89 / 185
89話、ホルモン焼き盛り合わせ
しおりを挟む
クラリッタの町に滞在して三日目。
昨日舟でミスリア湖遊泳をして腕がもげかけた私は、疲れからか昼近くまでぐっすり寝てしまっていた。
起きれば、朝とも昼とも言えない何とも微妙な時間帯。
少々迷ったものの、朝食を逃してお腹が空いているし、こうなったら朝食兼少し早いお昼を食べようと思い立ち、町へと繰り出した。
そして適当なお店に入り料理を注文した後。
料理が来るまでの間にとある事を考えるため、テーブルの上に地図を広げて眺め出した。
「うーん、どうしようかな」
「なに悩んでいるの?」
地図を眺めながら考え込む私を見かねたのか、ライラが話しかけてくる。
「いや、次どこへ行こうかなって思ってさ」
この地図はクラリッタで購入したもので、近辺が詳しく記されている。
それを見ながら次の旅に向けた目的地を決めようと思ってたのだが、これが結構悩ましい。
クラリッタの町はミスリア湖に隣接しているのもあり、この地図は観光用のものだった。なので近辺の観光地などが詳しく記されてはいるが、旅という目的だと少々使いづらい。
縮尺がやや小さいため、ミスリア湖が地図の三分の一を埋めてしまっている。それにしてもどれだけ広いの、この湖。
「別に悩む必要なんてないんじゃない? そもそもが当てもない旅なんでしょ?」
「そうだけどさ……当てもなくふらふらするより、ある程度目的地を決めてそこまでのルートを考えるのも楽しいものだって分かったんだよ」
クロエと共に旅をしたことで、私はそういう目的地に向けて色々ルートを構築する楽しみを見いだしたのだ。
ちゃんと下調べすれば、街道から外れたルートもそんなに大変ではない。むしろ色々と新たな発見もあって面白くもある。
だからこの町から旅立つなら、次のおおよその目的地を設定しておきたい。そこから逆算して途中途中の町へ寄るルートを考えれば、目的地へ向けた目標地点も設定できて旅がしやすくなる。
問題は、この地図が広い範囲を記してないことだ。さすがに一日かからず行けそうな町などを目的地にすることはできない。
なら新しく地図を買い直せばいいのだけど……これで次に縮尺が大きすぎる地図を買ってしまうと、目的地を定められても細かなルート設定がやり辛くなる。
縮尺様々な地図を複数買っておくのも悪くないが、それはそれで私が管理できるかどうか……。
「とにかくおおざっぱでもいいから、目指す場所を決めておきたいな。だいたいの方角が分かれば、完璧なルートを定めなくても途中途中の町で考え直せるし」
「リリアは行きたいところとか無いの?」
「そうだね……以前の砂漠のような特徴的な地域には行ってみたいな。ライラ何か当てとかない? 妖精の方が自然に詳しいでしょ?」
というか妖精が自然そのものみたいな。
「特徴的な地域ね……雪原、とか? 綺麗な花が咲くから、妖精の間では人気の場所よ」
「雪原か……寒そう」
「あ、後巨大な樹がたくさん生えてるジャングルとかもあるって噂よ」
「へえ、一度見てみたいかも」
でも雪原地域や巨大樹ジャングルなんて、知識なく行って大丈夫だろうか? いきなりそこを目指すというのも危険かも。
「うーん……ライラは行ってみたい所とかあるの?」
「私? そうね……おいしいごはんがある町ならどこでもいいけど」
「……それは私もちょっと思う」
とりあえずゆっくり寝られるベッドと食事に困らなければ、それだけで満足感はある。
「あ、そういえば……」
ふと、ライラが何かを思いついたかのように唇に人差し指を当てた。
「私、リリアのお店を見たことがないわ」
「あー……それはまあ、そうだよね」
旅の途中で出会ってそのまま一緒に旅しているわけだし。
しかし私のお店はいわば私の家だ。旅をしているのに家に戻るって、それは旅の終わりでは……。
「……いや、そうでもないのかな?」
そもそも、旅をしているからって一度も家に帰ってはいけないというわけではない。
一端家に戻ってから次の旅に出発してもいいわけだ。
しかも自分の家だから何日滞在してもお金的な問題は何も無いわけだし、ゆっくりだらだら過ごしつつ次の旅に向けた計画を練ることもできる。
あれ? 一度家に戻るのって悪くないのでは? それで旅が終わるわけでもないし。
「……よし、ならここで一度、家に帰ってみようか」
「あら、帰っちゃうの?」
「うん、家に帰ったからって別に旅が終わるってわけでもないしね。一度家に戻ってから次の旅に向けて準備するよ。ついでにライラにお店見せてあげられるし」
といっても、ほこりまみれだろうけど。
いったん家に帰ると決めたが、もちろん道中はできるだけ徒歩だ。家はあくまで旅の中継地点であり、家に戻るまでも旅なのだ。
おそらくこれまでの旅は、私の家を中心にしてぐるっと回るように軌跡を描いているはず。ならば家に向けてできるだけ一直線に向かえば、帰るのにそこまで時間はかからないだろう。それでも十数日はかかりそうだけど。
こうなれば話は簡単だ。後で縮尺の大きい地図を買って私の家がある地域を確認したら、後はそこまでのルートをおおよそでいいから設定すればいい。
さすがに自分の家がどこにあるかは、ある程度近づけば風景で分かる。だからおおざっぱに方向が分かれば十分。
よし、これで次の目的地は決まった。私の家兼お店。まさかの帰郷である。
目的地が決まってすっきりした気持ちを抱いていると、タイミングよく注文していた料理が運ばれてきた。なんだか気分よく食べられそうだ。
今回頼んだ料理は、ホルモン焼きの盛り合わせだ。
調べて分かったのだが、この湖町クラリッタは交易が盛んで新鮮な食べ物も手に入りやすく、また肉類を輸出する近くの村町ではモツ系の料理があるので、そこ由来でクラリッタでも人気になったらしい。
こういった内臓系のお肉はモツ、ホルモン、などと総称されているようだ。どちらを料理名に使うかはある程度ルールがありそうだが、私は知らない。
とにかく、昨日のモツ煮込みに続いて、今回はホルモン焼きを食べることにしたのだ。
モツ煮込みは小腸しか入ってなかったが、今回ホルモン焼きの盛り合わせなので、おそらく人気の内臓肉をある程度の種類食べられるだろう。この機会にどんな物があるのか知っておきたかったのだ。
そうして運ばれてきたホルモン焼き盛り合わせは、盛り合わせというだけあって結構な量だった。
しかしこうして盛り合わせのお肉を見てみても……なにがなんだかよく分からない。どれも見た目が結構独特だ。
「何だか初心者だとうかつに手が出ない感じよね」
ライラもその見た目に圧倒されているのか、ちょっと警戒気味に眺めている。
ひとまず、私が思う一番お肉っぽいやつから食べてみることにした。
箸で掴んでみたのは、赤い一口サイズのお肉。赤身肉よりもちょっと赤黒い。なんかより血が詰まってそうな感じ。
とりあえず口に放り込み、噛んでみた。
「ん……? 意外と硬い、というか噛みごたえある」
見た目はお肉っぽいのに、食感は独特。何かごぼう見たいな繊維的な食感がする。
さすがに部位など分からないので、私は傍らにあった写真付きメニューを開いて、それっぽい部位の説明を読んでみる。
「これは……ハツ、心臓かな。じゃあこのもっと赤黒い塊がレバー……?」
おそらくレバーらしいより黒っぽい肉の塊を食べてみた。
するとこちらはハツとは違い、噛むとボロボロっと簡単に砕けていく。
そして味は……何か苦い。何これ、鉄?
「それなに?」
私の苦々しい表情が気になったのか、ライラが怯えながら聞いてくる。
「食べてみて。大丈夫、大丈夫だから」
私はライラにレバーを向け、何とか食べさせようとした。
「うぅ、さっきの表情を見るに絶対変なやつでしょ、これ」
背をのけ反らせて拒否していたライラだが、やがて諦めて箸先のレバーをぱくっと食べる。
「う……苦い……あれ、でも嫌いじゃないかも」
意外にもライラは簡単に受け入れ、レバーをもぐもぐ咀嚼して飲みこんでいた。
「それ、何か鉄って感じしない? 食べやすくした鉄って感じ」
「なによ、食べやすくした鉄って。レバーって部位なんでしょ? ほら、メニューに書いてあるわ」
レバーという名の食べやすくした鉄は、私はちょっと苦手かも。
やはりホルモンは一筋縄ではいかない。一見普通のお肉に見えて癖が中々ある。
なんだかお肉のびっくり箱みたいだ、何てことを思う。
よし、こうなったら臆せずどんどん食べてしまおう。
意を決した私は、次々ホルモン焼きを口に運んでいった。
タン、はらみ、とんとろ、ハチノス、なんこつ。メニューで部位の名前を確認しながら食べていると、食事というより勉強しているようだ。
しかしこうして食べてみると、それぞれ今まで食べたお肉と違って明確に癖がある。
タンはやや硬めだが、薄切りにされていて結構食べやすく、味は淡泊。塩とレモンで食べるとさっぱりとしていておいしかった。
はらみは、内臓系とは思えないくらい普通のお肉っぽかった。というか普通のお肉と比べても好みだ。これおいしい。
お次はとんとろ。これは油がかなり乗っていて歯ごたえも結構あり、不思議な印象。普通油が乗ってたら柔らかくて噛めばすぐとろけそうなものだけど、これはコリっとした食感がしっかりあった。
ハチノスは、牛の胃袋らしい。見た目がこう……海岸に落ちてる変な石みたいな、ぼこぼこっと小さな穴が開いてるようでちょっと拒否感があったが、食べてみると問題なくおいしかった。ただ食感がふわっとしているので、それも相まって何か海に漂ってそうな印象がぬぐえない。
なんこつは柔らかい骨の部位らしく、コリコリした食感が特徴的。味はそこまで特徴的でもなく、食感がメインなのかもしれない。
「うーん」
全部食べ終わり、空になった皿を見つめる。
どれもこれも出会うのは今回が初めてだと思っていたが、いざ食べてみるといくつか食べた事ありそうな印象があった。
私が知らないだけで、これらは色々な料理に使われているのかもしれない。あの変な見た目のハチノスなんて、メニューの説明ではトマトと煮込んで食べると絶品、なんて書いてあるし。
ホルモンとかモツ以前に、これまで肉の部位なんてそんなに気にしてなかった。
でもここまで特徴が変わるのなら、それを活かした料理も色々あるんだろうな。私が知らないだけで。
やっぱり私の旅はまだまだ終わりそうにない。そんなことを改めて思った朝食兼昼食だった。
と、私が感慨をあらたにしていると、ライラが袖を引っ張ってくる。
「ねえリリア。最後にレバーだけ追加してくれない?」
「……え? まだあの鉄食べるの?」
以前ビールもおいしそうに飲んでたし……ライラ苦いの全然いけるんだ。ライラの味覚って大人なんだな……。
妖精って死の概念が希薄で寿命とかなさそうだし……まさかライラはこう見えて、私よりずっと年上? だから苦いのいけるの?
おいしそうにレバーを頬張るライラに、私はどうしても尋ねることができなかった。私の直感が告げている。それは知らなくて良い事なのだと。
昨日舟でミスリア湖遊泳をして腕がもげかけた私は、疲れからか昼近くまでぐっすり寝てしまっていた。
起きれば、朝とも昼とも言えない何とも微妙な時間帯。
少々迷ったものの、朝食を逃してお腹が空いているし、こうなったら朝食兼少し早いお昼を食べようと思い立ち、町へと繰り出した。
そして適当なお店に入り料理を注文した後。
料理が来るまでの間にとある事を考えるため、テーブルの上に地図を広げて眺め出した。
「うーん、どうしようかな」
「なに悩んでいるの?」
地図を眺めながら考え込む私を見かねたのか、ライラが話しかけてくる。
「いや、次どこへ行こうかなって思ってさ」
この地図はクラリッタで購入したもので、近辺が詳しく記されている。
それを見ながら次の旅に向けた目的地を決めようと思ってたのだが、これが結構悩ましい。
クラリッタの町はミスリア湖に隣接しているのもあり、この地図は観光用のものだった。なので近辺の観光地などが詳しく記されてはいるが、旅という目的だと少々使いづらい。
縮尺がやや小さいため、ミスリア湖が地図の三分の一を埋めてしまっている。それにしてもどれだけ広いの、この湖。
「別に悩む必要なんてないんじゃない? そもそもが当てもない旅なんでしょ?」
「そうだけどさ……当てもなくふらふらするより、ある程度目的地を決めてそこまでのルートを考えるのも楽しいものだって分かったんだよ」
クロエと共に旅をしたことで、私はそういう目的地に向けて色々ルートを構築する楽しみを見いだしたのだ。
ちゃんと下調べすれば、街道から外れたルートもそんなに大変ではない。むしろ色々と新たな発見もあって面白くもある。
だからこの町から旅立つなら、次のおおよその目的地を設定しておきたい。そこから逆算して途中途中の町へ寄るルートを考えれば、目的地へ向けた目標地点も設定できて旅がしやすくなる。
問題は、この地図が広い範囲を記してないことだ。さすがに一日かからず行けそうな町などを目的地にすることはできない。
なら新しく地図を買い直せばいいのだけど……これで次に縮尺が大きすぎる地図を買ってしまうと、目的地を定められても細かなルート設定がやり辛くなる。
縮尺様々な地図を複数買っておくのも悪くないが、それはそれで私が管理できるかどうか……。
「とにかくおおざっぱでもいいから、目指す場所を決めておきたいな。だいたいの方角が分かれば、完璧なルートを定めなくても途中途中の町で考え直せるし」
「リリアは行きたいところとか無いの?」
「そうだね……以前の砂漠のような特徴的な地域には行ってみたいな。ライラ何か当てとかない? 妖精の方が自然に詳しいでしょ?」
というか妖精が自然そのものみたいな。
「特徴的な地域ね……雪原、とか? 綺麗な花が咲くから、妖精の間では人気の場所よ」
「雪原か……寒そう」
「あ、後巨大な樹がたくさん生えてるジャングルとかもあるって噂よ」
「へえ、一度見てみたいかも」
でも雪原地域や巨大樹ジャングルなんて、知識なく行って大丈夫だろうか? いきなりそこを目指すというのも危険かも。
「うーん……ライラは行ってみたい所とかあるの?」
「私? そうね……おいしいごはんがある町ならどこでもいいけど」
「……それは私もちょっと思う」
とりあえずゆっくり寝られるベッドと食事に困らなければ、それだけで満足感はある。
「あ、そういえば……」
ふと、ライラが何かを思いついたかのように唇に人差し指を当てた。
「私、リリアのお店を見たことがないわ」
「あー……それはまあ、そうだよね」
旅の途中で出会ってそのまま一緒に旅しているわけだし。
しかし私のお店はいわば私の家だ。旅をしているのに家に戻るって、それは旅の終わりでは……。
「……いや、そうでもないのかな?」
そもそも、旅をしているからって一度も家に帰ってはいけないというわけではない。
一端家に戻ってから次の旅に出発してもいいわけだ。
しかも自分の家だから何日滞在してもお金的な問題は何も無いわけだし、ゆっくりだらだら過ごしつつ次の旅に向けた計画を練ることもできる。
あれ? 一度家に戻るのって悪くないのでは? それで旅が終わるわけでもないし。
「……よし、ならここで一度、家に帰ってみようか」
「あら、帰っちゃうの?」
「うん、家に帰ったからって別に旅が終わるってわけでもないしね。一度家に戻ってから次の旅に向けて準備するよ。ついでにライラにお店見せてあげられるし」
といっても、ほこりまみれだろうけど。
いったん家に帰ると決めたが、もちろん道中はできるだけ徒歩だ。家はあくまで旅の中継地点であり、家に戻るまでも旅なのだ。
おそらくこれまでの旅は、私の家を中心にしてぐるっと回るように軌跡を描いているはず。ならば家に向けてできるだけ一直線に向かえば、帰るのにそこまで時間はかからないだろう。それでも十数日はかかりそうだけど。
こうなれば話は簡単だ。後で縮尺の大きい地図を買って私の家がある地域を確認したら、後はそこまでのルートをおおよそでいいから設定すればいい。
さすがに自分の家がどこにあるかは、ある程度近づけば風景で分かる。だからおおざっぱに方向が分かれば十分。
よし、これで次の目的地は決まった。私の家兼お店。まさかの帰郷である。
目的地が決まってすっきりした気持ちを抱いていると、タイミングよく注文していた料理が運ばれてきた。なんだか気分よく食べられそうだ。
今回頼んだ料理は、ホルモン焼きの盛り合わせだ。
調べて分かったのだが、この湖町クラリッタは交易が盛んで新鮮な食べ物も手に入りやすく、また肉類を輸出する近くの村町ではモツ系の料理があるので、そこ由来でクラリッタでも人気になったらしい。
こういった内臓系のお肉はモツ、ホルモン、などと総称されているようだ。どちらを料理名に使うかはある程度ルールがありそうだが、私は知らない。
とにかく、昨日のモツ煮込みに続いて、今回はホルモン焼きを食べることにしたのだ。
モツ煮込みは小腸しか入ってなかったが、今回ホルモン焼きの盛り合わせなので、おそらく人気の内臓肉をある程度の種類食べられるだろう。この機会にどんな物があるのか知っておきたかったのだ。
そうして運ばれてきたホルモン焼き盛り合わせは、盛り合わせというだけあって結構な量だった。
しかしこうして盛り合わせのお肉を見てみても……なにがなんだかよく分からない。どれも見た目が結構独特だ。
「何だか初心者だとうかつに手が出ない感じよね」
ライラもその見た目に圧倒されているのか、ちょっと警戒気味に眺めている。
ひとまず、私が思う一番お肉っぽいやつから食べてみることにした。
箸で掴んでみたのは、赤い一口サイズのお肉。赤身肉よりもちょっと赤黒い。なんかより血が詰まってそうな感じ。
とりあえず口に放り込み、噛んでみた。
「ん……? 意外と硬い、というか噛みごたえある」
見た目はお肉っぽいのに、食感は独特。何かごぼう見たいな繊維的な食感がする。
さすがに部位など分からないので、私は傍らにあった写真付きメニューを開いて、それっぽい部位の説明を読んでみる。
「これは……ハツ、心臓かな。じゃあこのもっと赤黒い塊がレバー……?」
おそらくレバーらしいより黒っぽい肉の塊を食べてみた。
するとこちらはハツとは違い、噛むとボロボロっと簡単に砕けていく。
そして味は……何か苦い。何これ、鉄?
「それなに?」
私の苦々しい表情が気になったのか、ライラが怯えながら聞いてくる。
「食べてみて。大丈夫、大丈夫だから」
私はライラにレバーを向け、何とか食べさせようとした。
「うぅ、さっきの表情を見るに絶対変なやつでしょ、これ」
背をのけ反らせて拒否していたライラだが、やがて諦めて箸先のレバーをぱくっと食べる。
「う……苦い……あれ、でも嫌いじゃないかも」
意外にもライラは簡単に受け入れ、レバーをもぐもぐ咀嚼して飲みこんでいた。
「それ、何か鉄って感じしない? 食べやすくした鉄って感じ」
「なによ、食べやすくした鉄って。レバーって部位なんでしょ? ほら、メニューに書いてあるわ」
レバーという名の食べやすくした鉄は、私はちょっと苦手かも。
やはりホルモンは一筋縄ではいかない。一見普通のお肉に見えて癖が中々ある。
なんだかお肉のびっくり箱みたいだ、何てことを思う。
よし、こうなったら臆せずどんどん食べてしまおう。
意を決した私は、次々ホルモン焼きを口に運んでいった。
タン、はらみ、とんとろ、ハチノス、なんこつ。メニューで部位の名前を確認しながら食べていると、食事というより勉強しているようだ。
しかしこうして食べてみると、それぞれ今まで食べたお肉と違って明確に癖がある。
タンはやや硬めだが、薄切りにされていて結構食べやすく、味は淡泊。塩とレモンで食べるとさっぱりとしていておいしかった。
はらみは、内臓系とは思えないくらい普通のお肉っぽかった。というか普通のお肉と比べても好みだ。これおいしい。
お次はとんとろ。これは油がかなり乗っていて歯ごたえも結構あり、不思議な印象。普通油が乗ってたら柔らかくて噛めばすぐとろけそうなものだけど、これはコリっとした食感がしっかりあった。
ハチノスは、牛の胃袋らしい。見た目がこう……海岸に落ちてる変な石みたいな、ぼこぼこっと小さな穴が開いてるようでちょっと拒否感があったが、食べてみると問題なくおいしかった。ただ食感がふわっとしているので、それも相まって何か海に漂ってそうな印象がぬぐえない。
なんこつは柔らかい骨の部位らしく、コリコリした食感が特徴的。味はそこまで特徴的でもなく、食感がメインなのかもしれない。
「うーん」
全部食べ終わり、空になった皿を見つめる。
どれもこれも出会うのは今回が初めてだと思っていたが、いざ食べてみるといくつか食べた事ありそうな印象があった。
私が知らないだけで、これらは色々な料理に使われているのかもしれない。あの変な見た目のハチノスなんて、メニューの説明ではトマトと煮込んで食べると絶品、なんて書いてあるし。
ホルモンとかモツ以前に、これまで肉の部位なんてそんなに気にしてなかった。
でもここまで特徴が変わるのなら、それを活かした料理も色々あるんだろうな。私が知らないだけで。
やっぱり私の旅はまだまだ終わりそうにない。そんなことを改めて思った朝食兼昼食だった。
と、私が感慨をあらたにしていると、ライラが袖を引っ張ってくる。
「ねえリリア。最後にレバーだけ追加してくれない?」
「……え? まだあの鉄食べるの?」
以前ビールもおいしそうに飲んでたし……ライラ苦いの全然いけるんだ。ライラの味覚って大人なんだな……。
妖精って死の概念が希薄で寿命とかなさそうだし……まさかライラはこう見えて、私よりずっと年上? だから苦いのいけるの?
おいしそうにレバーを頬張るライラに、私はどうしても尋ねることができなかった。私の直感が告げている。それは知らなくて良い事なのだと。
0
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
ゲームスタート時に死亡済み王女は今日も死んだふりをする
館花陽月
ファンタジー
乙女ゲームが大好きだった主人公「釘宮あんな」は友達の付き合いで行った占いの帰り道に事故死した。
転生時に「全てを手にするか」「1つだけにするか」のよく解らない二択を選んだ結果、なんとか転生が叶った私は石棺の上で目を覚ます。
起き上がってみると自分を取り囲むのは何処かで見た見覚えのある人物達・・!?
クリア出来なかった乙女ゲーム「ー聖女ルルドの恋模様ー亡国のセレナード」の世界にいた。
どうやら私が転生したのは、ゲーム内の王太子様クレトスのルートで、一瞬だけ登場(モノクロ写真)したヒロインのルルドに姿形がそっくりな初恋の王女様だった。
ゲームスタート時には死亡していた私が、ゲームが始まるまで生き残れるのか。
そして、どうやら転生をさせた女神様の話によると生きている限り命を狙われ続けることになりそうなんだけど・・。建国の女神の生まれ変わりとして授かった聖女の8つの力の内、徹底的防御「一定時間の仮死」(死んだふり)が出来る力しか使えないって無理ゲー。誰かに暗殺対象として狙わている私が生き残ることは出来るのか!?
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる