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178話、真昼のキャベツメンチカツ
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今日も私達は草原地帯を進む。
朝食は軽めに食べ、わりと朝早くからの出発だった。
その理由は、昼過ぎには本格的に乾燥地帯に入り込みそうだったからだ。
ただでさえ日差しが厳しいのに、ここから空気が乾いた場所へと入り込み、その先には砂漠が待ち受けている。
こうなるとできるだけ涼しい午前中に距離を稼いで、昼時は速めに休憩した方が安全だ。
なにより吸血鬼のベアトリスのために。
「はぁ、はぁ……」
実際ベアトリスは日傘を差しつつもじんわりと首筋に汗をかきはじめていた。
周囲の景色も段々色あせた植物や土が目立ち、乾燥地帯に入り込んだのがわかる。
「ベアトリス、お水飲む?」
「飲むわ……」
水筒を渡すと、ベアトリスはぐびっと飲んだ。細い喉が動き、勢いよく飲み干していく。
「っはぁ~! こう暑いと冷たい水がおいしいわね。でも正直キンキンに冷えたビールが欲しいわ! 町でお酒も買っておけばよかったかも!」
暑さのあまり変なことを言いだしている。
いや、まともな状態でもお酒飲みたいと言いだしそうだけども。
こんな暑いところでお酒を飲んだら、その時はおいしいだろうけど、酔いによる体温上昇が合わさって地獄を見るだろう。
だいたいお酒は水分補給にならないのだ。むしろ脱水が進むから気を付けないと危険。
私も水筒から水を一口飲む。
乾燥地帯は文字通り空気中の水分が少なく乾燥しているので、こまめな水分補給が大事だ。そうしないと喉にも悪いからね。
乾燥地帯や砂漠などの乾いた場所には、独特な植物が結構生えている。
その中でもひときわ目を引くのがサボテンだ。
トゲだらけのサボテンはうっかり触ると怪我をするけど、水分をたくさん保有しているので、もしもの時はサボテンを切って水分を得ることもできるらしい。
まあ私達はたっぷりお水を持ってるから大丈夫だけど。最悪魔術で水を生み出せばいい。
そうして段々と日差しが強くなる旅路を進む。
やがてお昼にさしかかり、それでもなお歩き続けていた時、ベアトリスが急に叫んだ。
「あー! もう無理っ! 今日はここまでにしましょう!」
街道から逸れ、影を求めて近くにあった大きな木の下へと一目散に走るベアトリス。
どうやらもう暑さで限界らしい。ベアトリスは樹の影に入って、日傘を放り出してへたり込んだ。
「リリア、提案があるわ。このまま昼間は休んで、夜の内に進みましょう」
「……やだよ。夜道は危ないじゃん」
「私が見えるから大丈夫!」
ベアトリスは見えていても、私は足元すら見えないんだけど……。
「それに昼夜逆転するのは嫌だよ。でも別に無理に昼間歩かなくていいよ。朝と夕方だけ進んで、後は無理せず休もう。どうせ急いでない旅だもん」
そのうち村や町とも出くわして良い感じに休めるはずだろうし。
「そう……そうよね。じゃあ今日は夕方まで一歩も動かないわ!」
ベアトリスは本格的に休憩する準備に入りだした。
「休憩はいいけど、お昼ごはんどうする? こう暑いと食欲も減るんだよなぁ」
私がそう言うと、ライラが驚愕する。
「えっ! リリアが食欲ないなんて……この世が終わっちゃうのかしら」
なんてことを言うんだ。私だって暑いと食欲失せちゃうよ。
こう暑い時は、涼しくなれるものが食べたい。冷えた麺類とかさ。
そう期待を込めてベアトリスを見ると、彼女はこくんと頷いた。
「わかったわ。揚げ物をする」
……なぜ? なぜそうなるの?
