魔女の店通りの歩き方

川坂千潮

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よき魔女、わるい魔女

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 魔女問答は不真面目に終わる。
 信憑性もあったものじゃない、結論が出なくても、魔女たちは気にしない。
 男の恋が真実でも、でっち上げでも、魔女にとっては一時の手慰みだ。

「私がわるい役に憧れたのは、おばばの影響ね」

 美花が言った。

「おや、わしのせいか?」
「だって、おばばが素敵なんだもの」

 美花は純朴な村娘よりも、異国の姫よりも、理知的で、火炙り目前の魔女として舞台に立ちたがった。
 そもそも美花がバレエを習い始めたきっかけも、白鳥の湖のオディールのグランフェッテに一目惚れしたからだ。
 光沢のある黒い衣装で現れた黒鳥は、左下肢の爪先でしゃんと立ち、腕から手首までしなやかに曲げ伸ばししながら回転する。軽やかな音楽に合わせて回る速さも調整していた。完璧な作り笑いと流し目が、妖艶な悪魔の娘の仮面だった。

「もちろんプリンシバルは目標だけど、夢は最高の悪女よ」

 帽子で美花の顔が陰り、弧を引いた口元だけがはっきりと浮かんでいる。
 クラシックバレエ作品である白鳥の湖で、王子を誘惑した悪魔の娘オディールも、こんな黒を纏っているかもしれない。
 美花はまだ、オデット役も、オディール役もつかめたことはない。

「性格悪いのと悪女は別だからな?」
「おばば、自分が性格悪いってわかってるんだ」
「瑠衣、生意気な孫にはお小遣いやらんぞ」
「ごめんなさい」
「……言っておくがな、他の店通りの長には性格良い奴もいるぞ」
「性格良い魔女?」
「ああ、善き魔女だ、むやみに孫たちをほうきで飛ばさせないし、不審な輩を見つけたらすぐさま警察に通報する」
「真面目だわ」

 瑠衣も美花もびっくりした。この店通りでは考えられない対処法だ。
おばばの魔法が強大なこともあり、通りで厄介事が起きてもほとんど外部に頼らず解決してしまうのだ。

「わし個人がどうこう言われるのは構わんが、魔女の長全員がそうだと思われたら困る、あやつらの顔に泥を塗るわけにはいかないからな」
「そっかあ、他の長は、東の国に飛ばされたドロシーをちゃんと故郷に帰してくれる善い魔女なのね」
「失礼だな、あたしだって迷子は帰してやるぞ」
 瑠衣と美花は他の店通りに行ったことがない。興味はあるが、顔見知りも多く、店主たちとも親しくしている馴染みの通りに足を運んでしまうのだ。
「興味あるならそのうち行ったらいい、案内ならしてやるぞ、旨いラーメン屋があるんだ」
「おばば、食べたいだけでしょ」
「孫と一緒に食べた方が旨いだろう」

 魔女の長はなんのかげりもなく笑った。

「うーん」

 せっかくのおばばの誘いに、瑠衣と美花はなやましげだ。

「他の通りだと空を飛ぶの禁止なんだよね?」
「ちょっと落ち着かないかもしれないわ」
 愛用のほうきを握りしめる孫二人。
「自由にさせすぎたか……?」
おばばは、少しくらいルールを決めるべきか頭を掛けてしまった。
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