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第二章 立志編

第78話 正義感の成れの果て

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「ハァァァァァ!!」

 イリアの持つ剣に光が集まり魔力の塊が凝縮されていく。

「マジかよ……」

「あんたは絶対に許さない!」

「その仇とやらはさっきからお前を止めてるが?」

 カルトの声はイリアには届かない。我を忘れているのではなく、ただひたすらに勘違いをして全て自分に都合の部分に浸り、都合の悪いことは頭に入ってこない性格なだけで、イリアの中では最愛の幼馴染が悪党に洗脳され腕まで切り落とされた。そんな幼馴染が自分の事を心配して戦うのを止めてくるが、自分は勇者であり正義の代弁者なのだから死ぬ事はない。正義は必ず勝つのだからという物語が展開されている。

「お前が……悪いんだろうがぁぁぁ!!」

 イリアによる高速の斬撃が飛んでくるが半分は避け、残りは鉄の小手で防いでいた。
 クロは剣ではなく格闘術をメインに戦闘をするため、鎧などの重い防具は身につけず腕には小手を足には脛部分にガードをつけている。
 魔闘術で強化されるのは身体だけでなく付けている防具や武器にも強化が付与されるため、剣による攻撃は基本的には躱し、躱しきれない攻撃は小手で弾くような戦闘スタイルだ。

 ガン! ガン! キーン!

「何で切れない!」

「なんでだろうな?」

 致命傷を与えるどころか攻撃が当たらない事にイライラを覚えたイリアは、徐々にスピードを上げ剣を振う。

「チッ! 躱しきれないれ」

 クロは急所を守るように亀のようにガードをするが、空いたボディに蹴りが飛んでくる。

「ぐっ……」

 蹴りを受けたクロは吹き飛び教会の塀を破壊した。そこに突きの一閃が顔面めがけて飛んでくる。

「危ねぇ!」

 突きの一閃を紙一重で躱すがイリアによる追撃は終わらない。

「チッ! くらえ!」

 剣の腹を返し横薙ぎに振るわれた攻撃を小手で受け止める。

 ガキーン!

 ガードした衝撃で再び身体が吹き飛ぶ。

「魔闘術様々だな……だがこのままじゃジリ貧だ」

「何で切れない!」

 イリアの持つ剣は伝説級の剣で、代々勇者が受け継いできた代物だった。しかし、幾度となく振るった攻撃を普通の鉄でできた小手でガードされる。

「イリアもうやめるんだ!」

「カルト! 安心して! もうすぐ終わるからね!」

 相変わらずカルトは止めるべく叫んでいたが、イリアには真意が伝わらない。

「無駄な戦いだな」

「悪党! お前が言うな!」

「もういいや、終わりにしようか?」

「はぁぁぁ?」

 クロは三度振るわれた剣戟を躱すと、素早くカルトと背後にまわり魔法袋から短刀を取り出しカルトの首に突きつける。

「動くな」

「カルト! 貴様ぁぁぁぁ!」

 人質にとられたカルトに向かって走り出した瞬間に突きつけられた短刀が小さく首に刺さる。

「だから動くなって言ってんだろ?」

「くっ! 卑怯な!」

「こいつを殺されたくないなら手に持った剣をこっちに投げろ」

「お前みたいな悪党の言う事を信じれるわけ……!」

「俺は躊躇なんてしないぞ? それは腕を簡単に落としたのを見たらわかるよな?」

「わかったわ! その代わりカルトを解放して! もしものことがあれば……今度こそどちらかが死ぬまで戦うからね!」

「良いだろう解放しよう」

 イリアは悔しさ滲ませながらも持っている剣をクロの足元に投げた。
 約束通りカルトが解放され、ふらふらした足取りでイリアに向かって歩き倒れる寸前で抱きしめられる。

「ごめんねカルト……ごめん」

「馬鹿野郎……なんで言うことちゃんと守らないんだよ……」

「だって……カルトが、カルトが!」

「もう勇者なんてやめて村に戻ろうよ……昔みたいにイリアと俺と村のみんなで貧しくも楽しく……」

 ザンッ!

「ぐはっ!」 「がはっ!」

「イリア! カルト!」

「嫌ァァァァ!!!」

「なんか良い感じのところ悪いけどさ? もう死んじゃえよお前ら」

 イリアの剣が二人を貫き、カルトの背後から見えるクロの冷めた目がイリアを蔑む。

「き、貴様……何を!」

「戦闘中にラブロマンス始めるやつを敵が黙って見てると思う? こんな千載一遇のチャンス逃すわけないだろ」

「こ、この……悪党……め!」

「そうだとも! 悪党だよ! あはははは!」

 クロは魔法袋から剣を取り出し、カルトの首を斬り落とすと、虫の息になっているイリアに投げつける。

「これがお前が貫いた正義感の成れの果てだよ」

「あ、あ……あぁ……カル…ト」

 絶望が勇者イリアに襲った。
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