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102話、魔法薬の調合とチキンカツ
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弟子たちとの食事会も終わって、しばし家で過ごす日常が戻ってきていた。
せっかく家に居るので、この機会に久しぶりに魔法薬を調合するのもいい。そう考えた私は、早速調合部屋にこもっていた。
ライラも興味があるのか暇なのか、私の肩に腰かけて作業を見守っている。家の中なのでライラが普段定位置にしている帽子は脱いでいた。
魔法薬の調合とはいうが、実際の所そこまで難しい事はそうそうない。材料を手順通りに混ぜていけば基本的には完成する。
ただ、いくつか作るのに難しい魔法薬があるのも事実。それらに共通するのは、魔力を操って魔法薬にそそがないといけない所だ。
例えば、材料を溶かし込んでいる時に棒でかき混ぜながら一定量の魔力をそそがないと失敗するとか、混ぜる前に材料へ魔力をたっぷり含ませておく事前準備がいるとか、そういうもの。
これらはそそぎ込む魔力の量が完全に目分量なので、慣れていても失敗する可能性がある。その分作れたら高い料金で販売できるメリットもあるけど。
今日作るのはそういう難しいのではなく、本当に簡単な奴だ。
使うのはライラとの出会いにもなったリリスの花。黒っぽい紫の花だ。
リリスの花は周囲の魔力を取り込んで花びらに集める習性があるので、魔法薬にはよく使われる。
このリリスの花びらをちぎり、約九十度のお湯にひたして軽くかき混ぜた後数分置く。
するとお湯の色が黒に近い紫色になる。こうなれば完成。
これは魔法薬においてマナ水と呼ばれる物で、その名の通り魔力がたっぷり入った水である。いわゆる中間材料で、このマナ水に他の材料を入れたりするのだ。
「おいしそうね」
出来たマナ水を見たライラはそんな感想をこぼしていた。
出会ってすぐにこのマナ水をお茶代わりに飲んだ事があるが、妖精のライラからするとおいしいらしい。人間の私には渋いだけのまずい水だった。
「よし、とりあえずモニカのために化粧水でも作るか」
モニカと再会した時に、私がお店を閉めて旅をしていたことで私の化粧水が出回っていないとしぶられた思い出がある。
なのでモニカへのプレゼント用に化粧水を作ることにした。
私の作る化粧水はすごくシンプルな物。このマナ水を再度温め、そこにグリセリンと別の植物から抽出した香油を入れて混ぜるだけで完成する。
グリセリンと香油はストックがあるので新たに買ったり作る必要は無い。あっという間にできるだろう。
首尾よく材料を投入し、軽くかき混ぜて溶かし込めば完成。
出来た化粧水はしばらく冷ました後、小瓶に詰めて蓋をし、ラベルを張る。
そして最後の仕上げとして、ビン越しに私が操る魔力をゆっくりそそぎ込みながら魔術をかける。
こうすることで通常の物より大分日持ちするし、保湿効果も高められるのだ。完成品に魔術をかけて付加効果をつけられる辺りは、魔法薬の妙味とも言えた。
とりあえず五個ほど作り、一個はモニカにあげるとして残りは業者に卸すことにした。
ちなみに魔法薬を専門に扱うお店はそこそこあり、中には輸入した魔法薬を売るだけのお店もある。私の魔法薬は後者のような輸入販売店に卸しているのだ。
出来たのは後でククルちゃんに運んでもらえばいい。
「よっし、もう今日は調合いいか」
「あら、もう終わり? 化粧水作っただけよ?」
「大丈夫大丈夫。作り置きの薬結構あるし、モニカにあげる化粧水を作るのが目的だったから。それよりそろそろお昼だよ。お腹空かない?」
「……空いたわ」
「じゃあちゃちゃっと作ってくるから居間でくつろいでなよ」
「はーい」
私に言われ、ライラはふわふわ飛びながら居間へと向かっていった。
……何か今の一連のやり取り、完全に妖精の神秘性失ってたよな。はーい、の言い方とか特に。
ライラが妖精としてのアイデンティティを失いつつあるのは置いといて、私は台所へと向かった。
近くのケルンの町で食材を買いこんでいるので、作れる物の選択肢は多い。ここは野外では作り辛い料理を作るのもいいかも。
冷蔵庫の中の材料をある程度物色し、目当てをつけた食材を取り出す。
私が目をつけたのは、しめじとレンズ豆に鶏肉。これで二品作るつもりだ。
まずは鍋にお湯を沸かし、その間にしめじとレンズ豆を軽く水洗い。
お湯が沸いたらしめじとレンズ豆を投入し、火が入ったら顆粒のコンソメを入れてかき混ぜる。
これでしめじとレンズ豆のコンソメスープが完成だ。さっきまで魔法薬を作っていたせいか、過程がほぼ同じように思える。料理も調合もそう変わらないのかも。
鶏肉の方は皮を外し、塩コショウで下味をつける。皮は捨てずに冷蔵庫に放り込んでおいた。後で何かに使えるかもしれない。
下味がしっかりつくまでの間に、やや底が深いフライパンに油をたっぷりそそぎ熱する。
そしてボウルを三つ用意。片方に卵、もう片方に片栗粉、最後の一つにパン粉を入れる。卵は溶いておいた。
油から薄ら煙が立つほど熱した頃合いで、鶏肉に片栗粉をつけ、その後卵を絡ませ、最後にパン粉をつける。
余分なパン粉を軽く払ったら、そのまま油に投入。後は火加減を少し弱め、鶏肉にじっくり火が入るようにする。
十分ほど弱火で火を通したら、次は強火にして一気に油を熱し、からっと揚げていく。
二、三分もしたらきつね色に揚がるので、油から取り上げて軽く油を切り、包丁で切ればチキンカツの完成だ。千切りキャベツを付け合わせれば見た目もぐっと良くなる。
スープとチキンカツを食器に盛りつけた後、私はしばし考え込む。
このまま普通に食べても面白くないし、せっかく家なのだから家でしかできない食べ方をしてみよう。
スープとチキンカツを居間へと持っていた後、いくつかの小皿と調味料を抱えこんだ。
「な、なにそんなにがちゃがちゃ持ってるのよ」
両手に小皿と調味料を抱えて居間へとやってきた私を、ライラの呆れた声が出迎えてくれる。
「せっかく家だからさ、色んな調味料でチキンカツ食べてみるのもいいかなって」
「どれが一番おいしいか食べ比べってわけ? ……結構面白そうね」
意外と乗り気になったライラと共に、小皿に様々な調味料を入れていく。
用意した調味料は、一般的なとんかつソースに、ウスターソース、塩、レモン汁、ケチャップ、変わり種としてマスタードも。
調味料の準備が出来たので、早速いただきます。
まずはしめじとレンズ豆のスープを飲んでみる。
「……うん、コンソメ味で普通においしい」
水分たっぷりのしめじに、ちょっとぼそっとしつつもおいしい豆。ちょい濃い目のコンソメスープがいい感じにそれらの味を引き立てていた。
やっぱり暖かいスープは良い。ほっとする。野外で飲んでもほっと一息つけるのだから、屋内だとひとしおだ。
さて、スープは変な事にならないのは分かっていたので、問題はチキンカツだ。ちゃんと火は通っているだろうから、普通に食べれば当然おいしいけど……今回は色々な調味料で食べてみる実験作。
「まずどれからいくの?」
せっかくだから二人とも一緒のを食べていこうと決めていた。
「うーん……塩からいってみようか」
「塩ねぇ……ずいぶんとシンプルよね」
「モニカいわく、塩で肉を食べるのは通だとかなんとか」
「通……ってなに?」
「……分かんない」
いわゆる分かってる感ってやつじゃないだろうか。多分。
熱々のチキンカツを一切れ箸で掴み、小皿の塩をつけてぱくりと一口。
「んっ……んん~っ、おいしいっ!」
「あっ、本当ね。淡泊かと思いきや結構肉の味が強く感じられるわ」
まだカツが熱々だからか、噛むたびに肉汁がじゅわっと溢れてくる。その力強い旨みが塩によって十分に引き立てられるのだ。
おいしい……塩でカツ食べるのすごくおいしい。
これが通ってやつなのか……。やるな、モニカ。
シンプルな塩だけというのがかなり美味しかったので、他の調味料にも期待が高まってきた。
「次は……ちょっと濃い目でウスターソースにしよう」
ちょんとウスターソースをつけ、ぱくり。
「……あれ、何かいまいちというか、普通というか……」
「ちょっと辛口よね、このソース」
ウスターソースはやや辛口目で、カツの味を覆い隠してしまうみたいだった。何かさっきの塩で感じたチキンカツのおいしさとか無くて、完全にウスターソース味って感じ。
「よし、どんどんいってみよう。次はレモン汁」
ウスターソースが辛めだったので、次はさっぱりしてそうなレモン汁をチョイス。
これもつけ過ぎないよう気を付けて、カツを食べてみる。
レモン汁の方はやはりさっぱりとした口当たりだ。ザクザクとした香ばしいパン粉に肉汁溢れるチキンの旨みと、うまく相まっている。
たださっぱりし過ぎでひと味足りない気もする。これは軽く塩をまぶしてレモン塩として食べたらもっとおいしいのではないだろうか。
次に食べたのはケチャップ。まあケチャップは外れないだろうと安易に考えて選んでいた。
ところが……トマトの酸味と甘みを感じるケチャップは、どうもカツに合ってるとは言い難い。
それぞれの味が混じらず主張し合ってる感じで、こう……水と油みたいな。
次に食べるのはマスタード。これは粒タイプのマスタードだ。
マスタードというと辛いイメージだが、種類によって辛さが結構違う。この粒マスタードはマイルドな味わいで、たっぷり付けても辛くは無い。ウインナーとかによく合うやつだ。
この粒マスタードとチキンカツは……結構悪くは無い。辛さ抑えめのマイルドなマスタードの味は、結構カツの香ばしさと旨みにマッチしていた。
ただこれは単体で食べるというよりは、パンに挟んで食べた方がいい味かもしれない。
揚げたてのチキンカツに粒マスタード、そこに軽くケチャップを入れたらホットドッグの代わり種として十分ありではないだろうか。
ここまで食べ終え、ついに残すはとんかつソース。
もはやこれは食べないでも分かる。だから最後に残しておいたのだ。
最後の一口はおいしく食べたいからね。
とんかつソースはいわゆる濃厚ソースで、ウスターソースをより甘目にした物だ。どろっとして濃い目のソースで、その名前の通りカツに非常に合っている。
最後の一切れにとんかつソースをつけて頬張り、もぐもぐ食べていく。
「……うん、やっぱりこれが一番合ってる」
「そうね、一番しっくりくるソースだわ」
やっぱり王道が一番、という訳か。マスタードも中々いけたけどね。
しかし旅の最中で食べる簡単な食事でも、調味料を変えることによって大分印象が変わって新鮮に感じられる事があるかもしれない。
この経験はきっと今後の旅で活かされるだろう。いや、活かせるよう頑張ろう。
こうして私とライラは普通の昼食を終えるのだった。
せっかく家に居るので、この機会に久しぶりに魔法薬を調合するのもいい。そう考えた私は、早速調合部屋にこもっていた。
ライラも興味があるのか暇なのか、私の肩に腰かけて作業を見守っている。家の中なのでライラが普段定位置にしている帽子は脱いでいた。
魔法薬の調合とはいうが、実際の所そこまで難しい事はそうそうない。材料を手順通りに混ぜていけば基本的には完成する。
ただ、いくつか作るのに難しい魔法薬があるのも事実。それらに共通するのは、魔力を操って魔法薬にそそがないといけない所だ。
例えば、材料を溶かし込んでいる時に棒でかき混ぜながら一定量の魔力をそそがないと失敗するとか、混ぜる前に材料へ魔力をたっぷり含ませておく事前準備がいるとか、そういうもの。
これらはそそぎ込む魔力の量が完全に目分量なので、慣れていても失敗する可能性がある。その分作れたら高い料金で販売できるメリットもあるけど。
今日作るのはそういう難しいのではなく、本当に簡単な奴だ。
使うのはライラとの出会いにもなったリリスの花。黒っぽい紫の花だ。
リリスの花は周囲の魔力を取り込んで花びらに集める習性があるので、魔法薬にはよく使われる。
このリリスの花びらをちぎり、約九十度のお湯にひたして軽くかき混ぜた後数分置く。
するとお湯の色が黒に近い紫色になる。こうなれば完成。
これは魔法薬においてマナ水と呼ばれる物で、その名の通り魔力がたっぷり入った水である。いわゆる中間材料で、このマナ水に他の材料を入れたりするのだ。
「おいしそうね」
出来たマナ水を見たライラはそんな感想をこぼしていた。
出会ってすぐにこのマナ水をお茶代わりに飲んだ事があるが、妖精のライラからするとおいしいらしい。人間の私には渋いだけのまずい水だった。
「よし、とりあえずモニカのために化粧水でも作るか」
モニカと再会した時に、私がお店を閉めて旅をしていたことで私の化粧水が出回っていないとしぶられた思い出がある。
なのでモニカへのプレゼント用に化粧水を作ることにした。
