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15話、雨が降る湿地と雨が降らない町
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しとしとと小雨が降る中、私は箒に乗って空を翔けていた。
空には雨雲が広がり、日の光が差し込む隙間すらない。
フェリクスを出てから湿地帯を突き進み、ようやく雨が振り続ける地域に踏み込んだようだ。
小雨が降る中を飛んでいる私だが、雨に濡れることは無い。
魔術とは便利な物で、雨避けに利用できる魔術もいくつかある。
以前魔力と風を同調させてカマイタチを作ったのと同じ要領で風を操作し、雨が私の体に触れないよう弾いているのだ。
この魔術を使えば傘要らずでとっても楽……なんてことにはならない。
「やっばい、疲れてきた。しんどい。辛い」
魔術を使うには結構な集中力が必要な上、箒で空を翔けるのにも当然魔力を使っている。
同時に違う魔術を発動させるのはとんでもなく大変だ。
例えるなら右手で猫の絵を描きながら左手でカラスの絵を描くような物……あれ、器用な人なら意外とできそうだな。
でも私はそんな器用ではない。なんかアホなこと考えてしまったせいで気が散ってしまい、箒の制御が一瞬乱れてしまった。
「うぉぉおぉっ!?」
ガクガクと箒が左右に揺れ、箒から滑り落ちてしまう。
すんでの所で柄を掴んで落下は避けられたが……。
「あ、やばい。これやばい、本当やばい」
箒にぶらさがる格好になってしまい、全身の血が引いていく感覚を抱いた。
これピンチ。旅始まって最大の危機。
集中力が乱れたせいで雨避けに使っていた魔術は解け、小雨がしとどに降りかかる。
びちゃびちゃに濡れながらも、私は空を翔ける箒へ込めた魔術だけは維持していた。
これ解けたら終わりだからね。幸い下は大きい沼地だし、そんなに高くを飛んでるわけでもないから落ちても死なないと思うけど……沼に落ちるとか絶対嫌だからね。
「うぅ、な、なんなのよこれぇ……!」
箒にぶら下がった状態から腕だけで体を引き上げる力なんて当然ない。
どこかに着陸しようにも、沼地の上空を飛んでいるので陸地は結構遠い。
早く陸地まで行こうにも、ここで箒の速度を上げてしまったら振り落とされるかもしれない。
でももたもたしていたら腕の力が尽きて落ちてしまう。
詰んでる? これ詰んでない?
いや、諦めるな。私は魔女だ。そう、すごい魔女だ。多分。
私は魔女らしく頭がいいので、死中に活を求めるという言葉を知っている。意味は……なんだっけ? とにかく諦めないでがんばれってことだよね。
この窮地を脱出する方法は一つ。あえて箒に込めた魔術を解き、一緒に箒と落下する。そして空中で箒に跨り魔術をかけなおして飛び直せばいいのだ。
私頭良いー! よーしやるぞ。やってやるぞぉ。
気合を入れ、箒に込めた魔術を解く。空を浮遊していた箒はただの箒に戻り、本来のあるがままに落下を始めた。
さあここからだ。空中で体勢を整えて箒に乗れば……あれ? 全然身動き取れないんだけど。
考えてみれば空中でそんな器用に動けるはずもない。そのことにようやく気付いた私は、慌てて箒に魔力を込めて再度浮遊させる。
「ああああああーーー!」
しかし時すでに遅く、両足のヒザ部分まで沼に突っ込んでしまった。
ぬるりとぬかるんだ沼の感触は気持ち悪い。この一分一秒の間に沼にすむ微生物が私の足にまとわりついてくると考えたら鳥肌が立ってしまう。
しかし幸いというべきか、ぬかるんだ沼地の抵抗が若干の足場となり、高度が下がった箒に乗る余裕ができた。
箒に抱き付くようにして乗り直した私は、すぐさま箒の高度を上げて沼から脱出する。当たり前のことだが、両足は泥でドロドロになっていた。
足だけではない。全身小雨でびしょびしょになってしまってる。
「……最悪」
自分のせいとはいえ、こんな目にあったらさすがに暗い気分になってしまう。
雨避け用の魔術を再度発動したものの、すでに濡れた衣服まではどうしようもない。
こんな雨が降り続ける中で野宿なんてしたくないし……びしょびしょのまま次の町を探さなければいけないようだ。
「くしゅん」
……風邪引かないといいけどな。
それから箒で空を飛び続けて三十分ほどしたころ、小さな町らしきものを発見した。
町らしきもの、という印象を抱いてしまうのは、その不思議な造形のせいだった。
この辺りに生えている木々の葉のようなものが町の上部を覆っていて、ドーム状にようになっている。
