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117話、謎の外灯とチキンライス
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邪教徒の村を飛び去ってからしばらく経った頃。
空は夕暮れの終幕へと移り変わりつつあり、これ以上暗くなる前に山のふもとへと降り立っていた。
さすがに箒で飛ぶとあっという間だ。期せずして下山は箒を使ってしまったが、これはもうしょうがないだろう。
それよりも、もう夜。本当は邪教徒の村で一泊するつもりだったが、今日はこのまま野宿するしかないようだ。
どこか野宿に適した場所は無いかな。
辺りを見回しつつ歩いていると、ほのかな明かりが目についた。
もしかして村があるのだろうか。そう思い、その明かりへ向かって歩いていく。
ほどなくして、私はその明かりの正体を知った。
「外灯だ……」
それは錆びた細い鉄柱の上に明かりが灯る、寂れた外灯だったのだ。
そんな外灯が四方に設置された空間で、中央辺りには砂場にブランコ、色落ちしたベンチが置かれている。
どう見てもそこは小さな公園だった。ただ、もう誰も使ってないのだろう、どこかしら哀愁が漂っている。
もう使用されなくなった公園だとしても、野宿する場所としては悪くない。明かりもあるし、木々が密集する空間とは違って開放感もある。
「よし、今日はこの公園で野宿しよう。ごはん作るから、ライラは適当に休んでなよ」
「分かったわ」
ライラはそう言うと、興味があったのかふわふわと漂いながらブランコへと近づいていった。
それを見送りつつ私は鞄を降ろし、夕食の準備に取り掛かる。
もう暗い時間だし、あまり手の込んだ料理をして夕食が遅くなるのは避けたい。
そう考えた私は、まず山頂の村で買っていた鶏肉を取り出した。これは生ものなので今日中に食べて起きたかったのだ。
鶏肉はすでにソテーサイズに切り分けられていたので、簡単に塩コショウして下味をつけてしばらく置いておく。
その間に小鍋を取り出し、そこにお米と水、これまた山頂の村で買った鶏ガラスープの顆粒を適量入れた。
そこに下味をつけた鶏肉を入れ、蓋をして魔術で起こした火にかける。
後は二十分から三十分ほど、お米が炊きあがるまで待つ。
待っている間やる事がなかったので、ブランコに乗って足をパタパタしていたライラの元へと行ってみた。
「ねえリリア、これどういう器具なの?」
妖精だけあってまだまだ人間の文化に疎いライラは、ブランコがどういうものか分からないらしい。
「それはねぇ、自分でこいで前後に揺れて遊ぶ遊具だよ」
「こぐ?」
「何て言うんだろう、前後に体を揺らしたら自然に動くんだよね、ブランコって。詳しく考えた事ないけど、どういう原理なんだろう」
「ふーん、良く分からないけどやってみるわ」
ライラがブランコの上で前後に体を揺らし始める。
薄々分かっていたが、人間の子供より小さいライラの体ではブランコは全く動かないようだ。
「後ろから押してあげるよ」
ブランコの後ろに回り、木製の座板を軽く押してみる。
「わっわっ、動いた動いたっ」
子供みたいにキャッキャと騒ぐライラ。正直、普段ふわふわ空飛んでるのにブランコでそんな喜ぶ? と思いもする。自分で飛ぶのとは感じが違うのだろうか。
しばらくライラが乗るブランコを押してあげてると、鍋の蓋が蒸気で押し上げられカパカパ音がしているのに気付いた。
そろそろごはんが炊けた頃合いだ。
「もうごはんできるよ」
「分かったわ」
ライラは最後、ブランコの揺れが頂点に達した時に羽根を羽ばたかせ、その勢いのまま飛びあがった。曲芸じゃん。
ライラと一緒に鍋へと向かい、火から放して蓋を開ける。
むわっと蒸気がわき上がり、良い匂いが鼻腔をついた。
