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105話、湿地帯の町観光と肉丼
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湿地帯の途中から広がる森林地帯は、多くの種類の木々が生えている。
この辺りにさしかかると、空は常にどんよりとしていて、しとしと雨が降り続ける特殊な環境へとなる。
いわゆる、雨が降り続ける地域だ。
雨が降り続けると言っても、時折雲が晴れ太陽がさす時もある。しかしその頻度はかなり低く、ほぼ常に雨が降っているにも等しい。
そんな雨が降り続ける地域は、はっきり言って旅をするのに難儀をする。当然だ。出歩く限り、雨を避けるための傘を常に手にしていなければいけない。長時間の歩行で負担になる他、野宿するのも困難となる。
最も私は魔女なので、魔術を使えばその辺りどうとでも出来ない事もない。雨避けの魔術とかあったりするし。
でも、魔術を維持し続けるのはかなり大変なのであまりしたくない。魔術を維持し続けるのは疲れるのだ。常に雨避けの魔術をかけていると、普通に歩く何倍も疲労してしまうだろう。
前回この付近に来た時も、雨避けの魔術を使っていて結構疲れた記憶がある。
だけど今回、その辺りの心配は不必要だった。
今私たちは森林地帯へと踏み込んでいる。つまりたくさんの木々が密集して生える森の中に入っているので、豊かな葉が雨水をせき止め、ほとんど落ちてこないのだ。
いわば天然の傘。おかげで意外と快適に歩けてる。
雨がほとんど落ちてこないほど木々が密集しているのでかなり薄暗いが、それを補うほど快適だ。
地面から所々木々の根っこが盛り上がっているので、それに足を捕らわれないよう注意して歩き続ける。
すると、やがて森の中の町へとたどり着いた。
その町の名はミグラ。この森林地帯の強靭な木々を伐採して出来た空間に作られた町だ。
つまり森林の中にぽっかりと穴が開いているような形なので、その町では木々が雨をせき止めることがない。なので常に雨が降り続ける町となっている。
かつて私は、葉っぱを組み合わせて町全体をドーム状に覆う不思議な町へと訪れたが、この町での雨水に対する工夫はそことはまた違っていた。
このミグラという町では、道路の真ん中に大きな水路が作られているのだ。そして道路はその水路に向かってわずかに傾斜が作られているので、雨水が全部水路へと流れ落ちるよう設計されている。
この水路が向かう先は町の貯水池で、そこから水を蒸留して日々の生活に使っているようだ。
そしてもっと面白い事に、この町の道路の端には不思議な形の木が植えられている。
この木は途中までまっすぐ伸びているのだが、ある程度の高さになると九十度近く折れ曲がるのだ。
そしてそのまま大きな葉っぱを蓄え、葉っぱを器代わりにして雨水を溜めこむ習性を持っている。
この町の人はこの不思議な木を傘木と呼んでいるらしい。
この傘木は、葉っぱを器代わりにして水を溜めこみ、それが溢れたり風で揺られて零れたりすると幹が濡れ、そこから根の部分まで水分が伝わっていくらしい。また、葉からも多少水分を吸収できるようだ。
なので葉っぱが水を溜めこむような形なのは、晴れた日でも水分を吸収できるようにするためだとか。この雨が降り続ける地域のたまの晴れ間でも、十分水分を手に入れるための自然の工夫とも言えた。
この傘木、道路の左右にみっちり植えてあるので、そこを歩く時は葉っぱが傘代わりとなり傘が不要になる。
道路の中心に水路があるのもあって、この町のメイン交通路は道路の端となっているのだ。
そしてこの町の主食はお米。湿地帯方面はお米文化が盛んで、ここも類に漏れないらしい。
前回の旅のおかげで、主食にお米、お米のお供として様々なおかず、という形式にも慣れている私だが、この町での主要な米料理はまたひと味違っていた。
ここではごはんの上に主菜、いわゆるおかずを乗せる形式が普通らしい。それを丼料理と言うのだとか。丼とは大きな底の深い器の事を言うらしい。
この町にたどりついたのは夕方頃で、宿を探しがてら町の事を調べていたら、すっかり夕ごはん時へとなっていた。なので早速この丼料理を食べようと適当なお店に入ってみたのである。
そのお店はカウンター席しかなくて、料理も実に想像しやすい名称の肉丼という一種類しか提供されていない。
メニューが一種類だけなので、来店した直後に料理が準備され、席に着いた頃には丼が差し出されすぐに食べる事ができる。この町におけるファストフードと言ったところか。早い、安い、うまい、というやつ。
そういう形式は初めてなので多少面食らったものの、ライラと共に一つの丼から食べる事にした。取り皿とか頼める空気ではなかったのだ。まあライラと同じ皿から食べるのを今さら気にすることは無い。
この町の肉丼とは、肉とタマネギのスライスを甘辛いタレでじっくり煮込んだものをごはんの上にかけ、そこに刻んだ紅ショウガを散らした物のようだ。
全体的に黒茶色でいかにも濃そうな味付けの見た目。そこを細かい紅ショウガが彩っているので、なんだか赤い花のつぼみのようにも見えた。
お米文化を持つ所では箸で食べる事の方が多い。箸も結構使い慣れたので、特に問題はなかった。ライラも子供用サイズの箸なら結構器用に扱えてる。
昔、魚のごった煮ごはんという丼形式に近い食べ物を食べたことはあるが、正式に食べるのは初めてだ。お米の上におかずが乗った丼料理、どんなものか……箸で肉とタマネギ、紅ショウガを上手く掴み、一口。
そのままもぐもぐと咀嚼すると、甘辛いタレの味が口内に広がっていく。煮込まれた肉は柔らかく、しんなりしたタマネギの食感に、独特な辛味を感じる紅ショウガのカリカリした感じ。
食感は結構面白く、味は濃い目だが結構おいしい。紅ショウガがさっぱりとしているので、後味も悪くない。
なるほど……これはごはんが欲しくなる味だ。パンよりも断然ごはん。
私は肉の下に隠れていたごはんを箸ですくい、ぱくっと食べてみた。
甘辛い肉の味が、ほのかな甘さながらも淡泊なお米にかなり合っている。タマネギの甘みや紅ショウガのさわやかな辛さもまたお米に合う。
ごはんと一緒に食べると、一気に味が完成したと言っても過言ではない。
なるほど……丼料理おいしい。このタレが染みたごはんも堪らない。
以前山菜を混ぜたご飯も食べたことがあるが、そういうのとはまた違った料理のように感じる。これが丼か……いいな、丼料理。惣菜パンのごはんバージョンみたいな印象だ。
何よりお米の上におかずを乗っけるという手軽さがいい。これならば旅の途中でも色々作れそうだ。
難点があるとすれば……考えなしに食べていると、おかずとごはんの量がうまく合わない事だろうか。後、タレが染み込んだごはん、箸でうまく掴めない。私まだ箸使いそんなに上手じゃないのだ。
もう一つ、このお店特有の難点。次々人が来店してさっさと食べて出ていくという、恐ろしい速度の回転を見せていくので、落ちついて食べてられない事。おかげで私もライラも自然慌てて食べ進めていた。感想を語り合う暇すらない。
そして軽々と全部食べ終え、お水で口を潤して退店。なんだかあっという間の出来事だった。
外へ出てようやく一息ついて、私とライラはお互いの顔を見合わせる。
「おいしかったけど……なんだかすごく慌ただしかったわ。お店の空気って言うのかしら、そういうの」
「そうだね、何か長居しちゃいけないって感じだった。ああいうお店もあるんだなぁ……次はゆっくり食べられる所にしようか」
しとしと降る雨の音を聞きながら、私たちは宿屋へと向かって歩き出す。
味は大満足。だけどもうちょっと落ち着いて食べたい。あそこは現地の人がささっと食べるのに適したお店だったのだろう。
でも、たまにはああいうお店に行くのもいい経験かもしれない。
お店の中では急いでた分、宿屋への帰路はことさらゆっくり歩く私たちだった。
空は暗くなり、雨がぽつぽつ降り続ける町中。道路の中心には水路が流れ、雨音に紛れて水が流れる音も響いている。
この辺りにさしかかると、空は常にどんよりとしていて、しとしと雨が降り続ける特殊な環境へとなる。
いわゆる、雨が降り続ける地域だ。
雨が降り続けると言っても、時折雲が晴れ太陽がさす時もある。しかしその頻度はかなり低く、ほぼ常に雨が降っているにも等しい。
そんな雨が降り続ける地域は、はっきり言って旅をするのに難儀をする。当然だ。出歩く限り、雨を避けるための傘を常に手にしていなければいけない。長時間の歩行で負担になる他、野宿するのも困難となる。
最も私は魔女なので、魔術を使えばその辺りどうとでも出来ない事もない。雨避けの魔術とかあったりするし。
でも、魔術を維持し続けるのはかなり大変なのであまりしたくない。魔術を維持し続けるのは疲れるのだ。常に雨避けの魔術をかけていると、普通に歩く何倍も疲労してしまうだろう。
前回この付近に来た時も、雨避けの魔術を使っていて結構疲れた記憶がある。
だけど今回、その辺りの心配は不必要だった。
今私たちは森林地帯へと踏み込んでいる。つまりたくさんの木々が密集して生える森の中に入っているので、豊かな葉が雨水をせき止め、ほとんど落ちてこないのだ。
いわば天然の傘。おかげで意外と快適に歩けてる。
雨がほとんど落ちてこないほど木々が密集しているのでかなり薄暗いが、それを補うほど快適だ。
地面から所々木々の根っこが盛り上がっているので、それに足を捕らわれないよう注意して歩き続ける。
すると、やがて森の中の町へとたどり着いた。
その町の名はミグラ。この森林地帯の強靭な木々を伐採して出来た空間に作られた町だ。
つまり森林の中にぽっかりと穴が開いているような形なので、その町では木々が雨をせき止めることがない。なので常に雨が降り続ける町となっている。
かつて私は、葉っぱを組み合わせて町全体をドーム状に覆う不思議な町へと訪れたが、この町での雨水に対する工夫はそことはまた違っていた。
このミグラという町では、道路の真ん中に大きな水路が作られているのだ。そして道路はその水路に向かってわずかに傾斜が作られているので、雨水が全部水路へと流れ落ちるよう設計されている。
この水路が向かう先は町の貯水池で、そこから水を蒸留して日々の生活に使っているようだ。
そしてもっと面白い事に、この町の道路の端には不思議な形の木が植えられている。
この木は途中までまっすぐ伸びているのだが、ある程度の高さになると九十度近く折れ曲がるのだ。
そしてそのまま大きな葉っぱを蓄え、葉っぱを器代わりにして雨水を溜めこむ習性を持っている。
この町の人はこの不思議な木を傘木と呼んでいるらしい。
この傘木は、葉っぱを器代わりにして水を溜めこみ、それが溢れたり風で揺られて零れたりすると幹が濡れ、そこから根の部分まで水分が伝わっていくらしい。また、葉からも多少水分を吸収できるようだ。
なので葉っぱが水を溜めこむような形なのは、晴れた日でも水分を吸収できるようにするためだとか。この雨が降り続ける地域のたまの晴れ間でも、十分水分を手に入れるための自然の工夫とも言えた。
この傘木、道路の左右にみっちり植えてあるので、そこを歩く時は葉っぱが傘代わりとなり傘が不要になる。
道路の中心に水路があるのもあって、この町のメイン交通路は道路の端となっているのだ。
そしてこの町の主食はお米。湿地帯方面はお米文化が盛んで、ここも類に漏れないらしい。
前回の旅のおかげで、主食にお米、お米のお供として様々なおかず、という形式にも慣れている私だが、この町での主要な米料理はまたひと味違っていた。
ここではごはんの上に主菜、いわゆるおかずを乗せる形式が普通らしい。それを丼料理と言うのだとか。丼とは大きな底の深い器の事を言うらしい。
この町にたどりついたのは夕方頃で、宿を探しがてら町の事を調べていたら、すっかり夕ごはん時へとなっていた。なので早速この丼料理を食べようと適当なお店に入ってみたのである。
そのお店はカウンター席しかなくて、料理も実に想像しやすい名称の肉丼という一種類しか提供されていない。
メニューが一種類だけなので、来店した直後に料理が準備され、席に着いた頃には丼が差し出されすぐに食べる事ができる。この町におけるファストフードと言ったところか。早い、安い、うまい、というやつ。
そういう形式は初めてなので多少面食らったものの、ライラと共に一つの丼から食べる事にした。取り皿とか頼める空気ではなかったのだ。まあライラと同じ皿から食べるのを今さら気にすることは無い。
この町の肉丼とは、肉とタマネギのスライスを甘辛いタレでじっくり煮込んだものをごはんの上にかけ、そこに刻んだ紅ショウガを散らした物のようだ。
全体的に黒茶色でいかにも濃そうな味付けの見た目。そこを細かい紅ショウガが彩っているので、なんだか赤い花のつぼみのようにも見えた。
お米文化を持つ所では箸で食べる事の方が多い。箸も結構使い慣れたので、特に問題はなかった。ライラも子供用サイズの箸なら結構器用に扱えてる。
昔、魚のごった煮ごはんという丼形式に近い食べ物を食べたことはあるが、正式に食べるのは初めてだ。お米の上におかずが乗った丼料理、どんなものか……箸で肉とタマネギ、紅ショウガを上手く掴み、一口。
そのままもぐもぐと咀嚼すると、甘辛いタレの味が口内に広がっていく。煮込まれた肉は柔らかく、しんなりしたタマネギの食感に、独特な辛味を感じる紅ショウガのカリカリした感じ。
食感は結構面白く、味は濃い目だが結構おいしい。紅ショウガがさっぱりとしているので、後味も悪くない。
なるほど……これはごはんが欲しくなる味だ。パンよりも断然ごはん。
私は肉の下に隠れていたごはんを箸ですくい、ぱくっと食べてみた。
甘辛い肉の味が、ほのかな甘さながらも淡泊なお米にかなり合っている。タマネギの甘みや紅ショウガのさわやかな辛さもまたお米に合う。
ごはんと一緒に食べると、一気に味が完成したと言っても過言ではない。
なるほど……丼料理おいしい。このタレが染みたごはんも堪らない。
以前山菜を混ぜたご飯も食べたことがあるが、そういうのとはまた違った料理のように感じる。これが丼か……いいな、丼料理。惣菜パンのごはんバージョンみたいな印象だ。
何よりお米の上におかずを乗っけるという手軽さがいい。これならば旅の途中でも色々作れそうだ。
難点があるとすれば……考えなしに食べていると、おかずとごはんの量がうまく合わない事だろうか。後、タレが染み込んだごはん、箸でうまく掴めない。私まだ箸使いそんなに上手じゃないのだ。
もう一つ、このお店特有の難点。次々人が来店してさっさと食べて出ていくという、恐ろしい速度の回転を見せていくので、落ちついて食べてられない事。おかげで私もライラも自然慌てて食べ進めていた。感想を語り合う暇すらない。
そして軽々と全部食べ終え、お水で口を潤して退店。なんだかあっという間の出来事だった。
外へ出てようやく一息ついて、私とライラはお互いの顔を見合わせる。
「おいしかったけど……なんだかすごく慌ただしかったわ。お店の空気って言うのかしら、そういうの」
「そうだね、何か長居しちゃいけないって感じだった。ああいうお店もあるんだなぁ……次はゆっくり食べられる所にしようか」
しとしと降る雨の音を聞きながら、私たちは宿屋へと向かって歩き出す。
味は大満足。だけどもうちょっと落ち着いて食べたい。あそこは現地の人がささっと食べるのに適したお店だったのだろう。
でも、たまにはああいうお店に行くのもいい経験かもしれない。
お店の中では急いでた分、宿屋への帰路はことさらゆっくり歩く私たちだった。
空は暗くなり、雨がぽつぽつ降り続ける町中。道路の中心には水路が流れ、雨音に紛れて水が流れる音も響いている。
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