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第三章 復讐編

第121話 であるか

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「最後はでかい花火が打ち上がったな」

 剣聖ゲイルは大罪人となり、最期は華々しく散った。
 絶望した顔を見るというイベントは叶わなかったが、クロとしては概ね満足であった。

「サクラコ・ミドリカワを殺したのは、少々勿体なかったのう」

 殺した後に気づいた事だが、緑川桜子の能力浄化は呪いの解呪と病の回復。クロは邪神デニスにより呪いがかけられている状態で、女神から授かったチート能力ならば解呪が出来たのではないかと考察した。
 因みに、ボン爺が勿体ないと言ったのは呪いの解呪ではなく、病からの回復の方である。

「可能性を失念していたよ」

「若にしては珍しい判断ミスじゃのう」

(まあ慌てずともヴィトが成長したら解決する問題だし)

「ブスじゃなけりゃなあ」

 異世界人が全員もれなく美男美女というのはあり得ない。それを体現したのが緑川桜子だった。多少の見た目の悪さなら許容できたのだろう、しかしそれが叶わなかった理由は想像してもらうしかない。

「人を見た目で判断するとは、若もまだまだじゃのう。 ほっほっほっ!」

「俺は中身がどんなに醜く浅ましくても全然構わないぞ? 寧ろ好みだ」

 人間の本能は自己中心的、傲慢である。それを表に出さないのは、それが正しくない事だというマジョリティ側による同調圧力が問題である。そして、どの世界にもはみ出したマイノリティは存在する。