鶏肉と一緒に炊いたごはんはふっくらと炊きあがっている。それを全部皿へとうつし、鶏肉をそえるようにして盛りつけた。
「これで完成?」
「ううん、最後に仕上げがある」
私は再度鍋を火にかけ、そこにオリーブオイル、塩コショウ、バジルを入れ、軽く熱していく。
やがてグツグツと煮えてきたら、簡易バジルソースの完成。そのバジルソースを皿へと盛りつけた鶏肉ごはんの上にかけていく。
「よっし完成。チキンライスのバジルソースがけ~」
見た目質素だが、バジルソースの緑色が何だか鮮やかなチキンライスの完成だ。
いわゆるケチャップライスもチキンライスと言ったりするが、今回私が作ったのはごはんを鶏肉と一緒に炊いて作る、より純粋なチキンライスだ。
本来はもっと鶏肉を増やしてその鶏肉から出るダシでごはんに味付けするのだが、少量分を作るとなるとそれは難しいので鶏ガラスープで代用した。どっちにしろ味はそう変わらないだろう。
「冷めないうちに食べよっか」
ライラにスプーンを渡し、二人そろって頂きます。同じ皿からもくもく食べていく。
鶏肉のダシで炊いたごはんは、どことなく甘みがある。それもごはん本来の甘みではなく、鶏ガラに感じる甘みだ。
もちろん鶏肉に感じる旨みもあり、結構しっかり味がついていた。
鶏肉自体は塩コショウでシンプルな味付けをしたが、これがまた美味しい。お肉ってほんのり塩気があるだけで、どうしてこんなに美味しいのか。
今回はそこにバジルソースもかかっている。バジルの爽やかな匂いがまた堪らない。鶏肉との相性も結構な物だ。
シンプルながらも美味しいチキンライスをあっさり完食。ちょっと少な目にしすぎたかな。
まだ少しお腹が空いている事もあり、ここはゆったり紅茶を沸かしてお菓子でも食べることにした。
食後の紅茶を淹れ、簡素なクッキーをつまみつつまったりする。
外灯さす寂れた公園の真上には、綺麗な月が輝いていた。美しいような物悲しいような、何とも言えない不思議な光景だ。
紅茶を飲みつつ、私とライラは眠くなるまで公園を見つめていた。
空は夕暮れの終幕へと移り変わりつつあり、これ以上暗くなる前に山のふもとへと降り立っていた。
さすがに箒で飛ぶとあっという間だ。期せずして下山は箒を使ってしまったが、これはもうしょうがないだろう。
それよりも、もう夜。本当は邪教徒の村で一泊するつもりだったが、今日はこのまま野宿するしかないようだ。
どこか野宿に適した場所は無いかな。
辺りを見回しつつ歩いていると、ほのかな明かりが目についた。
もしかして村があるのだろうか。そう思い、その明かりへ向かって歩いていく。
ほどなくして、私はその明かりの正体を知った。
「外灯だ……」
それは錆びた細い鉄柱の上に明かりが灯る、寂れた外灯だったのだ。
そんな外灯が四方に設置された空間で、中央辺りには砂場にブランコ、色落ちしたベンチが置かれている。
どう見てもそこは小さな公園だった。ただ、もう誰も使ってないのだろう、どこかしら哀愁が漂っている。
もう使用されなくなった公園だとしても、野宿する場所としては悪くない。明かりもあるし、木々が密集する空間とは違って開放感もある。
「よし、今日はこの公園で野宿しよう。ごはん作るから、ライラは適当に休んでなよ」
「分かったわ」
ライラはそう言うと、興味があったのかふわふわと漂いながらブランコへと近づいていった。
それを見送りつつ私は鞄を降ろし、夕食の準備に取り掛かる。
もう暗い時間だし、あまり手の込んだ料理をして夕食が遅くなるのは避けたい。
そう考えた私は、まず山頂の村で買っていた鶏肉を取り出した。これは生ものなので今日中に食べて起きたかったのだ。
鶏肉はすでにソテーサイズに切り分けられていたので、簡単に塩コショウして下味をつけてしばらく置いておく。
その間に小鍋を取り出し、そこにお米と水、これまた山頂の村で買った鶏ガラスープの顆粒を適量入れた。
