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カン
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新しく支給されたクラウンの覆面パトカーの助手席に座る仏頂面の小山内を見て、内館はめんどくさいな、とため息をつく思いだった。
標的の確保の失敗、二千万円近い官給車の破壊。
公安本部から火のでるような叱責を受けてた二人は尻を蹴飛ばされるように敦賀警察署から放り出されていた。
そして、小山内は納得のいかない顔をさらしながら、助手席のシートに腰を鎮めている。
「結局のところ、何も教えてくれませんでしたね」
夜明け前の白む夜空が頭上に広がる国道8号線を北上する車のハンドルを握りながら、内館は先ほどから黙りこくったままの先輩に話しかけた。
「命がけの目に遭ってきたのに、あんな言い草はありませんよね」
内舘が話しかけても眉間にシワを寄せて唇を尖らしたまま何も答えない小山内。
ーー拗ねちまってるよ……。
面倒くさい大人だなぁ、と小山内の横顔をチラリと見た。
出すまいと堪えていたため息が、内館の口から漏れる。
冠山峠で車を大破させられた二人は歩いて下山したのちに福井県警警察本部警備部(公安)に協力を求めた。
そして、敦賀署警備部に連れてこられたのである。
公安本部は失態をおかした二人を解任せず、引き続きの任務続行を言い渡してきた。
だが今回はこれまでと違い、確保が無理な場合、標的の射殺の許可まで下りている。
なお、判断は各自に任せるとの事である。
17歳の女子高生対して射殺の許可が下りるなど、前代未聞である。
あの野上マヤという少女は一体何者なのか?
「……中国に奪取されるくらいなら、いなかった事にしてしまえという事か」
辞令の復命を受けた直後に小山内が呟いた一言。
あの少女にどれくらいの価値があるのかは分からないが、外国の特殊部隊が日本国内で作戦展開中など、立派な外交問題である。
それどころか侵略行為である。
国によっては戦争の火種にすらなる行為である。
「まあ、俺ら使いっ走りの犬コロは地べた這いずり回るしかないですよ。先輩も拗ねてないで前向きになりましょうよ」
自嘲するように笑う内舘をヨソに、小山内は先ほどから前を走る黒い車をを注意深く見つめていた。
他府県ナンバーのセダン。
車種は日産のフーガである。
別段、なんの変哲もないが、小山内は不思議とその車に違和感を感じてならなかった。
公機捜としての経験から来るカンなのか、小山内の五感が警戒を訴えかけてくる。
「内舘、前の車どう思う?」
小山内に訊かれ、内館は気づいたように前の車を注視する。
「どう、とは?」
内舘には何も違和感を感じないらしい。
「俺自身も説明はできんが、何か気になるんだ。カンでしかないがな」
「停めて職務質問してみますか?」
小山内の凛とした声を聞いて、いつもの先輩に戻ったようだ、と内館は少し気が晴れた。
「今何キロだ?」
小山内に言われて内館は速度計を見る。
「70キロです。……制限速度を10キロ超過ですね」
それを聞いて小山内はニヤリと笑う。
「そうか。それは危険だな。職務には関係ないが、警察官として注意喚起をしようではないか」
内館は小山内の楽しげな声を聞き終わると、回転式のパトライトの作動スイッチを押した。
標的の確保の失敗、二千万円近い官給車の破壊。
公安本部から火のでるような叱責を受けてた二人は尻を蹴飛ばされるように敦賀警察署から放り出されていた。
そして、小山内は納得のいかない顔をさらしながら、助手席のシートに腰を鎮めている。
「結局のところ、何も教えてくれませんでしたね」
夜明け前の白む夜空が頭上に広がる国道8号線を北上する車のハンドルを握りながら、内館は先ほどから黙りこくったままの先輩に話しかけた。
「命がけの目に遭ってきたのに、あんな言い草はありませんよね」
内舘が話しかけても眉間にシワを寄せて唇を尖らしたまま何も答えない小山内。
ーー拗ねちまってるよ……。
面倒くさい大人だなぁ、と小山内の横顔をチラリと見た。
出すまいと堪えていたため息が、内館の口から漏れる。
冠山峠で車を大破させられた二人は歩いて下山したのちに福井県警警察本部警備部(公安)に協力を求めた。
そして、敦賀署警備部に連れてこられたのである。
公安本部は失態をおかした二人を解任せず、引き続きの任務続行を言い渡してきた。
だが今回はこれまでと違い、確保が無理な場合、標的の射殺の許可まで下りている。
なお、判断は各自に任せるとの事である。
17歳の女子高生対して射殺の許可が下りるなど、前代未聞である。
あの野上マヤという少女は一体何者なのか?
「……中国に奪取されるくらいなら、いなかった事にしてしまえという事か」
辞令の復命を受けた直後に小山内が呟いた一言。
あの少女にどれくらいの価値があるのかは分からないが、外国の特殊部隊が日本国内で作戦展開中など、立派な外交問題である。
それどころか侵略行為である。
国によっては戦争の火種にすらなる行為である。
「まあ、俺ら使いっ走りの犬コロは地べた這いずり回るしかないですよ。先輩も拗ねてないで前向きになりましょうよ」
自嘲するように笑う内舘をヨソに、小山内は先ほどから前を走る黒い車をを注意深く見つめていた。
他府県ナンバーのセダン。
車種は日産のフーガである。
別段、なんの変哲もないが、小山内は不思議とその車に違和感を感じてならなかった。
公機捜としての経験から来るカンなのか、小山内の五感が警戒を訴えかけてくる。
「内舘、前の車どう思う?」
小山内に訊かれ、内館は気づいたように前の車を注視する。
「どう、とは?」
内舘には何も違和感を感じないらしい。
「俺自身も説明はできんが、何か気になるんだ。カンでしかないがな」
「停めて職務質問してみますか?」
小山内の凛とした声を聞いて、いつもの先輩に戻ったようだ、と内館は少し気が晴れた。
「今何キロだ?」
小山内に言われて内館は速度計を見る。
「70キロです。……制限速度を10キロ超過ですね」
それを聞いて小山内はニヤリと笑う。
「そうか。それは危険だな。職務には関係ないが、警察官として注意喚起をしようではないか」
内館は小山内の楽しげな声を聞き終わると、回転式のパトライトの作動スイッチを押した。
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