「お前のような悪女を聖女と認めない」と追放された聖女は隣国の公爵に溺愛されます~本当の悪女は妹だと気づいたところでもう遅い~

平山和人

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王都の混乱は収まりつつあった。王太后派と王派の争いは終結し、クロエの癒しの力によって、負傷者は回復し、荒廃した街も少しずつ活気を取り戻し始めていた。


だが、すべてが解決したわけではなかった。


クロエは王宮のバルコニーから、静かに街を見下ろしていた。戦の爪痕はまだ深く、疲弊した人々の表情には、わずかに不安の色が残っている。


「……本当に、これでよかったのでしょうか?」


クロエは小さく呟いた。


王都の平和を願ってここに戻り、ゼノスと共に戦を止めた。だが、彼女がここにい続ければ、再び王都の権力争いに巻き込まれることになる。


(私は、ここに留まるべきなの? それとも……)


「考え込むな」


低く落ち着いた声が背後から響いた。


振り向くと、ゼノスがそこにいた。


「ゼノス様……」


彼はゆっくりと歩み寄り、クロエの隣に立つ。


「お前は、何を悩んでいる?」


クロエはバルコニーの手すりに手を添えながら、静かに答えた。


「私は、王都のために何ができるのかを考えていました……」


ゼノスは少しだけ目を細めた。


「お前はすでに十分すぎるほどのことをした。戦を止め、傷ついた者を癒し、人々に希望を与えた。それ以上、何を望む?」


「でも……」


クロエは小さく息を吐き、ゼノスを見上げる。


「私がここにいる限り、きっとまた誰かが私を巡って争いを始めるかもしれません。それならば……」


ゼノスの表情が、ほんのわずかに険しくなる。


「まさか、お前……」


「……私が王都を去れば、余計な争いを避けられるのではないかと思ったのです」


ゼノスはすぐにクロエの手を掴んだ。その手の温もりが、強く、そして確かだった。


「お前はバカか」


クロエは驚いて目を見開く。


「ゼ、ゼノス様?」


「王都を守るために、お前が犠牲になる必要はない」


「でも……」


「黙れ」


ゼノスは強く言い放ち、クロエをぐっと引き寄せた。


「お前がいなくなれば、今度はそれを理由に争いが生まれるだけだ」


クロエは、ゼノスの胸に額を押し付けながら目を閉じた。


「……私は、どうすればいいのでしょうか?」


ゼノスはクロエの髪を優しく撫でる。


「簡単なことだ。お前は、お前のやりたいことをすればいい」


クロエはゆっくりと顔を上げ、ゼノスの瞳を見つめた。


「……私の、やりたいこと?」


「そうだ」


ゼノスは静かに言う。


「お前が王都に残りたいなら残ればいいし、俺の領地に戻りたいなら戻ればいい。ただ一つ言えることは――」


クロエは、ゼノスの言葉を待つ。


「俺はお前の望む道に、必ずついていく」


その言葉に、クロエの胸がじんと熱くなる。


「ゼノス様……」


彼はクロエの頬に手を添え、真剣な眼差しを向けた。


「お前がどこに行こうと、俺はお前を守る。それが、俺の選んだ道だ」


クロエは、ゆっくりと目を閉じた。


――この人は、どこまでも真っ直ぐだ。


「……私は、ゼノス様の領地に戻りたいです」


クロエは静かに決意を口にした。


「王都の未来は、ラインハルト王子や王太后陛下に託しましょう。そして私は、ゼノス様の領地で、人々を癒すために生きたい」


ゼノスは満足そうに微笑み、クロエの肩を抱いた。


「それが、お前の望みなら――俺は全力でそれを叶える」


クロエは、ゼノスの腕の中でそっと微笑む。


王都に必要とされることは嬉しかった。


でも、本当に心から安らげる場所は、ゼノスの隣なのだと気づいた。


「……帰りましょう、ゼノス様」


「そうだな」


二人は静かに手を取り合い、王宮を後にした。
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