魔女リリアの旅ごはん

アーチ

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24話、川魚のアクアパッツァ

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 川のせせらぎを耳にしながら、私は大きな橋を眺めていた。
 石造りの大きな橋は人の往来が激しく、この町にとって欠かせない大切な物になっている。

 ここはヘレンの町。町を二分するかのように中央に大きな川が流れ、そこに大きな石造りの橋がかかっているのが特徴的な町だった。
 もともとこの町は一つの町ではなく、川沿いに自然とできた二つの町が合併してできたものらしい。

 今私が眺めている大橋は、その二つの町が交流を行うために共同で作られた物で、この橋の建設を切欠に二つの町は合併へと至ったようだ。
 ゆえにこの橋はヘレン橋と名付けられた。元々別々だった二つの町を今でも結びつける偉大な大橋と、この町の資料館で紹介されている。

 山奥の村を後にして旅を続けること数日。ようやく私は腰を落ち着けそうなこのヘレンという大きな町へたどり着いていた。
 ヘレンの町は湿地帯と乾燥地帯の間に位置しており、気候は穏やかで雨季も短い。しばらくこの町に滞在して次の旅路への準備を行おうと私は考えていた。

 なのでしばらくゆっくりするつもりである。だから私はこうして大きな橋を眺めながらぼけーっとしていたのだ。

 ヘレンの町は大きいだけあって、この大橋以外にも観光名所がいくつかあった。しばらくは私を飽きさせないだろう。
 飽きないと言えば、食事の方も飽きることはなさそうだ。色々とお店も豊富だし、他の町との貿易も盛んなようで様々な食材が揃っているらしい。

 しかし、この町でなによりも特徴的な食材は、川魚だろう。町の中央に大きな川があるだけあって、漁が盛んらしい。
 川魚はくせがあると聞いているが、川魚の料理が有名な町なのだから、きっとおいしい調理法が豊富なのだろう。

 旅を続けていれば時に川魚を捕まえることもあるかもしれない。その時おいしく食べられるように、川魚の料理はいくつか味わっておきたかった。
 ということで今日は川魚の料理に決定。具体的になにを食べるかはお店を探しながら考えよう。

 なんて、ごはんのことを考えていたせいか、お腹が空いてきた。段々と空も赤色に染まってきたし、そろそろ夕飯を食べに行こう。
 夕焼けに染まる空と、それを映し出す川。そしてそこにかけられた雄大な大橋。それをほんのしばし見て、私は大橋を実際に渡ることにした。

 この町の面白いところは、川向こうとこちら側で区画がしっかり整理されているところだ。
 大きい川を中央にして西と東に町が分かれているが、東側は住宅街が多く、川向こうの西側が飲食店などの商業区になっている。

 宿屋なども西側にあるので、旅人や観光客はほぼ西側に集中することになる。つまり、東側はほぼこの町の住人が暮らしており、観光客はまずやってこない。
 このように区画整理することで、町の住人は騒音などに悩まされることがない。という考えなのだろう。

 実際先ほど東側を少しうろついてみたのだが、人の往来は少なく静かだった。
 対して西側は人の往来が激しく、お店もたくさん立ち並び確かにちょっとうるさい。もし住むなら、私も東側がいいなと思った。

 長い大橋を渡り終えた私は、飲食店が立ち並ぶ区域を目指して歩き続ける。
 飲食店も一つの区画にまとめて構えられており、変なところで店を出していないので旅人である私としては探しやすくてありがたい。

 でも似たようなお店が密集しているとお客の奪い合いになって非効率な気もする。その辺りに対するケアはあったりするのだろうか?
 ちょっと気になる私だが、そんなことは後で調べよう。今はとにかくごはんが食べたい。変に頭を動かすともっとお腹が空いてしまからよろしくないのだ。

 観光客に向けているのか、どのお店も一押しのメニュー名を立て看板に書いて出している。
 それを眺めながらお店を探しているのだが、正直今のところどれもピンときていなかった。

 今日は川魚を使った料理を食べる気なのだが、シンプルな焼き魚は前食べたことがあるし……そういえば雑な煮込みも食べたなぁ。
 やっぱりここは以前食べたのと被らないのが良い。

 そう思いつつお店を探していた私の足が止まる。
 ちょっとお洒落なレンガ作りのお店。そこの立て看板に書かれていた文字が私を惹き付けた。

「川魚のアクアパッツァ……かぁ」

 アクアパッツァは、確か魚を白ワインで煮込んだスープ……だったっけ?
 スープは悪くない選択かもしれない。前食べた魚の雑な煮込みとちょっと被るかもしれないが、あれはスープとは別だろう。お米にぶっかけて食べるものたし。

 対してアクアパッツァはスープだ。ならば当然付け合わせはパンのはず。
 私の好物はスープにひたしたパンなのだから、もうこれを食べるしかない。

 早速私はお店に入り、アクアパッツァを注文して席についた。
 すると店員さんがすぐにお水と付け合わせのパンが入ったバスケットを持ってくる。

 料理を注文するとこうしてパンを出されるのは、パンを主食とする文化圏のお店では普通のことだ。
 でもここ最近湿地帯付近を旅していて主食がごはんばかりだったため、こうしてパンを山盛り出されるとびっくりしてしまう。

 とりあえず注文したアクアパッツァがくるまで、パンをちぎりちぎり食べることにした。
 スープに付けて食べることを前提とした、やや硬めのパンだ。小麦の匂いが強く、これだけでも十分おいしい。でもスープに付けるともっとおいしいだろう。

 パンをちぎりちぎり空腹を誤魔化していたら、程なくしてアクアパッツァが運ばれてきた。

 川魚のアクアパッツァはとても彩りがよかった。名前は分からないけど、お皿の中央に川魚が一尾。その周囲にミニトマトがいくつもあって、赤色がとても眩しい。
 小さい香草も散りばめられていて、緑色がいいアクセントになっている。

 具の彩りに目を奪われていたが、肝心のスープはどうだろうか。スプーンでスープを一すくいしてみる。
 スープは魚の出汁がきちんと出ているのか、乳白色になっていた。オリーブオイルと魚の油がスープの上澄みで膜を作っていて、キラキラと輝いている。

 早速私はスープを味わう。ややあっさりとした味わいで、トマトの酸味がアクセントになった、すっきりとしたスープだ。川魚だから出汁があっさりしているのかな?
 スープの味が口の中に残っている内にパンをかじる。小麦の風味が強いパンが、あっさりとしたスープにとても合っていた。

 次はスープにちぎったパンをひたしてみることに。
 やや硬めのパンにスープの水分が染みてきた頃に一口。スープにひたすと小麦の風味が弱まり、魚の出汁とトマトの酸味が際立った。

 スープを飲んでパンを食べるのと、スープにひたしたパンを食べるので、味の印象が結構違う。
 私はスープの味がより目立つからひたした方が好きだが、パン自体のおいしさを味わうなら前者の方がいいのだろう。

 パンとアクアパッツァのスープの相性はもう抜群。次はアクアパッツァの具材を食べてみよう。

 やはりまずはこのお皿の中央に鎮座している川魚からだ。フォークに持ち替えて、川魚の身を崩してみる。
 しっかり煮込んであるからか、川魚の身はほろほろと崩れていってスープに隠れてしまった。それをフォークですくい、食べてみる。

 川魚の身はちょっと淡泊な味だ。味が薄いという訳ではないが、アクアパッツァのメイン、という感じではない。身だけを食べるより、崩した身をスープと一緒に食べる方が適していそう。
 やはりアクアパッツァのメインはスープということなのだろうか。

 お次はトマトを食べてみる。スープの味が染み込んだトマトだが、やはり酸味が強く主張してくる。時折食べることで、あっさりとしたスープのアクセントになる。
 川魚のアクアパッツァは、あっさりとしながらも香草の風味やトマトの酸味で味わい深い。さっぱりとしたスープだから、ずっと飲んでいられそうだ。

 パンをひたして食べ、スープを飲んでパンを食べ。食べる手が止まらない。
 ほんの少し残った水分をパンでふき取るようにして、最後の一口をいただく。
 あっという間にアクアパッツァを食べ終えてしまった。

 なんだか夢中になって食べてしまった。やっぱりスープにひたしたパンは最高。
 しかしスープ自体があっさりしていたせいか、なんだかちょっと物足りない。
 そう思った私は、ついついデザートを追加注文してしまうのであった。
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