「いやいやいや、こんな暑いのに揚げ物? ベアトリス正気なの?」
「正気よ。昨日の千切りキャベツが大量に余ってるの。それにひき肉もあるから、メンチカツでも作ろうかなって思ってたのよ。キャベツはそろそろ傷んでしまうから、早めに食べないともったいないわ」
それはそうだけど……。
こんな真昼から揚げ物かぁ……。
しかし私達の野外食事情を握っているベアトリスがこういうので、おとなしく従う事にする。
火を準備して、深めのフライパンに油をそそぎ、熱する。
その間ベアトリスはひき肉と大量のキャベツを混ぜ合わせていた。
「そういえばパン粉はあるけど卵ないよ。どうするの?」
「表面にパン粉を埋める感じにしましょう。これなら油で揚げても剥がれにくいわよ」
本来メンチカツは、片栗粉をまぶして卵を絡め、そこにパン粉をふんわりくっつけてあげる。そうするとサクサクした食感になるのだ。
でも野外ではそうすることもできないため、なんか雑な感じになった。
表面にパン粉をくっつけるというより肉種に直接埋めた感じになるが、揚げたらどうなるんだろう。
そして大量のメンチカツが準備できたので、さっそく揚げていく。
「行くわよ……」
ベアトリスはなぜか立ち上がって、いつでもフライパンそばから逃げられる体勢だった。
なぜ? なんて思ってたら、その理由が分かった。
ベアトリスがメンチカツを油に放り込んだとたん、バチバチと油が跳ねだした。
「うわーー! あっつー!」
私の首に油が跳ね飛んで、思わず逃げ出す。
「ちょっとベアトリス! なにしてんの!」
「しかたないじゃない! キャベツぶち込みまくってるのよ! 野菜の水分が油に反応して跳ねるのは当然よ!」
「ちょっ! もう油飛び跳ねまくりだけど!? 大丈夫なのこれ!」
「しばらくしたら落ち着くわよ。それまで見守っておきましょう」
三人で油が跳ねまくるフライパンを遠巻きに囲み、成り行きを見守る。
真上からは真昼の直射日光。午後のじりじりとした熱気が襲ってくるようだ。
こんな暑い時になにしてんだろ、私達。
そのまま数分見守ってたら、油はねが大分落ち着いてきた。
「そろそろ良い頃合いかもね」
安全を確認したベアトリスが次々メンチカツを取りだしていく。
油切りはできるだけしたが、それでも揚げたてなのでまだまだ油感が凄い。
「できたわ、食べましょう」
「……本気で言ってる?」
こんな暑い時に、揚げたてのメンチカツを食べるの?
でもお腹は確かに空いてる。油の匂いと暑さで食欲はげんなりしてるけども……。
とにかく暑くてバテ気味でも、ごはんを食べて元気はつけないといけない。
思い切って熱々のメンチカツに口をつける。
サクっとした食感。そしてじゅわっとした肉汁が広がる。
いや……これは肉汁じゃない。キャベツの水分だ。
キャベツがこれでもかというほど放りこまれているので、意外や意外、結構重くない口当たり。
むしろキャベツの水分のおかげでわりと食欲がわいてくるような……。
「あれ、こんな暑いのにおいしいな……」
パクパク一つ二つと次々食べていく。
「ふふ、そうでしょう。実は肉よりキャベツの方が多くて、もはやメンチカツではなくキャベツカツになってるのよ、これ。そのせいで油はねが凄かったけど」
……キャベツ揚げてたみたいなものか。油が勢いよく跳ねるのは当然だ。
暑くて食欲が落ちている中で一気に胃に食べ物を詰め込むと消化に悪い。
どうせこのまま夕方まで休むつもりなので、食事もゆっくり気味だった。
するとベアトリスが言った。
「リリア、冷たいお茶とか作れないの? キャベツカツと言っても揚げ物だから、冷たい飲み物が欲しくなってきたわ」
「できるけど、魔術で冷やすからちょっと時間かかるよ」
「いいわよ。どうせ夕方まで動かないんだもの」
それもそうだな、と私はお茶を沸かし始めた。
