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第二章 立志編

第88話 懺蛇の掟

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「ちょっ! ちょっと待ってくれ! 俺達は本気でクロを殺そうなんて……」

「そ、そうだよぉ~! それにほらぁ? 僕達は小さい頃から一緒にやってきたじゃない!?」

 完全に詰み状態になってしまった二人は必死に言い訳を口にするが、クロの表情は一切変わらない。

「こ、殺すのか? 俺達は家族のようなものだろ! 苦楽を共にしたのを忘れたのか!?」

「マリ姉の遺言もさぁ!? 四人を守って欲しいって言ってたでしょ??? そ、それに僕が居なくなっちゃうとワイノール商会との商談はどうなるのさ??? クロが思っているより僕はあの商会に入り込んでいるんだよぉ??」

「お、俺だって懺蛇の暗部として必死に力を付けてきて、もうすぐ形になりそうなんだ! そんな俺を殺すなんて愚行しない……よな?」

「もいいいか?(十五歳なら中学校三年生か高校一年生といったところか。普通に考えれば子供なんだよなあ……こいつらの気持ちはわからんでもない。このくらいの年齢の時は自分を過信して背伸びしがちだし、他人に対する嫉妬心も強い。若気の至りで済ませたい気もせんでもないが……)」

 クロは転生前の記憶があるため、転生後と合わせるといわゆる中年男性の部類にカテゴライズされる。退行した年齢による影響は多少あったが、苦楽を共にした四人の事は息子や娘のような気持ちで接してきた。それゆえにちょっとしたわがままや甘い考えの四人に対しては寛容になれたところはある。しかし、だからと言ってクーデターを起こそうとした二人を許せるかと問われれると答えは否だ。一度裏切った人間は必ずまた裏切る。

「もうさ? お前らが裏切った理由なんてどうでもいいんだよ」

「なっ!」

「ど、どういうこと!?」

「懺蛇の掟は覚えているだろ?」

「覚えているさ! 懺蛇はファミリーだ! どんな些細な事でもファミリーに手を出した奴は許さない! 必ず報復をする! そうだろ!?」

「と言うかファミリーのボスに手を出したよな?」

「そ、それはさぁ? 痴話喧嘩みたいなものじゃない?」

「痴話喧嘩で殺されかけたんだが?」

「だから! 殺すつもりは……」

「いやいやいや、殺《や》れって命令してただろリュウシンよ」

 クロは思わず笑ってしまう。

「そ、それは……」

「言ったのはリュウシンだよぉ!? 何度も僕は止めたんだ!」

「ゼクト! 裏切るのか! 元はと言えばお前が言った事だろ!」

「誰が言ったとかそんなのもどうでも良いんだよ。結果的にこうして行動に移してる時点でお前らは同罪なんだよ! そもそもだ、お前らが裏切った理由なんてくだらない虚栄心や増長からだしな(あ~なんか既視感というかデジャブというか、学生の頃似たような事あったなぁ……暴走族に入った事で強くなったと勘違いして態度がでかくなった奴が、同級生にボコボコにされたのは笑ったな。その後に暴走族の連中が大量やってきて大変な事になってたけどその殆どが警察に捕まってしまって、運良く逃げれたそいつは孤立して、「あれは先輩が勝手にやったんだ! 俺は止めたんだ! でも逆らえなくて……」って言って泣いてたな。まあそれでも居場所が無くなって退学していったけど……そういえばあいつ今頃何してんだろうか?)」

「悪かったよクロ……もうこんな事はしないからさ?」

「僕達はファミリーだよぉ? 今回の事は何というかボタンの掛け違いみたいなものだしね?」

「はぁ……懺蛇の掟は……裏切りは許さない……だ! それは最高幹部だろうが変わらない。それを許してしまったら組織は終わる」

「う、嘘だろ!? なあ! クロ!」

「冗談はやめてよぉ! また一からやり直せばいいじゃない!? なっ! やめっ!」

(一からやり直す? 確かにこの場所に拘る必要はない。ないが……自分で決めたルールを破るのってのはそれはそれで違うよな? それに俺は正義感あふれる仲間想いの勇者ではなく悪役だ。悪役は悪役らしく最後まで非情でなければならない、それが俺のロールプレイ)

 二人をボン爺とガロウが拘束し、地面に顔面を押し付ける。

「クロぉぉぉ! 俺達は使命があるじゃないか! まだこんなところで死ぬわけには!」

「ごめんよクロぉ! もうこんな事しないからさ!?」

「残念だよリュウシン、ゼクト……こんな事でお前らを失うなんて」

「やめろぉぉぉぉ!」

「嫌だ! 嫌だ!」

 ザンッ!

 リュウシンの首が落ちゼクトの方へ転がる。

「あぁぁぁぁ!! リュウシン!!!」

「ゼクト一つ言い忘れてた。お前ら全員が持ってる武器と防具ってさ? ワイノール商会からの提供だよな? まあ既に調べはついてるんだけどな? 懺蛇に手を出したワイノール商会は……まあそれは死ぬお前にはもう関係ないか?」

 ザンッ!

 何とも言えない虚無感が押し寄せ、感情がどんどん冷めていく感覚になる。自分で思うより二人を家族として愛していたようだった。非情になれたのはこの世界をゲーム感覚で生きているせいでもあるだろう。
 勇者のように正義を振り翳して人を愛し、悪でさえ許し世界平和を願うような善人になれたならもっと楽しく異世界ライフを楽しめたのかもしれない。
 しかし、真島三太という人間はそれを良しとしない。人間はそんなに清く生きられない。汚く、狡猾で自己愛が強いのが人間の本質であり、自分より弱い立場の人間を作り出し攻撃する事で満足する弱い存在だ。だからこそゲーム内でその本性を曝け出しPKをしていた。人は生まれながらにして悪なのだ。

「兄弟……家族を手にかけた悲しみ、俺には良くわかる。だが、間違っちゃいねぇ! 間違いだと思ったら死んでいった奴らが報われねぇからな! だから兄弟! その涙は忘れるな!!」

 感情が冷めていったのは現実を直視しして壊れないように脳が抑制したためで、心は死んでいなかったのだろう。意思に反して涙が溢れて止まらなかった。
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