魔女リリアの旅ごはん

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49話、リリア自作じゃがいものニョッキ

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 ミルライクの町二日目。
 宿のふかふかベッドでぐっすり寝た私とライラは、普段より少々起きる時間が遅かった。
 それでもまだ朝と呼べる時間帯。こういう大きな町の宿には大体食堂も備え付けてあるので、そこで軽くパンを食べて朝食を済ませる。
 その後私はライラを連れて市場を見ることにした。今回はただ見て回るだけでなく、野外料理用の食材もある程度買ってみることにする。お昼は野外料理の試作をしてみようと考えているのだ。

 実は、昨日就寝する前に町のパンフレットを改めて読んでいたら、牧場近くに自炊場が設けられているのを発見したのだ。
 どうやらその自炊場、もともとは牧場の従業員が使うところらしく、簡易的なかまどや水道も設けられているらしい。ただ、常に使っているわけでもないようで、せっかくだからと格安で開放しているようだ。

 これから野外料理にも挑戦しようと考えていてその試作をしたかった私には、まさに理想の場所だ。
 なのでお昼は自作野外料理に挑戦することにする。今回は場所が整っていることもあるので、ちょっとだけ手間がかかりそうな料理を作るつもりだ。

 まず手間がかかる料理を実際に作り、そこから普段の旅の中で作りやすそうな簡易的工程を考える……という算段だ。
 そううまくいくのか、そもそも料理自体うまくできるのか。そんな不安はあるが、やるだけやってみよう。

 お昼頃になるまで目いっぱい市場を探索し、料理に必要な最低限の食材だけを買っていく。
 そして私は牧場近くにある貸し出し自炊場へやってきていた。
 自炊場は簡単なキッチン形式になっていて、流し場もあった。ちゃんと水は通っているし、食材を切る調理台もある。料理をするのに十分な環境と言えた。

「リリア、こんなところに来てどうするつもり? まさか、料理でも作るの?」

 まだ事情を把握してないライラが、首を傾げて訪ねてきた。

「そのまさかだよ。今から野外で作るのによさそうな料理をするから、お昼はそれね」

 私が答えると、ライラは不安そうな顔をする。

「大丈夫なの? リリアが料理できるイメージ、そんなに無いんだけど……」

 ライラはどうやら私とのこれまでの旅路を思い出しているらしい。旅途中のごはんは基本その場その場で買ったものや、事前に購入した保存食を焼いたりして食べているくらいだ。
 ライラが不安に思うのもしかたがない。何より私自身が不安だった。ちゃんとした料理なんて出きるのか私。

 だがもうやるしかない。自炊場は借りてしまったし、食材も購入してある。今からやっぱり止める、なんてどう考えても無理。
 大丈夫だ。ちょっと手間がかかる料理を作るつもりだけど、そこまで難しい工程はない。
 私は軽く息を整えて落ちつき、これからする料理の工程を一つ一つ思い返す。
 そうして頭の中で調理過程をまとめた後、早速取りかかることに。

 自炊場は料理ができる環境が整っているが、実際の食材や調理器具は使う人それぞれの持ち込みとなっている。
 今回試作ではあるが、普段の旅で作ることも目的としているので、今後よく使いそうな調理器具はすでにいくつか購入しておいた。
 とはいえ、そこまで本格的な物は買っていないのだけど。荷物になるし、そもそも私に使いこなせるかどうかも疑問。
 だから購入したのは、ちょっとかゆいところに手が届く程度の調理器具ぐらいだ。ひとまずこれらと普段使っている器具を用いて料理を試作する。

 まずは、じゃがいもをある程度の大きさにカットする。しかし私はその際包丁を使う必要は無かった。一応魔女なので、魔術で応用できる。だから包丁は持っていない。
 これまでも何度か使ったことがある魔術を使い、一瞬だけ規模の小さい強風を吹かせ、鋭いカマイタチでじゃがいもを切り分ける。
 そして調理用ケトルでお湯を沸かし、切ったじゃがいもを茹でていく。

 この調理用ケトルは今回購入したものだ。元々紅茶用にお湯を沸かすための小さなケトルを持っていたが、それ一個だけでは野外で調理をする際不便なので、かさばらない程度の小さな調理用ケトルが欲しかったのだ。
 じゃがいもを茹でている間に、ボウルを用意する。そしてじゃがいもに十分火が通り柔らかくなってきたらボウルにうつし、潰していく。

 潰すときも魔術を使うことにした。これは物を動かすテレキネシスを応用し、じゃがいもをボウルの底へ押し付けるようにして潰していく。この時茹でたお湯はまた使うので捨てたりはしない。
 じゃがいもを潰した後は小麦粉と塩を混ぜ、手で練っていく。

「なに作ってるわけ?」

 その調理過程がライラにはピンとこなかったのだろう。不思議そうに聞いてくる。

「ニョッキ」
「なによそれ」

 名称を聞いて更にわけが分からなくなったのか、ライラは、まじめにやってるの? と訴えかけるような白い目で私を見ていた。その白んだ視線やめて、心にくる。

「団子状のパスタだよ。じゃがいもと小麦粉を混ぜてよく作るの」
「ふーん。おいしいの? それ」
「おいしいよ」
「リリアが作るのが、よ?」
「お……おいしい、よ。多分……」

 私はじゃがいものニョッキを何度か食べたことがある。ニョッキは問題なくおいしい料理だけど、問題は私が作るニョッキがおいしいかどうかだ。
 ……あってる、よね。この調理過程。ちゃんとニョッキ作れてるよね?

 疑心暗鬼に陥りながら、練ったニョッキの生地を手で一口大くらいの大きさに取り、丸めていく。
 それを何度も繰り返して、丸い団子状のニョッキ生地をいくつも生産した。
 そしてそれを先ほどじゃがいもを茹でるのに使ったお湯にまた入れ、茹でていく。
 最初は沈んでいたニョッキが茹でられて浮いてきたら、もう火が通った証拠だろう。

 茹でたニョッキは先ほどのボウルへ取り上げ、茹で汁のほとんどを捨てていく。一応ソースに使うので底がひたる程度には残している。
 そして今度はトマトを用意し、これまた魔術で角切りにして茹で汁が少し残った調理用ケトルに入れていく。

 そしてトマトを軽く崩しながら煮詰めていって、塩と砂糖で味を調えた後、ミルライク名産のチーズを入れてとろみが出るまで熱を入れる。
 これでニョッキに合わせるトマトチーズソースの完成だ。
 後はこの調理用ケトルに茹でたニョッキを戻し、ソースと絡めれば完成。
 自作じゃがいものニョッキ、トマトチーズソースかけ。このままケトルを器代わりに食べることが出きるので、片付けも楽だったりする。

「できた……できたよライラ!」

 なんとか思ってた通りの完成形ができ、私は歓喜した。
 ライラもまさかそこそこおいしそうな料理ができるとは思っていなかったのだろう、驚いたようにじゃがいものニョッキを見ていた。

「やるじゃないリリア。見た目はおいしそうよ。見た目は」

 ライラは見た目以上に味が大切だと言いたいらしい。
 確かに……見た目はそこそこだけど、ちゃんとおいしいのだろうか、これ。
 私とライラは一度互いに見つめ合った。
 二人とも無言。だけど、その無言の内に最初の一口を譲り合っている。

「……り、リリアが作ったんだから、最初はがんばったリリアが食べるべきよ」
「……くっ」

 先手を取られるように最初の一口を譲られ、私は唸った。
 いやしかし、まずいということはないはずだ。変なことはしていないもん……。
 私はフォークを手に、ニョッキをとろけたソースに良く絡めて一口食べてみる。

「……ん。うん……うん」

 もにゅもにゅとニョッキを噛んでいくと、確かに程よい弾力を感じた。ちゃんと火は通ってる。それにほのかな塩気もあるし、じゃがいもの風味も残っていた。
 そしてトマトチーズソースは、余計な味付けをしていないのでトマトの味がかなり濃い。塩と砂糖で整えてはいるが、トマトの酸味と甘み、そして風味が強く、でも名産チーズがそれを柔らかくまとめてくれていた。
 ねっとりとしたトマトチーズソースに絡んだじゃがいものニョッキ。うん、普通においしい。

「……私も食べるわ」

 黙々と食べ進める私を見てライラはどう思ったのか。彼女は小さなスプーン片手にニョッキを自分の一口サイズに分け、恐る恐る口に運んでいった。
 そして黙々と咀嚼する。そして飲みこんだ後口を開いた。

「思ってたよりおいしいじゃない」
「ねっ。思ったよりおいしいよこれ」

 そう、割とおいしい。多分ソースにもニョッキにも余計な味付けをしなかったからだろう、普通のおいしさなのだ。
 やっぱり料理初心者は下手なアレンジとかしなければ、そこそこの物が作れるんだろうな。

 しかしなかなかおいしい出来栄えだけど、これを旅路で作るとすると……どうだろう?
 まずニョッキ生地を作らないといけないし、ソースも別途作らないといけない。わざと手間のかかる料理を作ったけど、これをそのまま野外で作るとなるとかなり面倒だ。
 ならこれを簡易的な工程で作るとすれば……まず生地は事前に作っていればいい。町を出立する前に仕込むことは可能だろう。

 生地さえ事前に仕込んでおけば、あとは茹でるだけでニョッキができる。それならソースを一から作るのは……問題ない、かな。
 ソースも今回トマトソースにしたが、オリーブオイルと乾燥ガーリックだけで簡素に作ればもっと楽だし、他にも保存の効く食材で手間のかからないソースを開発できるかもしれない。

 事前に生地を仕込む手間がかかるとはいえ、野外料理のレパートリーの一つとすれば十分だ。おそらく仕込んだ生地は二日くらいはもつだろうし。
 ひとまず野外料理をする際のめどが一つたった。意外と私、料理いけるかも。
 なんだかそんな自信を抱きながら、ライラと共にニョッキを食べ進める。

 ……本当、意外とうまくできたな、これ。
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