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第二章 立志編
第86話 不協和音
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明朝、不自然にならないようにと普段通りに散歩に出かけるとスラム街の空気が重くそこら中から殺気が漏れ出ていた。
(これは……事前に知らなくても警戒するレベルだな。計画性があるのかないのか……しかし、そこそこの人数がいるな。そんなに不満か? 実力に見合った役職と報酬を与えて、成果をあげればボーナスも支給しているのにな……この世界にはない洗練されたシステムも導入して完璧だと思ったんだけどなあ、人の心というのはわからんものだな)
バレバレの襲撃に苦笑いをしつつ、店先で掃除や開店の準備をしている人達に挨拶をする。これはクロが毎日やっているルーティンであり、人心掌握術の一つだと思ってやっている。
市井の人間と直接交流する事はメリットが多く組織の人間にも推進しているが、そんな事をしていたら侮られると憤慨する奴も居た。
(しかし、このまま見られているのも気持ち悪いしなあ……しょうがない、人気のない裏通りの広い場所に誘導するか)
~~~~~~~~
「リュウシンさん! ゼクトさん! ボスが裏路地に移動しました!」
「しぃ~! あまり大きな声だしちゃ駄目だよぉ! クロは勘のいい奴だからバレちゃうんだよぉ」
「す、すみません……」
「それより……クロの行動に不審な点はないか?」
「リュウシンは警戒しすぎだよぉ? で? どうなのかなぁ?」
「ボスは毎朝表通りを歩いては市井の連中と交流してます。このスラム街のボスが武器も携帯せずそんな事をしては侮られると陳情していたのですが、失笑されて聞いてはくれませんでした!」
「確かにねぇ、なんか下の者に媚び売ってるように見えるから立場的にはふさわしくないよねぇ」
「俺達には厳しいのにな」
「それにしてもぉ、結構集まったねぇ?」
「懺蛇だけでなく、他の組織からも不満があったのかと……スラムの連中の中には力が全てという意識が強い者も多く、ボスの行動はそんな連中にとって許し難いものなのだと思います」
「圧倒的な力でこのスラム街を支配したカリスマが穏やかに市井の人間と交流し、組織の人間に対しては無益な暴力は禁止させる。暴力による混沌とした世界で生きてきた人間にとっては退屈で息苦しいと言ったところか」
「クロは外に良い顔をしすぎたねぇ。身内には厳しいって意味がわからないよねぇ」
「それで何人集まった?」
「凡そ百人くらいかと……」
「組織全体としては微々たる人数だが……その殆どは日和みだろうし、クロを抑えれば簡単に寝返るだろう」
「そうだねぇ、短い時間でこれだけの人数を集めただけでもすごいよぉ」
「普段より他の組織の人間とは交流をしていまして、愚痴を言っていた連中を中心に集めたのが功をそうしました」
組織というのは、色んな考えの者がいる。その全ての者が不満を持たないとはクロも思っていない。一部の過激な思想を持った者に関しても把握はしており、適度にガス抜きをさせ爆発しないように努めてはいた。しかし、クーデターの陣頭指揮を取る人物が懺蛇の最高幹部の二人であった事が彼等を行動にうつさせる原動力になってしまった。
「この先に開けた場所があります。そこは人気もなく隠れる場所もないので襲撃には最適かと……」
「うん、そこでクロを拘束しよう」
「百人で取り囲めば、さすがのクロでも大人しく捕まるだろ」
「ではそのように通達してきます!」
~~~~~~~~
クロは裏路地を突っ切り大きな開けた場所へやってきた。ここには緑を多く取り入れた公園を作る予定の地で、カジノビルの建設を優先した為に未だ手付かずのだだっ広い何もない空き地の状態だった。
(襲撃するならこのタイミングか? ん~もう少し真ん中に移動してやった方が包囲しやすいか?)
