5 / 14
表の店と裏の店
しおりを挟む
魔女の通りにはいくつかオブジェが設置されている。黒猫像、鴉像、梟像といった使い魔の像が多い。
少年少女たちにとっては待ち合わせ場所に便利だ。
通りはほぼ一本道の街路だが、裏道に、店と店の影の中で看板を灯す商いもある。店の外観は様々だ。昔ながらが過ぎてぼろ同然のもの、教会のように神聖なもの、傾いた看板をちっともなおさない店もある。
少年少女がひやかしどころか覗きすらはばかられる、魔法に精通した店主。彼らを頼りにする商人や依頼人は現代でも多い。
オブジェはそういった店の道しるべにもなっている。
瑠衣の使い魔は鴉で、名はシュロ。今はほうきに乗った魔女たちよりも高く空を悠々と飛んでいる。
二人きりだとすり寄ってくるのだが、外に出るとあまり傍にいてくれない。主の魔女といつでも一緒にいるのが恥ずかしいらしい、格好つけなのだ。
とはいえ呼べばすぐにやってきて瑠衣の肩にとまるので、別段困ってはいない。
瑠衣は黒猫像の前で降りた。空では彼女と出くわさなかった。先に待っているのかと辺りを見渡すが、いない。約束の時間にはちょっと早かった。
「瑠衣ちゃん」
空からほうきにまたがった少女が急降下してきた。
地上付近で水平にほうきを停止させると、少女の着ている膝丈ワンピースがふわりとふくらんだ。
少女は裾を乱さずひらりと降り立った。
新雪が陽光に反射したような銀の髪に細長い手足、ほうきに乗っていようが、降りようが、まったく崩れない、しゃんとのびた背筋。
「飛ばすと危ないよ、美花」
「ごめんね、瑠衣ちゃんを待たせちゃったかと思って」
「全然、今来たばっかりだよ」
美花は空を見上げた。魔女たちが雲をおしのけて占領している。「歩こっか」「うん」二人で並んでのんびり進むのは、空でなくてもかまわない。
白沢美花も魔女である。
瑠衣とは同じ幼稚園で仲良くなり、美花が私立の中学校、瑠衣は公立と別れてしまった今も、たびたび会っている。
美花は幼稚園の頃からバレエ教室に通っている。
バレエの発表会には瑠衣を必ず招待し、瑠衣は一度も断ったことがない。
群舞の一人や、出番がほんのちょっとだった新人の頃から、美花は必ず瑠衣を呼び、瑠衣は必ず観劇した。
瑠衣はバレエについて詳しくない。舞台のあらすじくらいは調べて覚えるくらいだ。バレエの踊る役も主役のプリンシバルしか知らず、美花に教えてもらった。
彼女が初めてプリンシバルに選ばれた時は、誰よりも大喜びした。
少年少女たちにとっては待ち合わせ場所に便利だ。
通りはほぼ一本道の街路だが、裏道に、店と店の影の中で看板を灯す商いもある。店の外観は様々だ。昔ながらが過ぎてぼろ同然のもの、教会のように神聖なもの、傾いた看板をちっともなおさない店もある。
少年少女がひやかしどころか覗きすらはばかられる、魔法に精通した店主。彼らを頼りにする商人や依頼人は現代でも多い。
オブジェはそういった店の道しるべにもなっている。
瑠衣の使い魔は鴉で、名はシュロ。今はほうきに乗った魔女たちよりも高く空を悠々と飛んでいる。
二人きりだとすり寄ってくるのだが、外に出るとあまり傍にいてくれない。主の魔女といつでも一緒にいるのが恥ずかしいらしい、格好つけなのだ。
とはいえ呼べばすぐにやってきて瑠衣の肩にとまるので、別段困ってはいない。
瑠衣は黒猫像の前で降りた。空では彼女と出くわさなかった。先に待っているのかと辺りを見渡すが、いない。約束の時間にはちょっと早かった。
「瑠衣ちゃん」
空からほうきにまたがった少女が急降下してきた。
地上付近で水平にほうきを停止させると、少女の着ている膝丈ワンピースがふわりとふくらんだ。
少女は裾を乱さずひらりと降り立った。
新雪が陽光に反射したような銀の髪に細長い手足、ほうきに乗っていようが、降りようが、まったく崩れない、しゃんとのびた背筋。
「飛ばすと危ないよ、美花」
「ごめんね、瑠衣ちゃんを待たせちゃったかと思って」
「全然、今来たばっかりだよ」
美花は空を見上げた。魔女たちが雲をおしのけて占領している。「歩こっか」「うん」二人で並んでのんびり進むのは、空でなくてもかまわない。
白沢美花も魔女である。
瑠衣とは同じ幼稚園で仲良くなり、美花が私立の中学校、瑠衣は公立と別れてしまった今も、たびたび会っている。
美花は幼稚園の頃からバレエ教室に通っている。
バレエの発表会には瑠衣を必ず招待し、瑠衣は一度も断ったことがない。
群舞の一人や、出番がほんのちょっとだった新人の頃から、美花は必ず瑠衣を呼び、瑠衣は必ず観劇した。
瑠衣はバレエについて詳しくない。舞台のあらすじくらいは調べて覚えるくらいだ。バレエの踊る役も主役のプリンシバルしか知らず、美花に教えてもらった。
彼女が初めてプリンシバルに選ばれた時は、誰よりも大喜びした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


金字塔の夏
阿波野治
ライト文芸
中学一年生のナツキは、一学期の終業式があった日の放課後、駅ビルの屋上から眺めた景色の中に一基のピラミッドを発見する。親友のチグサとともにピラミッドを見に行くことにしたが、様々な困難が二人の前に立ちはだかる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*
gaction9969
ライト文芸
ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!
ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!
そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
拝啓、隣の作者さま
枢 呂紅
ライト文芸
成績No. 1、完璧超人美形サラリーマンの唯一の楽しみはWeb小説巡り。その推し作者がまさか同じ部署の後輩だった!
偶然、推し作家の正体が会社の後輩だと知ったが、ファンとしての矜持から自分が以前から後輩の小説を追いかけてきたことを秘密にしたい。けれども、なぜだか後輩にはどんどん懐かれて?
こっそり読みたい先輩とがっつり読まれたい後輩。切っても切れないふたりの熱意が重なって『物語』は加速する。
サラリーマンが夢見て何が悪い。推し作家を影から応援したい完璧美形サラリーマン×ひょんなことから先輩に懐いたわんこ系後輩。そんなふたりが紡ぐちょっぴりBLなオフィス青春ストーリーです。
※ほんのりBL風(?)です。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる