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第二章 立志編

第49話 男なら拳で語ろう

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「さあ小僧! 儂の屍を越えて行け!」

「あ~いや……もうそんなノリじゃないし」

「黙れ! いまさら引くに引けんのだ!」

 首領ボンは当初の目的をすっかり忘れ、意固地になってしまっていた。もはや戦い死ぬ事でしか自尊心を保てない状態で、それ以外の選択肢はない。

「老害め……」

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

「お前が死ぬんじゃないんかい!」

 ガロウを倒した時のように素早い動きで攻撃を繰り出すと、クロはその剣戟を真っ向から防ぎ一旦距離をとる。

「本気で殺しにかかってきてんじゃねえか!」

「壁は大きければ大きいほど越え甲斐がある言うだろう」

「……諦めて……お爺様に認められたの」

 すっかり戦意を失っているリンリンは体操座りで静観していた。

「お前のじいさんなんだろ!? 死んで良いのか!」

「……それも運命……考えるだけ無駄」

「はぁ……」

 クロは大きくため息を吐く。この無駄な時間が惜しく、知りたい事が色々と出来てしまい興味はそちらに向いていた。
 召喚者の存在や歓楽区画の割譲の有無と忍者の存在理由など戦闘をしている場合じゃない。

「懺蛇のクロさん、助太刀しますよ」

 声をかけてきたのは、さっきまで包囲されていたドルトランドだった。

 ボコッ!

「うるさいゴブリンは引っ込んでろ!」

「ぐあっ!」

 クロは真横に立ったドルトランド顔面を裏拳で殴り気絶させると、首領ボンをどう抑えようかと思案する。

「……ひどい」

「これ以上この場が荒れないための配慮と言え」

「血も涙もないのう!」

「お前のだじじい!」


 ドルトランドを襲撃した者達は無力化されていた。そんなドルトランドの好意を踏み躙りクロは一発で沈めた。


「まあいいや、忍者の術は見てみたいしな。こいよじじい」

「小僧……転生者と言ったな。どこまで知っている?」

「おっ! やっと話し合いに応じる気になったのか?」

「否っ! 拳で語ろうぞ……死ね!」

 シュッ!

「手裏剣かよ! 拳で語れよ!」

「暗器武器の名まで知るか小僧……」

 目の前の首領ボンの姿が消え背後から強烈な蹴りが飛ぶ。

「ぐあっ! なっ! もう目の前に! くっ!」

 クロは咄嗟に腕をクロスしてガードすると、右腕を掴まれ腕を捻られるとその勢いのまま投げられる。

「組み手っ! うわっ!」

 ガンッ!

 頭が床目掛けて落ちる途中、首に衝撃が走る。首領ボンの蹴りがクロの頸椎に当たり、その勢いのまま一回転して背中から床へ落ちた。

「ガハッ!」

「ほう……硬いな? それは鍛錬でどうこうなるレベルではないな」

「血の滲むような鍛錬の結果だ!」

 クロはスーとの特訓で何度も死にかけている。いや、半分死んだと言っても良いだろう。死ぬ寸前でエリクサーにより回復し、その数秒後にはまた死にかけてを繰り返す。これを血の滲むような鍛錬というよりも強制レベリングに近い。この世界にレベルの概念が存在していれば、恐らくクロは人族では世界最強レベルになっていただろう。

「その年齢でか? 師は誰だ?」

「秘密だよ!」

 起き上がり袈裟斬りを繰り出すが首領ボンに躱される。

「剣の鍛錬はまだまだのようだのう」

「伸びしろがあるって言えよ」

 クロは少し焦っていた。対峙してわかる熟練度の差。流れるような一連の攻撃に弟子入りしたいとさえ思う。

「小僧よ、儂の下に付け」

「は?」

「貴様が言うように伸びしろがある、基礎は出来ているようだが技が我流すぎてつまらん」

「我流ってのは間違ってないが、これが実力だと思われては困るな……」

「ほうほう、隠し球があるような口ぶりだな」

【クロちゃんスキル禁止だよ~ん】

(おいおい、顕現して良いのかよ)

【し~んぱ~いないさ~! クロちゃんにしか聞こえないよ? 君は僕の眷属になったから出来る術さ。 ズズズッ!】

(お前、茶を啜ってんじゃねえよ)

【食後のティータイムだよ。とにかくスキルはまだたからね~】

(デニス! せっかくだから何かアドバイスしよろ! おいっ!?)

 デニスからの返信はなかった。基本的には見守るスタンスに変えたようだ。

「何をボーッとしておる? それで返答や如何に?」

「(スキルを使わずか……並列意思をまだ使いこなせてないからか……それなら)」

 クロは剣を魔法袋に戻し、魔闘術で全身を強化する。

「答えはノーだ! 俺は誰の下にも付かないし縛られることもない」

「そうかそれは残念だのう」

「あっ! 忍術は教えてくれてもいいぞ?」

「笑止!」

 首領ボンは再び目の前から姿を消した。

「それはさっき見た」

 魔闘術を常に全開にした事で首領ボンの速度に反応できるようになった。完全に姿は見えないが魔力の残像を予測しどこに移動したかわかる。「さっき見た」と言ったのはブラフで、一度見たものは通用しないなんてチートは持ち合わせていない。要するにハッタリだ。
 クロは振り返りざまに右フックを放つと首領ボンの顔面を振り抜いた。

「ガッ! な、何だ……と」

「右フックだ! なあじじい? ボクシングって知ってるか?」

 戦闘基礎は出来た。技が我流というのも間違いではない。マクベストは満遍なく基本となる型は教えてくれたが、その先は教えてはくれなかった。マクベスト本人も我流に近い戦闘技術を持っていたからというのもあるが、クロに対しては下手に自分が教えるよりも、師と仰げる人物に出会う事を願ったからだ。クロは十年間という長い時間を魔闘術の練度を上げる事と同時に見よう見まねでボクシングのシャドウトレーニングと、遠い記憶にあるボクシングマンガの必殺技や格闘技マンガの技をトレースしていた。

「未知の戦闘術見せてやるよ」

 異世界で強化された身体でマンガの技を再現する。ちょっとしたロマンだろ?と友達がここにいたら自慢したい気持ちだ。そして、その始めの一手は体を八の字に揺らしながらの攻撃だった。
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