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第三章 復讐編
第110話 名付けって難しい
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「さて、こいつどうしてくれようか」
「飼うのですか?」
フェンリルの言葉を信じるなら、デニスを消滅させた時に邪神の呪いなるモノをうけたそうだ。この呪いを解呪できるのは神獣もしくは神と呼ばれる存在らしい。神に喧嘩を売ってしまったクロに取れる選択肢はこの子フェンリルと契約し、成長させるしかないという何とも言えない屈辱を受けている。
「不本意だが飼うしかないだろうな」
フェンリルの魔石を吸収してから一時間、未だ目を覚ます予兆がない。本当に生きているのかと何度も心臓の動きを確かめたが、一応動いているので生きてはいるのであろう。
「このまま待ってても時間が勿体無いし、ワイルドウルフでも探してくる」
「そう言えば目的はワイルドウルフの調査でしたね」
この依頼の目的はワイルドウルフの調査で、推察するにフェンリルが管理していたコマ使いに違いないとクロは結論付けている。
「一応そいつも神獣だろうから、側にいれば危険も少ないだろう」
「そんなものですかね?」
「そんなものだ」
根拠はない。
クロは魔闘術を使い森の奥へ走り出すと、予想した通りワイルドウルフの集団を発見する。
「三十匹くらいか? 素材としては大した価値もなさそうだが、辻褄合わせの為に死んでくれ」
一足飛びに集団の中は飛び込むと、回転しながら剣を振り回し両断する。
突然の襲撃に対してワイルドウルフ達は混乱するかと思いきや、距離を取りクロを囲む。
「確かに集団になると面倒臭そうだ」
ワイルドウルフ達は連携の取れた攻撃でクロに襲いかかる。攻撃を避けると死角から別の個体が攻撃を仕掛けてくる。
「良い連携だ」
統制のとれた攻撃に魔物ながら感嘆の声を上げる。
「だがっ!」
避けなければ良い。特攻してきた個体を避けながら斬り伏せ、死角からの仕掛けてきた個体も斬り伏せた流れで両断する。ワイルドウルフ達もそれに対応するかのように攻撃パターンを変え、四方から同時に仕掛けてきた。
「良いトレーニングになりそうだ」
クロは敢えて亜空間による攻撃を使わず、身体能力のみで対峙する。
「あははははっ!!」
舞うように剣を振り回し次々に斬り伏せていく。懺蛇は発動していないにも関わらずワイルドウルフ達はクロの狂気に呑まれ、自ら命を授けるかの如く、一匹また一匹と吸い込まれるように剣に突撃を繰り返していく。
気がつけば三十匹もいたワイルドウルフ達は全て動かなくなっていた。
「楽しい時間だった」
クロはワイルドウルフの討伐部位である牙と魔石を回収し、エリーナの元へと戻って行った。
「クロ様! お怪我を」
重症ではなかったが、ワイルドウルフの意地であろう小さな切り傷を無数に受けていた。
「これは治さないでくれ。無傷で帰ってしまうと信憑性がなくなるからな」
冒険者ギルドには調査中にワイルドウルフの集団に遭遇し、やむ無く戦闘になってしまったフレイムファングの面々は自分達を逃しその場に残った。エリーナを安全な場所に残し、自分は再び彼らの元へ加勢に戻るとフレイムファングの面々は数匹を残し壊滅していた。何とか残りのワイルドウルフを討伐したが、食い荒らされた遺体の回収を諦め、失意のまま戻ってきた。というシナリオで説明する予定だ。
ムクムク……
「ん? どうやら目覚めたようだな」
子フェンリルは自分の身体を確かめるように起き上がり、二人を観察するように凝視する。親フェンリルの魔石にどういう想いが込められたかはわからない。恨みを込め、油断した瞬間に命を刈り取れと命令している可能性も捨てきれない。クロが同じ立場であればむしろそうする。
「エリーナ、警戒は怠るなよ」
「……はい」
だが、緊張の糸は簡単に解ける。
【おなかすいた~】
子フェンリルはそう呟き地面にへたり込むと、クロは不測の事態に備え魔闘術を使った状態で歩み寄る。
【ねえお兄ちゃん、何か食べるものな~い?】
「親が殺されたというのに呑気なやつだなお前……っておいっ! お前白かったのになんで黒と白の斑模様になってだよ! 格好いいじゃないか」