私の作る化粧水はすごくシンプルな物。このマナ水を再度温め、そこにグリセリンと別の植物から抽出した香油を入れて混ぜるだけで完成する。
グリセリンと香油はストックがあるので新たに買ったり作る必要は無い。あっという間にできるだろう。
首尾よく材料を投入し、軽くかき混ぜて溶かし込めば完成。
出来た化粧水はしばらく冷ました後、小瓶に詰めて蓋をし、ラベルを張る。
そして最後の仕上げとして、ビン越しに私が操る魔力をゆっくりそそぎ込みながら魔術をかける。
こうすることで通常の物より大分日持ちするし、保湿効果も高められるのだ。完成品に魔術をかけて付加効果をつけられる辺りは、魔法薬の妙味とも言えた。
とりあえず五個ほど作り、一個はモニカにあげるとして残りは業者に卸すことにした。
ちなみに魔法薬を専門に扱うお店はそこそこあり、中には輸入した魔法薬を売るだけのお店もある。私の魔法薬は後者のような輸入販売店に卸しているのだ。
出来たのは後でククルちゃんに運んでもらえばいい。
「よっし、もう今日は調合いいか」
「あら、もう終わり? 化粧水作っただけよ?」
「大丈夫大丈夫。作り置きの薬結構あるし、モニカにあげる化粧水を作るのが目的だったから。それよりそろそろお昼だよ。お腹空かない?」
「……空いたわ」
「じゃあちゃちゃっと作ってくるから居間でくつろいでなよ」
「はーい」
私に言われ、ライラはふわふわ飛びながら居間へと向かっていった。
……何か今の一連のやり取り、完全に妖精の神秘性失ってたよな。はーい、の言い方とか特に。
ライラが妖精としてのアイデンティティを失いつつあるのは置いといて、私は台所へと向かった。
近くのケルンの町で食材を買いこんでいるので、作れる物の選択肢は多い。ここは野外では作り辛い料理を作るのもいいかも。
冷蔵庫の中の材料をある程度物色し、目当てをつけた食材を取り出す。
私が目をつけたのは、しめじとレンズ豆に鶏肉。これで二品作るつもりだ。
まずは鍋にお湯を沸かし、その間にしめじとレンズ豆を軽く水洗い。
お湯が沸いたらしめじとレンズ豆を投入し、火が入ったら顆粒のコンソメを入れてかき混ぜる。
これでしめじとレンズ豆のコンソメスープが完成だ。さっきまで魔法薬を作っていたせいか、過程がほぼ同じように思える。料理も調合もそう変わらないのかも。
鶏肉の方は皮を外し、塩コショウで下味をつける。皮は捨てずに冷蔵庫に放り込んでおいた。後で何かに使えるかもしれない。
下味がしっかりつくまでの間に、やや底が深いフライパンに油をたっぷりそそぎ熱する。
そしてボウルを三つ用意。片方に卵、もう片方に片栗粉、最後の一つにパン粉を入れる。卵は溶いておいた。
油から薄ら煙が立つほど熱した頃合いで、鶏肉に片栗粉をつけ、その後卵を絡ませ、最後にパン粉をつける。
余分なパン粉を軽く払ったら、そのまま油に投入。後は火加減を少し弱め、鶏肉にじっくり火が入るようにする。
十分ほど弱火で火を通したら、次は強火にして一気に油を熱し、からっと揚げていく。
二、三分もしたらきつね色に揚がるので、油から取り上げて軽く油を切り、包丁で切ればチキンカツの完成だ。千切りキャベツを付け合わせれば見た目もぐっと良くなる。
スープとチキンカツを食器に盛りつけた後、私はしばし考え込む。
このまま普通に食べても面白くないし、せっかく家なのだから家でしかできない食べ方をしてみよう。
スープとチキンカツを居間へと持っていた後、いくつかの小皿と調味料を抱えこんだ。
「な、なにそんなにがちゃがちゃ持ってるのよ」
両手に小皿と調味料を抱えて居間へとやってきた私を、ライラの呆れた声が出迎えてくれる。
「せっかく家だからさ、色んな調味料でチキンカツ食べてみるのもいいかなって」
「どれが一番おいしいか食べ比べってわけ? ……結構面白そうね」
意外と乗り気になったライラと共に、小皿に様々な調味料を入れていく。
用意した調味料は、一般的なとんかつソースに、ウスターソース、塩、レモン汁、ケチャップ、変わり種としてマスタードも。
調味料の準備が出来たので、早速いただきます。
まずはしめじとレンズ豆のスープを飲んでみる。
「……うん、コンソメ味で普通においしい」
水分たっぷりのしめじに、ちょっとぼそっとしつつもおいしい豆。ちょい濃い目のコンソメスープがいい感じにそれらの味を引き立てていた。
やっぱり暖かいスープは良い。ほっとする。野外で飲んでもほっと一息つけるのだから、屋内だとひとしおだ。
さて、スープは変な事にならないのは分かっていたので、問題はチキンカツだ。ちゃんと火は通っているだろうから、普通に食べれば当然おいしいけど……今回は色々な調味料で食べてみる実験作。
「まずどれからいくの?」
せっかくだから二人とも一緒のを食べていこうと決めていた。
「うーん……塩からいってみようか」
「塩ねぇ……ずいぶんとシンプルよね」
「モニカいわく、塩で肉を食べるのは通だとかなんとか」
「通……ってなに?」
「……分かんない」
いわゆる分かってる感ってやつじゃないだろうか。多分。
熱々のチキンカツを一切れ箸で掴み、小皿の塩をつけてぱくりと一口。
「んっ……んん~っ、おいしいっ!」
「あっ、本当ね。淡泊かと思いきや結構肉の味が強く感じられるわ」
まだカツが熱々だからか、噛むたびに肉汁がじゅわっと溢れてくる。その力強い旨みが塩によって十分に引き立てられるのだ。
おいしい……塩でカツ食べるのすごくおいしい。
これが通ってやつなのか……。やるな、モニカ。
シンプルな塩だけというのがかなり美味しかったので、他の調味料にも期待が高まってきた。
「次は……ちょっと濃い目でウスターソースにしよう」
ちょんとウスターソースをつけ、ぱくり。
「……あれ、何かいまいちというか、普通というか……」
「ちょっと辛口よね、このソース」
ウスターソースはやや辛口目で、カツの味を覆い隠してしまうみたいだった。何かさっきの塩で感じたチキンカツのおいしさとか無くて、完全にウスターソース味って感じ。
「よし、どんどんいってみよう。次はレモン汁」
ウスターソースが辛めだったので、次はさっぱりしてそうなレモン汁をチョイス。
これもつけ過ぎないよう気を付けて、カツを食べてみる。
レモン汁の方はやはりさっぱりとした口当たりだ。ザクザクとした香ばしいパン粉に肉汁溢れるチキンの旨みと、うまく相まっている。
たださっぱりし過ぎでひと味足りない気もする。これは軽く塩をまぶしてレモン塩として食べたらもっとおいしいのではないだろうか。
次に食べたのはケチャップ。まあケチャップは外れないだろうと安易に考えて選んでいた。
ところが……トマトの酸味と甘みを感じるケチャップは、どうもカツに合ってるとは言い難い。
それぞれの味が混じらず主張し合ってる感じで、こう……水と油みたいな。
次に食べるのはマスタード。これは粒タイプのマスタードだ。
マスタードというと辛いイメージだが、種類によって辛さが結構違う。この粒マスタードはマイルドな味わいで、たっぷり付けても辛くは無い。ウインナーとかによく合うやつだ。
この粒マスタードとチキンカツは……結構悪くは無い。辛さ抑えめのマイルドなマスタードの味は、結構カツの香ばしさと旨みにマッチしていた。
ただこれは単体で食べるというよりは、パンに挟んで食べた方がいい味かもしれない。
揚げたてのチキンカツに粒マスタード、そこに軽くケチャップを入れたらホットドッグの代わり種として十分ありではないだろうか。
ここまで食べ終え、ついに残すはとんかつソース。
もはやこれは食べないでも分かる。だから最後に残しておいたのだ。
最後の一口はおいしく食べたいからね。
とんかつソースはいわゆる濃厚ソースで、ウスターソースをより甘目にした物だ。どろっとして濃い目のソースで、その名前の通りカツに非常に合っている。
最後の一切れにとんかつソースをつけて頬張り、もぐもぐ食べていく。
「……うん、やっぱりこれが一番合ってる」
「そうね、一番しっくりくるソースだわ」
やっぱり王道が一番、という訳か。マスタードも中々いけたけどね。
しかし旅の最中で食べる簡単な食事でも、調味料を変えることによって大分印象が変わって新鮮に感じられる事があるかもしれない。
この経験はきっと今後の旅で活かされるだろう。いや、活かせるよう頑張ろう。
こうして私とライラは普通の昼食を終えるのだった。
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