、もう死んじゃったのかな……」

 スフィアの心が暗い感情に包まれていく。

「ユウシャコロス」

 やり場のない感情の全てが勇者への憎悪に変わる。

「あれは篝火! 人がいるの?」

 物思いにふけっている間に、周囲は夜の闇に包まれていた。明るいうちは気づかなかったが、夜になり篝火が視界に入る。

(生き残りが居た? それとも偶然通りかかった冒険者? どっちでも良い! とにかく会って話を聞きたい!)

 スフィアは誘い込まれるように篝火へと走ると、大きな洞窟の入り口の両端に篝火が置かれ、警備をしている男がこちらに気付く。

「あん? な、何だお前?」

「どうした?」

「こ、こいつ!」

「ウヒョォォ! 女じゃねえか!?」

「お前……こんなとこに女が一人で来るとかあり得ないだろ! も、もしかして亡霊……とか?」

(ハズレね、どうみても汚らしい山賊だわ)

 スフィアはここまで来るまでに山賊らしき集団を三つほど潰して来た。
 とりあえず蒼穹の叡智について尋ねてはみたが、返ってくる言葉は

「女だよおい」

「見つけたのは俺だ! 順番は守れよ」

「売ればいい値が付きそうだ」

 など会話にならないので、全て消し炭にしてきた。

「うるせぇぞ! 何騒いでんだテメェら!」

「お、お頭! お、女が……」

「はん? 女? こんな場所に居るわけ……おおっ! おいっ! 女こっちに来い、可愛がってやるぜ! うへへへっ!」

 お頭と呼ばれる男は、下卑た笑みを浮かべスフィアに近付く。

「一応聞くけど」

「あん?」

「蒼穹の叡智って知ってる?」

「蒼穹の叡智だぁ? そんなのどうだって良いんだよ!」

 気の早いお頭は、履いていたズボンを脱ぎ捨て、下半身を丸出しにした状態でスフィアの手を取る。

「残念だわ」

 スフィアは魔法で炎の剣を作り出し、お頭のイチモツを焼き切る。

「ギャアァァァァァァァァ! お、おれ、俺の……」

「汚いモノを見せるんじゃないわよ」

 無くなった股間を押さえ、苦痛でうずくまるお頭の胴体を一刀両断にすると、切り離された身体が燃える。

「う、うわぁぁ! お頭!」

「な、何なんだお前っ!」

 騒ぎを聞きつけた山賊の仲間達が続々と洞窟の奥から出てくる。

「何だ、何だ?」

「えっ? お頭?」

「何でこんなところにホルモンが? えっ? お頭のイチモツ!? うわっ! 触っちゃったよ……」

 十七人ほどの山賊らしき男達が、目の前で起きた状況を理解できないでいた。

「無駄だとは思うけど、蒼穹の叡智って知ってる?」

「うわぁぁぁ!」

 スフィアが問うと、唯一武器を手にしていた警備の男が錯乱した状態で斬りかかるが、脳天から真っ二つに斬られ絶命する。

 山賊らしき男達はその光景を目の当たりにすると、ほぼ全員が腰を抜かし、糞尿を垂れ流し、嘔吐する。

「最後よ? 蒼穹の叡智って知ってる?」

 全員土下座をし、命乞いをする中一人の男が震える手をあげる。

「あら? 何か知ってるの?」

「は、はいっ! お、俺の知ってる事で良いなら何でも話すから殺さないでくれっ!」

「ぐぅ~」

「ほえ?」

 スフィアのお腹の音が鳴る。

「ねえ、何か食べる物ない?」

「あ、あります! どうぞこちらへ姉御!」

「「「「姉御!」」」

 これも彼等の処世術なのだろうか、目の前でお頭と仲間が殺されたが、命が助かると判断すると手のひらを返してスフィアを姉御と呼びおもてなしを始める。

「山賊のくせに贅沢な物食べてるわね」

 スフィアの目の前には、魔獣の肉、採れたての山菜、温かいスープが上品な食器の上に置かれ並べられていた。

「ささっ! 姉御!」

 スフィアのカップに葡萄酒が注がれる。

