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第二章 立志編

第41話 魔王一家リターンズ

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「スフィアちゃん!! これおいしいよ!?」

 炎帝スフィア・エル・ガルガランドは魔王城へ帰ってきていた。そして、娘LOVEの魔王オルトはあらゆる手を変え品を変えご機嫌取りに必死だった。

「うっとうしい!!」

「それがパパの愛だよスフィアちゃん!!」

 魔王オルトはへこたれない。魔族に古くから伝わる例えでお腹を刺されても痛くないという言葉がありまさにそれだ。因みに子供を産む痛さは、ツノを折られそこに深淵魔法を叩き込まれたくらいの痛さらしい。

「ねえパパ? の居場所!! 見つかった?」

 スフィアはクロ(クロウ)の村までは辿り着けたが村は廃村となっており、クロの代わりに山賊が住み着いていた。
 能動的に山賊を蹂躙し、最後の一人から手がかりを得たが土地勘もなければ情報の収集の方法も分からず途方にくれ、しばらく考えて出た結論が "誰かに調べさせればいい" だった。

「蒼穹の叡智? はて?」

 魔族で最高諜報機関といえば父である魔王に頼むのが最適解だったが、魔王オルトはのらりくらりと躱し協力的ではなかった。それも当然でスフィアを手元に置いておきたい魔族オルトが人族のそれも男がいるかもしれないから探せと言われて面白いはずがない。

「ちっ! セバ!」

「スフィアちゃん、今は父と娘の大切な時間だよ? 誰もここには来ないよ」

 セバとは魔王オルトの執事で名をセバ・スチャンという。高齢の吸血族の男で、魔王オルトが産まれてからずっとそば使いとして働いている。

「兄様達は? いつもなら鬱陶しいくらい絡んでくるけど何でいないの!」

「はっはっはっ! あいつらはスフィアちゃんを探しに人族の領地に行ってから帰って来ないよ」

 親バカと兄バカ。家族に寵愛されても、反抗期を迎えたスフィアにはウザさMAXで、全員魔族の中で最高峰の能力を持っているため上級魔法を何度打ち込んでも平然としている。そんな環境が嫌で何度も家出を敢行しているが結局家に出戻ることになってしまう。
 スフィア捜索は魔王オルトにとって最重要案件なので、その間はあらゆる業務を放棄して全力を尽くす。今回は予想を超えてスフィアの能力が上がっていた為に後手に回り苦労していたが、自分から戻ってきたのでテンションアゲアゲになっている。

「スフィアちゃん、しばらくこの部屋からでちゃダメだよ?」

「インフェルノフレア」

 シュンっ!

「!?」

 スフィアの放った上級魔法が一瞬で掻き消える。

「ダメだよスフィアちゃん、こんなところで上級魔法なんて放ったら! パパ火傷しちゃうじゃないか! スフィアちゃんの魔法なら火傷しても痛くないからいいんだけどね!」

 魔王オルトは歴代最強の魔王である。スフィアが放った魔法が掻き消えたのも魔王の力によるものだ。

「化け物め……」

「ひどいなぁ……パパ傷ついちゃうよ……」

 魔王オルトはスフィアから暴言を受けると、体操座りをしながら指で床を弄りなチラチラ様子を伺う。

「はぁ……」

「スフィアちゃんその蒼穹の叡智とやらの情報はすぐにでも取り掛かってあげなくもないよ?」

「本当に!?」

「本当さ! パパはすごいんだよ? 嬉しい? ねえ? 嬉しい?」

 ちょっとウザいがここで乗せてあげれば情報が手に入る。

「嬉しい! パパ大好き!」

「ハァァァァァ♡ パパ幸せ♡」

 昇天しかけた魔王オルトの顔が真顔になる。

「ただ、そんな簡単に情報を渡すわけにはいかないよ?」

「けちっ!」

「スフィアちゃん契約しようじゃないか」

「契約?」

「そう! パパとしても娘の頼みを無碍にするのは心苦しいからね」

「どんな契約?」

 父としての威厳というより娘に好かれるために出た魔王オルトなりの譲歩だ。

「そうだなぁ……肩たたきと、あと城下でデートでしょ、それに溜め込んだスフィアちゃんの為に買ってある衣装でファッションショーでしょ! あとは……やっぱり一緒にお風呂に入ってからお布団で一緒に寝るのを50年くらいかな」

「死ね! 長い! 変態! 死ねぇぇぇ!」

「はうっ!」

 上級魔法魔法を顔に連発したが、魔王オルトの顔が焦げた程度にしか効果はなかった。

「もういい!」

「ちょっ! スフィアちゃんどこに行くの!?」

「うるさい! 死ね!」

 部屋を飛び出したスフィアは再び人族の領土へ旅立って行った。

「スフィアちゆあああぁぁぁぁぁぁんっ!」

 魔族領に魔王オルトの叫び声が響き渡り、文官達は仕事量が増える事を覚悟するのであった。
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