「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人

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王宮の大広間は、貴族たちのざわめきで満ちていた。壁には王家の紋章が掲げられ、豪奢なシャンデリアがきらめく。宮廷楽団が静かに演奏を奏でる中、貴族たちは談笑しながら、それぞれの思惑を巡らせている。


(ここが……私の運命が決まる場所)


私は深呼吸し、緊張を押し殺しながら、ゆっくりと大広間の中央へと歩を進めた。アルヴィン王子が私の手を取る。


「大丈夫だ、ロザリー」


「……はい」


彼の温もりを感じながら、私は前を向く。王座には、アルヴィン王子の父であるアルカディア王国国王が鎮座していた。その横には、王妃と王宮の高官たち。そして、広間の最前列には――ヴェルナー王子が、静かに佇んでいた。


(ヴェルナー王子……)


彼は微笑みながら私を見つめていたが、その瞳には何か"秘めたもの"があった。


(彼は何をするつもりなの……?)


このまま何事もなく婚約発表が終わるとは思えない。私はそう確信していた。


「陛下、そして貴族の皆――ここに、正式な発表をする」


婚約発表の瞬間――。王の前に立ち、アルヴィン王子がはっきりと宣言する。


「俺は、ロザリー・エルヴェールを妃として迎えると決めた。これを正式な婚約とする」


ざわめきが起こる。


「やはり……!」


「アルヴィン殿下がついに……!」


貴族たちは驚きの声を上げたが、誰も反論しない。アルヴィン王子が公の場で宣言した以上、それを覆すことは容易ではない。


(これで……私たちは……!)


私はほっと胸をなでおろそうとした、その時だった――。


「――異議があります」


静かな声が、広間に響いた。


「……っ!」


私の全身が凍りつく。貴族たちが一斉に振り向く。そこには――ヴェルナー王子が、悠然と立っていた。


「ヴェルナー……!」


アルヴィン王子が苛立ちをあらわにする。


「何のつもりだ?」


「落ち着いてください、アルヴィン殿下」


ヴェルナー王子は穏やかに微笑みながら、ゆっくりと前へ出る。


「私はただ……"王国の未来"について、提案をしたいだけです」


「提案……?」


私は眉をひそめる。


「ロザリー様が王妃となることについて、私は何も反対しません」


ヴェルナー王子は微笑みながら言った。


「ただし――それが本当に最良の選択なのかどうか、試す機会をいただきたい」


「試す?」


アルヴィン王子が険しい表情になる。


「どういう意味だ?」


ヴェルナー王子はゆっくりと視線を向け、言い放った。


「ロザリー様が、王妃としてふさわしいかどうか――"試練"を設けるのはどうでしょう?」


「……!!」


会場がざわめく。


「試練……?」


「ヴェルナー王子は、一体何を……?」


私は息をのむ。


(彼は、ここで私の婚約を阻止するつもり……!?)


「もしロザリー様が、この試練を乗り越えられるのであれば……私は正式にこの婚約を認めましょう」


「ふざけるな!!」


アルヴィン王子が怒りをあらわにする。


「ロザリーの価値を決めるのは貴様じゃない!」


「ええ、そうですね」


ヴェルナー王子は余裕の笑みを浮かべる。


「ですが――王宮の皆はどう思うでしょう?」


私は息を呑んだ。


貴族たちが、静かに私を見つめる。


(もし、ここで私が"試練"を拒めば……)


"王妃になる覚悟がない"と見なされてしまう……!


「ロザリー」


アルヴィン王子が私を守るように手を握る。


「無理をする必要はない」


私は――私は、静かに息を吸い込み――


「受けます」


そう、答えた。
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