 ならばそういう世界を創ればいい。

「俺がいた所では、美人は三日で飽きる、ブスは三日で慣れるという意味不明な言葉がある」

「ほうほう、それはまた言い得て妙じゃのう」

「だがなボン爺! 美人である事は才能だ! 飽きる事なんてない! ブスが三日で慣れるってのはな? ただの妥協だよ」

「屈折しとるのう」

「うるへー」

 要約すると、人は見た目が100%って事だ。


 ~~~~~

「ファルマル、テレサの様子はどうだ?」

「父上……いえ陛下、テレサは今回の件で、かなり消沈しております」

「であるか。懇意にしている者が犠牲になり、罪人を捕縛するも甚大な被害を出し、その罪人も死んだ。何とも無様な終わり方だな」

「陛下、テレサの処遇でございますが」

「なあファルマルよ、貴様は最近、公務に励んでいるそうだな?」

「はい、勉強不足を痛感しております」

「つい先日までは奇行が目立っていたが、どういう心境の変化だ?」

「少しでも陛下のお力になればと……」

「であるか……それでは今回のテレサの件はファルマル、貴様に任せよう」

「お、仰せのままに」

 ファルマルは謁見を終え自室へ向かう。

「ファルマル!」

「オーフェン兄さん」

 声をかけて来たのは第一皇子のオーフェンだった。

「大活躍だったようだな? まあ俺なら怪我を負う事もなく討伐できたけどな」

 オーフェンは嫌味は、自分の方が上だぞ?と言わんばかりの一言が多い。

「実力不足を痛感してるよ」

「ふんっ! 突然公務に励むようになったようだが、そんな無駄なことをして何になる? お前には市井で下賤な者達と遊興を結んでいる方がお似合いだぞ? あ~俺が次の皇帝になっても追放なんてしないから安心しろ、変人であっても血を分けた可愛い弟だからな!」

 実績を作るな、そのままダメな皇子として生き、俺の邪魔をするなとオーフェンは言いたいのであろう。

「…………」

 ファルマルは無言で道を譲り頭を下げる。

「調子に乗るな、雑魚が」

 すれ違いざまに圧をあけオーフェンは去っていく。

「あれが次の皇帝になったら国も終いだな」

「僕もそう思うよファルマル」

「シュミット兄さん」

 続いて声をかけて来たのは第二皇子シュミットだった。
 シュミットはファルマル同様、側室の子ではあるが継承権第二位に位置する。側室でありながら第二位に位置しているのは、シュミットが膨大な魔力量を持つ稀代の魔導士である事が理由だ。

「確かにオーフェン兄さんは武術に長け、戦術眼もあり、勇猛さもある。ただ、戦時中ならいざ知らず、この平和な時代に於いては無駄な才能だよ」

「それでもオーフェン兄さんが次の皇帝になるのは揺るがないよ」

「ファルマルは皇帝の座に興味がなくなったってことかな?」

「俺は継承権第四位、妹のテレサより下だからね元より興味はない」

「ふ~ん……確かに最近ファルマルに付いていた貴族達が僕の所にやって来てはいるけど、何かあった?」

「特に」

「おかげで僕の派閥が大きくなってるから良いんだけどね」

 これまでファルマル派の貴族達は、御し易いファルマルを頭に据えて意のままに政治を動かそうと画策していたが、突然奇行が止み公務に励むようになったファルマルに驚いた。
 奇行が目立ちすぎただけで元々自頭は良く、突発的な行動は理解されづらいが、動くだけの根拠があっての事だ。その姿を見て、御するのは難しいと判断した貴族達の中には早々にと派閥から抜け、シュミットへ鞍替えす者が続出した。

 ファルマルが懺蛇をテレサより先に取り込もうとしたのも、危険性の排除が目的だったが、逆に取り込まれたのはファルマルにとって良かったのかもしれない。

「オーフェン兄さんも言ってたけど、もし僕が皇帝になっても僕の邪魔をしないければ、変わらず可愛い弟として扱うから安心しなよ」

 オーフェンもシュミットもファルマルを下に見ているが、理解不能な行動を取るファルマルを危険視している。それが故に頭角を表さぬよう釘を刺すのを忘れない。

(器の小さい奴らだ)

 ファルマルは自室に戻り一息をつくと、クロヘ今回の顛末の報告書を作成する。

 コンコン

「はいれ」

 部屋がノックされ入って来たのは宰相のベンゲルだった。

「宰相様が直々になんの用だ?」

「お邪魔だったかな?」

「どうせテレサの事だろう?」

「さすがはファルマル様、話が早くて助かるよ」

 ベンゲルはファルマルに対して偏見はない。寧ろ三人の皇子の中で一番才能を認めている珍しい人物でもある。

「父上が俺に託した理由はわかっている」

「嫌な役回りをさせて悪いね」

「陛下が甘い処遇を下すと、貴族達の不満が陛下に向かってしまう。陛下としては可愛い娘に厳しい処遇は下したくないのだろ?」

「私としてもテレサ様が失脚するのは困るんでね」

 皇帝ではなく、ファルマルが下した処遇。全てのヘイトはファルマルに集まることになる。
 皇帝としては、心を入れ替え頑張っている皇子に大任を任せたが、期待外れでがっかりしたという立場を取り、一度裁可されたものを覆すのは風聞が悪いのでファルマルにはその責を負わせ蟄居を命ずる算段だ。

「やはり、オーフェン兄さんやシュミット兄さんでは駄目か」

「愚問だね、国を滅ぼしたいのかな?」

 ベンゲルのオーフェンに対する評価は悪い。それはシュミットに対しても同様である。

「陛下に……父上には、御心のままにと」

「はは、やはり杞憂だったね」

 ベンゲルが来た理由の一つは、皇帝の意を理解しているかの確認のためだった。

「もう良いだろ? 俺は疲れているんだ」

「こうして話すのも久しいじゃないか?」

「まだ何かあるのか」

「本当に君は……、これは陛下からの内々な相談だと思って欲しい」

「父上からの?」

「懺蛇」

 ファルマルの目がピクっと動く。

「スラム街の首領と会いたいそうだ」

「なぜ俺に?」

「だって君は市井に、それも裏の方の市民にパイプがあるだろう?」

 一瞬、懺蛇に組みしている事が露見したのかと焦ったがそうではなく、そういう人間からクロまで辿り着くのは可能なのかを相談されただけだった。

「噂や近衛騎士団の件を考えると関わるのは悪手だと思うが? それに先日、スラム街、懺蛇には不可侵・不干渉と取り決められたではないか」

「だから内々にと言ったじゃないか?」

「目的は?」

「相互不可侵の密約を正式に結びたいというのは表向きの理由で、本当の理由は興味本位かな? 私は反対したんだよ? でも陛下……ノブナガは一度言ったら聞かないからさ」

「俺の持つパイプがどこまで通じるかわからないが、それでも?」

「それならそれで良いよ、私としても反対だからね? でも……ノブナガは何とかしろと怒りそうだけどね」

 パイプも何もファルマルは懺蛇の幹部の一人となっている。なっているからこそ興味本位で会談を設けて良い相手ではないともわかっている。ノブナガの性格上、高確率でクロの事を気にいり、手に入れたい欲求を抑えるのは困難になるだろう。そうなった場合、クロがどういう手段にでるかもわかっている。

「危険すぎる」

「同感だよ」

 宰相としてなんとかしろよと思うが、あの父をどうにか出来る者はこの国には居ない。

「じゃあ、よろしく~」

 ベンゲルはファルマルの肩をポンポンと叩き部屋を後にした。

「これは直接会って報告しなければ……」

 ファルマルの寝室にある本棚には細工がしてあり、左から十三番目の本を引くと隠し部屋が現れる。

 部屋には懺蛇の拠点に転移する魔法陣が施されており、ファルマルは魔法陣に足を踏み入れると腕の印が反応し拠点へと転移した。
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