「クロ様、なんでそんなに嬉しそうなんですか……」
フェンリルといえば美しい白い体毛に覆われているというのが共通認識である。現に、デニスを憑依させる前は白い体毛に覆われていた。否、意識が戻る前まで白だった体毛が禍々しい斑模様に変化し、クロの厨二心を大いに刺激してしまった結果、序列がグンっと上がった。
【ん~わかんない! ねえ? 何か食べるものない?】
「その辺に人間の死体あるだろ? あ~同族?の死体ならこの先に大量にあるけどお前って雑食なのか?」
【それ食べていいの?】
「食えるならな」
子フェンリルはトコトコと歩き、ルッツの死体をバリボリと骨ごと咀嚼し、首が分断されたメルトの死体も同様に腹の中にいれた。
「お前、自分の体積以上のモノ食ってんのに見た目変わらないってどういう仕組みだよ」
漫画やアニメだけの不思議現象をリアルに体験し、頭が痛くなる。原理としては魔石に吸収されたのであろうと推測する事で納得することにした。
「それで、親殺しの俺が目の前にいるがどうする?」
【ぷはぁ~おなかいっぱい! かあちゃんの事? だって弱いから死んだんでしょ?】
「神獣って意外と達観しているんだな」
親フェンリルの愛情が特殊な事例なのか、子フェンリルが歪なのか、それともデニスが一度憑依した事が影響しているのか、どちらにしてもクロにとっては都合の良い展開ではある。
【それよりさ! お兄ちゃん強いね! 知ってるよ? かあちゃんと戦った記憶の残滓が僕の魔石に残ってるからね】
クロは少し楽しくなってきた。子フェンリルは幼体ではあるものの馬鹿ではなく、神獣がどんな思考をする存在なのかは知らないが、少なくとも価値観は自分と相反しない。
「クロ様、この子……」
「ああ、面白いやつだ。それに模様も格好良いしな!」
フェンリルと獣魔契約をするというテンプレは嫌いだ。あれは物語の主人公にとっての必須イベントであり、もっとも嫌悪する事態である。
だが、しかし! この子フェンリルは斑模様で不吉な感じがたまらなく愛しく思える。邪神と混じりあったという展開でもあればワクワクがとまらない。何より、死に対して無慈悲なのが好印象を与えていた。
【ぼくと契約しようよ! 獣魔契約じゃなくて従魔契約で】
獣魔契約は協力関係で従魔契約は主従関係である。どちらも違いはあれど、簡単に破棄する事はできない。大きな違いは従魔契約は一度契約すると主となるモノが死ねばその従魔も死んでしまうところにあり、それは信頼の証とも言える。
「おいおい、簡単に信用していいのか? 一生もんだぞ? もしかしたら惨い扱いをするかもしれないし、切り刻んで素材にするかもしれないぞ?」
【わかるんだ、お兄ちゃんについていけば楽しい事が待ってるって】
「楽しい事? 殺戮か? それとも神との戦争か? いや確かに楽しそうな未来しかないな」
エリーナは思った、この人とこの一匹は歪だと。その歪さに巻き込まれいつの日にか自分も無慈悲に葬られるのではないかと想像すると、胸が高鳴り興奮してしまう。
エリーナも例外なく歪だった。
「よしっ! 契約してやる」
【本当に!? じゃあぼくの額に手を当てて」
「こうか?」
クロが子フェンリルの額に手を当てると、小さな魔法陣が腕に絡みつき眩い光を放った。
光が収束すると手の甲に魔法陣が刻まれた。子フェンリルには大きな違いはないが、クロにはわかる。従魔契約により魂にパスが繋がった状態になっており、子フェンリルの感情がなだれ込む。その感情は歓喜にあふれていた。
「名前をお付けになっては?」
「あーそうだな……犬」
クロの魂に失意の感情がなだれ込む。
「何だよ! 名づけは苦手なんだよ! 逆に猫?」
「クロ様、ふざけてますか?」
【主ぃ~後生だよ~】
「はぁ、んじゃあお前はこれから俺と共に悪評を轟かせていくことになるし ”フローズヴィトニル” ってどうだ?」
【なんか格好良い!】
「どのような意味なのですか?」
「悪評高き狼って意味だ、でもまあ、ちょっと長いから呼ぶときはヴィトだな」
「ヴィトちゃん! 良い名を頂けましたね」
【フローズヴィトニル……ぼくはフローズヴィトニル!】
手の甲の魔法陣が輝き、名付けが完了した感じがした。名付け後にヴィトの斑模様が禍々しさを増したのは言うまでもない。
「飼うのですか?」
フェンリルの言葉を信じるなら、デニスを消滅させた時に邪神の呪いなるモノをうけたそうだ。この呪いを解呪できるのは神獣もしくは神と呼ばれる存在らしい。神に喧嘩を売ってしまったクロに取れる選択肢はこの子フェンリルと契約し、成長させるしかないという何とも言えない屈辱を受けている。
「不本意だが飼うしかないだろうな」
フェンリルの魔石を吸収してから一時間、未だ目を覚ます予兆がない。本当に生きているのかと何度も心臓の動きを確かめたが、一応動いているので生きてはいるのであろう。
「このまま待ってても時間が勿体無いし、ワイルドウルフでも探してくる」
「そう言えば目的はワイルドウルフの調査でしたね」
この依頼の目的はワイルドウルフの調査で、推察するにフェンリルが管理していたコマ使いに違いないとクロは結論付けている。
「一応そいつも神獣だろうから、側にいれば危険も少ないだろう」
「そんなものですかね?」
「そんなものだ」
根拠はない。
クロは魔闘術を使い森の奥へ走り出すと、予想した通りワイルドウルフの集団を発見する。
「三十匹くらいか? 素材としては大した価値もなさそうだが、辻褄合わせの為に死んでくれ」
一足飛びに集団の中は飛び込むと、回転しながら剣を振り回し両断する。
突然の襲撃に対してワイルドウルフ達は混乱するかと思いきや、距離を取りクロを囲む。
「確かに集団になると面倒臭そうだ」
ワイルドウルフ達は連携の取れた攻撃でクロに襲いかかる。攻撃を避けると死角から別の個体が攻撃を仕掛けてくる。
「良い連携だ」
統制のとれた攻撃に魔物ながら感嘆の声を上げる。
「だがっ!」
避けなければ良い。特攻してきた個体を避けながら斬り伏せ、死角からの仕掛けてきた個体も斬り伏せた流れで両断する。ワイルドウルフ達もそれに対応するかのように攻撃パターンを変え、四方から同時に仕掛けてきた。
「良いトレーニングになりそうだ」
クロは敢えて亜空間による攻撃を使わず、身体能力のみで対峙する。
「あははははっ!!」
舞うように剣を振り回し次々に斬り伏せていく。懺蛇は発動していないにも関わらずワイルドウルフ達はクロの狂気に呑まれ、自ら命を授けるかの如く、一匹また一匹と吸い込まれるように剣に突撃を繰り返していく。
気がつけば三十匹もいたワイルドウルフ達は全て動かなくなっていた。
「楽しい時間だった」
クロはワイルドウルフの討伐部位である牙と魔石を回収し、エリーナの元へと戻って行った。
「クロ様! お怪我を」
重症ではなかったが、ワイルドウルフの意地であろう小さな切り傷を無数に受けていた。
「これは治さないでくれ。無傷で帰ってしまうと信憑性がなくなるからな」
冒険者ギルドには調査中にワイルドウルフの集団に遭遇し、やむ無く戦闘になってしまったフレイムファングの面々は自分達を逃しその場に残った。エリーナを安全な場所に残し、自分は再び彼らの元へ加勢に戻るとフレイムファングの面々は数匹を残し壊滅していた。何とか残りのワイルドウルフを討伐したが、食い荒らされた遺体の回収を諦め、失意のまま戻ってきた。というシナリオで説明する予定だ。
ムクムク……
「ん? どうやら目覚めたようだな」
子フェンリルは自分の身体を確かめるように起き上がり、二人を観察するように凝視する。親フェンリルの魔石にどういう想いが込められたかはわからない。恨みを込め、油断した瞬間に命を刈り取れと命令している可能性も捨てきれない。クロが同じ立場であればむしろそうする。
「エリーナ、警戒は怠るなよ」
「……はい」
だが、緊張の糸は簡単に解ける。
【おなかすいた~】
子フェンリルはそう呟き地面にへたり込むと、クロは不測の事態に備え魔闘術を使った状態で歩み寄る。
【ねえお兄ちゃん、何か食べるものな~い?】
「親が殺されたというのに呑気なやつだなお前……っておいっ! お前白かったのになんで黒と白の斑模様になってだよ! 格好いいじゃないか」
「クロ様、なんでそんなに嬉しそうなんですか……」
フェンリルといえば美しい白い体毛に覆われているというのが共通認識である。現に、デニスを憑依させる前は白い体毛に覆われていた。否、意識が戻る前まで白だった体毛が禍々しい斑模様に変化し、クロの厨二心を大いに刺激してしまった結果、序列がグンっと上がった。
【ん~わかんない! ねえ? 何か食べるものない?】
「その辺に人間の死体あるだろ? あ~同族?の死体ならこの先に大量にあるけどお前って雑食なのか?」
【それ食べていいの?】
「食えるならな」
子フェンリルはトコトコと歩き、ルッツの死体をバリボリと骨ごと咀嚼し、首が分断されたメルトの死体も同様に腹の中にいれた。
「お前、自分の体積以上のモノ食ってんのに見た目変わらないってどういう仕組みだよ」
漫画やアニメだけの不思議現象をリアルに体験し、頭が痛くなる。原理としては魔石に吸収されたのであろうと推測する事で納得することにした。
「それで、親殺しの俺が目の前にいるがどうする?」
【ぷはぁ~おなかいっぱい! かあちゃんの事? だって弱いから死んだんでしょ?】
「神獣って意外と達観しているんだな」
親フェンリルの愛情が特殊な事例なのか、子フェンリルが歪なのか、それともデニスが一度憑依した事が影響しているのか、どちらにしてもクロにとっては都合の良い展開ではある。
【それよりさ! お兄ちゃん強いね! 知ってるよ? かあちゃんと戦った記憶の残滓が僕の魔石に残ってるからね】
クロは少し楽しくなってきた。子フェンリルは幼体ではあるものの馬鹿ではなく、神獣がどんな思考をする存在なのかは知らないが、少なくとも価値観は自分と相反しない。
「クロ様、この子……」
「ああ、面白いやつだ。それに模様も格好良いしな!」
フェンリルと獣魔契約をするというテンプレは嫌いだ。あれは物語の主人公にとっての必須イベントであり、もっとも嫌悪する事態である。
だが、しかし! この子フェンリルは斑模様で不吉な感じがたまらなく愛しく思える。邪神と混じりあったという展開でもあればワクワクがとまらない。何より、死に対して無慈悲なのが好印象を与えていた。
【ぼくと契約しようよ! 獣魔契約じゃなくて従魔契約で】
獣魔契約は協力関係で従魔契約は主従関係である。どちらも違いはあれど、簡単に破棄する事はできない。大きな違いは従魔契約は一度契約すると主となるモノが死ねばその従魔も死んでしまうところにあり、それは信頼の証とも言える。
「おいおい、簡単に信用していいのか? 一生もんだぞ? もしかしたら惨い扱いをするかもしれないし、切り刻んで素材にするかもしれないぞ?」
【わかるんだ、お兄ちゃんについていけば楽しい事が待ってるって】
「楽しい事? 殺戮か? それとも神との戦争か? いや確かに楽しそうな未来しかないな」
エリーナは思った、この人とこの一匹は歪だと。その歪さに巻き込まれいつの日にか自分も無慈悲に葬られるのではないかと想像すると、胸が高鳴り興奮してしまう。
エリーナも例外なく歪だった。
「よしっ! 契約してやる」
【本当に!? じゃあぼくの額に手を当てて」
「こうか?」
クロが子フェンリルの額に手を当てると、小さな魔法陣が腕に絡みつき眩い光を放った。
光が収束すると手の甲に魔法陣が刻まれた。子フェンリルには大きな違いはないが、クロにはわかる。従魔契約により魂にパスが繋がった状態になっており、子フェンリルの感情がなだれ込む。その感情は歓喜にあふれていた。
「名前をお付けになっては?」
「あーそうだな……犬」
クロの魂に失意の感情がなだれ込む。
「何だよ! 名づけは苦手なんだよ! 逆に猫?」
「クロ様、ふざけてますか?」
【主ぃ~後生だよ~】
「はぁ、んじゃあお前はこれから俺と共に悪評を轟かせていくことになるし ”フローズヴィトニル” ってどうだ?」
【なんか格好良い!】
「どのような意味なのですか?」
「悪評高き狼って意味だ、でもまあ、ちょっと長いから呼ぶときはヴィトだな」
「ヴィトちゃん! 良い名を頂けましたね」
【フローズヴィトニル……ぼくはフローズヴィトニル!】
手の甲の魔法陣が輝き、名付けが完了した感じがした。名付け後にヴィトの斑模様が禍々しさを増したのは言うまでもない。
応援ありがとうございます!
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