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第二章 立志編
第45話 闇の酒場にはロリフェイスの殺し屋が似合う
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「ここだな……」
クロとカインは裏ギルドの建物の前までやってきていた。ギルドと称しているが、見た目は酒場というかそのまんま酒場だ。
カインは心なしか緊張しているようで身体が硬直しているように見える。
ドカッ!
「痛っ! 何すんだよクロ!?」
「何を緊張してるんだよ」
「だってよぉ……ここに残りの四天王が集まってんだろ?」
「はぁ……カイン、お前もう帰れ」
「なっ!」
「そんなにガチガチな奴を連れて行くのは無駄だし、邪魔だ」
よく見るとカインの手は若干震えていた。それも致し方ない。身体を鍛え上げ、修羅場をくぐったとはいえまだ十代。今から会いに行くのは帝都の裏社会を牛耳っている格上の悪者達で、常に死の匂いが足音を立てて行進しているような場所なのだから。
「俺は!」
「帰れ、お前そのままなら無駄に死ぬぞ」
「くっ!」
カインは何も言い返せなかった。意気揚々とクロの盾になる為に着いてきたのに、いざ現場へ到着すると足が思うように動かなくなってしまった。常日頃から自分はクロの右腕だとか懐刀だとか盾だと周りに豪語し、いつでも死ぬ覚悟があると思っていた自分が恥ずかしくてしょうがなかった。
「クロ、俺は……!!」
「やれる事をやればいいんだ、マリエラの言葉に振り回されるな。俺達はもう自由なんだよ」
マリエラの遺言はクロ以外の四人に大きな影響力を与えていた。盲目的に戦闘をし、人を殺す生活する事が日常化していた四人は漠然と生きていて、将来の展望などなかった。
生きる意味を自分で見つけるには時間が必要で、それを見越してマリエラは指示を出したのだろう。クロにとっては十年一緒に過ごし、家族のように思える四人を見捨てる事は出来ず、居場所を作るために最善を尽くしているだけで、心情的にはカインに自分のために死ねとは言えないし言いたくないのだ。
「俺はまだこの中に入る資格がないみたいだな」
「気にするな、無駄に命を散らす決断をするよりその選択は勇気のいる事だ」
「けど! ここで待つ! だから無事に帰ってきてくれ……」
カインは涙を流し自分の弱さを恨んだ。拠点に帰らずここに留まるのは男としての意地だった。
「話し合いをするだけだ」
クロはそう言うと背中を向け手を振りながら酒場へ入って行った。
中へ入ると酒盛りをしている者達の視線がクロに集まる。
「おいおい、ここはガキが来るところじゃねえぞ!」
「おい坊主! ここにはミルクは置いてねぇぞ? 早くお家に帰ってママのミルクを飲んで寝てろよ! ギャハハハ!」
テンプレのような煽りを無視してカウンターの中にいるマスターのような人物に向かって歩き出すと、柄の悪い男三人に囲まれた。
「おい! 聞こえなかったのか? ガキが!」
「帰る前に金置いてけよ? ギャハハ!」
「一丁前に武器持ってるじゃねえか! どこで拾ったおもちゃだ? 俺が貰っといてやるよ!」
「ふっ」
クロはひとり一人の顔を見て鼻で笑う。
「あん? 生意気なやつだなぁ?」
「お仕置きしちゃうか~? ギャハハ!」
「ほらその武器よこせよ!」
シュッ!
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ腕がぁぁぁぁぁぁ」
武器を取ろうとした男の腕が床に落ち、クロに絡んだ残りの二人の顔が青ざめ後退りをした。
「ギルド長の客……雑魚……死にたい……?」
「り、リンリンさん……俺らは別に!」
「なに……?」
「い、いえ! 何もないですごめんなさい!! ほ、ほら? 行くぞ!!」
「お、俺の腕が……ぐぅぅぅ」
「そんなもん、誰かにくっつけてもらえよ!」
絡んできた男達は逃げるように酒場を出て行った。
「本当に来たんだ……あなたバカなの……?」
「人の事呼び出しといてバカとはひどい言いようだな」
このリンリンと呼ばれていた女は懺蛇の拠点に侵入してきた殺し屋の一人だった。灯りのある部屋で改めて見ると顔は幼く、年齢は同じくらいだろう事に驚く。
「こっち……」
リンリンに案内されカウンター横にあるドアの中に入る。長い廊下の先の部屋に四天王が集まっているのだろう。
「足音がしないな? どういうカラクリだ?」
先行して歩くリンリンからは足音がしない。暗殺術の一つだろう。クロはこれから死闘になるかもしれない場所よりリンリンに興味がわく。
「…………」
「無視かよ」
「……知る必要ない……あなたはもう死ぬんだから……」
「じゃあ生きてまた会ったら教えろよ?」
「……変な人……死ぬ未来は変えられないのに……」
「死ぬのが前提なのは看過できないな」
クロが立ち止まり殺気を放つと小太刀を抜いたリンリンが振り返り戦闘体勢に入るが、その瞬間にリンリンの首元に手刀を放ち寸止めをした。
「お前は今死んだぞ? でも生きてる未来がある」
「……どういう意味……?」
「俺の気分しだいで未来は変えられるって事だ」
「……傲慢」
「それはお前の雇い主も同じだろ」
「……あなた名前は……?」
「クロだ」
「……クロダ……?」
「クロ! どんな間違いだよ」
「……クロ……覚えた……私はリンリン……」
「良い子だリンリン」
「……必ず殺す……」
「悪い子だったか」
ロリフェイスの暗殺者の殺すリストに刻まれてしまった。
「……ここ……入って……」
クロはノックをせず、蹴破るようにドアを開け中は入る。
「躾のなってない小僧だな」
「このスラムに躾なんて言葉ありましたっけ?」
部屋の中には獣人の男と眼帯を付けた貴族のような男が左右のソファに座りその後ろにそれぞれの護衛が剣を抜きクロを睨み構えていた。
中央のソファには白髪の老人が笑みを浮かべ座っている。
「ようこそ懺蛇のクロさんとやら」
どうやらこの老人が裏ギルド長であり、暗殺者集団の長であり闇区画を牛耳る首領ボンのようだ。
クロとカインは裏ギルドの建物の前までやってきていた。ギルドと称しているが、見た目は酒場というかそのまんま酒場だ。
カインは心なしか緊張しているようで身体が硬直しているように見える。
ドカッ!
「痛っ! 何すんだよクロ!?」
「何を緊張してるんだよ」
「だってよぉ……ここに残りの四天王が集まってんだろ?」
「はぁ……カイン、お前もう帰れ」
「なっ!」
「そんなにガチガチな奴を連れて行くのは無駄だし、邪魔だ」
よく見るとカインの手は若干震えていた。それも致し方ない。身体を鍛え上げ、修羅場をくぐったとはいえまだ十代。今から会いに行くのは帝都の裏社会を牛耳っている格上の悪者達で、常に死の匂いが足音を立てて行進しているような場所なのだから。
「俺は!」
「帰れ、お前そのままなら無駄に死ぬぞ」
「くっ!」
カインは何も言い返せなかった。意気揚々とクロの盾になる為に着いてきたのに、いざ現場へ到着すると足が思うように動かなくなってしまった。常日頃から自分はクロの右腕だとか懐刀だとか盾だと周りに豪語し、いつでも死ぬ覚悟があると思っていた自分が恥ずかしくてしょうがなかった。
「クロ、俺は……!!」
「やれる事をやればいいんだ、マリエラの言葉に振り回されるな。俺達はもう自由なんだよ」
マリエラの遺言はクロ以外の四人に大きな影響力を与えていた。盲目的に戦闘をし、人を殺す生活する事が日常化していた四人は漠然と生きていて、将来の展望などなかった。
生きる意味を自分で見つけるには時間が必要で、それを見越してマリエラは指示を出したのだろう。クロにとっては十年一緒に過ごし、家族のように思える四人を見捨てる事は出来ず、居場所を作るために最善を尽くしているだけで、心情的にはカインに自分のために死ねとは言えないし言いたくないのだ。
「俺はまだこの中に入る資格がないみたいだな」
「気にするな、無駄に命を散らす決断をするよりその選択は勇気のいる事だ」
「けど! ここで待つ! だから無事に帰ってきてくれ……」
カインは涙を流し自分の弱さを恨んだ。拠点に帰らずここに留まるのは男としての意地だった。
「話し合いをするだけだ」
クロはそう言うと背中を向け手を振りながら酒場へ入って行った。
中へ入ると酒盛りをしている者達の視線がクロに集まる。
「おいおい、ここはガキが来るところじゃねえぞ!」
「おい坊主! ここにはミルクは置いてねぇぞ? 早くお家に帰ってママのミルクを飲んで寝てろよ! ギャハハハ!」
テンプレのような煽りを無視してカウンターの中にいるマスターのような人物に向かって歩き出すと、柄の悪い男三人に囲まれた。
「おい! 聞こえなかったのか? ガキが!」
「帰る前に金置いてけよ? ギャハハ!」
「一丁前に武器持ってるじゃねえか! どこで拾ったおもちゃだ? 俺が貰っといてやるよ!」
「ふっ」
クロはひとり一人の顔を見て鼻で笑う。
「あん? 生意気なやつだなぁ?」
「お仕置きしちゃうか~? ギャハハ!」
「ほらその武器よこせよ!」
シュッ!
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ腕がぁぁぁぁぁぁ」
武器を取ろうとした男の腕が床に落ち、クロに絡んだ残りの二人の顔が青ざめ後退りをした。
「ギルド長の客……雑魚……死にたい……?」
「り、リンリンさん……俺らは別に!」
「なに……?」
「い、いえ! 何もないですごめんなさい!! ほ、ほら? 行くぞ!!」
「お、俺の腕が……ぐぅぅぅ」
「そんなもん、誰かにくっつけてもらえよ!」
絡んできた男達は逃げるように酒場を出て行った。
「本当に来たんだ……あなたバカなの……?」
「人の事呼び出しといてバカとはひどい言いようだな」
このリンリンと呼ばれていた女は懺蛇の拠点に侵入してきた殺し屋の一人だった。灯りのある部屋で改めて見ると顔は幼く、年齢は同じくらいだろう事に驚く。
「こっち……」
リンリンに案内されカウンター横にあるドアの中に入る。長い廊下の先の部屋に四天王が集まっているのだろう。
「足音がしないな? どういうカラクリだ?」
先行して歩くリンリンからは足音がしない。暗殺術の一つだろう。クロはこれから死闘になるかもしれない場所よりリンリンに興味がわく。
「…………」
「無視かよ」
「……知る必要ない……あなたはもう死ぬんだから……」
「じゃあ生きてまた会ったら教えろよ?」
「……変な人……死ぬ未来は変えられないのに……」
「死ぬのが前提なのは看過できないな」
クロが立ち止まり殺気を放つと小太刀を抜いたリンリンが振り返り戦闘体勢に入るが、その瞬間にリンリンの首元に手刀を放ち寸止めをした。
「お前は今死んだぞ? でも生きてる未来がある」
「……どういう意味……?」
「俺の気分しだいで未来は変えられるって事だ」
「……傲慢」
「それはお前の雇い主も同じだろ」
「……あなた名前は……?」
「クロだ」
「……クロダ……?」
「クロ! どんな間違いだよ」
「……クロ……覚えた……私はリンリン……」
「良い子だリンリン」
「……必ず殺す……」
「悪い子だったか」
ロリフェイスの暗殺者の殺すリストに刻まれてしまった。
「……ここ……入って……」
クロはノックをせず、蹴破るようにドアを開け中は入る。
「躾のなってない小僧だな」
「このスラムに躾なんて言葉ありましたっけ?」
部屋の中には獣人の男と眼帯を付けた貴族のような男が左右のソファに座りその後ろにそれぞれの護衛が剣を抜きクロを睨み構えていた。
中央のソファには白髪の老人が笑みを浮かべ座っている。
「ようこそ懺蛇のクロさんとやら」
どうやらこの老人が裏ギルド長であり、暗殺者集団の長であり闇区画を牛耳る首領ボンのようだ。
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