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第二章 立志編
第89話 厨二病は不治の病
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クーデター事件の後、スラム街は混乱に陥るかと思われたが元四天王が懺蛇のクロを変わらず支持したのもあり、大した混乱も起きず表向きは平穏な日々が訪れていた。
「それで例のものは見つかったか?」
「はい、これに」
クロは手渡された紙を広げ眺める。
「血判状……やっぱりあったか」
いつくつかの小さな組織が間に入り、武器を調達していた事はクーデターの情報を手に入れた時点で報告が上がっていた。ただ、その証拠だけではワイノール商会を攻撃する大義名分がない。ボン爺やガロウはそんな証拠は関係ない。敵意を向けられたという理由があれば十分だと言っていたが、クロが形に拘る理由はその方が相手にダメージと負い目を与える事が出来るからだ。その為に必要だったのが血判状だった。
大店の商会がそんな証拠を残さないだろうとまわりは言ったが、クロには確証があった。
「本当に存在しているとは……流石の慧眼ですね」
「なんかほら? こういうのってぽいだろ?」
「ぽ、ぽい?」
「盛り上がっちゃうとこういうの作りがちなんだよ。なんか格好良いとか思ってしまう年頃ってやつだ」
十五歳は所謂みなさんご存知の厨二病を発症しやすい年齢だ。どんなに修羅場をくぐっていようが根本に流れる少年心を抑え込む術はなく、それは異世界であろうが共通だ。
「これがあった場所は難しそうな本の間か、そうだな……ちょっとした仕掛けのある棚の裏あたりだな」
「そ、その通りです……」
「まあこれで大義名分は出来た。あとはどう料理するかだが……横流しした組織の連中は?」
「ボスの指示通りにカジノビルの地下に完成した闘技場の方に隷属の首輪を付けて監禁しています」
「そうか、ご苦労だったな。ゆっくり休め」
「はっ!」
クロは血判状を眺めながら苦笑いをする。
「帝国貴族も関わってんのかよ……こいつの事は後で調べさせるか」
コンコンっ!
「お話はお済みになりましたか?」
様子を伺うようにエリーナが入ってきた。
クロがここまで平静を保てたのはエリーナの献身的なケアのおかげだった。リュウシンとゼクトを処断した後のクロは懺蛇の組員であっても近寄り難い雰囲気を醸し出しており、下手を打てば斬り殺されるかもしれないという恐怖心を抱かせる程だった。
エリーナはそんなクロを包み込むように抱きしめ「おかえりなさい」と言葉をかけた後は何も聞かずにずっと寄り添っていた。
「ああ、しばらく騒がしくなるけど、事が収まったら二人で湯治にでもいくか?」
「まあ! 旅行ですか!? 私この国から出た事がないので楽しみです! うふふっ」
「とは言え、やる事が多いからいつとは約束できないがな」
「やはり報復を?」
「舐められたままで終わるほど人間が出来ていないからな。メランコリ国の件もある程度情報が揃いつつあるし、カジノも早くオープンしたい。それにあいつの依代も探さないとな」
「デニス様はいつでも良いと仰っていたので気に為さらなくても良いと思いますよ?」
「あいつはエリーナには甘いからな! 俺には早くしろと圧力をかけてくるんだぞ?」
「うふふっ! お二人は本当に仲がよろしいのですね? ちょっと嫉妬しちゃいます……」
「冗談だろ? 犬猿の仲だよ」
「そういう事にしておきますね?」
「勝手に言ってろ」
非日常的な毎日を過ごす中、こういった会話が出来る事が何よりありがたかった。エリーナは懺蛇としての活動に関して多く口を出すことはなく、クロの手がどんなに血で染まろうとも変わらず側に居てくれる。デニスという鬱陶しい存在がなければ百点満点の相手だと常々思う。
「エリーナ、ちょっと出掛けてくるから先に寝ててくれ」
「わかりました。お気をつけて……」
エリーナはクロの表情を見て、また多くの血を流すのだろうと察した。しかしその事には触れず変わらぬ笑顔でクロを送り出す。そんなエリーナの頭を撫でクロは地下闘技場へ向かった。
「それで例のものは見つかったか?」
「はい、これに」
クロは手渡された紙を広げ眺める。
「血判状……やっぱりあったか」
いつくつかの小さな組織が間に入り、武器を調達していた事はクーデターの情報を手に入れた時点で報告が上がっていた。ただ、その証拠だけではワイノール商会を攻撃する大義名分がない。ボン爺やガロウはそんな証拠は関係ない。敵意を向けられたという理由があれば十分だと言っていたが、クロが形に拘る理由はその方が相手にダメージと負い目を与える事が出来るからだ。その為に必要だったのが血判状だった。
大店の商会がそんな証拠を残さないだろうとまわりは言ったが、クロには確証があった。
「本当に存在しているとは……流石の慧眼ですね」
「なんかほら? こういうのってぽいだろ?」
「ぽ、ぽい?」
「盛り上がっちゃうとこういうの作りがちなんだよ。なんか格好良いとか思ってしまう年頃ってやつだ」
十五歳は所謂みなさんご存知の厨二病を発症しやすい年齢だ。どんなに修羅場をくぐっていようが根本に流れる少年心を抑え込む術はなく、それは異世界であろうが共通だ。
「これがあった場所は難しそうな本の間か、そうだな……ちょっとした仕掛けのある棚の裏あたりだな」
「そ、その通りです……」
「まあこれで大義名分は出来た。あとはどう料理するかだが……横流しした組織の連中は?」
「ボスの指示通りにカジノビルの地下に完成した闘技場の方に隷属の首輪を付けて監禁しています」
「そうか、ご苦労だったな。ゆっくり休め」
「はっ!」
クロは血判状を眺めながら苦笑いをする。
「帝国貴族も関わってんのかよ……こいつの事は後で調べさせるか」
コンコンっ!
「お話はお済みになりましたか?」
様子を伺うようにエリーナが入ってきた。
クロがここまで平静を保てたのはエリーナの献身的なケアのおかげだった。リュウシンとゼクトを処断した後のクロは懺蛇の組員であっても近寄り難い雰囲気を醸し出しており、下手を打てば斬り殺されるかもしれないという恐怖心を抱かせる程だった。
エリーナはそんなクロを包み込むように抱きしめ「おかえりなさい」と言葉をかけた後は何も聞かずにずっと寄り添っていた。
「ああ、しばらく騒がしくなるけど、事が収まったら二人で湯治にでもいくか?」
「まあ! 旅行ですか!? 私この国から出た事がないので楽しみです! うふふっ」
「とは言え、やる事が多いからいつとは約束できないがな」
「やはり報復を?」
「舐められたままで終わるほど人間が出来ていないからな。メランコリ国の件もある程度情報が揃いつつあるし、カジノも早くオープンしたい。それにあいつの依代も探さないとな」
「デニス様はいつでも良いと仰っていたので気に為さらなくても良いと思いますよ?」
「あいつはエリーナには甘いからな! 俺には早くしろと圧力をかけてくるんだぞ?」
「うふふっ! お二人は本当に仲がよろしいのですね? ちょっと嫉妬しちゃいます……」
「冗談だろ? 犬猿の仲だよ」
「そういう事にしておきますね?」
「勝手に言ってろ」
非日常的な毎日を過ごす中、こういった会話が出来る事が何よりありがたかった。エリーナは懺蛇としての活動に関して多く口を出すことはなく、クロの手がどんなに血で染まろうとも変わらず側に居てくれる。デニスという鬱陶しい存在がなければ百点満点の相手だと常々思う。
「エリーナ、ちょっと出掛けてくるから先に寝ててくれ」
「わかりました。お気をつけて……」
エリーナはクロの表情を見て、また多くの血を流すのだろうと察した。しかしその事には触れず変わらぬ笑顔でクロを送り出す。そんなエリーナの頭を撫でクロは地下闘技場へ向かった。
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