魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
43 / 185

43話、オニオングラタンスープとクロワッサン

しおりを挟む
 まだ早朝とも言えない時刻から森をさまようこと数時間。

 空が白みはじめ、暗い森の中にも少しだけ明かりが戻りだした頃に、ようやく私とライラは森の出口を発見した。
 数日ぶりに街道へ出て薄暗い森からの解放感を味わった私たちは、すぐに朝ごはんを食べてないことを思いだして空腹を感じ始めた。

 このままここで軽く食事を取ろうかと思った私だったが、上空から周囲を見回したライラによると、そう遠くないところに最寄りの町が見えるらしい。
 夜から朝にかけて歩き回ったせいもあり、どうせならしっかりした料理で空腹を満たしたい。なのでライラが見つけた町を目指し、そこで朝食を食べることにした。

 そうしてしばらく街道を歩き続け、ようやく最寄りの町へたどり着いた私を出迎えたのは、なんだか独特な匂いだった。

「なんだろうこの匂い……ガーリック?」

 そう、町全体からガーリックっぽい匂いがすごくしてくる。
 ガーリックを大量に燃やしてなんかやばい呪術的儀式でも行っているの? なんて、そんなことを想像してしまうほど強烈な匂いだ。

 さすがに匂いが強すぎるので、その辺りを歩いていた町の人にさりげなく訪ねてみる。
 すると、少しばかり私たちにも関係ありそうな話を聞くことができた。

 どうやらこの町の近辺に吸血鬼が出没するという噂が大分昔からあるようで、吸血鬼が苦手だと言われているガーリックを使った料理が主流になっているらしい。
 あと玉ねぎを使った料理も多いとか。これも吸血鬼が苦手とする食材だと町に伝わっているようだ。

「噂されてる吸血鬼って、あいつのことかしら?」

 ライラに小声でささやかれて、私は首をすくめて返答した。

「さあ……? ベアトリスが本当に吸血鬼だったかどうかは正直よく分からないかな。それにあの子普通にガーリックソースがかかったステーキ食べてなかった?」
「……そういえばそうね」

 仮にベアトリスが正真の吸血鬼だったとしても、彼女は別段ガーリックに弱いわけでは無いようだ。

「じゃあ玉ねぎはどうなのかしら?」
「……さあ?」

 ライラに首を傾げられながら尋ねられても、私も同じように首を傾げるしかなかった。
 この町では吸血鬼は玉ねぎも嫌いと伝わっているらしいが、私が聞いたことある吸血鬼の伝承では玉ねぎ嫌いということは無かったと思う。

 とすると、もし噂の吸血鬼がベアトリスだとしたら、吸血鬼とか関係なくあの子個人が玉ねぎ嫌いということになるのだろうか。
 ……もしそうだとしたら、なんかすごく間抜けに思える。ちょっと馬鹿馬鹿しい。
 つい数時間前、崩壊する洋館に飲まれていったベアトリスの姿を思い出しながら私はそんなことを思った。

 とにかく、今の私にとってベアトリスが吸血鬼かどうか、そして玉ねぎが嫌いかどうかは別に気にすることではない。
 今私が気になることは、お腹が空いているとはいえ早朝からガーリックまみれの料理を食べるのはどうなのだろうかということだ。

 深夜のうちから森の中を歩き回っていて疲れているし、できることなら朝食を取った後一眠りしたいところ。
 そんな時に結構刺激があるガーリックがたっぷりな料理は勘弁したい。胃がもたれて快適な睡眠がとれなくなりそうだもん。

 今回ガーリック料理は遠慮しよう。そう決めた私は、ライラを連れて適当なお店に入店した。
 外装が地味で小さな看板を掲げたそのお店は、明らかに外部の人よりもこの町の人々をターゲットにした料理を出しているところだ。

 今まで旅をしてきた経験で、そのお店が旅人向けかどうかは見た目や雰囲気で薄らと判別できる。普通に間違うこともあるけど。
 旅人向けに調整された料理と、町の人々に向けた普段彼らが食べている料理は、どちらもそれなりに一長一短がある。

 外部の人間用に調整された料理は基本的に食べやすくおいしいが、その町ならではの個性はやや薄い傾向だ。
 そして普段その町の人々が普通に食べている料理は現地の味わいをそのまま楽しめるが、町によっては料理のクセが強く当たり外れもある。

 今回私が町の人々向けのお店を選んだ理由は、旅人向けのお店だとこの町が一番推しているガーリック料理が多そうだと思ったからだ。
 逆に町の人々に向けたお店は、ガーリック料理以外のメニューも豊富のはずだ。だって、いくら町の名産だからって、毎日ガーリックが効いた料理は飽きるし胃にもたれるもん。

 そういった理由で選んだお店だったが、結果的に私のこの考えは当たっていた。
 お店に入ってメニューを眺めると、ガーリック料理以外にも様々な料理があった。

 今回ガーリック料理は遠慮したい私だったが、だからといってどこの町でも食べられる料理よりも、やはりその町で推している食材を使った料理を食べたいという思いはある。
 なのでこの町で二番目に推されている食材、玉ねぎを使った料理を頼むことにした。

 色々とメニューを眺めて候補を決め、最終的に選んだのはオニオングラタンスープ。
 クリーミーなグラタンなら今の疲れた体と胃に優しいだろうという理由だ。
 注文して料理が運ばれてくる間、眠気に襲われうつらうつらと船をこぐ。
 ライラも眠いのか、私の肩に座ってその体を私の頭にもたれかかせていた。

 そのうちに料理が運ばれてくる。現金なもので、いざ料理を目にした私たちは一気に目を覚ましてしまった。
 オニオングラタンスープは散りばめられたチーズがところどころ焦げていて、真っ白な中で黒茶色がアクセントとなっている。

 匂いも良い。焦げたチーズの香ばしい匂いとホワイトソースのクリーミーな匂いは、ガーリックの匂いが強い店内の中でも全く負けていない。
 付け合わせは二口で食べられそうなくらい小さなクロワッサンだった。それがバスケットにたくさん入っている。

 早速スプーンを持って、グラタンスープの中にその先端を沈めてみる。
 スープというだけあって、普通のグラタンよりもややとろみが薄い。それに、スプーンを割り入れた瞬間玉ねぎの匂いが一気に噴きだしてきた。
 グラタンスープの中はやや飴色になっていて、スライスされた玉ねぎとマッシュルーム、そして輪切りにされた硬そうなパンが入っていた。

 どうやら飴色になるまで炒めた玉ねぎをホワイトソースと合わせているようだ。そこにスライスした玉ねぎまで組み合わせているのだから、ものすごく玉ねぎを推している料理だということが分かる。
 グラタンスープの中に入っていたパンをスプーンで軽く突つくと、スープが染み込んでいっているのに結構硬めだった。

 おそらくまずは玉ねぎが効いたグラタンスープを楽しみ、最後にスープがたっぷりと染み込んで柔らかくなったパンを食べて締める、という料理なのだろう。
 ……しかしこの料理、付け合わせがクロワッサンなんだけど。パンとパンで被ってない?

 そもそもクロワッサンを他の料理と合わせて食べるイメージがない。特にスープとは。
 クロワッサンはバターが効いていてサクサクの食感が重要なのだから、グラタンとはいえスープ系とは合いそうにない。
 そのことにちょっと首を傾げた私だが、おいしそうな料理を前にして考え込んでも仕方がない。

 はやる気持ちを抑えながら、グラタンスープをスプーンですくい味わってみる。
 オニオングラタンスープは、かなり甘みの強いスープだった。ホワイトソースの柔らかな甘みと、玉ねぎの強い甘みがよく混ざり合っている。

 甘みが強いのは、飴色になるまで炒めた玉ねぎをホワイトソースと合わせているからだろう。甘いだけでなくコクもよく出ている。そこに焦げたチーズの香ばしくもクリーミーな風味が混じり、強い甘みをまろやかにしてくれていた。
 スライスされた玉ねぎは、もともとあまり熱を通していないのだろう。熱いグラタンスープの中に入っていたのに結構シャキシャキとした食感で、やや辛みもあった。それが良いアクセントになっている。

 あと食べて気づいたのだが、ほのかにガーリックの香りもあった。ガーリックはここでも推すのか。でも余計な匂いにはなっていない。
 オニオングラタンスープを数口ほど食べた後、付け合わせのクロワッサンに手を伸ばしてみる。

 グラタンスープに入っていたパンはもう少しスープが染み込んだ方がおいしそうだったので、ひとまずクロワッサンから味わってみるという算段だ。
 しかしこのクロワッサン、スープと一緒に食べて良いものか。とりあえず一口食べてみる。

 サクっとした食感と、バターの風味。これは普通においしいクロワッサンだ。これ単体でいける。
 ……あれ? つまりこれってそのまま食べる用のクロワッサンなのだろうか? 付け合わせというより、口休め的な?

 多分そうなのだろう。サクサクした食感のクロワッサンを他の料理と合わせたら台無しになってしまう。
 小さなクロワッサンを一つ食べた私は、またオニオングラタンスープに手をつける。
 スープを数口飲んだ後、そろそろ柔らかくなったであろう底に沈んだパンにスプーンを差し入れる。

 やはりパンは柔らかくなっていて、スプーンの先端で押しつぶすように割っていくと、中からじゅわっとグラタンスープが染みだしてきた。
 一口分パンを割り取り、口に運ぶ。

 もともと硬めに焼かれたパンだけあって、やはり小麦の風味が強い。スープと合わせても本来の味が損なわないように作られているパンだ。
 そのパンに甘みが強いグラタンスープが染み込んでいるのだから、おいしいに決まっている。

 グラタンスープに硬いパンを最初から沈ませるのは、かなり良い手法ではないだろうか。
 残ったスープがどんどんパンに染み込んでいくので、グラタン皿を傾けてスープをすくう手間もない。
 他の町では見たことが無い手法の料理なので、もしかしたらこの町で昔から伝わっているやり方なのかな。

 ライラに分け与えながら食べ進め、ついにスープの最後の一滴まで染み込んだパンを食べ終わる。その後口休め用のクロワッサンを一個食べてごちそう様。
 玉ねぎがメインのグラタンスープだったが、中にパンも入っているし、クロワッサンもあったため食べごたえは十分。おいしかったしかなり満足だ。

 お腹が満たされてくると、今度は猛烈な眠気がやってくる。
 お店を後にした私とライラは、宿を探して一眠りするのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...