木々と沼ばかりのここら一帯で、ドーム状に葉っぱで覆われたそれはかなり目立つ。
どうも人工的な匂いを感じるし、おそらくあれは町なのだろう。
私はそう決めつけて、一直線にそこを目指した。
……とにかく、早く落ち着ける場所について着替えたかったのだ。
葉っぱがドーム状に覆っているそれにある程度近づいた後、地面に降り立って入り口らしきところに歩み寄り中を覗いてみる。
中は明るくて、人の喧騒が聞こえてきた。やはりこれは町らしい。
町の入口から中に入ってみると、あんなに降っていた雨が突然止んだ。
見上げてみると、木組みの天井を大きな葉っぱが覆っていた。
これが遠くからドーム状に見えた理由だろう。どうやらこの町、木組みで町全体を覆うほどの天井の基礎を作り、この辺りによく生えている木々の葉っぱで覆い隠すことで雨避けにしているようだ。
町全体に天井を作るというのは、雨が多く降る地域ならではの発想だろう。なんにせよ、町の中で雨に濡れる心配がないのは良かった。
「う……さむっ」
見惚れるように葉っぱの天井を見つめていた私は、寒気を抱いて軽く身震いをした。
とにかく宿屋で部屋を借りて着替えないと、このままでは本当に風邪をひいてしまう。
急ぎ足で宿屋を探し、首尾よく部屋を借りる。
幸いなことにこの宿屋、部屋一つ一つにシャワーがついていた。ちゃんと暖かいお湯も出る。嬉しい。
「うはぁ……温まるぅ……」
早速シャワーを浴び、冷えた体を温める。ついでに濡れた衣服もこのまま洗うことにした。
沼地に突っ込んで汚れた靴も、温水ですすぐとすぐ綺麗になった。
後はこのまま衣服と同様に乾かせば大丈夫だろう。
代えの服と靴はちゃんと鞄の中に突っ込まれてある。旅をするなら衣類の代えが必要だろうと用意しておいた過去の私を褒めたい。偉いぞー。
シャワーと洗濯を終えた後、ベッドに座ってようやく一息ついた。
体が温まったせいでなんだか妙に眠い。このままベッドに倒れ込むのもいいかな。
なんて思った矢先に小さくお腹が鳴った。
その音を聞いて空腹を自覚した私は、小さく気合を入れて立ち上がった。
今日は散々な目にあったから、それに見合うおいしいものが食べたい。具体的に言うとお肉とかお肉とかお肉とか。
今日はもう絶対にお肉を食べる。鳥でも豚でも牛でもなんでもいい。とにかくお肉。
現金なもので、おいしいお肉を食べることを想像したらなんだか体に活力が沸いて来た。眠気なんて吹っ飛んでしまってる。
私は軽快な足取りで宿屋を後にし、ごはんを求めて町をさまよい始めた。
空には雨雲が広がり、日の光が差し込む隙間すらない。
フェリクスを出てから湿地帯を突き進み、ようやく雨が振り続ける地域に踏み込んだようだ。
小雨が降る中を飛んでいる私だが、雨に濡れることは無い。
魔術とは便利な物で、雨避けに利用できる魔術もいくつかある。
以前魔力と風を同調させてカマイタチを作ったのと同じ要領で風を操作し、雨が私の体に触れないよう弾いているのだ。
この魔術を使えば傘要らずでとっても楽……なんてことにはならない。
「やっばい、疲れてきた。しんどい。辛い」
魔術を使うには結構な集中力が必要な上、箒で空を翔けるのにも当然魔力を使っている。
同時に違う魔術を発動させるのはとんでもなく大変だ。
例えるなら右手で猫の絵を描きながら左手でカラスの絵を描くような物……あれ、器用な人なら意外とできそうだな。
でも私はそんな器用ではない。なんかアホなこと考えてしまったせいで気が散ってしまい、箒の制御が一瞬乱れてしまった。
「うぉぉおぉっ!?」
ガクガクと箒が左右に揺れ、箒から滑り落ちてしまう。
すんでの所で柄を掴んで落下は避けられたが……。
「あ、やばい。これやばい、本当やばい」
箒にぶらさがる格好になってしまい、全身の血が引いていく感覚を抱いた。
これピンチ。旅始まって最大の危機。
集中力が乱れたせいで雨避けに使っていた魔術は解け、小雨がしとどに降りかかる。
びちゃびちゃに濡れながらも、私は空を翔ける箒へ込めた魔術だけは維持していた。
これ解けたら終わりだからね。幸い下は大きい沼地だし、そんなに高くを飛んでるわけでもないから落ちても死なないと思うけど……沼に落ちるとか絶対嫌だからね。
「うぅ、な、なんなのよこれぇ……!」
箒にぶら下がった状態から腕だけで体を引き上げる力なんて当然ない。
どこかに着陸しようにも、沼地の上空を飛んでいるので陸地は結構遠い。
早く陸地まで行こうにも、ここで箒の速度を上げてしまったら振り落とされるかもしれない。
でももたもたしていたら腕の力が尽きて落ちてしまう。
詰んでる? これ詰んでない?