今から襲撃される人間が襲撃する人間に気を使い襲撃しやすい環境を整えてあげるという意味不明な状況に少し笑いが出る。
程なくして建物の物陰から武器を携えた者達が殺気も抑えきれずに現れ、ゆっくりとクロを包囲する。
「ん~百人前後ってところか……さてさて、どうしたものかな。(獣人族もちらほら混ざってるな。懺蛇の連中は……十人前後って感じか? 人数的にはリュウシンとゼクトに付いてた奴らだろうな)」
囲いの一部がモーゼの十戒のように割れ、ゼクトとリュウシンが並んで現れた。
「ゼクト! リュウシン! これは何の余興だ?」
クロはあえて何もわかってないフリをして問う。事実なぜこの二人が裏切りに至ったのか理解しかねていたのもある。裏に誰か暗躍して扇動しているのか、それともこの二人の単独行動なのか。答えによっては今後の対応も変わる。
「クロ! 俺達はお前の何だ!」
「は?」
「俺達はお前の子分なのか!? 仲間なのか!?」
「何を言っている?」
「ねえクロぉ? 君は変わっちゃったよねぇ? 昔のクロならさぁ僕達にこんな仕打ちしなかったじゃん? だからぁ……もうボスの座から降りちゃいなよぉ? これ以上変わっていくクロを見るのは忍びないんだよぉ」
「ここには今のお前に不満を持っている連中が集まっている! スラム街の組織のボスとしてお前の振る舞いに嫌気がさしている連中だ! 俺達としては素直に従ってくれるなら組織の一員、仲間として受け入れるが、抵抗するというのなら……悪いが死んでもらう!」
この二人の裏切りの理由は自分達がクロと対等ではなく、下に置かれている事への不満が大きいように感じられた。これまで一緒に頑張ってきた仲間に命令され、自由も奪われてしまった。全てクロの指示の元に動かなければならないのはこれまでと変わらないが、組織として序列が出来てから歯車が狂い出した。
クロは組織としての役割を演じているだけで、二人の事は家族のように大切に思っていた。そんな二人だからこそわかってくれていると信じていた。しかしそんなクロの思は二人に共有されていなかった。もし、マリベルとカインが生きていればこんな事態になっていなかっただろう。この不協和音はあの二人の死から始まったのかもしれない。
「あ~そういう事か……だが、断る!」
「そうか残念だ……お前ら……殺れ!」
リュウシンの一言でその場にいる全員が一斉に剣を抜きクロに襲いかかった。その瞬間、空から何かが降ってきた。
衝撃で砂塵を巻き起こし姿を現したのは、怒りの表情に満ちたガロウだった。
(これは……事前に知らなくても警戒するレベルだな。計画性があるのかないのか……しかし、そこそこの人数がいるな。そんなに不満か? 実力に見合った役職と報酬を与えて、成果をあげればボーナスも支給しているのにな……この世界にはない洗練されたシステムも導入して完璧だと思ったんだけどなあ、人の心というのはわからんものだな)
バレバレの襲撃に苦笑いをしつつ、店先で掃除や開店の準備をしている人達に挨拶をする。これはクロが毎日やっているルーティンであり、人心掌握術の一つだと思ってやっている。
市井の人間と直接交流する事はメリットが多く組織の人間にも推進しているが、そんな事をしていたら侮られると憤慨する奴も居た。
(しかし、このまま見られているのも気持ち悪いしなあ……しょうがない、人気のない裏通りの広い場所に誘導するか)
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「リュウシンさん! ゼクトさん! ボスが裏路地に移動しました!」
「しぃ~! あまり大きな声だしちゃ駄目だよぉ! クロは勘のいい奴だからバレちゃうんだよぉ」
「す、すみません……」
「それより……クロの行動に不審な点はないか?」
「リュウシンは警戒しすぎだよぉ? で? どうなのかなぁ?」
「ボスは毎朝表通りを歩いては市井の連中と交流してます。このスラム街のボスが武器も携帯せずそんな事をしては侮られると陳情していたのですが、失笑されて聞いてはくれませんでした!」
「確かにねぇ、なんか下の者に媚び売ってるように見えるから立場的にはふさわしくないよねぇ」
「俺達には厳しいのにな」
「それにしてもぉ、結構集まったねぇ?」
「懺蛇だけでなく、他の組織からも不満があったのかと……スラムの連中の中には力が全てという意識が強い者も多く、ボスの行動はそんな連中にとって許し難いものなのだと思います」
「圧倒的な力でこのスラム街を支配したカリスマが穏やかに市井の人間と交流し、組織の人間に対しては無益な暴力は禁止させる。暴力による混沌とした世界で生きてきた人間にとっては退屈で息苦しいと言ったところか」
「クロは外に良い顔をしすぎたねぇ。身内には厳しいって意味がわからないよねぇ」
「それで何人集まった?」
「凡そ百人くらいかと……」
「組織全体としては微々たる人数だが……その殆どは日和みだろうし、クロを抑えれば簡単に寝返るだろう」
「そうだねぇ、短い時間でこれだけの人数を集めただけでもすごいよぉ」
「普段より他の組織の人間とは交流をしていまして、愚痴を言っていた連中を中心に集めたのが功をそうしました」
組織というのは、色んな考えの者がいる。その全ての者が不満を持たないとはクロも思っていない。一部の過激な思想を持った者に関しても把握はしており、適度にガス抜きをさせ爆発しないように努めてはいた。しかし、クーデターの陣頭指揮を取る人物が懺蛇の最高幹部の二人であった事が彼等を行動にうつさせる原動力になってしまった。
「この先に開けた場所があります。そこは人気もなく隠れる場所もないので襲撃には最適かと……」
「うん、そこでクロを拘束しよう」
「百人で取り囲めば、さすがのクロでも大人しく捕まるだろ」
「ではそのように通達してきます!」
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クロは裏路地を突っ切り大きな開けた場所へやってきた。ここには緑を多く取り入れた公園を作る予定の地で、カジノビルの建設を優先した為に未だ手付かずのだだっ広い何もない空き地の状態だった。
(襲撃するならこのタイミングか? ん~もう少し真ん中に移動してやった方が包囲しやすいか?)
今から襲撃される人間が襲撃する人間に気を使い襲撃しやすい環境を整えてあげるという意味不明な状況に少し笑いが出る。
程なくして建物の物陰から武器を携えた者達が殺気も抑えきれずに現れ、ゆっくりとクロを包囲する。
「ん~百人前後ってところか……さてさて、どうしたものかな。(獣人族もちらほら混ざってるな。懺蛇の連中は……十人前後って感じか? 人数的にはリュウシンとゼクトに付いてた奴らだろうな)」
囲いの一部がモーゼの十戒のように割れ、ゼクトとリュウシンが並んで現れた。
「ゼクト! リュウシン! これは何の余興だ?」
クロはあえて何もわかってないフリをして問う。事実なぜこの二人が裏切りに至ったのか理解しかねていたのもある。裏に誰か暗躍して扇動しているのか、それともこの二人の単独行動なのか。答えによっては今後の対応も変わる。
「クロ! 俺達はお前の何だ!」
「は?」
「俺達はお前の子分なのか!? 仲間なのか!?」
「何を言っている?」
「ねえクロぉ? 君は変わっちゃったよねぇ? 昔のクロならさぁ僕達にこんな仕打ちしなかったじゃん? だからぁ……もうボスの座から降りちゃいなよぉ? これ以上変わっていくクロを見るのは忍びないんだよぉ」
「ここには今のお前に不満を持っている連中が集まっている! スラム街の組織のボスとしてお前の振る舞いに嫌気がさしている連中だ! 俺達としては素直に従ってくれるなら組織の一員、仲間として受け入れるが、抵抗するというのなら……悪いが死んでもらう!」
この二人の裏切りの理由は自分達がクロと対等ではなく、下に置かれている事への不満が大きいように感じられた。これまで一緒に頑張ってきた仲間に命令され、自由も奪われてしまった。全てクロの指示の元に動かなければならないのはこれまでと変わらないが、組織として序列が出来てから歯車が狂い出した。
クロは組織としての役割を演じているだけで、二人の事は家族のように大切に思っていた。そんな二人だからこそわかってくれていると信じていた。しかしそんなクロの思は二人に共有されていなかった。もし、マリベルとカインが生きていればこんな事態になっていなかっただろう。この不協和音はあの二人の死から始まったのかもしれない。
「あ~そういう事か……だが、断る!」
「そうか残念だ……お前ら……殺れ!」
リュウシンの一言でその場にいる全員が一斉に剣を抜きクロに襲いかかった。その瞬間、空から何かが降ってきた。
衝撃で砂塵を巻き起こし姿を現したのは、怒りの表情に満ちたガロウだった。
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