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第三章 復讐編

第106話 支援魔法の無能ムーブは無理がある

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「こちらが今回叡智のカケラのお二人と行動するパーティーのフレイムファングの方々です」

 次の日、予定通りに昼過ぎに冒険者ギルドへ赴くと調査依頼を共同で行うパーティーを紹介された。
 フレイムファングのパーティーはタンク、剣士、斥候役のムンク、攻撃魔法使い、そして支援魔法使いのバランスの良い五人で構成されていた。

「あんたが叡智のカケラのリーダーか? 俺はフレイムファングのリーダーで剣士のゲスカフだ!」

「おいおい、たった二人かよ! 俺たちの邪魔だけはすんじゃねえぞ?」

 ドンっ!

「おいだけよ! ウヒョー!! かわい子ちゃんがいるじゃーん! いいね、いいねぇ!」

 大楯を持ったタンク役であろう男がクロに対して凄むと、エリーナを見た軽装の男がクロを押しのけだらしない顔で全身を舐め回すように視姦する。

「ふんっ! Bランクへの昇級の条件とはいえこんなお守りをさせられるとは……くれぐれも我々の昇級の妨げになる行動は謹んでくれたまえよ?」

 インテリを気取った見た目のメガネ男はおそらく攻撃魔法の使い手だろう。その中で一番気になったのは最後尾に申し訳なさそうな顔をしている気の優しそうな男だった。
 紹介された瞬間からマウントを取られ続けているクロとエリーナに冒険者ギルドの受付の女性が小声で話しかけてくる。

「あ、あの! 性格には少し難がありますが、実績は申し分無い方達なので……」

「はあ、まあ冒険者なんて教養の無いバカの集まりですから気にはしませんよ」

 冒険者は実力至上主義だ。実力がランク直接影響する世界に於いてクロのように意図的に低ランクに留まっている冒険者は居ないので侮られるのは当然だった。

「あの、一番後ろに居る支援魔法を得意としているメルトさんはこのパーティーの良心なのでコミュニケーションはメルトさんと取る事をお勧めします!」

 受付の女性が実力ではなく実績と表現したのが気になるところではあるが、極力関わらないように共同依頼の経験の為に利用させてもらう。

「それで? あんたは剣士だよな! そこのお嬢ちゃんは何ができるんだ? まさか雑魚の支援魔法使いじゃねえだろうなあ!?」

 雑魚の支援魔法使いという発言でこのパーティーの要はメルトであると確信した。ゲーム内で支援魔法の重要性を理解していない者はいない。だがしかし、異世界系の物語で追放される支援魔法使いが多いのは謎だ。

「私はヒーラーですよ? クロ様……ごほんっ! クロ君は優秀な剣士で怪我を殆どしないので出番は少ないですが」

「ウヒョー!! かわい子ちゃんのヒーラーかよ! こんなダサガキと組まないでこの仕事が終わったら俺達のパーティーに入りなよ!」

「うちのメルトの回復魔法は効果が小さくてな! ただでさえ支援魔法でしかパーティーに貢献出来てないのに回復すらまともに出来ないクズだし、お嬢ちゃんが加入してくれるのはありがたいぜ!」

「優秀な方なのですね」

「クックック! お嬢さん中々に皮肉がお上手だ。我々としても今後BランクそしてAランクに到達する為には優秀なヒーラーが必須になりますからね? たかが支援魔法使い如きがヒーラーをやっていたら恥ずかしいですからね」

 エリーナは決して皮肉など言っておらず、支援魔法を使えてヒーラーも兼任する稀有な存在を無能などとは思えない。メンバーにバフを掛け、相手にデバフを掛ける。後方支援は戦闘に於いて戦局を大きく左右する重要な役割であり、その上で回復役までこなせる者なんて喉から手が出るほど欲しい。

「さあ! さっさと終わらせて美味い酒でも飲みに行こうぜ!」

 紹介もそこそに調査依頼を遂行するために出発した。
 低ランク冒険者への指導など全くなく、山奥へゴリ押しで魔獣を倒しながら進む。ゴリ押しが通用しているのは想像通りメルトによる支援魔法の桁違いの効果によるところが大きく。無詠唱でパーティー全体にバフを掛け、襲いくる魔獣に対して即座にデバフを施す手腕はクロをして意識しないとかけられた事を認識できないほどの手際だった。

