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第二章 立志編

第87話 過信

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「なんでここに獣人族が混じってんだ!? あ!?」

 クロを襲撃した者の中には、懺蛇に所属しているリュウシンやゼクトの下に付いている者、裏ギルドの者や奴隷区画の者、その他小さな組織を合わせて八十数人。そして工業区画の獣人族から二十数人ほど混じっていた。

「ガ、ガロウの兄貴!? こ、これはその……」

 ガロウはゆっくりと獣人達のところへ歩いて行き、一人の獣人の胸ぐらを掴む。

「だからよう……何でここに獣人族が……混じってるんだと……聞いてんだよ!!!」

 ドゴッ! パシュッ!

 胸ぐらを掴まれた獣人はガロウから思い切り殴られ顔面が吹き飛び絶命した。

「なあ? 説明しろや!!!」

「ひぃぃぃぃ!」

 獣人族の者達は抵抗もできぬまま、あっという間にガロウにより全員粛清された。拳には血が滴り落ち、怒りに震えているがガロウの目は悲しみに満ちていた。

「兄弟……すまねぇ! 同族の者が迷惑をかけた」

 クロはガロウの顔を見て返す言葉が見つからなかった。元を正せば自分が原因で起こった悲劇であり、だれよりも同族を大切にする獣人族の長が自らの手で始末をしたのだ。申し訳ない気持ちで一杯になり、怒りの矛先は自分の身内であるリュウシンとゼクトに向かっていった。

「それでうちの者をたぶらかした元凶は手前らか!?」

 ガロウはリュウシンとゼクトへ振り向き怒号を発する。

「クソッ! まさかここにガロウが現れるとは計算外だぞゼクト!」

「落ち着いてリュウシン! 数的有利な状況はまだ変わらないから動揺したら駄目だよぉ」

 戦闘に特化した獣人族が対抗できぬまま殲滅されたのは痛かったが、リュウシン達にはまだ八十人近くの者が残っている。二人対八十人と考えれば動揺する程でもないが、リュウシンとゼクトは考えが甘かった。
 あっという間に獣人族の者達が倒された事で恐怖心が植え付けられ全員萎縮していた。

「傍観するつもりだったが……うちの組織の者がここまで居たとなれば儂も動かなければならないのう」

 リュウシンとゼクトの背後から突然声が聞こえ、振り向くとそこにはボン爺が据わった目をして佇んでいた。

「ギルド長!! なんでここに……」

「死にゆく者に説明はいらんじゃろ?」

 一瞬で放たれた殺気に反応したリュウシンは横一閃に剣を振るったが当たることもなくすり抜け、ボン爺の放った神速の剣技で裏ギルドの連中の首が胴体から切り離された。

「若、周囲は完全に包囲した。もはやネズミ一匹逃げる事もできんじゃろうて」

「それは重畳。思いの外簡単に片付きそうだな」

「なっ! どういう事だクロ!」

 ボン爺とクロの会話が聞こえたリュウシンは動揺を抑える事が出来なかった。それはゼクトも同じで、誘い込んだと思っていたはずの自分達が実は嵌められており、数的有利は簡単に覆された。これまで死に直面した経験は何度もあるがなんとか生きてこれた。しかし、今の状況は完全に詰みの状態で逃げ場なかった。

「どうもこうも、お前達はもう終わりだよ」

「なっ!」

「こんな稚拙な計画で成功するつもりだったのか? あ~いや、そうか……今まで色んな計画を立ててお膳立てしてたのは俺だもんな? 初めて自分達で考えて行動した感想聞かせてくれよ」

 これまでこの二人が生き残れてきたのはクロの安全を考慮に入れた計画を実行していたからで、自分達の実力ではない。その事に気づきもせず、自分達の力を過信した結果がこれだった。
 リュウシンとゼクトは改めて思い出す。なぜマリエラがひとり一人に役割を与え、自分達を守ってくれとクロに自分達を託したのか。その時点で自分達は対等ではなく、保護されただけだったのだと今更気付いた。それを感じさせなかったのはクロの優しさであり、居場所を作るために奔走してくれていたのだと。

「この程度の連中、若の手を煩わせる必要もない。ガロウよ、さっさと片付けるぞ」

「じじい! 老体は休んでろや! 俺が一人でやる!!」

 二人は競うように集まった襲撃者達を屠り、数分後にはリュウシンとゼクトを残すのみとなっていた。

「さあ、リュウシン、ゼクト! 最後に言い残す事はあるか?」

 クロの顔には感情がなく、いつも向けてくれる優しい顔ではない事に気づいた二人は、今になって自分達のした事の重大さに気づいたのだった。
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