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53話、羊肉のケバブ
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野良羊にチョコデニッシュをあげるはめになったお昼から歩き続けること、数時間。
昼ごはんが少なめになったからか足取りは良くなく、次の町まではまだまだ遠い。
今日は野宿になるだろうと察した私は、まだ空が明るいうちに適した場所を探そうと、周りに注意を向けながら歩く速度を緩めていた。
そんな時、街道の端からのぞく小さな村を発見したのだ。
「ちょっと寄ってみようか」
そろそろ空も茜色に染まる頃合い。この村に一度立ち寄ってみようと判断した私は、人気の薄い村へと踏み込んだ。
「小さな村ね。人も全然居ないみたい」
街道近くにあるとはいえ、ここはそこまで栄えている村ではないらしい。一通り見て回るも宿屋などはなく、旅人とすれ違うことも無かった。
村を見つけた時は野宿を避けられると喜んだものの、宿屋が無いのならしかたない。今回は街道と村の間で一晩過ごすか無いようだ。
しかしこの町は街道の途中にあるからか、行きかう旅人へ向けた屋台が一つあった。夕飯は中々豪華な物が食べられそうだ。
私とライラは一度村から離れ、野宿に適した場所を探すことにした。
そこそこなだらかな開けた地形を発見できたので、そこで一晩過ごすことを決め、あらためて夕食を調達するべく村の屋台へと向かう。
「お肉が焼ける良い匂いがするわ」
屋台に近づくと、ライラは酔いしれるように漂う匂いを嗅ぎだした。どうやら昼食があんなことになったので、お腹が空いているらしい。
お腹が空いているのはもちろん私もだ。昼間あまり食べられなかった分がっつりしたのを食べたい気持ちだった私も、このお肉が焼ける香ばしい匂いに食欲を刺激される。
「なんのお肉を売っているのかしらね?」
「村を見たところ牧畜をしている気配は無かったけど……狩った野生生物とかかな」
「野生生物って例えば?」
「鳥とか……蛇とか……他にも色々」
ワニとか。ワニは以前立ち寄った町で食べたなぁ。
「……鳥ならともかく、蛇とかは食欲がそそらないわね」
蛇肉のことを想像したのか、ライラはげんなりとしていた。
さすがに旅人に向けた屋台でクセのあるお肉料理を売っているとは思えないけど……私もちょっとドキドキする。あまり変なのじゃなければいいけど。
期待と不安を胸に屋台を覗いてみると、幾枚にも重ねられたお肉がクルクルと回りながら焼かれている光景が目に入ってきた。
「なに? あれ」
「あー……なんだっけ、これ。確か……ケバブ、だっけ?」
かなりうろ覚えだが、確かそんな料理名だったはずだ。
大きい棒に肉を重ねながら突き刺して、それをクルクルと回しつつ外側からじっくりと焼き上げ、食べるときは表面の部分からこそぎ落とし、またクルクルと焼いていく料理だ。
その調理法のおかげで、ローストされてカリっとした表面と内側のジューシーさが味わえる。
ケバブはこそぎ落とした肉を薄いパンに挟み、野菜とかと一緒に食べるのが普通だ。ハンバーガーに似た料理と言えるだろう。
しかし問題は料理名ではなく、焼いている肉の正体だ。これを知らずに食べる勇気は無い。
「そのお肉って、何のお肉ですか?」
私は思い切って、棒をクルクル回しながらお肉を焼く店員さんに聞いてみた。
彼女は朗らかな声ですぐに答えてくれた。
「野良羊のお肉ですよ。ちょっとクセがありますが、おいしいのでぜひ食べてみてください」
野良羊の肉と聞いて、私とライラは思わず顔を見合わせた。
「そっか……あいつら野良で生きているから、狩られることもあるんだ」
「昼間に会ったばかりだからかしら、ちょっと虚しいわね」
昼間チョコデニッシュを半ば強引に分け与えさせられたのだが、こうして食用にされている場面に出くわすと何とも言えない気持ちになる。
「でもまあ、しかたないわよね。生きるってそういうことでしょう?」
「ライラそういうところあるよね」
ライラは妖精だからか、割とこういうところはあっけらかんとしている。
でもライラの言う通りだ。この村の人たちは生活の為に野良羊を狩らなければいけないし、野良羊たちも自分たちの食料を時折他者から奪わなければいけないだろう。まあ奪われたのは私たちだけど。
野良羊たちだって黙って人に狩られるつもりもないだろうし、狩られる危険性も本能で知っているはずだ。そのうえで家畜としてではなく野良で生きているのだろうし……。
結局のところ、ライラの言う通りお互い生きるために最善をつくしているだけなのだろう。
クルクルと回りながら焼かれていく野良羊のお肉。その光景と匂いを嗅いでいると、私のお腹が小さくなった。
私も私が満足するため、最善をつくそう。
「野良羊のケバブ、二つください」
ためらわずに店員さんに注文を告げる。
今の私にとっての最善は、このおいしそうな羊肉のケバブを食べることだ。家畜の羊は羊毛がメインで食用のはあまり出回ってないので、羊肉を食べる機会は結構少ない。しかも野生の羊となると食べる機会はまず無いと言える。私狩りなんてできないもん。
私の注文を聞いた店員さんは、慣れた手つきで串焼きにされる羊肉の表面をこそぎ落としていき、それを薄く平べったいパンにたくさん乗せていく。
そのたっぷりのお肉に続いて、たくさんの千切りキャベツと細かく切ったトマトをパンに挟んでいった。
最後にその上に白いソースをこれまたたっぷりとかけて完成のようだ。
ケバブ二つを受け取った私はそのまま野宿すると決めた場所まで戻り、腰を落ち着けた。
「はい、ライラ」
「わわっ、と。ケバブって思ってたより重いわね。野菜が多いからかしら」
ライラにケバブを一つ渡すと、その重さで彼女はよろけ、慌てて羽ばたき体勢を安定させた。
ケバブは結構ボリュームがある。二つ折りにした薄いパンの間に、羊肉とキャベツ、それにトマトがたっぷりと挟まっているのだ。
ライラにケバブ一個はちょっと大きすぎる気がしたものの、昼間満足に食べられてないので多分全部食べられるだろう。
「早速食べましょうよ」
よほどお腹が空いているのか、ライラは待ちきれないようだ。私の膝の上にちょこんと座り、今すぐにもケバブにかじりつこうとしている。
正直私も我慢の限界だったので、早速食べることにする。
「あむっ」
思い切って一口大きく噛じってみる。すると薄いパンのもちっとした食感に続いて、キャベツのシャキシャキとした歯ごたえがやってきた。
その後にじっくりローストされた羊肉の香ばしい匂いがやってくる。たまらない匂いだ。
ゆっくり咀嚼し、ケバブを味わっていく。食感はキャベツのシャキシャキ感が強く、味は不思議な甘さを感じる。その甘さの中に羊肉の香ばしさとちょっとクセのある風味があった。
甘く感じるのは、おそらくあの白いソースのせいだろう。多分プレーンのヨーグルトにレモンを入れて塩コショウで味付けした、ヨーグルトソースだ。クセのあるお肉によく使われる。
細かく切られたトマトの欠片も羊肉のクセのある風味を甘酸っぱさで彩っている。
おいしいけど独特な風味を感じる羊肉に、キャベツの水っぽさとトマトの甘酸っぱさ、そしてヨーグルトソース。それら全部が合わさることで、ボリュームある見た目ながら意外とあっさりとした味わいだ。
料理のタイプとしてはハンバーガーと似たものだが、このケバブはハンバーガーよりもヘルシーな感じ。ハンバーガーと似て非なる食べ物だ。
「おいしいけど……羊のお肉はちょっとクセが強いわね。野菜やソースのおかげで食べやすいけど、なんだか独特な匂いと味だわ」
妖精のライラは体が小さいからか、羊肉の独特な風味がより強く感じるらしい。それでもバクバクと食べ進め、あっという間に全てを平らげてしまっていた。
「羊肉のケバブ、結構変わり種だったけどおいしかったね」
「そうね、クセは強かったけどなかなかだったわ」
ケバブを食べ終わった私たちはお湯を沸かし、紅茶を淹れて一息つく。
日がすっかり暮れてしまった夜の中、たき火の明かりに照らされながら私とライラは紅茶をゆっくりと飲んでいた。
「それにしても……」
まったりとした食後の時間に、ライラがふと小さくつぶやく。
「昼間に奪われたチョコデニッシュが、おいしいケバブに変わったわね」
「……いや、今日食べたのあいつらかどうか分からないけどね」
ライラはこういうところある。妖精って見た目ファンシーなのに、意外とドライ。
昼ごはんが少なめになったからか足取りは良くなく、次の町まではまだまだ遠い。
今日は野宿になるだろうと察した私は、まだ空が明るいうちに適した場所を探そうと、周りに注意を向けながら歩く速度を緩めていた。
そんな時、街道の端からのぞく小さな村を発見したのだ。
「ちょっと寄ってみようか」
そろそろ空も茜色に染まる頃合い。この村に一度立ち寄ってみようと判断した私は、人気の薄い村へと踏み込んだ。
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街道近くにあるとはいえ、ここはそこまで栄えている村ではないらしい。一通り見て回るも宿屋などはなく、旅人とすれ違うことも無かった。
村を見つけた時は野宿を避けられると喜んだものの、宿屋が無いのならしかたない。今回は街道と村の間で一晩過ごすか無いようだ。
しかしこの町は街道の途中にあるからか、行きかう旅人へ向けた屋台が一つあった。夕飯は中々豪華な物が食べられそうだ。
私とライラは一度村から離れ、野宿に適した場所を探すことにした。
そこそこなだらかな開けた地形を発見できたので、そこで一晩過ごすことを決め、あらためて夕食を調達するべく村の屋台へと向かう。
「お肉が焼ける良い匂いがするわ」
屋台に近づくと、ライラは酔いしれるように漂う匂いを嗅ぎだした。どうやら昼食があんなことになったので、お腹が空いているらしい。
お腹が空いているのはもちろん私もだ。昼間あまり食べられなかった分がっつりしたのを食べたい気持ちだった私も、このお肉が焼ける香ばしい匂いに食欲を刺激される。
「なんのお肉を売っているのかしらね?」
「村を見たところ牧畜をしている気配は無かったけど……狩った野生生物とかかな」
「野生生物って例えば?」
「鳥とか……蛇とか……他にも色々」
ワニとか。ワニは以前立ち寄った町で食べたなぁ。
「……鳥ならともかく、蛇とかは食欲がそそらないわね」
蛇肉のことを想像したのか、ライラはげんなりとしていた。
さすがに旅人に向けた屋台でクセのあるお肉料理を売っているとは思えないけど……私もちょっとドキドキする。あまり変なのじゃなければいいけど。
期待と不安を胸に屋台を覗いてみると、幾枚にも重ねられたお肉がクルクルと回りながら焼かれている光景が目に入ってきた。
「なに? あれ」
「あー……なんだっけ、これ。確か……ケバブ、だっけ?」
かなりうろ覚えだが、確かそんな料理名だったはずだ。
大きい棒に肉を重ねながら突き刺して、それをクルクルと回しつつ外側からじっくりと焼き上げ、食べるときは表面の部分からこそぎ落とし、またクルクルと焼いていく料理だ。
その調理法のおかげで、ローストされてカリっとした表面と内側のジューシーさが味わえる。
ケバブはこそぎ落とした肉を薄いパンに挟み、野菜とかと一緒に食べるのが普通だ。ハンバーガーに似た料理と言えるだろう。
しかし問題は料理名ではなく、焼いている肉の正体だ。これを知らずに食べる勇気は無い。
「そのお肉って、何のお肉ですか?」
私は思い切って、棒をクルクル回しながらお肉を焼く店員さんに聞いてみた。
彼女は朗らかな声ですぐに答えてくれた。
「野良羊のお肉ですよ。ちょっとクセがありますが、おいしいのでぜひ食べてみてください」
野良羊の肉と聞いて、私とライラは思わず顔を見合わせた。
「そっか……あいつら野良で生きているから、狩られることもあるんだ」
「昼間に会ったばかりだからかしら、ちょっと虚しいわね」
昼間チョコデニッシュを半ば強引に分け与えさせられたのだが、こうして食用にされている場面に出くわすと何とも言えない気持ちになる。
「でもまあ、しかたないわよね。生きるってそういうことでしょう?」
「ライラそういうところあるよね」
ライラは妖精だからか、割とこういうところはあっけらかんとしている。
でもライラの言う通りだ。この村の人たちは生活の為に野良羊を狩らなければいけないし、野良羊たちも自分たちの食料を時折他者から奪わなければいけないだろう。まあ奪われたのは私たちだけど。
野良羊たちだって黙って人に狩られるつもりもないだろうし、狩られる危険性も本能で知っているはずだ。そのうえで家畜としてではなく野良で生きているのだろうし……。
結局のところ、ライラの言う通りお互い生きるために最善をつくしているだけなのだろう。
クルクルと回りながら焼かれていく野良羊のお肉。その光景と匂いを嗅いでいると、私のお腹が小さくなった。
私も私が満足するため、最善をつくそう。
「野良羊のケバブ、二つください」
ためらわずに店員さんに注文を告げる。
今の私にとっての最善は、このおいしそうな羊肉のケバブを食べることだ。家畜の羊は羊毛がメインで食用のはあまり出回ってないので、羊肉を食べる機会は結構少ない。しかも野生の羊となると食べる機会はまず無いと言える。私狩りなんてできないもん。
私の注文を聞いた店員さんは、慣れた手つきで串焼きにされる羊肉の表面をこそぎ落としていき、それを薄く平べったいパンにたくさん乗せていく。
そのたっぷりのお肉に続いて、たくさんの千切りキャベツと細かく切ったトマトをパンに挟んでいった。
最後にその上に白いソースをこれまたたっぷりとかけて完成のようだ。
ケバブ二つを受け取った私はそのまま野宿すると決めた場所まで戻り、腰を落ち着けた。
「はい、ライラ」
「わわっ、と。ケバブって思ってたより重いわね。野菜が多いからかしら」
ライラにケバブを一つ渡すと、その重さで彼女はよろけ、慌てて羽ばたき体勢を安定させた。
ケバブは結構ボリュームがある。二つ折りにした薄いパンの間に、羊肉とキャベツ、それにトマトがたっぷりと挟まっているのだ。
ライラにケバブ一個はちょっと大きすぎる気がしたものの、昼間満足に食べられてないので多分全部食べられるだろう。
「早速食べましょうよ」
よほどお腹が空いているのか、ライラは待ちきれないようだ。私の膝の上にちょこんと座り、今すぐにもケバブにかじりつこうとしている。
正直私も我慢の限界だったので、早速食べることにする。
「あむっ」
思い切って一口大きく噛じってみる。すると薄いパンのもちっとした食感に続いて、キャベツのシャキシャキとした歯ごたえがやってきた。
その後にじっくりローストされた羊肉の香ばしい匂いがやってくる。たまらない匂いだ。
ゆっくり咀嚼し、ケバブを味わっていく。食感はキャベツのシャキシャキ感が強く、味は不思議な甘さを感じる。その甘さの中に羊肉の香ばしさとちょっとクセのある風味があった。
甘く感じるのは、おそらくあの白いソースのせいだろう。多分プレーンのヨーグルトにレモンを入れて塩コショウで味付けした、ヨーグルトソースだ。クセのあるお肉によく使われる。
細かく切られたトマトの欠片も羊肉のクセのある風味を甘酸っぱさで彩っている。
おいしいけど独特な風味を感じる羊肉に、キャベツの水っぽさとトマトの甘酸っぱさ、そしてヨーグルトソース。それら全部が合わさることで、ボリュームある見た目ながら意外とあっさりとした味わいだ。
料理のタイプとしてはハンバーガーと似たものだが、このケバブはハンバーガーよりもヘルシーな感じ。ハンバーガーと似て非なる食べ物だ。
「おいしいけど……羊のお肉はちょっとクセが強いわね。野菜やソースのおかげで食べやすいけど、なんだか独特な匂いと味だわ」
妖精のライラは体が小さいからか、羊肉の独特な風味がより強く感じるらしい。それでもバクバクと食べ進め、あっという間に全てを平らげてしまっていた。
「羊肉のケバブ、結構変わり種だったけどおいしかったね」
「そうね、クセは強かったけどなかなかだったわ」
ケバブを食べ終わった私たちはお湯を沸かし、紅茶を淹れて一息つく。
日がすっかり暮れてしまった夜の中、たき火の明かりに照らされながら私とライラは紅茶をゆっくりと飲んでいた。
「それにしても……」
まったりとした食後の時間に、ライラがふと小さくつぶやく。
「昼間に奪われたチョコデニッシュが、おいしいケバブに変わったわね」
「……いや、今日食べたのあいつらかどうか分からないけどね」
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