「その姉御ってやめてくれない?」

「へいっ! では姐さん!」

「「「「姐さん」」」

「はぁ、もう良いわ……」

 スフィアは並べられた料理を堪能すると一息付く。男達はその様子に気を許したと判断し落ち着くと、気軽に話しかけてくるようになった。

「それで、姐さんは何でこんなところへ?」

「言ったでしょ?」

「蒼穹の叡智ですかい?」

「そうよ」

「知ってるも何もなあ?」

 男達は各々顔を見渡す。

「ここいらでは有名だった義賊ですぜ?」

「でも壊滅したんでしょ?」

「へい、勇者パーティーがやったって聞きやしたが」

「その勇者は今どこにいるの?」

「これは噂なんで、本当かどうかはわかんねぇ事ですが……殺されたって」

「はぁ!? 勇者が殺された?」

「ここから西に向かった先にある、アースハイドって国で殺されたって噂で」

 唯一の手掛かりであり、憎悪の対象が既に殺されているという情報はスフィアにとって想定外の出来事だった。

「一体誰が殺したのよ!」

 思わず声が強くなる。

「まあまあ、落ち着いてくだせぇ姐さん!」

「続けて」

「今、あそこにはヤバイ連中が居て」

「ヤバイ?」

「いや、元々ヤバイ連中が居たんですがね? そいつらをあっという間に支配した組織が現れて」

「そいつらが殺したと?」

「あ、あのっ! 姐さん! 俺は最近までアースハイドにいたんっす!」

 奥で飲んでいた男はこの中では新人らしく、アースハイドの話題になった事で四足歩行で歩み寄ってきた。

「その組織は懺蛇っていうんですけどね? そこの頭領がとんでもない切れ者で、スラム街に存在する組織を殆ど吸収して、従わない組織は皆殺しするっていう極悪人でさぁ!」

「そいつが殺したの?」

「懺蛇って組織は仲間を家族のように扱ってて、その家族に手を出した奴等は絶対に許さないっつー強い絆で繋がってるんっすよ」

「へぇ~良い組織ね」

「そんな組織に勇者が手を出したって噂があって、それからなんっすよ、勇者の噂を聞かなくなったのは。だから殺ったのは懺蛇の頭領なんじゃないかって」

 勇者死亡の件は懺蛇によって確信部分は情報統制されたが、人の噂を完全には抑えきれない。憶測が憶測を呼び、可能性が示唆された結果、犯人は懺蛇の頭領だと噂になっていた。

「勇者を殺せる男ねぇ……」

「懺蛇は黒い噂が絶えないヤバイ奴等で、何だっけかな……クロウとかいう行商人が何たらって」

「クロウ!? ねえ! 今クロウって言った!?」

「ひいっ! 姐さん痛いっす! あ、熱い! 姐さん火が! 火が出てる! ギァァァァ!!」

 興奮のあまり掴んだ手から炎が漏れ出てしまい、男に引火し危うく消し炭にするところだった。

「それで! その行商人はどうなったの!?」

「痛てててっ! 姐さんの知り合いっすか?」

「いいから!」

「噂っすよ? 何か拉致されたって……」

「そう懺蛇って奴等に……ザンダ……」

「ね、姐さん?」

 スフィアは立ち上がり洞窟を出ていく。

「姐さんどこに!? まさかアースハイドに!?」

(今から助けに行くわ! お願い生きてて!)

「無理っすよ姐さん! もう死んでるって!」

「そんな事より! 俺らと一緒にっ!」

 スフィアは右手に炎を作り出し洞窟内へと放り投げる。

「ギァァァァ!!」

「あ、姐さ……ん」

「熱い! 熱い! 熱い!!」

 山賊らしき男達は逃げる間もなく、全員が洞窟内で消し炭となった。

「ザンダコロス!」

 スフィアはアースハイド帝国に向け走り出した。
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