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ゼノスはクロエの手をしっかりと握り、神殿の大扉を勢いよく押し開けた。
「二度と来ることはない」
ゼノスが冷たく言い放ち、神殿の中にいた聖職者たちを睨みつける。
クロエの試練は強制的に終わり、神殿の者たちも混乱していた。
「待ってください! 聖女クロエ様!」
一人の聖職者が駆け寄ろうとするが、ゼノスは鋭い視線を向けるだけで、その足を止めさせた。
「今度クロエに指一本でも触れてみろ。その時は、この神殿ごと地に沈める」
その静かで冷酷な脅しに、誰もが震え上がる。
クロエはゼノスの腕の中で、少しだけ申し訳なさそうに視線を落とした。
「ゼノス様……」
「いいんだ。俺たちは戻る」
ゼノスはクロエの肩を抱き寄せ、彼女を守るように城へ向かって歩き出した。
神殿に関わったことで、彼らの未来はまた大きく動こうとしていた。
◇
ヴァレンタイン公国・王城
神殿から帰還したクロエとゼノスを、ルシアとエドモンドが迎えた。
「無事だったようね」
ルシアは腕を組みながら、二人をじっと見つめる。
クロエは少し疲れた表情を浮かべながら頷いた。
「はい……神殿の試練を受けましたが、私の力が本当に“神に選ばれたもの”かどうかを試すだけのものでした」
「で、結果は?」
エドモンドが問いかける。
ゼノスは眉をひそめながら答えた。
「くだらん茶番だった。クロエの力を制御しようとするだけの罠だ」
ルシアは苦笑しながら肩をすくめた。
「まあ、そんなところでしょうね。でも、問題はこれで終わりじゃないわ」
「どういうことですか?」
クロエが不安げに尋ねると、ルシアは一枚の手紙を差し出した。
「王都からの勅令よ」
ゼノスが受け取り、内容を読み始める。
『聖女クロエ殿。王都において“聖女認定の儀式”を執り行うことが決定されました。
つきましては、王宮へお越しください。
これは王命であり、拒否は認められません』
クロエの顔が青ざめる。
「王宮……?」
「ええ、これは神殿よりも厄介よ。王都が正式にあなたを迎えようとしている。もしこれを拒否すれば、ヴァレンタイン公国との関係はさらに悪化するでしょうね」
エドモンドが静かに息を吐く。
「つまり、王都は“クロエを公国に留めることを許さない”という意思を示しているわけだ」
クロエは震える声で呟いた。
「……私は、また王都に戻らなければならないのですか?」
ゼノスの手がクロエの肩に置かれた。
「行く必要はない」
彼の声は冷たく、決して譲るつもりのない響きを持っていた。
「しかし……」
「クロエ、お前はもう王都のものじゃない。俺のものだ」
クロエの頬が熱くなる。
ゼノスの言葉は、彼女を守るためのものだと分かっていたが、それでも心が揺れた。
「ゼノス様……私は、どうすればいいのでしょうか?」
「俺が決めることじゃない。お前が決めろ」
クロエは目を閉じ、ゆっくりと考えた。
神殿に行ったことで、彼女の“聖女”としての存在がさらに注目されている。
もしこのまま王都の要請を拒否すれば、ヴァレンタイン公国にも影響が及ぶ可能性が高い。
しかし、行けば確実に何かが仕組まれているはず。
王都の思惑に巻き込まれる危険を冒してまで、戻る価値があるのか――。
「……私は」
クロエが決断を口にしようとしたその時――
バァァン!!
扉が激しく開き、一人の兵士が駆け込んできた。
「ルシア様! 緊急報告です!」
「何?」
兵士は息を切らしながら言った。
「王都軍の一部が、ヴァレンタイン公国の国境付近に集結しつつあります!」
「……っ!?」
「どういうこと……?」
クロエは驚愕し、ゼノスも険しい表情を浮かべる。
エドモンドが低く呟く。
「つまり、王都は“軍事的圧力”をかけ始めたということだ」
ルシアは眉をひそめ、机を叩く。
「ここまで露骨に仕掛けてくるなんて……!」
クロエの心臓が大きく跳ねる。
王都が、彼女を連れ戻すために戦争を起こそうとしている?
ゼノスは静かに剣を抜き、冷たく言った。
「ならば、やることは一つだ」
「ゼノス様……?」
「戦う」
彼の目は決して揺らがない。
「クロエ、お前が王都に戻るつもりなら、俺はそれを止める」
「……でも」
「だが、もしお前がここに残ると決めたなら――俺はこの国を守るために、王都と戦う」
クロエの手が震えた。
自分の決断一つで、この国の未来が大きく変わる。
「私は……」
ゼノスが彼女の手を握りしめる。
「俺は、お前が望む道を選べばいいと思っている」
「ゼノス様……」
「だが、一つだけ覚えておけ」
ゼノスの声は静かに響く。
「俺は、お前を絶対に守る」
クロエの目に涙が滲む。
どんな選択をしても、ゼノスは彼女を守ると言ってくれた。
それだけで、彼女の心は強くなれる。
クロエは深く息を吸い、決意を固めた。
「……私は、ヴァレンタイン公国に残ります」
ゼノスは満足そうに頷く。
「ならば、俺は王都を潰す」
ルシアとエドモンドは驚きながらも、すぐに覚悟を決めた。
「準備を始めましょう」
「王都軍を迎え撃つぞ」
こうして、王都との戦いが始まろうとしていた。王都に捨てられた聖女は、今、冷酷な公爵と共に王国の未来をかけた戦いに挑もうとしていた――。
「二度と来ることはない」
ゼノスが冷たく言い放ち、神殿の中にいた聖職者たちを睨みつける。
クロエの試練は強制的に終わり、神殿の者たちも混乱していた。
「待ってください! 聖女クロエ様!」
一人の聖職者が駆け寄ろうとするが、ゼノスは鋭い視線を向けるだけで、その足を止めさせた。
「今度クロエに指一本でも触れてみろ。その時は、この神殿ごと地に沈める」
その静かで冷酷な脅しに、誰もが震え上がる。
クロエはゼノスの腕の中で、少しだけ申し訳なさそうに視線を落とした。
「ゼノス様……」
「いいんだ。俺たちは戻る」
ゼノスはクロエの肩を抱き寄せ、彼女を守るように城へ向かって歩き出した。
神殿に関わったことで、彼らの未来はまた大きく動こうとしていた。
◇
ヴァレンタイン公国・王城
神殿から帰還したクロエとゼノスを、ルシアとエドモンドが迎えた。
「無事だったようね」
ルシアは腕を組みながら、二人をじっと見つめる。
クロエは少し疲れた表情を浮かべながら頷いた。
「はい……神殿の試練を受けましたが、私の力が本当に“神に選ばれたもの”かどうかを試すだけのものでした」
「で、結果は?」
エドモンドが問いかける。
ゼノスは眉をひそめながら答えた。
「くだらん茶番だった。クロエの力を制御しようとするだけの罠だ」
ルシアは苦笑しながら肩をすくめた。
「まあ、そんなところでしょうね。でも、問題はこれで終わりじゃないわ」
「どういうことですか?」
クロエが不安げに尋ねると、ルシアは一枚の手紙を差し出した。
「王都からの勅令よ」
ゼノスが受け取り、内容を読み始める。
『聖女クロエ殿。王都において“聖女認定の儀式”を執り行うことが決定されました。
つきましては、王宮へお越しください。
これは王命であり、拒否は認められません』
クロエの顔が青ざめる。
「王宮……?」
「ええ、これは神殿よりも厄介よ。王都が正式にあなたを迎えようとしている。もしこれを拒否すれば、ヴァレンタイン公国との関係はさらに悪化するでしょうね」
エドモンドが静かに息を吐く。
「つまり、王都は“クロエを公国に留めることを許さない”という意思を示しているわけだ」
クロエは震える声で呟いた。
「……私は、また王都に戻らなければならないのですか?」
ゼノスの手がクロエの肩に置かれた。
「行く必要はない」
彼の声は冷たく、決して譲るつもりのない響きを持っていた。
「しかし……」
「クロエ、お前はもう王都のものじゃない。俺のものだ」
クロエの頬が熱くなる。
ゼノスの言葉は、彼女を守るためのものだと分かっていたが、それでも心が揺れた。
「ゼノス様……私は、どうすればいいのでしょうか?」
「俺が決めることじゃない。お前が決めろ」
クロエは目を閉じ、ゆっくりと考えた。
神殿に行ったことで、彼女の“聖女”としての存在がさらに注目されている。
もしこのまま王都の要請を拒否すれば、ヴァレンタイン公国にも影響が及ぶ可能性が高い。
しかし、行けば確実に何かが仕組まれているはず。
王都の思惑に巻き込まれる危険を冒してまで、戻る価値があるのか――。
「……私は」
クロエが決断を口にしようとしたその時――
バァァン!!
扉が激しく開き、一人の兵士が駆け込んできた。
「ルシア様! 緊急報告です!」
「何?」
兵士は息を切らしながら言った。
「王都軍の一部が、ヴァレンタイン公国の国境付近に集結しつつあります!」
「……っ!?」
「どういうこと……?」
クロエは驚愕し、ゼノスも険しい表情を浮かべる。
エドモンドが低く呟く。
「つまり、王都は“軍事的圧力”をかけ始めたということだ」
ルシアは眉をひそめ、机を叩く。
「ここまで露骨に仕掛けてくるなんて……!」
クロエの心臓が大きく跳ねる。
王都が、彼女を連れ戻すために戦争を起こそうとしている?
ゼノスは静かに剣を抜き、冷たく言った。
「ならば、やることは一つだ」
「ゼノス様……?」
「戦う」
彼の目は決して揺らがない。
「クロエ、お前が王都に戻るつもりなら、俺はそれを止める」
「……でも」
「だが、もしお前がここに残ると決めたなら――俺はこの国を守るために、王都と戦う」
クロエの手が震えた。
自分の決断一つで、この国の未来が大きく変わる。
「私は……」
ゼノスが彼女の手を握りしめる。
「俺は、お前が望む道を選べばいいと思っている」
「ゼノス様……」
「だが、一つだけ覚えておけ」
ゼノスの声は静かに響く。
「俺は、お前を絶対に守る」
クロエの目に涙が滲む。
どんな選択をしても、ゼノスは彼女を守ると言ってくれた。
それだけで、彼女の心は強くなれる。
クロエは深く息を吸い、決意を固めた。
「……私は、ヴァレンタイン公国に残ります」
ゼノスは満足そうに頷く。
「ならば、俺は王都を潰す」
ルシアとエドモンドは驚きながらも、すぐに覚悟を決めた。
「準備を始めましょう」
「王都軍を迎え撃つぞ」
こうして、王都との戦いが始まろうとしていた。王都に捨てられた聖女は、今、冷酷な公爵と共に王国の未来をかけた戦いに挑もうとしていた――。
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