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第二章 立志編

第66話 剣聖だったのかよ

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 カインとマリベルの葬儀は滞りなく終わり、教会にある墓地に埋葬された。
 クロ、リュウシン、ゼクトは無言で二人の墓の前に立ち、その日は太陽が落ちても動くことはなかった。

「若、預かった男からの情報をここにまとめておいた。それで……いかにされるので?」

 スレイは早急に裏ギルドのボン爺に引き渡し、この男が持っている情報を絞り出せと命令していた。ボン爺以下元四天王の三人はクロを''若“と呼ぶようになっている。
 クロは渡されたメモを手に取り目を通すと魔法袋に入れた。

「懺蛇に手を出すのがどういう事なのかバカにも教える必要がある」

「確かに、この世界は舐められたら終わりですからのう……それを反対する者はおらんでしょうが、あの伯爵は一筋縄ではいかんのはメモに書いたとおりですじゃ」

 メモにはスレイに指示を出していた目的の他に、保有している戦力、裏稼業、趣味、王国での立場などが書かれていた。

「あの伯爵は同じ穴のムジナ、我らに近い性質を持ちながらも貴族としての表の顔は国王からの信頼も厚く、持っている戦力は第一王子を支持する貴族の中でもトップクラス。厄介な相手と悪縁を結んだものですな」

「帝国の混乱と冒険者への悪評、地味なやり方だが着実にゆっくりと帝国の足元を潰すか……趣味に関しては共感できないが、表の権力、裏での暗躍は俺が目指している形に近いからか、ある種の清々しさすら感じるな」

「扇動を行なっているスパイはあの男だけにあらず。メモには可能な限り潜入しているスパイを一覧にまとめてあるので、指示されればすぐにでも動き出しますじゃ」

「伯爵邸には俺が直接赴くとして、もっと細かい情報が欲しいな」

「ではうちの暗部を放ち情報収集を……」

「その暗部にゼクトを混ぜてくれ」

「ゼクト殿を?」

「あいつは懺蛇による諜報活動の要だからな。問題はリュウシンだ」

「ふむ、リュウシンか」

「爺から見てリュウシンはどう見える?」

 リュウシンを懺蛇の汚れ仕事を担う男にするために裏ギルドでその力を養わせていた。指導はボン爺が直接行なっている。

「素質はあるが……まだまだ青臭い部分も多くて危なっかしい。そんな所ですな」

「そうか、こればかりは短期間で何とかなるものでもないからな……大きな相手をするにはまだ戦力としては未熟者という事だな」

「一年もすれば良い暗殺者になると約束しよう」

「一年か、流石に待てないな」

「中途半端は力は破滅する未来しかありませんからのう」

「これ以上家族を失うわけにはいかない。引き続き情報収集を頼む」

「御意に」
 
 裏ギルドを後にしたクロは綺麗になりつつあるスラム街を歩きながら眺める。
 行きつけのホルンが経営している食堂に入ると懺蛇の下っ端の構成員が床に倒れていた。

「お前らこんなところで何をしている? 店には迷惑をかけるなと言っていたはずだが?」

「クロさん! 違うんです!」

 カウンターから出ていたホルンが慌てて彼らを庇う。

「ホルン、うちの者が迷惑をかけてすまんな」

「違います! 彼らは何も……」

「あんたがこのホルンさんの食堂を苦しめている元凶か!」

 何やら正義感丸出しの男がホルンを守るように一歩前に体をいれ、剣を抜く。

「なんだお前は」

「俺は勇者パーティーの一人! 剣聖ゲイルだ!」

「勇者パーティーだと……?」

 正義感という厄災がとうとうスラム街にやってきたようだ。
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