煮出したお茶は魔術で冷風を浴びせて冷やせば、アイスティーが飲める。ただし三十分以上はかかるだろうけど。
こんな暑い日に揚げ物を食べるのはどうかと思ってたけど、こんな時でも揚げ物を食べられるくらい体力があるという証拠と思えばいいのかもしれない。
でもやっぱり冷たいそうめんとか食べたかったな~。今度町についたらそうめん買っちゃおう。
そう決意する私だった。
朝食は軽めに食べ、わりと朝早くからの出発だった。
その理由は、昼過ぎには本格的に乾燥地帯に入り込みそうだったからだ。
ただでさえ日差しが厳しいのに、ここから空気が乾いた場所へと入り込み、その先には砂漠が待ち受けている。
こうなるとできるだけ涼しい午前中に距離を稼いで、昼時は速めに休憩した方が安全だ。
なにより吸血鬼のベアトリスのために。
「はぁ、はぁ……」
実際ベアトリスは日傘を差しつつもじんわりと首筋に汗をかきはじめていた。
周囲の景色も段々色あせた植物や土が目立ち、乾燥地帯に入り込んだのがわかる。
「ベアトリス、お水飲む?」
「飲むわ……」
水筒を渡すと、ベアトリスはぐびっと飲んだ。細い喉が動き、勢いよく飲み干していく。
「っはぁ~! こう暑いと冷たい水がおいしいわね。でも正直キンキンに冷えたビールが欲しいわ! 町でお酒も買っておけばよかったかも!」
暑さのあまり変なことを言いだしている。
いや、まともな状態でもお酒飲みたいと言いだしそうだけども。
こんな暑いところでお酒を飲んだら、その時はおいしいだろうけど、酔いによる体温上昇が合わさって地獄を見るだろう。
だいたいお酒は水分補給にならないのだ。むしろ脱水が進むから気を付けないと危険。
私も水筒から水を一口飲む。
乾燥地帯は文字通り空気中の水分が少なく乾燥しているので、こまめな水分補給が大事だ。そうしないと喉にも悪いからね。
乾燥地帯や砂漠などの乾いた場所には、独特な植物が結構生えている。
その中でもひときわ目を引くのがサボテンだ。
トゲだらけのサボテンはうっかり触ると怪我をするけど、水分をたくさん保有しているので、もしもの時はサボテンを切って水分を得ることもできるらしい。
まあ私達はたっぷりお水を持ってるから大丈夫だけど。最悪魔術で水を生み出せばいい。
そうして段々と日差しが強くなる旅路を進む。
やがてお昼にさしかかり、それでもなお歩き続けていた時、ベアトリスが急に叫んだ。
「あー! もう無理っ! 今日はここまでにしましょう!」
街道から逸れ、影を求めて近くにあった大きな木の下へと一目散に走るベアトリス。
どうやらもう暑さで限界らしい。ベアトリスは樹の影に入って、日傘を放り出してへたり込んだ。
「リリア、提案があるわ。このまま昼間は休んで、夜の内に進みましょう」
「……やだよ。夜道は危ないじゃん」
「私が見えるから大丈夫!」
ベアトリスは見えていても、私は足元すら見えないんだけど……。
「それに昼夜逆転するのは嫌だよ。でも別に無理に昼間歩かなくていいよ。朝と夕方だけ進んで、後は無理せず休もう。どうせ急いでない旅だもん」
そのうち村や町とも出くわして良い感じに休めるはずだろうし。
「そう……そうよね。じゃあ今日は夕方まで一歩も動かないわ!」
ベアトリスは本格的に休憩する準備に入りだした。
「休憩はいいけど、お昼ごはんどうする? こう暑いと食欲も減るんだよなぁ」
私がそう言うと、ライラが驚愕する。
「えっ! リリアが食欲ないなんて……この世が終わっちゃうのかしら」
なんてことを言うんだ。私だって暑いと食欲失せちゃうよ。
こう暑い時は、涼しくなれるものが食べたい。冷えた麺類とかさ。
そう期待を込めてベアトリスを見ると、彼女はこくんと頷いた。
「わかったわ。揚げ物をする」
……なぜ? なぜそうなるの?
