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王宮の大広間は、貴族たちのざわめきで満ちていた。壁には王家の紋章が掲げられ、豪奢なシャンデリアがきらめく。宮廷楽団が静かに演奏を奏でる中、貴族たちは談笑しながら、それぞれの思惑を巡らせている。
(ここが……私の運命が決まる場所)
私は深呼吸し、緊張を押し殺しながら、ゆっくりと大広間の中央へと歩を進めた。アルヴィン王子が私の手を取る。
「大丈夫だ、ロザリー」
「……はい」
彼の温もりを感じながら、私は前を向く。王座には、アルヴィン王子の父であるアルカディア王国国王が鎮座していた。その横には、王妃と王宮の高官たち。そして、広間の最前列には――ヴェルナー王子が、静かに佇んでいた。
(ヴェルナー王子……)
彼は微笑みながら私を見つめていたが、その瞳には何か"秘めたもの"があった。
(彼は何をするつもりなの……?)
このまま何事もなく婚約発表が終わるとは思えない。私はそう確信していた。
「陛下、そして貴族の皆――ここに、正式な発表をする」
婚約発表の瞬間――。王の前に立ち、アルヴィン王子がはっきりと宣言する。
「俺は、ロザリー・エルヴェールを妃として迎えると決めた。これを正式な婚約とする」
ざわめきが起こる。
「やはり……!」
「アルヴィン殿下がついに……!」
貴族たちは驚きの声を上げたが、誰も反論しない。アルヴィン王子が公の場で宣言した以上、それを覆すことは容易ではない。
(これで……私たちは……!)
私はほっと胸をなでおろそうとした、その時だった――。
「――異議があります」
静かな声が、広間に響いた。
「……っ!」
私の全身が凍りつく。貴族たちが一斉に振り向く。そこには――ヴェルナー王子が、悠然と立っていた。
「ヴェルナー……!」
アルヴィン王子が苛立ちをあらわにする。
「何のつもりだ?」
「落ち着いてください、アルヴィン殿下」
ヴェルナー王子は穏やかに微笑みながら、ゆっくりと前へ出る。
「私はただ……"王国の未来"について、提案をしたいだけです」
「提案……?」
私は眉をひそめる。
「ロザリー様が王妃となることについて、私は何も反対しません」
ヴェルナー王子は微笑みながら言った。
「ただし――それが本当に最良の選択なのかどうか、試す機会をいただきたい」
「試す?」
アルヴィン王子が険しい表情になる。
「どういう意味だ?」
ヴェルナー王子はゆっくりと視線を向け、言い放った。
「ロザリー様が、王妃としてふさわしいかどうか――"試練"を設けるのはどうでしょう?」
「……!!」
会場がざわめく。
「試練……?」
「ヴェルナー王子は、一体何を……?」
私は息をのむ。
(彼は、ここで私の婚約を阻止するつもり……!?)
「もしロザリー様が、この試練を乗り越えられるのであれば……私は正式にこの婚約を認めましょう」
「ふざけるな!!」
アルヴィン王子が怒りをあらわにする。
「ロザリーの価値を決めるのは貴様じゃない!」
「ええ、そうですね」
ヴェルナー王子は余裕の笑みを浮かべる。
「ですが――王宮の皆はどう思うでしょう?」
私は息を呑んだ。
貴族たちが、静かに私を見つめる。
(もし、ここで私が"試練"を拒めば……)
"王妃になる覚悟がない"と見なされてしまう……!
「ロザリー」
アルヴィン王子が私を守るように手を握る。
「無理をする必要はない」
私は――私は、静かに息を吸い込み――
「受けます」
そう、答えた。
(ここが……私の運命が決まる場所)
私は深呼吸し、緊張を押し殺しながら、ゆっくりと大広間の中央へと歩を進めた。アルヴィン王子が私の手を取る。
「大丈夫だ、ロザリー」
「……はい」
彼の温もりを感じながら、私は前を向く。王座には、アルヴィン王子の父であるアルカディア王国国王が鎮座していた。その横には、王妃と王宮の高官たち。そして、広間の最前列には――ヴェルナー王子が、静かに佇んでいた。
(ヴェルナー王子……)
彼は微笑みながら私を見つめていたが、その瞳には何か"秘めたもの"があった。
(彼は何をするつもりなの……?)
このまま何事もなく婚約発表が終わるとは思えない。私はそう確信していた。
「陛下、そして貴族の皆――ここに、正式な発表をする」
婚約発表の瞬間――。王の前に立ち、アルヴィン王子がはっきりと宣言する。
「俺は、ロザリー・エルヴェールを妃として迎えると決めた。これを正式な婚約とする」
ざわめきが起こる。
「やはり……!」
「アルヴィン殿下がついに……!」
貴族たちは驚きの声を上げたが、誰も反論しない。アルヴィン王子が公の場で宣言した以上、それを覆すことは容易ではない。
(これで……私たちは……!)
私はほっと胸をなでおろそうとした、その時だった――。
「――異議があります」
静かな声が、広間に響いた。
「……っ!」
私の全身が凍りつく。貴族たちが一斉に振り向く。そこには――ヴェルナー王子が、悠然と立っていた。
「ヴェルナー……!」
アルヴィン王子が苛立ちをあらわにする。
「何のつもりだ?」
「落ち着いてください、アルヴィン殿下」
ヴェルナー王子は穏やかに微笑みながら、ゆっくりと前へ出る。
「私はただ……"王国の未来"について、提案をしたいだけです」
「提案……?」
私は眉をひそめる。
「ロザリー様が王妃となることについて、私は何も反対しません」
ヴェルナー王子は微笑みながら言った。
「ただし――それが本当に最良の選択なのかどうか、試す機会をいただきたい」
「試す?」
アルヴィン王子が険しい表情になる。
「どういう意味だ?」
ヴェルナー王子はゆっくりと視線を向け、言い放った。
「ロザリー様が、王妃としてふさわしいかどうか――"試練"を設けるのはどうでしょう?」
「……!!」
会場がざわめく。
「試練……?」
「ヴェルナー王子は、一体何を……?」
私は息をのむ。
(彼は、ここで私の婚約を阻止するつもり……!?)
「もしロザリー様が、この試練を乗り越えられるのであれば……私は正式にこの婚約を認めましょう」
「ふざけるな!!」
アルヴィン王子が怒りをあらわにする。
「ロザリーの価値を決めるのは貴様じゃない!」
「ええ、そうですね」
ヴェルナー王子は余裕の笑みを浮かべる。
「ですが――王宮の皆はどう思うでしょう?」
私は息を呑んだ。
貴族たちが、静かに私を見つめる。
(もし、ここで私が"試練"を拒めば……)
"王妃になる覚悟がない"と見なされてしまう……!
「ロザリー」
アルヴィン王子が私を守るように手を握る。
「無理をする必要はない」
私は――私は、静かに息を吸い込み――
「受けます」
そう、答えた。
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