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第二章 立志編
第34話 聖女エリーナ
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リュウシンに女帝への面会打診を頼むとまだ教会へ行った事がない事に気付く。教会の周囲での揉め事は御法度という暗黙のルールはスラムの中においては異常だ。その理由は確かめに教会へと足を運んでみる事にした。
「クロの兄貴! お疲れ様です!」
「クロどこに行くんだ?」
「ちょっと教会に行こうと思ってな」
「じゃあ、ついて行くよ」
カインは護衛として常に傍に居てくれる。それが煩わしい時もあるけれど矢面に立ってヘイトを稼いでくれるので感謝はしている。
「いや、ちょっと散歩に行くだけだからいい」
「でもよう!」
「大丈夫だ、あそこは武器の携帯は不可だしな」
「あ~まあ、俺みたいな血生臭い野郎が行く場所ではないな」
カインは手を上げ、周囲の者は恭しく頭を下げて見送る中、教会方面へと歩き出す。
「クロさん! これからどちらへ? 昼間から出歩くのは珍しいですね?」
話しかけてきたのは食堂を営んでいるホルンだった。ホルンは親の代からスラム街で食堂を営んでいたが、経営難で傾きかけていた。味はどんなものかと足を運んでみれば素朴で温かみのある家庭料理の味ですぐに気に入った。
「売り上げの方はどう?」
「クロさんのおかげで大繁盛です! あっ! 借りたお金の利息も含めて今月分はなんとかなりそうです」
クロはこの味を失うのは勿体無いと思い資金と融資を申し出た。もちろん慈善事業では。経営指南と借金の返済には利息もちゃんと頂く。
しかし、金の成るところにはよからぬ輩がやってくるのは常である。そこで、後ろ盾になる事で月の売り上げの5%をさらに徴収する契約をした。お互い納得した上での契約なので決して理不尽な取り立てはしない。現在、そういった店が複数店あり主な収入源となっている。
「売り上げは直接持ってくるようにしてくれ」
「はい! もちろんです!」
取り立てには直接行かない。人相の悪い連中が店に出入りすると雰囲気が悪くなり、最悪の場合客足が遠のく。そんな事になれば回収も出来なくなり共倒れになってしまう。
寂れていたスラム街も居住区画に限っては活気が戻りつつあり、治安も安定してきていた。
クロが歩けばそこら中の店から声がかかり中々前に進むことが出来ないので、昼間に出歩くのは極力避けていた。
「クロの旦那!」
「クロさん! 寄っていきませんか?」
「クロのお兄ちゃん!」
その一つひとつに手を上げ挨拶をかわす。区画を抜けると両手には色々と渡されたお土産で一杯になってしまった。
困ったと思いつつも悪い気はしていない。
「ここが教会か……」
決して立派とは言えないが大きな敷地を有しており、畑もあり孤児達が最低限の自給自足を行なっている。もちろんそれだけでは足りないので寄付に頼っている。
「何か御用でしょうか?」
教会に一歩踏み出すと美しくも儚げな少女が出迎えてくれた。
「あ~最近居住区画に住み始めた者だよ。教会にはまだ来ていなかったからお祈りでもしようかとね」
「まあ、そうでございましたか。ではこちらにどうぞ……」
促されるように教会の中へ案内され、この世界が崇める神像の前に立たされる。
「こちらが創造の神であらせられるデニス様です」
こいつが俺をこの世界によこした神なのかと、半ば睨みながら対峙していると。
「あ、あのう……どうかなさいました?」
「あぁ、申し訳ない。神には祈った事がなくてね? どうしたものかと」
「まあ! そうでしたの? デニス様はとてもお優しい方なのでお祈りの形については寛容です。なので自分なりのお祈りをされるとよろしいと思いますよ」
「形式にこだわらない神か……適当だな神」
「はい?」
「君の名前は? あ~俺はクロという」
「クロ様ですか、はじめまして私はこの教会でシスターをしているエリーナと申します」
これが聖女エリーナとクロの運命の出会いだった。
「クロの兄貴! お疲れ様です!」
「クロどこに行くんだ?」
「ちょっと教会に行こうと思ってな」
「じゃあ、ついて行くよ」
カインは護衛として常に傍に居てくれる。それが煩わしい時もあるけれど矢面に立ってヘイトを稼いでくれるので感謝はしている。
「いや、ちょっと散歩に行くだけだからいい」
「でもよう!」
「大丈夫だ、あそこは武器の携帯は不可だしな」
「あ~まあ、俺みたいな血生臭い野郎が行く場所ではないな」
カインは手を上げ、周囲の者は恭しく頭を下げて見送る中、教会方面へと歩き出す。
「クロさん! これからどちらへ? 昼間から出歩くのは珍しいですね?」
話しかけてきたのは食堂を営んでいるホルンだった。ホルンは親の代からスラム街で食堂を営んでいたが、経営難で傾きかけていた。味はどんなものかと足を運んでみれば素朴で温かみのある家庭料理の味ですぐに気に入った。
「売り上げの方はどう?」
「クロさんのおかげで大繁盛です! あっ! 借りたお金の利息も含めて今月分はなんとかなりそうです」
クロはこの味を失うのは勿体無いと思い資金と融資を申し出た。もちろん慈善事業では。経営指南と借金の返済には利息もちゃんと頂く。
しかし、金の成るところにはよからぬ輩がやってくるのは常である。そこで、後ろ盾になる事で月の売り上げの5%をさらに徴収する契約をした。お互い納得した上での契約なので決して理不尽な取り立てはしない。現在、そういった店が複数店あり主な収入源となっている。
「売り上げは直接持ってくるようにしてくれ」
「はい! もちろんです!」
取り立てには直接行かない。人相の悪い連中が店に出入りすると雰囲気が悪くなり、最悪の場合客足が遠のく。そんな事になれば回収も出来なくなり共倒れになってしまう。
寂れていたスラム街も居住区画に限っては活気が戻りつつあり、治安も安定してきていた。
クロが歩けばそこら中の店から声がかかり中々前に進むことが出来ないので、昼間に出歩くのは極力避けていた。
「クロの旦那!」
「クロさん! 寄っていきませんか?」
「クロのお兄ちゃん!」
その一つひとつに手を上げ挨拶をかわす。区画を抜けると両手には色々と渡されたお土産で一杯になってしまった。
困ったと思いつつも悪い気はしていない。
「ここが教会か……」
決して立派とは言えないが大きな敷地を有しており、畑もあり孤児達が最低限の自給自足を行なっている。もちろんそれだけでは足りないので寄付に頼っている。
「何か御用でしょうか?」
教会に一歩踏み出すと美しくも儚げな少女が出迎えてくれた。
「あ~最近居住区画に住み始めた者だよ。教会にはまだ来ていなかったからお祈りでもしようかとね」
「まあ、そうでございましたか。ではこちらにどうぞ……」
促されるように教会の中へ案内され、この世界が崇める神像の前に立たされる。
「こちらが創造の神であらせられるデニス様です」
こいつが俺をこの世界によこした神なのかと、半ば睨みながら対峙していると。
「あ、あのう……どうかなさいました?」
「あぁ、申し訳ない。神には祈った事がなくてね? どうしたものかと」
「まあ! そうでしたの? デニス様はとてもお優しい方なのでお祈りの形については寛容です。なので自分なりのお祈りをされるとよろしいと思いますよ」
「形式にこだわらない神か……適当だな神」
「はい?」
「君の名前は? あ~俺はクロという」
「クロ様ですか、はじめまして私はこの教会でシスターをしているエリーナと申します」
これが聖女エリーナとクロの運命の出会いだった。
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