「いやいやいや、こんな暑いのに揚げ物? ベアトリス正気なの?」
「正気よ。昨日の千切りキャベツが大量に余ってるの。それにひき肉もあるから、メンチカツでも作ろうかなって思ってたのよ。キャベツはそろそろ傷んでしまうから、早めに食べないともったいないわ」
それはそうだけど……。
こんな真昼から揚げ物かぁ……。
しかし私達の野外食事情を握っているベアトリスがこういうので、おとなしく従う事にする。
火を準備して、深めのフライパンに油をそそぎ、熱する。
その間ベアトリスはひき肉と大量のキャベツを混ぜ合わせていた。
「そういえばパン粉はあるけど卵ないよ。どうするの?」
「表面にパン粉を埋める感じにしましょう。これなら油で揚げても剥がれにくいわよ」
本来メンチカツは、片栗粉をまぶして卵を絡め、そこにパン粉をふんわりくっつけてあげる。そうするとサクサクした食感になるのだ。
でも野外ではそうすることもできないため、なんか雑な感じになった。
表面にパン粉をくっつけるというより肉種に直接埋めた感じになるが、揚げたらどうなるんだろう。
そして大量のメンチカツが準備できたので、さっそく揚げていく。
「行くわよ……」
ベアトリスはなぜか立ち上がって、いつでもフライパンそばから逃げられる体勢だった。
なぜ? なんて思ってたら、その理由が分かった。
ベアトリスがメンチカツを油に放り込んだとたん、バチバチと油が跳ねだした。
「うわーー! あっつー!」
私の首に油が跳ね飛んで、思わず逃げ出す。
「ちょっとベアトリス! なにしてんの!」
「しかたないじゃない! キャベツぶち込みまくってるのよ! 野菜の水分が油に反応して跳ねるのは当然よ!」
「ちょっ! もう油飛び跳ねまくりだけど!? 大丈夫なのこれ!」
「しばらくしたら落ち着くわよ。それまで見守っておきましょう」
三人で油が跳ねまくるフライパンを遠巻きに囲み、成り行きを見守る。
真上からは真昼の直射日光。午後のじりじりとした熱気が襲ってくるようだ。
こんな暑い時になにしてんだろ、私達。
そのまま数分見守ってたら、油はねが大分落ち着いてきた。
「そろそろ良い頃合いかもね」
安全を確認したベアトリスが次々メンチカツを取りだしていく。
油切りはできるだけしたが、それでも揚げたてなのでまだまだ油感が凄い。
「できたわ、食べましょう」
「……本気で言ってる?」
こんな暑い時に、揚げたてのメンチカツを食べるの?
でもお腹は確かに空いてる。油の匂いと暑さで食欲はげんなりしてるけども……。
とにかく暑くてバテ気味でも、ごはんを食べて元気はつけないといけない。
思い切って熱々のメンチカツに口をつける。
サクっとした食感。そしてじゅわっとした肉汁が広がる。
いや……これは肉汁じゃない。キャベツの水分だ。
キャベツがこれでもかというほど放りこまれているので、意外や意外、結構重くない口当たり。
むしろキャベツの水分のおかげでわりと食欲がわいてくるような……。
「あれ、こんな暑いのにおいしいな……」
パクパク一つ二つと次々食べていく。
「ふふ、そうでしょう。実は肉よりキャベツの方が多くて、もはやメンチカツではなくキャベツカツになってるのよ、これ。そのせいで油はねが凄かったけど」
……キャベツ揚げてたみたいなものか。油が勢いよく跳ねるのは当然だ。
暑くて食欲が落ちている中で一気に胃に食べ物を詰め込むと消化に悪い。
どうせこのまま夕方まで休むつもりなので、食事もゆっくり気味だった。
するとベアトリスが言った。
「リリア、冷たいお茶とか作れないの? キャベツカツと言っても揚げ物だから、冷たい飲み物が欲しくなってきたわ」
「できるけど、魔術で冷やすからちょっと時間かかるよ」
「いいわよ。どうせ夕方まで動かないんだもの」
それもそうだな、と私はお茶を沸かし始めた。
煮出したお茶は魔術で冷風を浴びせて冷やせば、アイスティーが飲める。ただし三十分以上はかかるだろうけど。
こんな暑い日に揚げ物を食べるのはどうかと思ってたけど、こんな時でも揚げ物を食べられるくらい体力があるという証拠と思えばいいのかもしれない。
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