そこに下味をつけた鶏肉を入れ、蓋をして魔術で起こした火にかける。
後は二十分から三十分ほど、お米が炊きあがるまで待つ。
待っている間やる事がなかったので、ブランコに乗って足をパタパタしていたライラの元へと行ってみた。
「ねえリリア、これどういう器具なの?」
妖精だけあってまだまだ人間の文化に疎いライラは、ブランコがどういうものか分からないらしい。
「それはねぇ、自分でこいで前後に揺れて遊ぶ遊具だよ」
「こぐ?」
「何て言うんだろう、前後に体を揺らしたら自然に動くんだよね、ブランコって。詳しく考えた事ないけど、どういう原理なんだろう」
「ふーん、良く分からないけどやってみるわ」
ライラがブランコの上で前後に体を揺らし始める。
薄々分かっていたが、人間の子供より小さいライラの体ではブランコは全く動かないようだ。
「後ろから押してあげるよ」
ブランコの後ろに回り、木製の座板を軽く押してみる。
「わっわっ、動いた動いたっ」
子供みたいにキャッキャと騒ぐライラ。正直、普段ふわふわ空飛んでるのにブランコでそんな喜ぶ? と思いもする。自分で飛ぶのとは感じが違うのだろうか。
しばらくライラが乗るブランコを押してあげてると、鍋の蓋が蒸気で押し上げられカパカパ音がしているのに気付いた。
そろそろごはんが炊けた頃合いだ。
「もうごはんできるよ」
「分かったわ」
ライラは最後、ブランコの揺れが頂点に達した時に羽根を羽ばたかせ、その勢いのまま飛びあがった。曲芸じゃん。
ライラと一緒に鍋へと向かい、火から放して蓋を開ける。
むわっと蒸気がわき上がり、良い匂いが鼻腔をついた。
鶏肉と一緒に炊いたごはんはふっくらと炊きあがっている。それを全部皿へとうつし、鶏肉をそえるようにして盛りつけた。
「これで完成?」
「ううん、最後に仕上げがある」
私は再度鍋を火にかけ、そこにオリーブオイル、塩コショウ、バジルを入れ、軽く熱していく。
やがてグツグツと煮えてきたら、簡易バジルソースの完成。そのバジルソースを皿へと盛りつけた鶏肉ごはんの上にかけていく。
「よっし完成。チキンライスのバジルソースがけ~」
見た目質素だが、バジルソースの緑色が何だか鮮やかなチキンライスの完成だ。
いわゆるケチャップライスもチキンライスと言ったりするが、今回私が作ったのはごはんを鶏肉と一緒に炊いて作る、より純粋なチキンライスだ。
本来はもっと鶏肉を増やしてその鶏肉から出るダシでごはんに味付けするのだが、少量分を作るとなるとそれは難しいので鶏ガラスープで代用した。どっちにしろ味はそう変わらないだろう。
「冷めないうちに食べよっか」
ライラにスプーンを渡し、二人そろって頂きます。同じ皿からもくもく食べていく。
鶏肉のダシで炊いたごはんは、どことなく甘みがある。それもごはん本来の甘みではなく、鶏ガラに感じる甘みだ。
もちろん鶏肉に感じる旨みもあり、結構しっかり味がついていた。
鶏肉自体は塩コショウでシンプルな味付けをしたが、これがまた美味しい。お肉ってほんのり塩気があるだけで、どうしてこんなに美味しいのか。
今回はそこにバジルソースもかかっている。バジルの爽やかな匂いがまた堪らない。鶏肉との相性も結構な物だ。
シンプルながらも美味しいチキンライスをあっさり完食。ちょっと少な目にしすぎたかな。
まだ少しお腹が空いている事もあり、ここはゆったり紅茶を沸かしてお菓子でも食べることにした。
食後の紅茶を淹れ、簡素なクッキーをつまみつつまったりする。
外灯さす寂れた公園の真上には、綺麗な月が輝いていた。美しいような物悲しいような、何とも言えない不思議な光景だ。
紅茶を飲みつつ、私とライラは眠くなるまで公園を見つめていた。
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