Battle Field Town

Primrose

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恐怖

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『今から皆さんには、殺し合いをしてもらいます』
 アルファ・インダストリーの社長は、街頭モニター越しにそう言った。
 正直、最初はドッキリか何かだと思った。
 でもその後の社長の行動で、嫌でもそれが本当の事だと理解した。
『これだけではどういうことか分からないと思うので、見本を見せましょう』
 社長が合図すると、背後の壁が透明に透き通り、ガラスの様になっていった。
 それだけなら驚かないが、その先にある景色には、流石に絶句した。
 そこには二人の男がが立っており、二人とも銃を持っていた。
『さあ二人とも、勝った人はここから出すと保証しますので』
『んな事出来るかよ‼ さっさと出せ‼』
 二人のうちの一人、ガタイの良い大男が、辺りを見渡しながら怒鳴った。
『本当に、あの人を殺したら、ここから出、出られるんですよね』
『ああ、それは保証しよう』
 対してもう一人、やせ形の男は、他人を殺すことに躊躇いが無いのか、社長の返答を聞くと銃口を前に向けた。
 それを見た男動揺しながらも、やせ型の男をなだめる。
『落ち着け、ここで本当に俺を殺しても、ここから出られるという保証は・・・』
『君を殺して確かめるさ‼』
 やせ型の男は引き金を引いて、大男を赤く染める。
 それから数秒すると、社長が拍手と共に、男の居る部屋に移動した。
『素晴らしい、よくやってくれました。それじゃあ、約束通り君は開放しましょう』
『ああ、ありが・・・』
 男が感謝を述べ終わる前に、社長が銃を素早く取り出し、男を黙らせてしまう。
『まあ、無事にとは言っていませんがね。ああ、これから参加するみなさんはもちろん無事に返しますよ。相手を殺したら、ですが』
 社長は笑顔でそう言うと、銃をしまって元の部屋に戻った。
『それでは、このゲームのルールについて説明しましょう』
 その言葉から始まった、『ゲーム』とやらのルールはこうだ。

1・プレイヤーはランダムに選ばれるローズシティの住人
2・武器は事前に用意されたものを使う
3・ゲーム中に限り、プレイヤーは法律が適用されなくなる
4・ゲームの参加拒否をすると、24時間以内に処刑される
5・この街の住人は、この街から出ることは出来ない

 主なルールはこの五つ。
 どうやら交通機関の隔離や街境に建っている壁はこれが理由らしい。
 それを聞いていた周りの人間が悲鳴や混乱に飲まれる中、俺は冷静に思考を巡らせていた。
 街に出られない、これは恐らく監視カメラとスマートウォッチのGPSで判定しているのだろう。この端末を外しても、同じく搭載されているヘルスケアアプリが反応するのでバレてしまう。それに外すのに成功しても、監視カメラの大群から逃れるのは不可能だろう。
 そもそも、彼はなぜこんな事をしたのだろう?
 日本政府主導の実験都市でこんな事・・・まさか、日本政府も関わっている? けど、何のために政府が殺し合いをさせるんだ? そもそも、赤の他人に殺し合いをさせて何の得があるのだろう。
『初戦は翌日の15時からです。プレイヤーは事前に連絡させてもらいますので。それではみなさん、また明日』
 その言葉を最後に、街頭モニターは闇を映して動かなくなった。
 俺は周囲に悲鳴と混乱が渦巻く中、ドローンで足早に帰宅した。

 翌日、俺は何事も無く起床した。
 あんな事があったと言うのに、空は美しく澄み渡っている。
 あの街頭モニターの映像は、街中のテレビや端末で放映されたらしく、住民の全員が自分たちが殺し合いのターゲットになっていると知ったようだ。
 そして社長は、今日の15時からゲームが始まると言っていた。
 つまり9時間後、もしかしたら俺が選ばれるかもしれない。500人の内の2人という低確率ではあるが、その内選ばれるのは確実だ。
 つまり、必ず誰かを殺す必要があるという事。
 正直、あの時のやせ型の男の様に、初対面の人間を手にかける事自体は、正直抵抗はない。
 初めて出会った人に情けをかける必要性も感じないし、殺されるかもしれないという恐怖も無い。
 あの時から、俺は恐怖心が欠落してしまったのだ。あれ以来、恐怖を感じた事が無い気がする。というより、あの出来事より恐怖を感じた事は無い。
 何があったのかと聞かれれば、まあ端的に言って母親に殺されかけたのだ。
 父は俺が産まれる前に死んでしまい、母はそのストレスからか酒に溺れてしまった。
 そのせいで、酒に酔って俺に暴力を振るうこともしばしばあった。
 それが日常的にあったせいで、俺は日に日に恐怖感や危機感が崩れていった。
 そして8年前、母は俺に包丁を向けた。
 いつも通り暴力に耐えた後、その日だけは、あの人は俺に包丁を向けて振り回してきた。
 当時12歳だった俺と、酒に酔っているとはいえ体格の大きい大人だ。しかも狭いアパートの一室。逃げられる訳がなかった。
 その内母に腕を掴まれ、銀色の牙が振り下ろされた。
 それは俺の腹に吸い込まれ、服が赤く染まっていった。
 この時だけは、命に危機を感じた。
 包丁が触れた部分に焼けたような激痛が走り、俺はその場でうずくまった。
 その後、騒音を聞き取った隣の住人が呼んだ警察に母は連れていかれ、俺は救急車で病院に担ぎ込まれた。
 その時はなんとか一命を取りとめたが、医者曰く『生きているのが不思議なくらいの傷』との事。
 傷は今でも俺の腹に残っており、醜い傷跡が腹に刻まれている。
 この傷は俺の唯一の恐怖心として、俺の心と体を蝕み続けてきた。
 だがそれは、今の様な状況には役立つのかもしれない。
 恐怖に飲まれずに冷静に、そして冷酷に事を済ませる事が出来る能力。これが、俺の唯一の武器だ。
 この武器を使って、俺は何としてもこの街から出る。そして、この出来事を元に小説を書くのだ。
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