2 / 14
美容室【シャンベルタン】
しおりを挟む
美容院【シャンベルタン】の青い扉を開けると、〈いらっしゃい〉と扉が挨拶をしてくれた。
ひょうきんな中年男の声は、まるで遊園地のアトラクションの口上のようで、髪を切るのを楽しみにしている客をますます心躍らせ、緊張している初めての客の不安をやわらげる。
「こんにちは」
〈おうおう来やがったな、ケヒヒッ〉
店長が腰に巻いているシザーケースから、ハサミが声を上げた。
老いてはいないが子どもでもない、嫌味ったらしくはないが悪巧みが趣味のような男の声。
「こらこら、お客様にはいらっしゃいませでしょ」
〈いいじゃねえか、あいつとはちんちくりんのガキん頃からの付き合いだぜ〉
「だからこそ、あたしら失礼な態度をしちゃだめなんだよ」
店長のつかさが人さし指でハサミの柄をつんつん、とつつく。
「次に刃を研ぐの、私がやろっかなあ」
〈やめろ!〉
「ピッカピカにしてあげてるのに、失礼だなあ」
〈お前の研ぎ方なんか怖ぇーんだよ!〉
つかさが愛用のハサミをたしなめるのも、ハサミがちっとも反省しないのも、それこそ瑠衣がちんちくりんのガキの頃から変わらない。
〈またやってるわ〉
カットコームが呆れたように言った。妙齢の女性の声だが、しっとりと艶やかだ。
〈もう飽き飽き、瑠衣もそう思わない?〉
「そうかな」
むしろ瑠衣はむしろ二人のやりとりを聞いてこそ、扉に出迎えらてこそ、店に来たと実感する。
天井に設置されたスピーカーから有線放送が流れているが、聞こえないくらい賑やかだ。
「ごめんね、いらっしゃい、瑠衣ちゃん」
シンプルなカットソーにジーパンはつかさにとって仕事着だ。アッシュグレーの髪に、宝石のようなネイル。彼女は美容師であり、瑠衣にとって魔女の先輩でもある。
つかさは瑠衣の帽子と上着を預かり、瑠衣をスタイリングチェアに座らせた。
「久しぶり」
〈うふふ、貴方も、みんな元気そうね〉
つかさが黒い三角帽子に話しかけると、返事がきた。おっとりとした口調の、老婆のやわらかな声。つかさだけでなく道具たちも、こぞって帽子に声をかけたそうにそわそわしていた。
店長が両手のひらを打った。
「はいみんな、仕事です!」
声こそ出さなかったが、道具たちは〈はい、マスター〉と告げた。
ひょうきんな中年男の声は、まるで遊園地のアトラクションの口上のようで、髪を切るのを楽しみにしている客をますます心躍らせ、緊張している初めての客の不安をやわらげる。
「こんにちは」
〈おうおう来やがったな、ケヒヒッ〉
店長が腰に巻いているシザーケースから、ハサミが声を上げた。
老いてはいないが子どもでもない、嫌味ったらしくはないが悪巧みが趣味のような男の声。
「こらこら、お客様にはいらっしゃいませでしょ」
〈いいじゃねえか、あいつとはちんちくりんのガキん頃からの付き合いだぜ〉
「だからこそ、あたしら失礼な態度をしちゃだめなんだよ」
店長のつかさが人さし指でハサミの柄をつんつん、とつつく。
「次に刃を研ぐの、私がやろっかなあ」
〈やめろ!〉
「ピッカピカにしてあげてるのに、失礼だなあ」
〈お前の研ぎ方なんか怖ぇーんだよ!〉
つかさが愛用のハサミをたしなめるのも、ハサミがちっとも反省しないのも、それこそ瑠衣がちんちくりんのガキの頃から変わらない。
〈またやってるわ〉
カットコームが呆れたように言った。妙齢の女性の声だが、しっとりと艶やかだ。
〈もう飽き飽き、瑠衣もそう思わない?〉
「そうかな」
むしろ瑠衣はむしろ二人のやりとりを聞いてこそ、扉に出迎えらてこそ、店に来たと実感する。
天井に設置されたスピーカーから有線放送が流れているが、聞こえないくらい賑やかだ。
「ごめんね、いらっしゃい、瑠衣ちゃん」
シンプルなカットソーにジーパンはつかさにとって仕事着だ。アッシュグレーの髪に、宝石のようなネイル。彼女は美容師であり、瑠衣にとって魔女の先輩でもある。
つかさは瑠衣の帽子と上着を預かり、瑠衣をスタイリングチェアに座らせた。
「久しぶり」
〈うふふ、貴方も、みんな元気そうね〉
つかさが黒い三角帽子に話しかけると、返事がきた。おっとりとした口調の、老婆のやわらかな声。つかさだけでなく道具たちも、こぞって帽子に声をかけたそうにそわそわしていた。
店長が両手のひらを打った。
「はいみんな、仕事です!」
声こそ出さなかったが、道具たちは〈はい、マスター〉と告げた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

金字塔の夏
阿波野治
ライト文芸
中学一年生のナツキは、一学期の終業式があった日の放課後、駅ビルの屋上から眺めた景色の中に一基のピラミッドを発見する。親友のチグサとともにピラミッドを見に行くことにしたが、様々な困難が二人の前に立ちはだかる。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
拝啓、隣の作者さま
枢 呂紅
ライト文芸
成績No. 1、完璧超人美形サラリーマンの唯一の楽しみはWeb小説巡り。その推し作者がまさか同じ部署の後輩だった!
偶然、推し作家の正体が会社の後輩だと知ったが、ファンとしての矜持から自分が以前から後輩の小説を追いかけてきたことを秘密にしたい。けれども、なぜだか後輩にはどんどん懐かれて?
こっそり読みたい先輩とがっつり読まれたい後輩。切っても切れないふたりの熱意が重なって『物語』は加速する。
サラリーマンが夢見て何が悪い。推し作家を影から応援したい完璧美形サラリーマン×ひょんなことから先輩に懐いたわんこ系後輩。そんなふたりが紡ぐちょっぴりBLなオフィス青春ストーリーです。
※ほんのりBL風(?)です。苦手な方はご注意ください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*
gaction9969
ライト文芸
ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!
ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!
そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる