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82話、迷路の村と揚げナスのひき肉あんかけ
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キャンプ場を後にして、また旅を再開した私たち。
クロエの目的地である魔術遺産を目指す道程は、街道を外れる必要がある。というより、そっちの方が近道になるから私がそう決めた。
旅なのだから、時には主要な道から外れるのも悪くない。もし道に迷っても、最悪箒で空を飛べばどうにかなると思うし。
そういう考えで街道外れを突き進み、今やすっかり自然のままの野原を歩いていた私たち。
街道から外れた場所とはいえ、いくらなんでも歩きにくい荒れ果てた道を選択する訳が無いので、自然と比較的歩きやすい原っぱや小さな林を行く事になる。
こうして歩いてみると分かったが、街道を外れるルートはそこまで悪くは無い。
自然に溢れていて景色が結構楽しいし、地図上できちんと安全なルートを選択していれば、歩行するのも困難な道に出くわすこともないのだ。
でも、そこはやはり街々を繋ぐメインルートから外れた場所。時に妙な物に出くわすこともある。
今まさに私たちは、とある妙な村と出くわして思わず歩みを止めていた。
そこは一見して村というべきかどうか。レンガブロックで周囲を広く囲う壁を作っているその村は、一つの大きな建物のように見えた。
こうして村の周囲に壁を作って厳重に囲うのは、外敵に備えてなのだろうか?
もしかしたらこの付近は猛獣が出てくるのか。それとも警戒心の強い人々で、村の人間以外を敵視しているのか。
ちょっと不安に思う私たちだったが、村の入口と思わしき場所にあった立て看板を読み、呆気にとられた顔で互いを見た。
その看板にはこう書いてあった。迷路の村、入口。
「迷路の村ってなに?」
ライラに尋ねられるも、私もクロエも首を傾げる事しかできない。私たちだってそんな村、初めて見たのだから。
「……看板の下の方にまだ何か書いてある」
クロエに言われ、看板に書かれている文字を読んでみる。
どうやらそれは、この迷路の村の注意書きというか、説明文だった。いや、村の説明文って何なの? って気持ちは当然私にもあるけど。
ここは迷路の村。この入口から入って反対側の出口を目指してください。途中途中にお店や休憩所があるので、迷った時は一休みしましょう。出口がどうしても見つけられない時は村人に聞いてください。
看板を読み終えた私は、村の入口から中を覗き込んでみる。
すると、中は外と同じくレンガブロックで壁が作られており、狭い通路を形成していた。入り口から入ってまっすぐ行った突きあたりに、左右に分かれる道が見えた。
……なるほど。迷路の村ってつまり、村の中が迷路になってるって事なのか。
いや、自分で納得しておきながら、何がなるほどなのか分からない。どうして村の中を迷路にしちゃうの。
理解できないと呆気に取られる私とは対照的に、クロエは納得したかのように頷いている。
「……これは村おこしの一環なのかもしれない。あるいは、村人がよほど迷路好きなのか」
「その二択だったら村おこしの方が納得できるかなぁ」
さすがに村人皆が迷路好きだから村の中まで迷路にしたなんて……ないよね?
でも、街道から大分離れた小さな村がこんな妙な事をしていると考えると……ありえなくもないかも。少なくとも、そういう不思議な文化を昔から持っていたという可能性は十分ある。
それはそれであまりにも不思議な文化だけど……村の成り立ちや風習は色々だからなぁ。その事は旅をしている中で結構触れ合ってきた。
「で、どうするの? 入ってみる?」
ライラの無邪気な問いかけに、私はうーんと唸る。
「どうしようか……お昼時だから、できればこの村のお店で食事できればいいんだけど……そこにたどり着くまでも迷路になってるんでしょ?」
「加えて、村から出るには出口までいかなければいけない」
わざわざ迷路の中を進んでお店を探し食事。そしてそこから出口を目指して迷路の中をまた進む。
そう考えると……なんだかすごく面倒な気がしてきた。どうしてごはんを食べるのに迷路を通らなければいけないんだ。
でもそれと同じくらい、せっかく出会った妙な村なのだから、一度は中に入っておいた方が良い経験かも、という気持ちがある。
考え続ける私は、なんだか悩んでいるのもバカらしいな、と楽観的に判断する事にした。
「ま、迷路って言っても村なんだから、そこまで複雑じゃないでしょ。ごはん食べられるお店を見つけて出口に行く程度なら、きっとすぐだよ」
クロエも同意してか、こくりと頷く。
「そもそも迷路とは単純な物。記憶力さえあれば簡単に攻略できる」
「なら、入るって事ね?」
ライラは楽しげに声を弾ませていた。やはり迷路の村なんて珍しい物を見て、興味があったのだろう。
「よし、入ろうか。まずはお店を探すぞー」
意気揚々と先陣を切って村の中に入った私は、突きあたりの分かれ道で早速歩みを止める。
「右と左、どっち言ったらいいの?」
「迷路にヒントなんて無い。勘で選んで。道順は覚えておく」
「じゃあ……左で」
適当に道を選んで、また歩き出す。
村の中はレンガ壁で仕切られた狭い通路になっているので、本当にここは村なのかと疑問に思った。
ただ、途中途中広い空間に出ることがあり、そこには小さな民家が建っていた。村の中を迷路にしたうえで、途中途中に家が建てられるくらいの広い空間を設けているようだ。
そこまでして村を迷路にしたかったのか。本当に不思議な村だ。
しかし実際こうして中に入ってみると、ヒントも無しで突きあたる分かれ道を選択するだけで、なんだか退屈な印象。
そういえば迷路って子供の頃自分で紙に書いたりして遊んでたけど、気がつけばやらなくなっていたな。やっぱり、ただ分かれ道を選択するだけという、ゲーム性の無い行きあたりばったりな内容と気づいてしまったのだろうか。
今だったら、分かれ道にクイズとかを仕込んで楽しませる迷路を作るかもしれないけど……それはそれで、そもそもの迷路という概念から外れるかもしれない。
まず名称が迷路なのだから、ヒントも何も無く人を迷い込ませる道なのが正しいように感じられる。それが面白いかは置いといて。
その点では、この村はまさしく迷路の村だった。ヒントもなく分かれ道が続き、最初の数回ならまだしも四回五回と道を選択していると、私はもうこれまでの道順なんて思い出せなくなっていた。
でもまだクロエは覚えているようなので、私は特に悩まず分かれ道を勘で選択し続けるのだった。
そうして何度か行き止まりに当たり、一つ前の分かれ道に戻って違う道を選択。それを七回ほど繰り返した頃だろうか。出くわした行き止まりは大きな空間になっていて、中で食事ができるお店が建っていた。
ヒントも無く完全に適当に歩いていたが、なんとか第一目標は達成だ。これでごはんが食べられる。
私たちは早速お店に入り、簡素な内装の中テーブル席へと座った。
お客さんは全然居ない。多分立地的に観光客がまず来ないのだろう。居たとしてもここより先に出口へたどり着く人もいそうだ。
「何食べようかな……」
店内の壁にかけられた木札のメニューを眺めてみる。
書かれている料理名はすごく普通だ。ハンバーグとかシチューとか、どこでも食べられそうな料理が並んでいる。迷路の町とはいえ、料理まで迷路風にはしていないのか。いや、迷路風料理が何なのか分からないけど。
……例えばハンバーグに溝が掘られていて迷路になってるとか? あるいはシチューの具材が綺麗に並べられていて迷路状になっているとか……どれもしっくりこない。
多分お店の人も料理にまで迷路を推しだせなくて諦めたのだろう。料理に迷路を加えようとする発想を抱くだけで大分クレイジーだけど。
ヒントの無い完璧な迷路の中を歩いていた私は、その先の見えない気分を彩るような料理を探してみる。そして一つの料理を発見し、それを注文した。
ほどなくして、私が頼んだ料理が運ばれてくる。クロエも自分の食べたいのを注文していたので、それも一緒にやってきた。
そうして私たちの前に料理が並んでから、一緒に食事を始めた。
私が頼んだのは、揚げナスのひき肉あんかけだった。ナスの鮮やかな紫色が、なんだか今の気分にぴったりだと思ったのだ。
ナスは一度揚げられていて表面が綺麗に色づき、カリっと焼き上げられている。その上にひき肉を使ったあんかけがとろりとかけられていて、きらきらと輝いているかのようだ。
揚げナスをあんかけに絡め、一口食べる。
とろりと絡むあんかけに、揚げられたナスのカリっとした食感。あんかけは濃い目の味付けだが、みずみずしいナスが中和してくれる。
「ナス、こんなにおいしかったっけ?」
食べながら私は思わずつぶやいていた。これまでの人生でナスを食べたことは何度もあったと思うけど、こんなおいしかった印象は無い。
このナス自体がおいしいのか、それともお店の料理人の腕がいいのか。あるいは、迷路に迷って気疲れした効果でこれほどまでにおいしく感じられるのか。
分からない。けどおいしい。食べる時の気分や空腹具合で結構好みが左右されるからなぁ。迷路効果もあながち外れてないかもしれない。
「ナスってすごくみずみずしいのね。野菜なのに甘みもあって、花の蜜よりおいしいかもしれないわ」
ライラもナスにご満悦だった。しかし妖精にとって花の蜜よりおいしいというのは、いったいどういう比較なのだろう。すごいのかどうか分からない。
まだここから出口を目指さなければいけないので、ちゃちゃっと食事を済まし、すぐにお店を出た。
食後という事もあり、お店の外で軽く伸びをする。うん、これで気合が入った。
「よし、もうごはん食べたし、さっさとこの村の迷路を攻略しよう。クロエ、道順覚えてるよね?」
「……あ」
「な、なにその、しまったって顔。お、覚えてるよね? クロエが道を覚えてなかったらもう終わりだよ」
「ごめん。ごはん食べたら忘れてしまった……」
困ったように私から視線を外すクロエ。私はがっくりと肩を落とすしかなかった。
「嘘でしょ……私道を覚える気完全になかったから何一つ覚えてないよ」
「もしかして……私たち村の中で迷子?」
ライラに言われて、私もクロエも頭を抱えた。
「迷路の村で迷子って、完全にこの村の手玉に取られている気がする」
「リリア、ここは前向きに行くべき。どうせ出口を探すのだから、ここを起点にして道を覚え直しても問題ない」
「そっか、そうだよね……次は私もできるだけ覚えてみるよ」
何とか気力を持ち直した私たちは、今度はお店を始まりとして迷路の中を進んでいくのだった。
そうして一時間が経った。
「あれ……? ここさっき通った? 通ったよね?」
「多分……通った」
「じゃあ一度引き返して……あれ? この道で合ってたっけ?」
「多分……合ってる」
また一時間が経った。
「……どうすれば出られるのここ」
「分からない……とにかく進むしかない」
「もう道覚えてないよ私……」
「大丈夫リリア。私も、もう覚えていない」
「……嘘でしょ」
「……本当」
……そうして更に数時間が経った。
空は朱色が通り過ぎようとしていて、暗闇がゆっくり覆ってきている。
そんなころに、ようやく私たちは村の出口から出てこれたのだ。
「あ、ありえない……本気で迷った。この村から一生出られないのかと思った」
「……私も焦った」
ここにたどりつく数時間、とても大変だった。小さな村だから出口はすぐそこだろうと思っていたのだが、まさか途中で地下に下りる道が出てくるなんて想像もしてなかったのだ。
しかも地下二階建てだった。
「地下トンネルが出てきた時にはさすがに絶望したよね。え? 地下もあるの? それは禁じ手でしょっ! って本気で大声出したもん」
「私はそれより地下があったことで迷路が立体的になり、結果右手法を潰されていたのが精神的に来た。最悪あれで抜けられると思ってたし」
「もっと驚いたのは迷っている村人と出会った時だよね。しかも二日も迷っているって聞かされた時には、膝から崩れ落ちたよ」
「本当に……ここで一生を過ごすのかもって何度か脳裏に通り過ぎた」
私もクロエも、出口に到達して喜びに震える高いテンションのまま迷路の思い出を次々語り続ける。
本当に大変だった。もう諦めて村の住人になろうかと考えたし、もしかしてこの村の人は脱出を諦めた人なのかも? というホラー展開まで想像してしまった。
でもこうして出口にたどりつけたからもうどうでもいい。この迷路の事は全部忘れよう。
そうクロエと笑いあっていると、ライラがぽつりとつぶやく。
「……二人とも、箒に乗れば迷路とか関係なく脱出できたんじゃないの?」
「……え」
「……あ」
私はクロエと顔を見合わせる。お互いその手があったかと汗を流していた。
完全に迷っていたせいで余裕を失い、箒に乗ればどうとでもなるという事を失念していた。
……そう考えると、数時間にわたって迷っていた時間はいったい何だったのかと思える。あの不安感とか……絶対無駄だったじゃん。
なんだかどっと疲れてきた。深く肩を下ろしつつ、とぼとぼ歩きだす。
とにかく今回の事で分かった。妙な物や村に出くわした時は、ちゃんと考えた方が良い。でないとこんな目に合うかもしれないのだ。
空はすっかり暗くなっていたけど、迷路の村に戻って宿を探すという事は絶対にしたくない。
この広々とした大自然の中で野宿できるのは、とても幸福な事なのかもしれない。そう錯覚し始めていた私だった。
クロエの目的地である魔術遺産を目指す道程は、街道を外れる必要がある。というより、そっちの方が近道になるから私がそう決めた。
旅なのだから、時には主要な道から外れるのも悪くない。もし道に迷っても、最悪箒で空を飛べばどうにかなると思うし。
そういう考えで街道外れを突き進み、今やすっかり自然のままの野原を歩いていた私たち。
街道から外れた場所とはいえ、いくらなんでも歩きにくい荒れ果てた道を選択する訳が無いので、自然と比較的歩きやすい原っぱや小さな林を行く事になる。
こうして歩いてみると分かったが、街道を外れるルートはそこまで悪くは無い。
自然に溢れていて景色が結構楽しいし、地図上できちんと安全なルートを選択していれば、歩行するのも困難な道に出くわすこともないのだ。
でも、そこはやはり街々を繋ぐメインルートから外れた場所。時に妙な物に出くわすこともある。
今まさに私たちは、とある妙な村と出くわして思わず歩みを止めていた。
そこは一見して村というべきかどうか。レンガブロックで周囲を広く囲う壁を作っているその村は、一つの大きな建物のように見えた。
こうして村の周囲に壁を作って厳重に囲うのは、外敵に備えてなのだろうか?
もしかしたらこの付近は猛獣が出てくるのか。それとも警戒心の強い人々で、村の人間以外を敵視しているのか。
ちょっと不安に思う私たちだったが、村の入口と思わしき場所にあった立て看板を読み、呆気にとられた顔で互いを見た。
その看板にはこう書いてあった。迷路の村、入口。
「迷路の村ってなに?」
ライラに尋ねられるも、私もクロエも首を傾げる事しかできない。私たちだってそんな村、初めて見たのだから。
「……看板の下の方にまだ何か書いてある」
クロエに言われ、看板に書かれている文字を読んでみる。
どうやらそれは、この迷路の村の注意書きというか、説明文だった。いや、村の説明文って何なの? って気持ちは当然私にもあるけど。
ここは迷路の村。この入口から入って反対側の出口を目指してください。途中途中にお店や休憩所があるので、迷った時は一休みしましょう。出口がどうしても見つけられない時は村人に聞いてください。
看板を読み終えた私は、村の入口から中を覗き込んでみる。
すると、中は外と同じくレンガブロックで壁が作られており、狭い通路を形成していた。入り口から入ってまっすぐ行った突きあたりに、左右に分かれる道が見えた。
……なるほど。迷路の村ってつまり、村の中が迷路になってるって事なのか。
いや、自分で納得しておきながら、何がなるほどなのか分からない。どうして村の中を迷路にしちゃうの。
理解できないと呆気に取られる私とは対照的に、クロエは納得したかのように頷いている。
「……これは村おこしの一環なのかもしれない。あるいは、村人がよほど迷路好きなのか」
「その二択だったら村おこしの方が納得できるかなぁ」
さすがに村人皆が迷路好きだから村の中まで迷路にしたなんて……ないよね?
でも、街道から大分離れた小さな村がこんな妙な事をしていると考えると……ありえなくもないかも。少なくとも、そういう不思議な文化を昔から持っていたという可能性は十分ある。
それはそれであまりにも不思議な文化だけど……村の成り立ちや風習は色々だからなぁ。その事は旅をしている中で結構触れ合ってきた。
「で、どうするの? 入ってみる?」
ライラの無邪気な問いかけに、私はうーんと唸る。
「どうしようか……お昼時だから、できればこの村のお店で食事できればいいんだけど……そこにたどり着くまでも迷路になってるんでしょ?」
「加えて、村から出るには出口までいかなければいけない」
わざわざ迷路の中を進んでお店を探し食事。そしてそこから出口を目指して迷路の中をまた進む。
そう考えると……なんだかすごく面倒な気がしてきた。どうしてごはんを食べるのに迷路を通らなければいけないんだ。
でもそれと同じくらい、せっかく出会った妙な村なのだから、一度は中に入っておいた方が良い経験かも、という気持ちがある。
考え続ける私は、なんだか悩んでいるのもバカらしいな、と楽観的に判断する事にした。
「ま、迷路って言っても村なんだから、そこまで複雑じゃないでしょ。ごはん食べられるお店を見つけて出口に行く程度なら、きっとすぐだよ」
クロエも同意してか、こくりと頷く。
「そもそも迷路とは単純な物。記憶力さえあれば簡単に攻略できる」
「なら、入るって事ね?」
ライラは楽しげに声を弾ませていた。やはり迷路の村なんて珍しい物を見て、興味があったのだろう。
「よし、入ろうか。まずはお店を探すぞー」
意気揚々と先陣を切って村の中に入った私は、突きあたりの分かれ道で早速歩みを止める。
「右と左、どっち言ったらいいの?」
「迷路にヒントなんて無い。勘で選んで。道順は覚えておく」
「じゃあ……左で」
適当に道を選んで、また歩き出す。
村の中はレンガ壁で仕切られた狭い通路になっているので、本当にここは村なのかと疑問に思った。
ただ、途中途中広い空間に出ることがあり、そこには小さな民家が建っていた。村の中を迷路にしたうえで、途中途中に家が建てられるくらいの広い空間を設けているようだ。
そこまでして村を迷路にしたかったのか。本当に不思議な村だ。
しかし実際こうして中に入ってみると、ヒントも無しで突きあたる分かれ道を選択するだけで、なんだか退屈な印象。
そういえば迷路って子供の頃自分で紙に書いたりして遊んでたけど、気がつけばやらなくなっていたな。やっぱり、ただ分かれ道を選択するだけという、ゲーム性の無い行きあたりばったりな内容と気づいてしまったのだろうか。
今だったら、分かれ道にクイズとかを仕込んで楽しませる迷路を作るかもしれないけど……それはそれで、そもそもの迷路という概念から外れるかもしれない。
まず名称が迷路なのだから、ヒントも何も無く人を迷い込ませる道なのが正しいように感じられる。それが面白いかは置いといて。
その点では、この村はまさしく迷路の村だった。ヒントもなく分かれ道が続き、最初の数回ならまだしも四回五回と道を選択していると、私はもうこれまでの道順なんて思い出せなくなっていた。
でもまだクロエは覚えているようなので、私は特に悩まず分かれ道を勘で選択し続けるのだった。
そうして何度か行き止まりに当たり、一つ前の分かれ道に戻って違う道を選択。それを七回ほど繰り返した頃だろうか。出くわした行き止まりは大きな空間になっていて、中で食事ができるお店が建っていた。
ヒントも無く完全に適当に歩いていたが、なんとか第一目標は達成だ。これでごはんが食べられる。
私たちは早速お店に入り、簡素な内装の中テーブル席へと座った。
お客さんは全然居ない。多分立地的に観光客がまず来ないのだろう。居たとしてもここより先に出口へたどり着く人もいそうだ。
「何食べようかな……」
店内の壁にかけられた木札のメニューを眺めてみる。
書かれている料理名はすごく普通だ。ハンバーグとかシチューとか、どこでも食べられそうな料理が並んでいる。迷路の町とはいえ、料理まで迷路風にはしていないのか。いや、迷路風料理が何なのか分からないけど。
……例えばハンバーグに溝が掘られていて迷路になってるとか? あるいはシチューの具材が綺麗に並べられていて迷路状になっているとか……どれもしっくりこない。
多分お店の人も料理にまで迷路を推しだせなくて諦めたのだろう。料理に迷路を加えようとする発想を抱くだけで大分クレイジーだけど。
ヒントの無い完璧な迷路の中を歩いていた私は、その先の見えない気分を彩るような料理を探してみる。そして一つの料理を発見し、それを注文した。
ほどなくして、私が頼んだ料理が運ばれてくる。クロエも自分の食べたいのを注文していたので、それも一緒にやってきた。
そうして私たちの前に料理が並んでから、一緒に食事を始めた。
私が頼んだのは、揚げナスのひき肉あんかけだった。ナスの鮮やかな紫色が、なんだか今の気分にぴったりだと思ったのだ。
ナスは一度揚げられていて表面が綺麗に色づき、カリっと焼き上げられている。その上にひき肉を使ったあんかけがとろりとかけられていて、きらきらと輝いているかのようだ。
揚げナスをあんかけに絡め、一口食べる。
とろりと絡むあんかけに、揚げられたナスのカリっとした食感。あんかけは濃い目の味付けだが、みずみずしいナスが中和してくれる。
「ナス、こんなにおいしかったっけ?」
食べながら私は思わずつぶやいていた。これまでの人生でナスを食べたことは何度もあったと思うけど、こんなおいしかった印象は無い。
このナス自体がおいしいのか、それともお店の料理人の腕がいいのか。あるいは、迷路に迷って気疲れした効果でこれほどまでにおいしく感じられるのか。
分からない。けどおいしい。食べる時の気分や空腹具合で結構好みが左右されるからなぁ。迷路効果もあながち外れてないかもしれない。
「ナスってすごくみずみずしいのね。野菜なのに甘みもあって、花の蜜よりおいしいかもしれないわ」
ライラもナスにご満悦だった。しかし妖精にとって花の蜜よりおいしいというのは、いったいどういう比較なのだろう。すごいのかどうか分からない。
まだここから出口を目指さなければいけないので、ちゃちゃっと食事を済まし、すぐにお店を出た。
食後という事もあり、お店の外で軽く伸びをする。うん、これで気合が入った。
「よし、もうごはん食べたし、さっさとこの村の迷路を攻略しよう。クロエ、道順覚えてるよね?」
「……あ」
「な、なにその、しまったって顔。お、覚えてるよね? クロエが道を覚えてなかったらもう終わりだよ」
「ごめん。ごはん食べたら忘れてしまった……」
困ったように私から視線を外すクロエ。私はがっくりと肩を落とすしかなかった。
「嘘でしょ……私道を覚える気完全になかったから何一つ覚えてないよ」
「もしかして……私たち村の中で迷子?」
ライラに言われて、私もクロエも頭を抱えた。
「迷路の村で迷子って、完全にこの村の手玉に取られている気がする」
「リリア、ここは前向きに行くべき。どうせ出口を探すのだから、ここを起点にして道を覚え直しても問題ない」
「そっか、そうだよね……次は私もできるだけ覚えてみるよ」
何とか気力を持ち直した私たちは、今度はお店を始まりとして迷路の中を進んでいくのだった。
そうして一時間が経った。
「あれ……? ここさっき通った? 通ったよね?」
「多分……通った」
「じゃあ一度引き返して……あれ? この道で合ってたっけ?」
「多分……合ってる」
また一時間が経った。
「……どうすれば出られるのここ」
「分からない……とにかく進むしかない」
「もう道覚えてないよ私……」
「大丈夫リリア。私も、もう覚えていない」
「……嘘でしょ」
「……本当」
……そうして更に数時間が経った。
空は朱色が通り過ぎようとしていて、暗闇がゆっくり覆ってきている。
そんなころに、ようやく私たちは村の出口から出てこれたのだ。
「あ、ありえない……本気で迷った。この村から一生出られないのかと思った」
「……私も焦った」
ここにたどりつく数時間、とても大変だった。小さな村だから出口はすぐそこだろうと思っていたのだが、まさか途中で地下に下りる道が出てくるなんて想像もしてなかったのだ。
しかも地下二階建てだった。
「地下トンネルが出てきた時にはさすがに絶望したよね。え? 地下もあるの? それは禁じ手でしょっ! って本気で大声出したもん」
「私はそれより地下があったことで迷路が立体的になり、結果右手法を潰されていたのが精神的に来た。最悪あれで抜けられると思ってたし」
「もっと驚いたのは迷っている村人と出会った時だよね。しかも二日も迷っているって聞かされた時には、膝から崩れ落ちたよ」
「本当に……ここで一生を過ごすのかもって何度か脳裏に通り過ぎた」
私もクロエも、出口に到達して喜びに震える高いテンションのまま迷路の思い出を次々語り続ける。
本当に大変だった。もう諦めて村の住人になろうかと考えたし、もしかしてこの村の人は脱出を諦めた人なのかも? というホラー展開まで想像してしまった。
でもこうして出口にたどりつけたからもうどうでもいい。この迷路の事は全部忘れよう。
そうクロエと笑いあっていると、ライラがぽつりとつぶやく。
「……二人とも、箒に乗れば迷路とか関係なく脱出できたんじゃないの?」
「……え」
「……あ」
私はクロエと顔を見合わせる。お互いその手があったかと汗を流していた。
完全に迷っていたせいで余裕を失い、箒に乗ればどうとでもなるという事を失念していた。
……そう考えると、数時間にわたって迷っていた時間はいったい何だったのかと思える。あの不安感とか……絶対無駄だったじゃん。
なんだかどっと疲れてきた。深く肩を下ろしつつ、とぼとぼ歩きだす。
とにかく今回の事で分かった。妙な物や村に出くわした時は、ちゃんと考えた方が良い。でないとこんな目に合うかもしれないのだ。
空はすっかり暗くなっていたけど、迷路の村に戻って宿を探すという事は絶対にしたくない。
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最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
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