いや、諦めるな。私は魔女だ。そう、すごい魔女だ。多分。
私は魔女らしく頭がいいので、死中に活を求めるという言葉を知っている。意味は……なんだっけ? とにかく諦めないでがんばれってことだよね。
この窮地を脱出する方法は一つ。あえて箒に込めた魔術を解き、一緒に箒と落下する。そして空中で箒に跨り魔術をかけなおして飛び直せばいいのだ。
私頭良いー! よーしやるぞ。やってやるぞぉ。
気合を入れ、箒に込めた魔術を解く。空を浮遊していた箒はただの箒に戻り、本来のあるがままに落下を始めた。
さあここからだ。空中で体勢を整えて箒に乗れば……あれ? 全然身動き取れないんだけど。
考えてみれば空中でそんな器用に動けるはずもない。そのことにようやく気付いた私は、慌てて箒に魔力を込めて再度浮遊させる。
「ああああああーーー!」
しかし時すでに遅く、両足のヒザ部分まで沼に突っ込んでしまった。
ぬるりとぬかるんだ沼の感触は気持ち悪い。この一分一秒の間に沼にすむ微生物が私の足にまとわりついてくると考えたら鳥肌が立ってしまう。
しかし幸いというべきか、ぬかるんだ沼地の抵抗が若干の足場となり、高度が下がった箒に乗る余裕ができた。
箒に抱き付くようにして乗り直した私は、すぐさま箒の高度を上げて沼から脱出する。当たり前のことだが、両足は泥でドロドロになっていた。
足だけではない。全身小雨でびしょびしょになってしまってる。
「……最悪」
自分のせいとはいえ、こんな目にあったらさすがに暗い気分になってしまう。
雨避け用の魔術を再度発動したものの、すでに濡れた衣服まではどうしようもない。
こんな雨が降り続ける中で野宿なんてしたくないし……びしょびしょのまま次の町を探さなければいけないようだ。
「くしゅん」
……風邪引かないといいけどな。
それから箒で空を飛び続けて三十分ほどしたころ、小さな町らしきものを発見した。
町らしきもの、という印象を抱いてしまうのは、その不思議な造形のせいだった。
この辺りに生えている木々の葉のようなものが町の上部を覆っていて、ドーム状にようになっている。
木々と沼ばかりのここら一帯で、ドーム状に葉っぱで覆われたそれはかなり目立つ。
どうも人工的な匂いを感じるし、おそらくあれは町なのだろう。
私はそう決めつけて、一直線にそこを目指した。
……とにかく、早く落ち着ける場所について着替えたかったのだ。
葉っぱがドーム状に覆っているそれにある程度近づいた後、地面に降り立って入り口らしきところに歩み寄り中を覗いてみる。
中は明るくて、人の喧騒が聞こえてきた。やはりこれは町らしい。
町の入口から中に入ってみると、あんなに降っていた雨が突然止んだ。
見上げてみると、木組みの天井を大きな葉っぱが覆っていた。
これが遠くからドーム状に見えた理由だろう。どうやらこの町、木組みで町全体を覆うほどの天井の基礎を作り、この辺りによく生えている木々の葉っぱで覆い隠すことで雨避けにしているようだ。
町全体に天井を作るというのは、雨が多く降る地域ならではの発想だろう。なんにせよ、町の中で雨に濡れる心配がないのは良かった。
「う……さむっ」
見惚れるように葉っぱの天井を見つめていた私は、寒気を抱いて軽く身震いをした。
とにかく宿屋で部屋を借りて着替えないと、このままでは本当に風邪をひいてしまう。
急ぎ足で宿屋を探し、首尾よく部屋を借りる。
幸いなことにこの宿屋、部屋一つ一つにシャワーがついていた。ちゃんと暖かいお湯も出る。嬉しい。
「うはぁ……温まるぅ……」
早速シャワーを浴び、冷えた体を温める。ついでに濡れた衣服もこのまま洗うことにした。
沼地に突っ込んで汚れた靴も、温水ですすぐとすぐ綺麗になった。
後はこのまま衣服と同様に乾かせば大丈夫だろう。
代えの服と靴はちゃんと鞄の中に突っ込まれてある。旅をするなら衣類の代えが必要だろうと用意しておいた過去の私を褒めたい。偉いぞー。
シャワーと洗濯を終えた後、ベッドに座ってようやく一息ついた。
体が温まったせいでなんだか妙に眠い。このままベッドに倒れ込むのもいいかな。
なんて思った矢先に小さくお腹が鳴った。
その音を聞いて空腹を自覚した私は、小さく気合を入れて立ち上がった。
今日は散々な目にあったから、それに見合うおいしいものが食べたい。具体的に言うとお肉とかお肉とかお肉とか。
今日はもう絶対にお肉を食べる。鳥でも豚でも牛でもなんでもいい。とにかくお肉。
現金なもので、おいしいお肉を食べることを想像したらなんだか体に活力が沸いて来た。眠気なんて吹っ飛んでしまってる。
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