死因研究所

Primrose

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騙し絵

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 小鳥がさえずり、空が青く澄みわたる中。
 裏路地の住人、白雪紅葉は、毎朝コンビニで買った新聞を読みながら、朝のコーヒーを嗜んでいた。
『有名歌手が結婚』
『政治家の汚職事件』
 ありふれたニュースには、紅葉は関心を抱かない。
 唯一彼女が肝心を抱くのは、殺人のニュースのみ。
『36歳男性、ビルの屋上から転落か』
 彼女は殺人のニュースに関してのみ、異様な関心を示す。
 死因、犯人像、犯行現場の描写。何から何まで彼女は目を通し、そして想像する。
(ああ、この現場はどんなに美しかったのだろう)
 彼女は殺人に対して異様な美意識を感じており、その性格も相まって『死因研究所』に属することになったのだ。
 死因研究所とは、『死を望む人間に理想の死を与える』という事を主な業務とする裏の組織の一つである。
 紅葉の住んでいるマンションの一室にも、電源装置、拳銃、毒薬に爆薬まで、様々な凶器が置かれている。死因研究所は様々な死に方を求められるため、こういった器具は充実しているのだ。
 さらに事後処理要員も用意されており、戸籍謄本の削除から死体の処理まで、彼らが事後処理を完璧に行ってきたおかげで、今まで彼女達の活動が明るみに出る事も無く活動を続けられた。
 今日もマンションのインターホンが、依頼人の訪れを告げる。
「はい」
「あの、死因研究所はここですか?」
 スーツを着た男性が、インターホン越しに尋ねる。
 それを聞いた紅葉は、妖艶な笑みを浮かべながら答えた。
「はい、死因研究所はこちらです」

 紅葉は男性を室内に招くと、早速仕事の話に入る。
「それで、まずはお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
 紅葉はソファに座りながら、正面の男性に基本情報を尋ねる。
「はい、名前は佐藤健介。サラリーマンをやっています」
 健介は自己紹介をしながら、社交辞令として名刺を差し出す。
「株式会社佐藤、これって、昨日の転落事故のあった?」
 紅葉の質問に、健介は居心地が悪そうにしながら答えた。
「ええ、自分はその会社の部長をやっておりまして・・・」
 確かに、名刺にも『営業部長』と書かれているし、会社名からもそれは伺える。
 スーツも上等で整った身なりをしている。だが、その容姿には一つだけ違和感があった。
「貴方、人を殺して自分も死のうとしていますか?」
 紅葉の言葉に、健介は驚いた顔をする。
「な、何のことですか? 自分は何も・・・」
「私に隠す必要はありませんよ。?」
 紅葉の言葉に、健介は肩を震わせる。
 声も震え、額から汗も流れている。
「そ、それは・・・」
「貴方の靴に、赤い血が付いています。見たところ、約10時間ほど前ですかね? 職業柄、血液の状態には詳しいので」
 健介の靴の縁には、赤黒い跡が残っていた。丁度、流れた血を踏んだような跡が。
 紅葉が説明し終わる頃には、健介は黙り込んでしまった。
「まあ、依頼人の過去はあまり興味が無いので良いですけど」
「・・・申し訳なかったんだ」
 紅葉が要望書を取りに行こうと席を立った時、健介が口を開いた。
「屋上で話をしていた時、ついカっとなって殺してしまった」
 健介hあ、なぜ自分が人を殺めたのか話し始めた。

『なあ、いい加減この給料で皆を働かせるのは止めてくれ』
『いや、こっちにも問題ってものがあるんだよ』
『それならもっと待遇を変えるとかを考えて・・・』
『だから無理だって言ってるだろ!?』
『それでもなんでこうなったかとかを話すとかあるだろ‼』
『こっちだって仕方ないんだよ‼ 社長にも同じことは言ったさ。けど話を聞いてくれすらくれなかったんだよ。社長が反対すれば何も出来ないんだよ』
『・・・なら告発する』
『は?』
『労基に告発すれば、少しはマシになるさ』
『止めろ、この会社の状態を分かっているのか? ほぼ確実に会社は倒産する‼』
『このままじゃ過労死する人間だって出るんだ、いい加減行動を起こせ‼』
『うるさいんだよお前は‼ 何度も無理だって言ってるだろ‼』
『お、おいよせ・・・』

 
「なるほどね。そんな事があったんですね」
「ええ、それで嫌になって、ここに来たんです」
 健介は項垂れながら打ち明けた。
 それを聞いた紅葉は、そこまで興味が無いという反応をしながら、要望書を健介に渡した。
「では、お望みの死因を書いてください」
 健介はそれに応じ、淡々と書き連ねた。
「転落死、ですか」
「ええ、彼と同じ様に苦しんだ後、地獄に行きたいんです」
「なるほど、なら屋上に行きましょうか」

 マンションの屋上は、くだんのビルと同じくらいの高さがあった。
 健介は屋上の隅に建つと、紅葉と向き合った。
「ありがとうございます。こんなことを頼んで申し訳ありませんでした」
 健介のお礼に、紅葉はなんでもない顔をして返す。
「いいえ、これが仕事なので。じゃあ、手早く殺ってしまいましょう」
 紅葉は手袋をはめると、健介の肩に触れた。
「それでは、逝ってらっしゃい」
 紅葉が背中を押すと、健介は抵抗せずに落ちていった。
 健介はどんどん加速していき、そして地上を真っ赤に染めた。
 それを確認すると、紅葉は電話で依頼をする。
「それじゃあ、お願いします」
『ああ、綺麗にしておくよ』
 お互い端的に話すと、紅葉は電話を切ってマンションの部屋に戻った。
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