「クロ様、メルトさんはとてと優秀な方ですね?」

「クロ様はよせ、ここではクロもしくはクロ君と呼べ」

「うふふっ、ごめんなさいつい」

「優秀どころかチートだ」

「なぜあんな優秀な方が粗雑な扱いを?」

 ここに来るまで支援魔法による恩恵で怪我も少なく、大きな回復魔法を使う必要も無いため、メルトは回復速度は遅いが自然回復を優先したリジェネを使用していた。フレイムファングの面々が効果の小さい回復と称した魔法は魔力の消費を抑え継続戦闘を考慮した行動であった。

「本人が説明しないからだろうな」

「メルトさん気が弱そうですもんね」

「支援魔法を掛けられた事にも気づくこともなく何もしていないと罵倒し、大した怪我もしていないのに無駄に回復をさせ効果が小さいとまた罵倒する。無駄の多いパーティーだな」

「お嫌いですか?」

「自分たちの実力を過大評価しているバカも嫌いだが、自己肯定感の低いチート能力者は……不快だな」

 この共同依頼は経験以外は何一つ得る物が今のところない。エリーナとしては優秀な支援魔法使いと出会えた幸運に感謝し、引き抜きもありなのでは無いかとすら思ったがクロの考えは違っていた。
 自分の能力をパーティーメンバーに対して正確に伝える事の重要性を放棄し、罵倒される原因を自ら作っている人間に対して同情心は湧かないようだ。

「全然居ねえなあ! ルッツ! 先行して犬っころの形跡を探してこい」

「了解」

 ここまで斥候としての役割すら理解していない自称斥候のルッツは、ゲスカフの指示でやっとその斥候として役割をするようだ。

「ルッツが戻るまでここで休憩だ! おいメルト! 回復魔法かけろ! あ~いや、お嬢ちゃんにかけてもらおうか? ここまで出番がなくて暇だったろ?」

「回復ですか? どこかお怪我をされたのですか?」

「はんっ!? 回復魔法で疲れをとれって言ってんだよ! さっさと掛けろよ! そんくらいこのカスのメルトですらできる事なんだからヒーラー特化のお嬢ちゃんなら効果も絶大だろうが!」

「あ、あの……ゲスカフ。それは彼女じゃなくて僕がするから……その、何というか」

「うるせぇぞカスは黙ってろ! 俺は可愛い女の子から回復魔法を掛けて欲しいんだよ! 空気読めよ!? そんなことすらわかんねーから無能なんだよお前は!」

 回復魔法にそんな効果はない。おそらくメルトが掛けて居たのは身体能力の強化がある支援魔法であろう。その事を一番理解しているメルトがエリーナに代わり支援魔法をゲスカフに掛けようとしたが一蹴された。

「なあ? あんたらいい加減に……」

 ギャァァァァァァァ!!

 極力関わらないように対応していたクロだったが、エリーナに矛先が向いてしまっては出ないわけにもいかなくなり、ひと思いに殺してしまおうかと思った時だった。先行して斥候していたルッツの悲鳴が響き、緊張が走った。

「な、何だ!? 今のはルッツだよな?」

「ゲ、ゲスカフ! あ、あれ!!」

「はん?」

「あわわわわわっ!」

「ま、まさかあれは! ゲスカフ! 我々はとんでもない魔獣の領域に足を踏み入れていたみたいですね」

 見上げた岩肌の先に居たのは絶命したルッツを咥えた大きな狼の姿だった。

「ク、クロ様!? あれってもしかして……」

「あまり考えたくはないが、纏っている雰囲気から察すると……」

【我の縄張りに無断で侵入した下等生物よ、生きて帰れると思うな】

「フェ! フェ! フェンリルだぁぁぁ!!」

 尻餅をつきながらゲスカフが叫ぶ。

「最悪だ」

 現れたのは神獣フェンリルだった。
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