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第二章 立志編

第72話 だが、断る!

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【それでクロ氏、勝算はあるのかな?】

 優雅にお茶を飲みながらデニスは質問する。

に戦えば死ぬだろうな」

【そうだね、に戦えばね】

 戦闘というのは力が強い者が必ず勝つとは限らない。スキルの相性、戦闘経験、戦闘スタイル、様々な要因によって勝敗が決まる。しかし、勇者のように規格外の存在は理不尽と思えるほどの力で押し切られてしまう。対等に相手が出来る者は、魔王やそれに類する者くらいである。 

「規格外の化け物を相手しろとお前が言ったんだ、少しは責任を感じて欲しいところなのだが?」

【だから何度も言ったよね? 君を勇者にって。それが一番手っ取り早くて確実なんだけど?】

「だが、断る!」

【君のその勇者嫌いなところ、僕は好きだよ】

「お前も神のくせに勇者が嫌いって大概だぞ」

【世の中は複雑にできてるのさ、それに僕は神だからね。人族だけでなく魔族やエルフ族、獣人族などその他全ての種族の事を平等に愛しているのさ】

「デニス様とクロ様は古い友人のようですね?」

 二人の会話を黙って聞いていたエリーナが話に割り込む。気さくな性格とはいえデニスは神である。そんな相手に対して気後れせず接しているクロとデニスの会話は対等な関係に見えてしまうようだ。

「そうか?」

 クロはあまり自覚はないようで、デニスは特に否定をしない。

【そろそろ僕は退散するけど、エリーナちゃんの事よろしくね】

 デニスは消えるように去り、部屋に充満していた神気が無くなるとドアが開きリュウシンが入ってきた。

「クロ! 遅くなった」

「リュウシン、急に呼び出してすまないな」

 事の経緯を説明するとリュウシンの顔が強張る。

「……勇者ってあれだよな? マクベストさんやマリ姉、それにみんなを殺したあの」

「そうだ、あの勇者だ」

「そうか……俺は何をしたらいい? 体を張って動きを止めればいいのか? 俺は覚悟はできている! 俺もろとも斬ってしまえ」

 ボン爺のところで戦闘術を学び始め、強くなってきたとはいえマクベストと比べるとまだまだ力が足りないと認識できていた。それより強い相手に対して自分に出来る事があるとしたら全力で相手を抑えるくらいしかないと判断したのだろう。

「そんな事をしたらリュウシンが死んじゃうだろ。もう家族を失うのは嫌なんだよ」

「じゃあ俺はなんで呼ばれた?」

「エリーナを安全なところに匿ってくれ。そうだな……ボン爺のところがいいか」

「クロはどうするんだ!? お前を失う事の方が代償が大きいと理解しろ!」

 リュウシンはクロの胸ぐらを掴み怒鳴るが、掴んだ手は震えていた。

「俺は死ぬつもりもなければ負けるつもりもない。エリーナを守る理由は……」

「それ以上はいい、何があるのかは聞かない。聞いてはいけない気もするしな」

「いやーそこまで秘密な事ではないと思うが」

 情報は共有した方が物事を円滑に進める事が出来る。だが、よくよく考えてみれば神の神託を受け聖女エリーナを勇者から守れと使命を与えられ、ついでに神の使徒となったという事を伝えるにはある意味で情報量が多すぎて混乱するだろう。

「クロ様!」

「エリーナ、リュウシンと一緒にボン爺のところへ」

「……はい、わかりました。あ、あの! ご武運を……」

 エリーナはクロへ近づくと頬へキスをし、顔を赤らめながら裏口からリュウシンと出て行った。
 二人を見送り表に出ると教会の周囲には大量の人が集まっていた。

「クロの兄貴! 全部ではないですが傘下の組織を含め約六百人程集まりました!」

「結構集まったな」

 懺蛇の構成員は五十人も満たない。残りは傘下の組織だ。クロ自身も全ては把握できていないので初めて見る顔が殆どだった。

「いいかお前らよく聞け! 手を出す事は一切認めない! 何が起こっても黙って静観しろ! 今からここに勇者がやってくる!」

 勇者という言葉にざわめきが起こる。ここに来ている大半はなぜ召集されたのか理解していないのもありそれぞれ顔を見合わせてクロの言葉を待つ。

「先程、俺の留守中に勇者が懺蛇が拠点としている建物を破壊したらしい! そして、勇者のパーティーメンバーはスラムに住民に対して蔑んだ発言をした! どうやら勇者達はこのスラム街を敵にまわしたいようだぞ?」

 ざわめきが怒号に変わり教会の周囲が殺気に満ちていく。

「皆も知っている通り、教会の周辺は非戦闘区域だ! だから戦闘は一切許さん! そして、勇者パーティーの目的は神罰の聖女エリーナらしい! エリーナは!」

 クロの俺の女発言に周りから冷やかしの歓声が湧く。

「これは俺の私情だ! だからお前らを巻き込むのは本意じゃない……だが、組織としての面子もあるからな! 悪いがこの茶番にちょっと付き合ってくれ!」

 冷やかしが笑い声に変化し、殺気も幾分和らいだ。

「さあ、ショータイムの始まりだ」

 教会へ続く道の両端に無言で立つ強面の男達が並び、勇者イリアを先頭に歩く四人を出迎える。
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