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クロエは、肖像画に描かれた母の顔を見つめたまま、胸の奥に広がる不思議な感覚を抱えていた。
(私の母は……ヴァレンタイン公国の王女だった?)
これまで自分は、王都の聖女として育てられた貴族の娘だと信じていた。しかし、今目の前で語られているのは、それとはまったく違う真実だった。
「あなたの母上、セレナ王女は、王都の王族との政略結婚を拒み、この国を去りました。その後、彼女は王都の貴族家に身を寄せ、あなたを産んだのです」
エドモンドの言葉が、クロエの心を大きく揺さぶる。
「……では、私が貴族として育てられたのは、本当の身分を隠すため?」
「その通りです」
クロエは思わずゼノスを見上げた。
ゼノスは腕を組んだまま、エドモンドを冷静に睨みつけていた。
「ならば、なぜ今になってクロエを呼び戻そうとする?」
エドモンドは静かに息を吐き、クロエをじっと見つめる。
「クロエ様の力が、今この国に必要だからです」
クロエは驚き、ゼノスの目がさらに鋭さを増した。
「まさか、お前たちはクロエを“聖女”としてではなく、“王女”として迎えようとしているのか?」
「……可能であれば、そうしたいと考えています」
ゼノスの表情がわずかに険しくなった。
「クロエは、俺のものだ」
「それは承知しています」
エドモンドは微笑んだまま、静かに言葉を続けた。
「ですが、それと同時にクロエ様は、この国の未来を変えられる方でもあるのです」
クロエは困惑しながら、ふと自分の手を見つめた。
「私が……この国の未来を?」
「ええ。ヴァレンタイン公国は、小国とはいえ、かつては神聖な力を受け継ぐ者たちが統治する国でした。しかし、長い年月の中で血統は薄れ、聖なる力を持つ者はほとんどいなくなりました」
エドモンドは静かに続ける。
「しかし、クロエ様――あなたは違う。あなたには、かつてこの国を導いた王族の力が宿っています」
クロエはゼノスの手をそっと握る。
「でも……私は、この国を統治するつもりはありません」
「それは理解しています。ですが、この国を救うために、あなたの力が必要なのです」
エドモンドの紫の瞳が、深い決意を帯びていた。
「クロエ様……この国で、あなたができることを考えていただけませんか?」
クロエは静かにゼノスの顔を見た。
ゼノスは小さく息を吐き、彼女の手をぎゅっと握り返す。
「お前が何を選ぼうと、俺はお前を守る」
クロエは大きく息を吸い込み、ゆっくりとエドモンドに向き直った。
「……少しだけ、考えさせてください」
エドモンドは静かに頷く。
「もちろんです」
こうして、クロエは新たな決断を迫られることになった。
(私の母は……ヴァレンタイン公国の王女だった?)
これまで自分は、王都の聖女として育てられた貴族の娘だと信じていた。しかし、今目の前で語られているのは、それとはまったく違う真実だった。
「あなたの母上、セレナ王女は、王都の王族との政略結婚を拒み、この国を去りました。その後、彼女は王都の貴族家に身を寄せ、あなたを産んだのです」
エドモンドの言葉が、クロエの心を大きく揺さぶる。
「……では、私が貴族として育てられたのは、本当の身分を隠すため?」
「その通りです」
クロエは思わずゼノスを見上げた。
ゼノスは腕を組んだまま、エドモンドを冷静に睨みつけていた。
「ならば、なぜ今になってクロエを呼び戻そうとする?」
エドモンドは静かに息を吐き、クロエをじっと見つめる。
「クロエ様の力が、今この国に必要だからです」
クロエは驚き、ゼノスの目がさらに鋭さを増した。
「まさか、お前たちはクロエを“聖女”としてではなく、“王女”として迎えようとしているのか?」
「……可能であれば、そうしたいと考えています」
ゼノスの表情がわずかに険しくなった。
「クロエは、俺のものだ」
「それは承知しています」
エドモンドは微笑んだまま、静かに言葉を続けた。
「ですが、それと同時にクロエ様は、この国の未来を変えられる方でもあるのです」
クロエは困惑しながら、ふと自分の手を見つめた。
「私が……この国の未来を?」
「ええ。ヴァレンタイン公国は、小国とはいえ、かつては神聖な力を受け継ぐ者たちが統治する国でした。しかし、長い年月の中で血統は薄れ、聖なる力を持つ者はほとんどいなくなりました」
エドモンドは静かに続ける。
「しかし、クロエ様――あなたは違う。あなたには、かつてこの国を導いた王族の力が宿っています」
クロエはゼノスの手をそっと握る。
「でも……私は、この国を統治するつもりはありません」
「それは理解しています。ですが、この国を救うために、あなたの力が必要なのです」
エドモンドの紫の瞳が、深い決意を帯びていた。
「クロエ様……この国で、あなたができることを考えていただけませんか?」
クロエは静かにゼノスの顔を見た。
ゼノスは小さく息を吐き、彼女の手をぎゅっと握り返す。
「お前が何を選ぼうと、俺はお前を守る」
クロエは大きく息を吸い込み、ゆっくりとエドモンドに向き直った。
「……少しだけ、考えさせてください」
エドモンドは静かに頷く。
「もちろんです」
こうして、クロエは新たな決断を迫られることになった。
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