「お前のような悪女を聖女と認めない」と追放された聖女は隣国の公爵に溺愛されます~本当の悪女は妹だと気づいたところでもう遅い~

平山和人

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ゼノスの城に戻ってから数日が経った。


王都の争いが終結し、クロエとゼノスは静かな日常を取り戻していた。クロエは領地の診療所で治療を続け、ゼノスは領主としての職務に戻っていた。


しかし、そんな平穏な日々の中、クロエの心には小さな不安があった。


(本当に、このままでいいのかしら……?)


ゼノスと共に生きることを選んだ。王都の争いからも解放された。


なのに、心のどこかで満たされない気持ちが残っている。


「クロエ」


考え込んでいると、低く落ち着いた声が耳に届いた。


「ゼノス様……」


彼は書類を手にしたまま、クロエの隣に座る。


「お前、最近考え事が多いな」


鋭い観察力に、クロエは小さく微笑んだ。


「ゼノス様には隠し事できませんね」


「当然だ」


ゼノスは書類を机に置き、クロエの手を取った。


「言ってみろ。何を考えている?」


クロエはゼノスの手の温もりを感じながら、ゆっくりと口を開く。


「私は……この領地の人々を癒すために、もっと自分の力を活かせないかと思っていました」


ゼノスは静かに聞いている。


「私は聖女として育てられました。でも、ただ癒すだけではなく、人々が病に苦しまないような環境を作りたいんです」


「……なるほど」


ゼノスは少し考え込み、やがて口を開いた。


「お前の言いたいことはわかった。だが、一人でどうにかできる問題ではない」


「はい……」


クロエはゼノスを見上げる。


「だから、ゼノス様のお力を借りたいのです。この領地に病院を作り、医療を学ぶ者たちを育てたい」


ゼノスはじっとクロエを見つめた後、静かに微笑んだ。


「……やはり、お前は普通の聖女ではないな」


「え?」


「聖女は神の力で癒す者。だが、お前はそれだけでなく、この国を変えようとしている」


ゼノスの言葉に、クロエの胸が熱くなる。


「俺は、お前の望みを叶える」


「ゼノス様……!」


「病院の建設も、医療の普及も、お前の望む形で進めればいい。俺は、お前を支える」


クロエは思わずゼノスの手を強く握った。


「ありがとうございます……!」


ゼノスは小さく鼻を鳴らし、クロエの頭を撫でる。


「お前がここにいる限り、俺の領地は変わり続けるのだろうな」


「いい意味で、ですよね?」


「……そういうことにしておく」


クロエはくすりと笑い、ゼノスの胸にそっと額を寄せた。


彼と共に生きるだけでなく、この地で新たな未来を築く。それが、クロエの新たな道だった。


王都に捨てられた聖女は、今、冷酷な公爵と共に、新たな国を創る。それは、ただ愛されるだけではない、彼女自身が選んだ未来だった。
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